第61話
皇帝への回答を書く前に、使節の候補を並べた紙からいくつかの名を消した。
ヴィーネンにいる者、こちらから送らなければならない者。相手と直接交渉できる者でも、俺が不在の間、王国側の仕事を止めてしまうわけにはいかない。
「公館の外交担当者に、停戦の協議を任せられますか」
俺が尋ねると、ケラーは手元の報告を確かめた。
「協議は可能です。公館には通常の対外折衝に当たる者がおり、帝国官庁との窓口も皇帝選挙の間から維持しております。ただ、今回の停戦を本人の判断で承諾できる権限は持っておりません」
「そこは私から与えます。戦闘を止めるための約束だけです。領土の帰属を決める権限は含めません」
「承知しました。停戦条件の範囲を記した委任状を、正式な回答と同便で送るよう外交担当へ伝えます」
俺は皇帝の書簡をもう一度開いた。双方の使節を受け入れる、とある。ルートヴィヒは交渉の場を用意すると約束したのであって、どちらの土地だとも書いていない。
ならば、まずはその場へ行くと答えることになる。
「仲介は受けます。ただ、いま保持している都市から兵を退かせるのは、停戦の条件に入れません。相手が取った南の陣地を返せとも求めません。双方が現在の位置で攻撃を止めるところから始めましょう」
軍務担当の将校が地図の前で顔を上げた。
「陛下、西部市外の敵兵も対象に含めるのでしょうか」
「もちろんです。南だけ静かになって、エルツハイムの街道で荷車が襲われ続けるのでは困ります。北の守備にも同じ文書を送る必要がありますね」
「停戦の連絡が遅れた部隊も出るかもしれません。合意した時点をそのまま発効時刻にはできません」
「その確認を条件に入れてください。こちらの命令を受け取る隊だけではなく、向こうの隊へも届いたことが必要です」
将校は頷き、地図に載せた小さな札の位置を直した。敵の占める場所まで、こちらの希望どおりに動かせるわけではない。
「負傷者の扱いも入れたい。双方、回収できる場所にいる者はまだいるでしょう」
「その点は先方からの提案を待たず、こちらから協議できます」と外交担当が言った。「ただし捕虜の全面返還を含めるとなれば、身元確認と輸送の準備が必要になります」
「返還は講和の話に残しましょう。治療と名簿の照合は、いま進めてもらいます」
署名を終えるころには、使節候補の紙よりも送る文書の方が厚くなっていた。
それでも、これで戦争が止まるわけではない。相手からの回答を待つ間も、南には砲が置かれたままだ。
封をする前に、俺は停戦の委任状を読み直した。公館の担当者が決めてよいのは、期限、攻撃停止の範囲、連絡と確認の手順。領土の割譲も、永久の講和も、ここには書かない。
「これを急使で送ってください。参加する意思だけは、定型信号でも先に知らせて構いません」
書類を受け取った外交担当が礼を取り、廊下へ出ていった。
その足音が遠ざかると、軍務担当は南方の配置図を広げ直した。今日は敵の斥候が西側の畑へ姿を見せたという。
俺もそちらへ椅子を寄せた。
ヴィーネンの公館から最初に届いたのは、アマーリエが停戦に応じたという知らせではなかった。
皇帝側から交渉の順序が示され、こちらの委任状が正式に受け付けられたという報告だった。停戦の草案は両当事者へ渡されたが、ヴァルデンハイム側が何を認めたかはまだ書かれていない。
それからも前線の仕事は変わらなかった。
南方の兵が崩れた土を盛り直し、医官が後送の順番を決める。エルツハイムへ向かう荷車は、コンラートの護衛隊が道路を確かめるまで出発できない日があった。敵は攻撃を緩めていたが、こちらの見張りも休めるわけではない。
ある夕方、南方指揮官から、前方の畑で両軍の斥候が接近したとの報告が届いた。発砲はなかった。互いに退いたという。
戦争が止まるかもしれないと知っているのは、まだ司令部のごく一部だ。前にいる兵にとっては、昨日と同じ敵でしかない。
数日後、ようやく公館から詳しい文書が届いた。皇帝側の仲介担当が両国の使節を別々に呼び、停戦の期間と対象地域を照合したという。ヴァルデンハイム側も期限を区切った停戦には応じるが、自軍が確保した前方の陣地から退くとは約束しないとのことだった。
「こちらも同じです。3都市の守備を変えないと、返してください」
俺が言うと、外交担当は先方の修正部分を指した。
「問題はその次でございます。双方の補給車を、どこまで動かしてよいか。西部では占領都市の外にも敵部隊がおります。現在の道路の利用をすべて禁止しますと、停戦中に食料が届かなくなります」
「いま通れる範囲で補給を続ける。それより先へ陣地を広げることはしない、という書き方では足りませんか」
「相手も同じ解釈なら足ります。ただ、敵と味方が同じ道路の別の区間を使う場合、互いに護衛兵を増やして接近するおそれがあります」
俺は地図を見た。道は城壁のようにはっきり区切られていない。畑から農道へ出るだけでも、相手が前進だと言えば言い争いになる。
「では、今ある通行路の実際の管理範囲を、両軍の現地指揮官から報告させましょう。公館へ送る文書には、現地で確認できていない道を勝手に含めないでください」
「承知いたしました。違反の疑いが出た場合に、どの指揮官へ照会するかも併せて定めます」
草案には、敵陣へ近づく攻撃行動を禁じること、負傷者の治療と後送を認めること、捕虜の名簿を交換する準備を始めることが記されていた。帝国側は、双方の言い分が食い違った際に使節を通じて照会を受けるという。
「停戦が終わるときは?」
「いまの案ですと、期限が来れば終了します。ただ、戦闘を再開する場合は事前の通告を求める条項が追加されました」
「それを残してください。延長するなら双方が改めて同意する。終えるなら、前線で突然砲撃が始まることがないようにする」
俺はその場で、停戦期間を40日間とする案に同意した。俺がヴィーネンに着いて本交渉を始めるまでにも、時間がかかる。
40日もあれば十分だとは思わない。けれど、無期限に戦争を止めると約束するわけにもいかなかった。
さらに文書が往復し、両国の授権された代表が暫定停戦協定に署名したという正式報告が届いた。
その協定にも、戦闘が止まる正確な時刻はまだ入っていなかった。まず双方の軍へ命令を届け、受け取ったことを確かめる。その後で共通の時刻を定めることになっている。
俺は南方、西部、北部それぞれの指揮官に送る封印命令を確かめた。
「前線には準備の定型信号を先に出します。正式な停止命令は、この書面を読んでからです」
軍務担当が確認する。
「その順でお願いします。敵が先に撃たなくなったからといって、勝手に持ち場を離れないように」
しばらくして、南方から返事が届いた。西部の指揮官からも、エルツハイムの城門と街道護衛の担当へ命令を回したと報告があった。北部の橋と補給路の守備側も受領を確認した。
残るのは、ヴァルデンハイム軍の各系統が受け取ったという報告だった。
俺が待っている間にも、兵は食事をし、傷んだ装備を直し、交替で見張りに立っていた。停戦が始まっても、たぶん同じことをするのだろう。
発効時刻が決まったのは、帝国側を通じて双方の前線から受領確認が揃った後だった。
朝から南へ出る予定の車列には、行き先の札が付け直されていた。停戦が始まるからといって、すぐ敵と同じ道を使えるわけではない。今までの護衛と警戒を続けたまま、攻撃に出る予定だけを止める。
俺はその日はハーゲンフェルトの司令部に残った。南へ行っても、発効を早めることはできない。
「南方指揮官からの確認です。各隊に命令の写しが届き、指定した時刻まで現在の位置を守るとのことです」
軍務担当が報告した。
「西部は?」
「エルツハイム市外で動いている敵の一部が見えるため、斥候は通常どおり出しております。コンラートの護衛隊も、車列を現地の指揮官の指示でまとめています。こちらの攻撃停止の準備は済んでおります」
俺は頷いた。コンラートも、停戦になるから馬を休ませられると思っているだろうか。いや、そんなことはないか。あいつなら、止まった車をどう通すかで、まだ走り回っていそうだ。
やがて、定めた時刻になった。
その瞬間、司令部のどこかで鐘が鳴ったわけではない。書類に時刻を書き込んだ者がいて、伝令が廊下を歩いていっただけだった。
南からは、指定時刻以降の新たな攻撃を確認していないという定型報告が届いた。西部は、護衛隊と敵斥候が離れて見張っていると伝えてきた。敵が保持する前方の土塁には、変わらず兵の姿があるらしい。
「撃たれなくなったんですね」
気がつくと、そんな言葉が口から出た。
「少なくとも、いま入っている報告の範囲では」と軍務担当が答えた。
「そうですね」
昨日までは、南で射撃が始まれば砲をどこへ回すか考えた。今度は、発効時刻を過ぎて攻撃があったと訴えられたら、いつ、どこで、どちらの兵が撃ったのかを確かめなければならない。
実際、翌日には西部から報告が来た。街道の外れで騎乗した数人が走り去り、護衛兵が銃声に似た音を聞いたという。発効時刻より前か後かも、発砲したのが誰かも分からない。
「こちらの兵に負傷者は?」
「おりません。現地は追跡を命じておらず、見張りだけ増やしたとのことです」
「なら、護衛兵がその音を聞いたおおよその時刻と場所を記録し、こちらの兵が発砲していないかも確認したうえで、先方へ照会してください」
相手方にも同じ報告が行くのだろう。もしかしたら、発砲などなかったのかもしれない。それでも確かめる必要はある。
40日の期限は、合意書へ署名した日ではなく、あの共通時刻から数えることになった。公館からは、すでに講和の準備協議を始めたとの連絡が届いている。
俺も、ようやく出発の日を決められた。
ハーゲンフェルト司令部の軍務担当者のうち、戦区の正規指揮権を持つ上席指揮官を呼んだ。今までも各方面の報告をまとめ、俺の承認を受けて命令を出していた人物だ。
「私がヴィーネンにいる間、3都市の軍と主要街道の臨時の統括をお願いします。南方、西部、北部の現地指揮官は、そのまま配置を変えません」
彼は立ったまま、委任状を読んだ。
「陛下、敵が停戦を破り、複数方面で攻撃してきた場合は、現在の防御線を守るための移動をこちらの権限で行ってよろしいでしょうか」
「構いません。兵と住民を守るために必要な防御や後退は、現場で判断してください。新たな攻勢をこちらから始める場合や、交渉条件に関わる約束は私の判断を待ってください」
「承知しました。西部の街道が再び通れなくなった場合は、エルツハイムの指揮官と協議して護衛経路を調整いたします」
「コンラートも現地の任務を続けさせてください。馬と人を使い潰さない範囲で」
「そのように伝えます」
委任状には署名と封印をした。
出発の前夜、南方から届いた報告は、壊れた土塁の修理が進み、負傷者の後送が続いているというものだった。敵は前方の陣地をまだ保持している。
それを確かめてから、俺は旅装を整えた。
レーデンブリュックへ向かう道では、南へ行くときとは逆の方向から、荷を積んだ車が何度も来た。
街道の脇で休ませている馬の数も多い。長い輸送を繰り返したせいだろう、痩せた馬の背には鞍を下ろした跡がはっきり残っていた。
レーデンブリュックの守備側からは、橋の通行を完全には戻せていないと報告を受けた。軍の補給車と商人の荷が同じ道に集中し、順番を待つ車列が伸びているという。
「停戦になったからといって、橋を空ける兵を減らせるわけではありませんね」
俺が言うと、守備を預かる士官は少し困ったように笑った。
「むしろ通りたがる者が増えております。今まで南へ運べなかった荷もございますので」
橋の上では、反対岸から来る空車を待って、穀物袋を積んだ荷車が止まっていた。御者が手綱を緩め、馬の耳の後ろを掻いてやっている。
あの袋は南の兵まで届くだろうか。そう考えてから、自分がもうここで車の順番を決める立場ではないことを思い出した。
守備側へ必要な指示を残し、翌日には北へ向かった。
ヴァイスブルクへ戻ったとき、宮殿の外で一度足が止まった。
見慣れた門の前で、宮廷の者たちが普段の仕事をしている。市の方から商人の声が聞こえた。遠くの南で兵が撃ち合っていた間も、ここでは今日の市場が開かれている。
ゾフィーは夕刻、執務室へ顔を出した。迎えに来た者から俺の帰着を聞いたらしい。俺を見るなり歩調を速めたが、机の前まで来ると立ち止まった。
「お帰りなさい」
「ただいま。もっと早く戻れると思っていたんだけど」
「手紙は届いていました。けれど、いつお戻りになるかまでは書いてありませんでした」
「それは俺も分からなかったからね」
彼女は小さく息を吐き、俺の上着に目をやった。
「またお出かけになるのでしょう?」
「うん。ヴィーネンへ行く。今度は戦うためじゃなくて、話をするために」
「その話がまとまれば、南の兵は帰ってこられますか」
「そうしたい。でも、まだ停戦が始まっただけだ。相手が納得しなければ、また戦うことになる」
ゾフィーはすぐには返事をしなかった。窓の向こうへ目をやり、それから俺を見た。
「父はヴォルフガング殿下へ票を投じたと聞きました」
「そうだね。俺はルートヴィヒ陛下を支持した」
「父が何か言ってきたわけではありません。ただ、同じ家族でも、国が違えば選ぶものも違うのですね」
「そういうこともある。俺の方からは、今までどおりお義父上との付き合いを続けたいと伝えてあるよ」
「ええ」
ゾフィーはようやく椅子へ腰を下ろした。いつもなら、俺が話し始めると続きを聞く姿勢になるのに、今日は自分の手を見ている。
「……戦争が始まってから、あなたの名前が出る報告を聞くのが怖くなりました」
何と返せばいいか、少し迷った。
「心配をかけた。帰ってきてよかった、と今は思ってる」
「そう思ってくださるなら、ヴィーネンからも手紙をください。状況を全部書かなくても構いませんから」
「分かった。ヴィーネンからも手紙を書く。交渉の途中でも、知らせられることは伝えるよ」
彼女は頷いた。俺は机に残った旅程表を裏返した。
その夜、食事を共にした時間は短かった。寝る前にゾフィーが俺の旅装の留め具を直してくれた。
ヴァイスブルクを出てからヴィーネンに着くまでの道は、戦地を抜けるより平穏だったが、速く進めるというものでもなかった。
公用の馬車には随員がいる。馬を替える宿駅があっても、荷を降ろす者、食事を取る者、疲れた馬を休ませる場所が必要だ。雨にぬかるんだ道では、車輪を押すために何度か止まった。
ハーゲンフェルトを出てから半月あまりで、帝国首都へ近づいた。
道中、公館からの報告は宿駅を通じて届いた。皇帝の仲介担当者は双方から停戦後の前線報告を受け、違反の申し立てと、発生した時刻を照合しているらしい。こちらの西部で聞いた銃声の件も、その一つに含まれていた。
「先方は、あの場所には命令を受けた兵を出していないと答えたようです」と同行した外交担当が言った。
「では、こちらが聞いた音の正体は?」
「まだ分かりません。帝国側からは、両軍の現地担当に記録を照合するよう提案されております」
「構いません。こちらに負傷者は出ていない。いま無理に犯人を決める必要はないでしょう」
窓の外には、こちらへ向かう商人の車が見えた。戦争の前から同じ街道を行き来していた人たちだ。彼らは俺が国王だと知っているのだろうか。護衛の数を見れば、普通の旅行者でないとは分かるだろう。
ヴィーネンの城壁が見えた日の午後、公館から迎えの者が来た。
以前に訪れたときも、この道を通った。帝国法廷のある街に、選帝権を持つ国王の一人として来たのだった。今度は、その国王が帝国外の戦争を起こした当事者として、同じ門をくぐる。
公館へ入ると、担当者がすでに文書を広げていた。皇帝側が用意した会談の順序、両国が提出した停戦実施報告、今後の使節の通行、そして交渉に持ち込まれた各国の主張。
「アマーリエ殿下は、こちらへお見えになるのですか」
「はい。ヴァルデンハイム側の使節から、殿下ご本人が交渉に臨まれるとの正式な通知を受け取っております」
「いつ?」
「明日の会談に出席されます。帝国側も、その前提で席を整えております」
俺は手元の紙から目を離した。
あの人に手紙を送り、返事を受け取ってから、もう随分と経った。俺がグライフェンを求めたとき、アマーリエは拒否した。俺はその答えを聞いて攻め込んだ。
会えば何かが変わるのか、と考えた。変わってほしいのか、とも。
公館の担当者が、会談に持参する地図を示した。赤い線で囲んだ北部と中央部、西に広がる鉱山地域。俺たちが確保した3都市はその中にあるが、まだ線の内側の村すべてに兵を置いているわけではない。
「陛下、帝国側からは、最初の会談で双方の要求範囲を確認したいとのことです。こちらは既提出の文書を基礎といたしますか」
「はい。3都市だけでなく、北部と中央、西部の主要地域の正式な帰属を求める方針は変えません。占領したから自分のものだと言うつもりもありません。そのために講和が必要だと伝えます」
「承知しました」
書面の余白に、俺は相手へ聞くべきことを書き加えた。最初の会談で全てを決めるつもりはない。それでも、何を守りたいのか、相手の口から聞かなければならない。
翌日、会談の部屋へ案内されたとき、アマーリエはすでに席のそばに立っていた。
先帝マクシミリアンの国葬以来、こうして顔を合わせるのは初めてだった。アマーリエは落ち着いた色の衣装を着ている。胸元には、ヴァルデンハイムの家紋が留められていた。
彼女は俺に気づくと、礼をした。儀礼としては申し分ない。その目が俺の顔を捉えたのは、ほんの短い間だった。
「アマーリエ殿下。お久しぶりです」
「レオン陛下。ご無事で何よりです」
そう答えた声は静かだった。以前なら、相手の旅程や体調を気にして、もう一言あったかもしれない。今はそこまで続かなかった。
俺も、何を言えばよいのか分からないまま礼を返した。
皇帝側の仲介担当者が出席者の席を確かめ、それぞれの全権と文書を読み上げた。ルートヴィヒ本人はこの席にはいない。
席に着くと、アマーリエの前にはすでに数枚の地図が置かれていた。うち1枚には、俺がヴィーネンの公館で見たのと同じ3都市の名前がある。
仲介担当者が口を開いた。
「両国の停戦が予定どおり実施されていることを確認しております。本日から、戦争を終結させるための条件について協議をお願いいたします。まず双方の基本的な立場を伺いたく存じます」
俺は机の上の地図を手元へ引き寄せた。
「ファルケンマルクは、グライフェン北部、中央部、西部の主要地域について、正式な帰属の変更を求めます。占領地の軍事管理をいつまでも続けるために戦争を始めたのではありません。両国が合意する条約で、帰属を定めたいと考えています」
アマーリエは、俺の地図ではなく自分の前の紙を見ていた。すぐに返答せず、仲介担当者が発言を記録するのを待った。
「陛下のお求めになる範囲は、承知しています」
彼女は顔を上げた。
「ですが、ファルケンマルク軍が都市を占めていることと、その土地の主権をヴァルデンハイムが放棄することは別です。私は、現在の軍の配置を、そのまま最終的な国境として認めるつもりはありません」
責め立てる口調ではなかった。だが、最後の言葉を言い終えたあとも、彼女は俺から目を逸らさなかった。
「では、殿下のお考えになる条件を伺いたい」
「お伝えします。ただし、まずは停戦中にも続いている住民の暮らしと、残された領域への往来について、私の使節が提出した文書を見ていただきたいのです。国境の線を引く前に、そこで暮らす人たちがどうなるかを確かめたい」
彼女が隣の外交担当へ目を向けると、担当者は封の解かれた書面を取り上げた。
俺はそれを受け取った。
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