第44話
22歳になった年の収穫期、王宮へ上がってくる王領の報告には、去年までより少しだけ余裕のある数字が並んでいた。
収穫そのものは、どこも特別に良かったとは言えない。雨の多かった地域もあるし、低地では水が残って出来の悪い畑もあった。春から試しているクローバーやジャガイモも、まだ結果を比べている途中だ。
それでも、保存を見直した倉では廃棄が減った。飼料に余裕ができた直営農場では、家畜を以前より多く春まで残せた。その糞肥を入れた畑からも、少しずつ結果が返ってきている。
大豊作ではない。だが、収穫したもののうち、食べられるまま残る分が増えた。
「こちらが、今年の王領の倉の集計です」
ケラーが机の上へ数枚の紙を並べた。
最初に見るのは、紙の上に大きく書かれた合計ではない。彼はいつものように、地域、作成日、集計した担当、どの倉まで含むかを確認できるように端へ注記を付けている。
「まだ確定していない倉がありますので、全量ではありません。ただ、主要な直営地と昨年まで比較できる倉については揃っています」
「去年より増えている?」
「在庫として残っている量は増えています。収穫量の増加だけではありません。廃棄の減少分がかなり入っています」
俺はその横に置かれた前年の紙と見比べた。
収穫量だけなら、驚くほどの違いではない。
ところが、倉へ入った後に傷んで捨てた分を引くと差が広がる。
「王領全部で同じですか」
「いいえ。保存改善を継続している倉で差が大きく、まだ従来のやり方が中心のところでは小さいです。天候も違いますので、保存方法だけの効果としては分けられません」
「それでいい。分からないところまで同じ理由にしなくていい」
カスパルが別の書状を机へ置いた。
「その在庫について、買付けの照会が来ています」
「国内から?」
「帝国側です。ヘルツナー商会を通して、まとまった量を買いたいという話が入っています」
書状には、穀物の種類ごとに希望する品質と受渡し時期が書かれていた。価格条件も悪くない。
むしろ、王領内で普通に売るよりかなり良い。
「マルティンは?」
「すでに輸送経路と費用を出しています。買い手側との話も進めていますが、王領分をどこまで売れるか分からないので、量については約束していません」
商人としては当然だろう。
俺が買い手を探せと命じる前から、値段が合えば向こうで動く。
「売れる量は、どのくらいですか」
俺が聞くと、ケラーはすぐに合計を読むのではなく、別の紙を手前へ寄せた。
「何を残すかで変わります」
「順番に見よう」
王領の収穫は、全部が国王の好きに売れる商品ではない。
現地で使う分がある。働く者への現物支給や既に決まっている供給もある。来年の種を残す必要があり、家畜を冬越しさせる飼料も要る。倉を空にして冬を迎えるわけにもいかない。
民間の農家や商人の在庫まで王宮で集計してはいない。ここで見ているのは、王領側で実際に把握できる範囲だ。
俺は紙の上を指で追った。
「既に決まっている国内向け、来年の種用、飼料。それから冬から次の収穫までの備蓄を先に引いてください。飼料は去年より減らさない。カブが増えたからといって、穀物飼料を最初から削るのはまだ早い」
ケラーが種用と飼料の欄を確かめ、カスパルが続いた。
「備蓄は、今年の消費だけを基準にすると多寡を判断しにくいかと思います。少なかった年も含めて見た方がよろしいでしょう」
ケラーが横に積んでいた紙を1枚抜いた。
「過去数年分で、同じ範囲を比較できるものがあります。完全には揃いませんが、少ない年の消費と払出しは確認できます」
「それを使いましょう。過去の少ない年でも次の収穫まで持たせられた水準を下回らないようにしてください。今年まだ数字が確定していない倉は、良い方ではなく悪い方へ寄せて見積もる」
数字を大きく取れば安全に見える。だが、備蓄にも限度がある。穀物は置いているだけでも傷むし、売れる時に売らなければ次の収穫で倉が詰まる。
「それでも残る分だけを、国外へ出せる候補にします」
「承知しました」
ケラーが紙へ書き込む。
カスパルは書状の方へ目を落とした。
「その順で計算すると、買い手の希望量には届かない可能性があります。王領側で安全に出せる上限を先に決め、その範囲で条件を詰めます」
「お願いします。向こうが欲しい量に合わせて、こっちが残す量を減らす必要はありません」
その日の会議では、売却量そのものは決めなかった。
数日後、確定していなかった倉の数字が入り、ケラーがもう一度集計を持ってきた。
国内向けの予定、種、飼料、備蓄を順に引く。
最後に残った数字は、最初に書状で求められていた量より少ない。
それでも、去年までなら国外へまとめて売る発想を持たなかった量だった。
「この範囲なら、売っても王領側の必要分は崩れません」
ケラーが言った。
「一番悪く見積もった倉も含めて?」
「はい。未確定だった分も入りました。実際には少し余裕が増えましたが、最初の保守的な見積もりをそのまま使っています」
俺はカスパルを見た。
「マルティンを呼んでください」
「すでに王都に来ています。今日の午後であれば入れます」
やっぱり早い。
商人は商売になると分かれば、王宮の都合より先に動く。
***
午後、マルティン・ヘルツナーは分厚い帳面を2冊持って現れた。
以前の金融危機の時のような張り詰めた顔ではない。
商会は今も彼のものだ。王家が40%を持つようになっても、仕入れ先を選び、荷を動かし、客と値段を決める日常の仕事はマルティンが続けている。
机へ帳面を置くと、彼は挨拶の後すぐに本題へ入った。
「王領側から出せる量が決まったと伺いました」
「買い手の希望よりは少ないです」
「問題ありません。向こうは多ければ買いたいと言っているだけです。こちらが出せる量で契約を組み直します」
「採算は合いますか」
マルティンは帳面を開いた。
「現状の買付価格であれば合います。ただし、国外での値段だけをご覧になると、かなり儲かるように見えます。実際には荷車、馬、御者、積み替え、倉庫、途中の通行料、関税、検査、現地での荷扱い、それに支払いをこちらへ戻す費用まで掛かります」
彼は項目ごとに線を引いてある欄を示した。国外の売値から、それらを1つずつ引いていく。それでも利益は残るが、最初に見た価格差ほど大きくはない。
送料が掛かるのは当たり前すぎることではある。ただ、前世では某密林で有料会員だったので、意識したことはほとんどなかった。もっとも、安いと思ってカートに入れたのに、たまに送料が掛かる罠もあったが。
それはともかく、今は前世以上に輸送には金が掛かる。
マルティンは頁をめくった。
「主要な区間は、以前より多く自前で運べます。ただ、収穫期にこの量を一度に動かすほどではありません。集荷の枝道と増便分は、これまで使っている運送人へ頼みます」
次の頁には、どの倉にどれだけ空きがあるか、荷を何日置けるか、御者を何組回せるか、修理中の荷車が何台あるかまで書かれていた。
「今回の荷は、この空きへ入れられます。王領から届いた順に全部を出すのではなく、検量して便を組みます」
「一度に出さないんですか」
「はい。収穫期は街道も倉も混みます。数日ずらせる荷まで同じ日に押し込む方が高くつきます」
マルティンは、出発予定の欄へ順に印を付けた。
カスパルが売却条件の紙を確認する。
王領側の価格は、直近の国内取引と別の買い手へ売った場合を比べて決めてある。ヘルツナーだから安くする条件は入っていない。
マルティンもそこへ異論は出さなかった。
「この価格で買い取ります。国外で予定より安くなれば当方の損、予定より高く売れれば当方の利益です」
「分かりやすい」
「商売ですので」
彼は平然と言った。
その方がいい。王領の穀物を国外で売るたびに、こちらが運賃や現地価格の損まで面倒を見る仕組みにはしたくない。
「代金は今回はロートマン家を使って戻します。買い手が持つ貨幣を全部こちらまで運ばせるより安い。向こうにもロートマン家と取引のある相手がいます。昨日、ヤーコプ殿とも話しました」
「もうそこまで?」
「私より先に為替の欄を直されました」
マルティンは少しだけ不満そうな顔をした。
「間違っていた?」
「古い相場を使っていました」
「なら、直されてよかった」
「陛下は簡単におっしゃいますな」
そう言いながら、マルティン自身もその欄を消して書き直している。
利益が減る話でも、数字が間違っているよりはましなのだろう。
契約条件を詰めた後、俺は実際に集荷を始める倉を見に行くことにした。
マルティンが一瞬だけ眉を上げた。
「王領の倉ではなく、当方の倉ですか」
「国外へ出る荷が、そこからどう動くのか見たい」
「承知しました。でしたら、明後日には最初の荷が入ります」
***
ヘルツナーの倉は、王都の中心から少し外れた荷車の出入りが多い区画にあった。
以前から使っていた建物の隣に、別の倉を借り増している。
門を入ると、荷車が2列に分かれていた。
片方には王領側から来た穀物袋が積まれ、もう片方では別の商品を下ろしている。
「戻りの荷です」
マルティンが言った。
「空のまま戻すと、その分の馬と御者の費用が全部こちらへ乗ります。毎回うまく見つかるわけではありませんが、帰りに運べるものがある経路は使いやすい」
荷車から降ろされた商品は、別の商売のものだ。
商会には、今回とは別の荷も絶えず流れている。
倉の入口では書記が袋の印を確認し、王領側の受渡し記録と照合していた。
秤の前では、腰と肩へ短く身体強化を重ねた作業員が袋を持ち上げ、もう1人が秤の中央へ寄せている。少し離れた書記台では、袋から舞った穀殻が紙へ落ちそうになるたび、書記が指先で空気を小さく流して脇へ払った。その隣では、魔法を使わず2人がかりで木箱を台車へ載せている。
荷車が1台入ってくると、入口の書記が受渡し札を受け取り、荷台の印と数を照合した。作業員が袋を下ろし、別の者が秤へ回す。口の縄が緩んでいた1袋だけは同じ列へ積まず、脇の台へ置かれた。
書記はその袋の欄に印を足し、次の荷へ進む。国王が見ているから丁寧にやっている様子ではない。後ろにはもう次の荷車が待っていて、手を止めれば入口が詰まる。
倉の中では、入ってきた袋がそのまま奥へ消えるわけではなかった。確認を終えたものから置き場が決まり、出発の近い荷は通路側へ、まだ先のものは奥へ回される。荷を運ぶ人間と帳簿を付ける人間が別々に動いているのに、札と記録で同じ荷を追えるようになっていた。
倉の責任者は、書記が付けている印を指した。
「受渡し単位ごとに量を確認します。封が切れているものや濡れが疑われるものは別に見ます。国外へ出す前に、ここで袋を替える荷もあります」
奥では、同じ種類の袋が何列かに分けて積まれていた。出発する便ごとに置き場所が違う。
マルティンが列の間を歩きながら説明した。
「こちらは明日の便、こちらはその次です。同じ買い手でも分けます。契約の期限までに揃えばよいので、街道が混む時期に全部を同じ日に押し出す必要はありません」
商会の外には、自前の印を付けた荷車だけでなく、別の運送人の荷車も並んでいた。御者の1人が書記へ札を見せ、どの倉口へ回るか確認している。
王家が出資を決めた頃に聞いたのは、主要な路線の自前輸送を増やし、足りないところは外へ任せるという話だった。今、その通りに動いている。
マルティンは外部の運送人へ渡す札も見せた。荷の受取時点と引渡し時点が書かれ、預けた区間で荷を傷めた場合の責任も契約ごとに分けられている。
王宮で「国外へ出る荷が、そこからどう動くのか見たい」と言った時には、ここまで細かく想像していなかった。受取り、検量、保管、運送人への引渡し。そのどこかが止まれば、契約書の上では売れた穀物も国境へは着かない。
倉の奥には、出発待ちの帳面が積まれていた。1つの荷について、王領からの受取、倉への入庫、次の運送人への引渡し、国境までの経路が別々に記録される。
荷物そのものより、紙の方が先に国境へ向かっているようにも見える。
「荷が増えれば、もっと書記も増やす必要がありますね」
「もう最初の想定より増やしています」
マルティンは即答した。
「馬だけ増やしても、誰がどの荷を持っていったか分からなくなれば終わりです」
倉を出る頃には、最初の荷車が門の外へ動き始めていた。
書記が札を渡し、御者が受け取り、前の荷車との間隔を見て進む。
俺たちは邪魔にならない位置へ退いた。
穀物袋を載せた荷車は、他の荷車と一緒に王都の道へ出ていった。
***
国外側の支払いについて、ヤーコプ・ロートマンから話を聞いたのは、その翌週だった。
買い手側の支払予定、現地で受け取る相手、こちらでヘルツナーへ渡す金、途中で相殺できる支払いを書いた商売の紙を持ってきた。
「買い手は、向こうの貨幣で払います」
ヤーコプはそう言って、2つの欄を指した。
「こちらへその貨幣を全部運んでヴァイスブルクで換えることもできますが、それでは運送と警備に金が掛かります。向こうで当家が支払う予定のある相手もおりますので、受け取った金の一部はそちらへ回します。こちらでは別の取引で当家へ入るファルケン・ターラーをヘルツナーへ渡し、最後に合わない分だけを精算します」
以前、ヘルツナーの遠隔支払いで見たやり方を、今度は国外から代金を戻す側へ使っている。
「当家は送金の手数料と為替差をいただきます。他より高ければ、ヘルツナー殿は当家を使わないでしょう」
ヤーコプは涼しい顔で言った。
隣にいたマルティンが鼻を鳴らした。
「安いとは申しません」
「便利なのでしょう?」
「銀を護衛付きで運ぶよりは」
「でしたら、今のところは十分です」
ヤーコプはまったく気にしていない。
彼は金が動くところに商売を作っている。
ヘルツナーから王領側へ払う代金は、ヴァイスブルクの振替所を使う。
買い付けた穀物の代金を、商会の残高から王領側の口座へ移す。袋詰めした銀貨を王宮へ運び込む必要はない。
「振替所を通す額としては、以前より大きい部類ですが、残高は確認済みです。通常の振替として処理できます」
担当者が記録を示した。ヘルツナー商会の残高から王領側へ数字が移され、受取記録に印が付く。
外から見れば地味な作業だが、その間、銀貨の袋は1つも部屋を横切らなかった。国外で受け取る金まで含めれば実際の貨幣はもっと複雑に動く。それでも、取引額と同じだけの銀を最初から最後まで荷車で往復させる必要はない。
「こういう取引が増えれば、相殺できる支払いも増えますか」
俺がヤーコプに聞くと、彼は少し考えた。
「増えることはあります。ただ、同じ方向への支払いばかり増えれば逆です。向こうへ払う商売もある地域ほど、こちらへ運ばずに済む金は増えます」
相殺できない差額は、結局どこかで精算しなければならない。
「取引量だけでは決まらないんですね」
「単純なら、もっと前から皆やっております」
ヤーコプはそう言って紙を閉じた。
***
最初の荷が国境を越えたという報告が届いたのは、さらに少し後だった。
荷は何便かに分かれ、到着日もばらけた。
雨で街道の一部が悪くなり、予定より遅れた荷車が出た。途中の倉で1日長く置いた分もある。検査で止められた荷もあったが、書類の不足ではなく順番待ちだった。
便を分けて出していたため、全部が同じ日に止まることはなかった。結果として到着日はばらけたが、それでも契約した期間の中には収まった。
戻ってきた運送記録には、出発した倉、途中で引き渡した相手、国境を通った日、買い手側で受け取った日が順に残っていた。予定より遅れた便には、その区間だけ理由が書き足されている。
全部が予定どおりではない。
それでも、どこで遅れ、どこまで届いたかが追えるなら、次の便を止める必要はない。最初の取引としては、その方がありがたかった。
「国外側での受取りも始まっています」
カスパルが報告書を渡した。
「関税と通行料は事前見積もりから大きく外れていません。途中で追加の倉庫費が出ましたが、全体の採算を崩すほどではありません。王国側の徴収も既存の規則どおりです」
俺は最後の収支欄を見た。王領から普通に売った場合と比べても、王領側に残る金は多い。
ヘルツナーは売買と輸送で利益を残し、ロートマンは送金と為替で手数料を取る。途中の倉や運送人にも仕事が落ちている。
カスパルは報告書の後ろから、買い手側の書状を出した。
報告には、帝国内を通った区間の通行料や、受取地で使った倉庫と荷役の費用も載っていた。こちらから穀物が動けば、向こう側でも金を受け取る者がいる。
「次回も同じ経路で買いたいとの問い合わせです。ヘルツナーにも、別の商人から似た話が入っているそうです」
今年売れたから、来年も同じだけ余るとは限らない。雨が変われば収穫も変わる。保存改善が別の倉で同じように効くかも分からないし、家畜をさらに残すなら飼料の使い方も変わる。
「買付けの相談は受けておいてください。ただし、来年分の数量は約束しません。国内分と備蓄を見てから決めます」
「承知しました」
そこまで話したところで、ケラーが別の書状を机へ置いた。
「帝国内の別の商人からも照会があります。今回の買い手とは別です。今回の荷が届いたことを知り、来年以降もファルケンマルク側から穀物を買えるのか、条件を相談したいとのことです」
穀物が契約どおりに届き、金も払われた。その実績を見た別の商人が、次も商売になるかもしれないと考えて手紙を寄越した。
俺は書状をカスパルへ戻した。
「返事は、買付けの相談は受ける。来年分の数量は今は決めない、で」
「分かりました」
「関税を下げる約束も、優先供給の約束もしないでください。普通の商談として聞きます」
「そのように返します」
机の上には、輸送の記録と、振替の記録と、国外からの書状が並んでいる。
王になって、この国の数字を改めて見始めた頃、一番気にしていたのは、もっと多くの人間を食わせられるかだった。そのために保存を見て、飼料を試し、畑と家畜を見てきた。
今回は、その結果として残ったものが国境を越えた。優先順位は変わらない。国内で使う分を残した後でも売れるものがあるなら売ればいいし、その金で外から必要なものを買うこともできる。
前世の教科書で「輸出」と一語で読んでいたものが、今は荷車と倉と帳簿の形で目の前につながっている。
そこまで考えたところで、机の端に置いていた別の束が目に入った。私産管理人から届いた投資候補だ。
短期手形を中心に何件か並んでいる。その中に、今回の西向き輸送を使う商会のものが1件あった。
俺はその紙だけを抜いた。
「これは外してください」
私産管理人は理由を尋ねなかった。
前回から、国王として知った情報と関係する候補は、内容を渡さず対象外にする運用にしている。
紙の端に「当面対象外」とだけ記され、次の候補へ移った。
国外へ穀物を売れば、誰がどこで利益を取るのかは今回よく見えた。運送にも、倉にも、為替にも金が落ちる。
だからこそ、その情報を先に知っている自分の財布とは分けた方がいい。
私産の確認を終えた頃、外はもう暗くなっていた。
ルーカスが扉のところへ来た。
「夕食の時間です」
「もうそんな時間か」
「今日は遅れていません」
それなら、もう1枚だけ読む理由もない。
俺は机の上の紙を閉じた。
廊下へ出ると、向こうからゾフィーが侍女と一緒に歩いてきた。王妃側の仕事を終えたところらしい。
「今日は間に合いましたね」
俺を見ると、ゾフィーが言った。
「ルーカスにも同じことを言われた」
「では、2人とも同じものを見ていたのでしょう」
「時計?」
「あなたです」
否定しようとしたが、ルーカスはもう若い近侍へ引継ぎをして離れていくところだった。
助ける気はないらしい。
ゾフィーと一緒に食堂へ向かう。
明日になれば、また王領から別の数字が上がってくる。
帝国側からも、次の買付けの話が来るだろう。
来年どれだけ売るかは、まだ決めなくていい。
今年はまず、国内に残した後の穀物が、本当に国境の向こうまで届いた。




