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怪物の定義  作者: 空白朔名


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11章 綻び(ほころび)

 11章 綻(ほころ)び

 


「……なに、コレ」


 くるみの声で、現実に引き戻された。

 くるみに見せたことを、後悔した。

 これは、決定的な証拠だ。

 ……そう思ったはずだった。


「何で、幸助に……」


「……わからない」


 パソコンの画面では、動画がループする。


「……これ」


 くるみが、画面を指さす。


「変じゃない?」


「何が」


 おかしなところを探す。


「……全然、顔を隠してない」


「えっ?」


 俺は思わず聞き返した。


「こんなに映ってるのに」


 くるみが首を傾ける。


「……異常なんだよ」


 俺はカメラの中の笑いを思い返す。


「それにしては、中途半端なんだよね」


「一番見たいところだけ、見えない」


 くるみが机に伏せる。


「そうだな、捕まりたいならもっと方法があるし。隠したいにしては……」


 言いかけて、気づいた。


「隠したいのは、犯行じゃない……」


 もう一度、動画を見る。

 最後、笑って見える口元。

 音はない。

 ……かすかに動いている。

 『……や』

 『……ま』

 『……に』

 『……』

 そう言っているように見えた。


 くるみと視線が合う。

 同じことを考えているのがわかる。


「……行けってことか?」


 くるみが、少しだけ遅れて頷く。


「……どこに……バイトは?」


「オーナーに怒られるな」


 電車の中。

 懐かしい風景が広がる。

 乗る前に、タケには連絡を入れてあった。


「なんで、ヤマニコなの?」


「……山で笑ったから」


「それだけ?」


「小学生のあだ名なんて、そういうものだろ」


 顔を見合わせて、笑顔になった。


 小学生の時の遠足。

 近くの山。

 山頂が見えた時に、一番になりたくて、走った。

 タケが続いた。

 そして、もう一人。

 俺が一番に山頂の看板をタッチして、笑った。

 次に来たタケは、息が切れて顔が歪んでいた。


「お前なんで笑えるんだよ」


 膝に手をつき肩で息をするタケが言った。


 遅れてもう一人。

 看板にタッチして、俺に向かって何か言った。


 『……ついたよ』


 違う。

 そんな言葉じゃなかった。


「着いたよ」


「着いたよ、ここでしょ」


 くるみの声だった。


「ああ、すまない」


 電車の揺れに誘われて、いつの間にか眠っていた。


 遠い記憶を辿り、タケの家を探した。

 農機具を洗っている男が、顔を上げる。


「おう、来たか」


 声がでかい。


「変わってねーな」


 豪快に笑う。


「タケもな」


 視線がくるみに向く。


「嫁さんか、彼女か?」


 くるみが頭を下げる。


「バイト仲間だよ」


 俺が気まずそうにつぶやいた。


「そうかー」


 そう言ってまた笑った。


「車、貸してくれないか?」


「乗ってけ、乗ってけ、軽トラだぞ」


「最近、この辺りに越してきた人っていないか?」


「佐藤さんのことか、知り合いか?」


「……佐藤さん」


 どこにでもいる名前なのに、耳に残った。

 くるみの方に振り向くと目が合った。


「あんまり、見かけねーな。まあ、この辺りは空き家も多いから人が増えるのはいいことだ」


 そう言って、タケが笑った。


「そうか、ありがとう」


 車に乗り込むと、タケが運転席の窓に顔を寄せてくる。


「あいつ、また釈放されそうだな」


「デンチだよ、小崎」


 声は小さいが、十分聞こえる。


「そういえば、何で『デンチ』なんだ?」


 タケに聞いた。


「小崎 充《みつる》、充電からだろ」


「小学生のあだ名なんてそんなもんだろ」


 俺がさっきくるみに言った言葉だった。

 タケの小声は全部くるみに聞かれていた。

 軽トラの助手席で笑うくるみ。

 その横顔がこの風景と今の状況に、少し浮いて見えた。

 

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