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ある転生王の一代記  作者: アレグリア
第2章 王太子から国王へ

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第28話

通商協定の最終文が戻ってきたのは、それから数日後だった。


朝から父上のところへ持っていくつもりだったが、先に母上から使いが来た。昨夜から熱があり、咳も増えているので、今日は執務室には出ないという。


「話せますか」


使いに来た侍従へ聞くと、侍従は一拍置いてから答えた。


「先ほどは起きておられました。ただ、医師からは長い話は避けるようにと」


書類を見下ろした。父上は最終文を見せろと言った。相手側も、こちらが付けた相互条件をほぼそのまま受けている。残っているのは言い回しの調整くらいで、俺が見た限りでは問題はなかった。


「分かった。先に医師へ聞いて、今は無理なら後にする」


父上の居室へ行くと、扉の外に見慣れない薬箱が2つ置かれていた。中では窓が細く開けられ、夏に入りかけた空気が流れ込んでいる。薬草を煮たような匂いと、湿らせた布の匂いが混じっていた。


父上は寝台の上にいた。


昨日まで、体調が悪くても昼間から寝台に入ることは嫌がっていた。長椅子なら休んでいるだけだと言い張れるらしい。今日はさすがにそんなことを言う余裕もないようで、背中に枕を重ねて上体を起こしている。


母上が寝台のそばに座り、その反対側には医師が2人いた。1人が父上の手首に触れ、もう1人は浅い器に入れた水へ指先を入れている。


水面がゆっくり冷えていくのが分かった。


魔法そのものは見えない。ただ、水へ向けられていた魔力の流れは俺にも感じ取れた。強くはない。一定のところで止め、布を浸し、絞ってから父上の額へ置く。


医師が新しい布を父上の額へ置いた。


「陛下、冷たすぎませんか」


父上が目を開けた。


「いや、これでいい」


声は掠れていた。


俺が近づくと、父上が手元の紙を見た。


「それが最終文か」


「そうです。でも、今日は後にします」


「持ってきたなら見せろ」


「医師が長い話は避けろと」


「読むだけなら長くない」


医師がこちらを見た。止めるかと思ったが、父上の呼吸を確かめてから俺へうなずく。


仕方なく、用意してきた短い方の文面だけを渡した。


父上は途中で何度か目を閉じた。眠ったのかと思うとまた開き、1行戻って読み直す。以前なら数分もかからない量だった。


「相互条件は」


「この段落です。相手が条件を外した場合はこちらも同じ扱いから外れます」


「大口の保証は?」


「残っています」


「国内側の見直しは半年ごとか」


「はい」


父上はその箇所を読み返して、紙を俺へ返した。


「これで出せ」


「分かりました」


「今日はほかにあるか」


反射的に、いくつかの案件が頭に浮かんだ。地方官の任期、王領の橋材、軍から上がっている夏季訓練の日程。どれも父上へ持ってくる必要はない。


「ありません」


「ならいい」


父上は目を閉じた。


母上が俺の持っていた書類を見た。


「これで終わりですね」


「はい。今日はこれだけです」


その直後、父上が咳き込んだ。


最初は2度、3度だった。それが止まらず、身体を起こそうとして前へ折れる。母上が背へ手を回し、医師がすぐ寝台へ寄った。


俺は1歩下がった。


咳の間に父上が息を吸おうとする。その音が妙に浅い。さっきまで話せていたのに、咳が続いただけで顔色まで変わっていく。


医師の1人が胸元へ手を添えた。指先から父上の身体へ魔力が流れる。


治すために身体の中へ入り込んでいるわけではない。そんなことはできない。痛みを和らげたり、身体が回復するのを助けたりする程度だ。それでも、何もしないよりはずっといい。


しばらくすると咳は弱くなった。


父上は枕へ身体を戻し、目を閉じたまま息を整えている。


「もう今日は誰にも会わせません」


母上が言った。


父上は返事をしなかった。


俺も何も言わずに部屋を出た。


通商協定の文書は、その日のうちに返した。


父上が承認したものを止める理由はない。俺の執務室では、いつもと同じように書類が積まれていた。北部王領の橋材は別の採石場から回す案で決まり、地方官の短期継続任用にも署名した。軍の訓練日程は担当同士で調整させた。


仕事は普通に進んだ。


父上が寝込んだからといって、道路が勝手に直るわけでも、役人の任期が延びるわけでもない。前の冬から俺へ回されるようになった仕事が、そのまま俺の机へ届いているだけだった。


ただ、いつもなら昼食のあとにもう一度父上の様子を聞くだけで済ませるところを、その日は何度も侍従を呼んだ。


「熱は?」


「先ほどより下がったと聞いております」


「咳は?」


「眠っておられる間は落ち着いているとのことです」


「食事は?」


「少量ですが、召し上がりました」


それなら大丈夫だろう。


そう思おうとした。


翌朝、熱は下がらなかった。


父上は執務室へ出ず、その次の日も出なかった。


最初のうちは、父上自身が「数日休めば戻る」と言っていた。母上も医師も否定はしなかった。実際、1日のうち何度かは熱が下がり、起きて話せる時間もあった。


俺もその時間を選んで顔を出した。


「仕事は回っているか」


寝台から最初に聞かれたのがそれだった。


「回ってます」


「困っているものは?」


「今のところありません」


「本当か」


「本当です。何かあればちゃんと持ってきます。今は信用して休んでください」


父上は息を整えてから、目を閉じた。


「分かった。自分で見に行けないと、つい気になる」


俺は椅子を寝台の近くへ寄せた。


「通商の返事は出しました。相手から受領の返事も来ています。橋材も別の採石場から回せました」


「それならいい」


その後、父上は眠りはじめ、俺はしばらく父上の顔を見ていた。


次の日には、起きて話せる時間がさらに短くなった。


熱が高い間は、冷やした布だけでなく魔法による冷却も使われた。身体が冷えすぎれば今度は温める。咳が続いて胸や背が痛むときには、医療者が魔力を細く流し、痛みを和らげる。


目の前で見ると、医療に使う魔法がどれだけ繊細なのかが分かった。


戦場で使う魔法なら、強く、速く、狙ったところへ放てばいい場面も多い。ここでは違う。医療者は父上の表情や呼吸を見ながら、必要な分だけ魔力を流して止め、また触れて確かめる。魔力が多ければいいというものではない。


その魔法は効いていた。


施術を受けたあとは、父上の眉間の皺が薄くなる。咳のあとに胸を押さえていた手も離れる。眠れる時間も増えた。


だから余計に、期待した。


効いているなら、このまま良くなるのではないか。


熱が下がれば食事も取れる。食べられれば体力も戻る。


父上は44歳だ。死ぬには早すぎる。少なくとも俺は、父上が死ぬことなど考えたこともなかった。


ところが、良くなったように見える時間が長くならなかった。


魔法で痛みが和らいでも、しばらくするとまた苦しくなる。熱を下げても、あとで上がる。食べられた翌日には、ほとんど口にできないこともあった。


「ほかに何かできないんですか」


何度目かの夜、医師へ聞いた。


医師はすぐには答えなかった。


父上は眠っていた。離れたところでは、母上がマティルデと話していた。俺と医師は窓際まで移動して、声を落とした。


「今行っていることを続けます」


「それ以外は?」


「症状に応じて薬を変えることはできます。水分と食事も、取れる範囲で続けます。魔法も、陛下のお身体が楽になるように使います」


「もっと強く使うのは?」


「強くすれば病そのものが消えるわけではありません」


その答えは想像していた。それでも、ほかに何かないかと聞かずにはいられなかった。


医師は続けた。


「今は、陛下ご自身のお身体が回復するのを助けることが一番です」


「……分かりました」


それしか返せなかった。


父上の身体が回復すればいい。


そんなもの、俺にはどうしようもない。


自分の部屋へ戻っても眠れず、結局、夜の途中でまた父上のところへ行った。


扉の前にいた侍従が音を立てずに開けてくれる。


中は暗かった。灯りを落とし、寝台の近くにだけ小さな火が残っている。母上は椅子で眠っていた。父上も眠っている。


起こすつもりはなかった。


寝台のそばに立ち、父上の顔を見た。


頬が痩せた。


いつからだろう。


冬から食べる量が減っていたことは知っている。それなのに、毎日見ていると変化が分からない。今になって急に、前より顔が細くなったように見えた。


手が布団の外に出ていた。


触れてみると冷たかった。


思わず魔力を流した。ほんのわずかに熱を作り、手のひらから父上の指先へ移す。


医療でも何でもない。ただ冷たいから温めただけだ。


しばらくすると、父上の指が動いた。


「……レオンか」


「起こしました?」


「いや」


目は開かなかった。


「手が冷たかったので」


「そうか」


そのまま黙っていた。


魔力を流し続ける必要はない。温まったところで止めたが、手は離さなかった。


しばらくして、父上が言った。


「……すまんな」


「何がです?」


「このところ、お前に任せてばかりだ」


思わず父上の顔を見た。


「何を今さら。父上が休むために仕事を回したんでしょう」


「そうなんだがな」


父上なら、こんなことで謝るより先に「任せられるから任せた」とでも言いそうなのに、その夜はそれ以上何も言わなかった。


胸の奥に嫌なものが残った。


やがて呼吸がゆっくりになったので、眠ったのだと思った。


俺は手を離すまでに時間がかかった。


翌日、父上は朝からほとんど目を開けなかった。


熱だけなら前にもあった。咳が続いた日もあった。それでも、呼べば返事をしたし、休めば水を飲めた。


その日は違った。


昼を過ぎても眠ったままで、起きても何を言われたのかすぐには分からないようだった。水を飲ませようとしても、1口で顔を背ける。


医師たちの出入りが増えた。


母上は朝からずっと父上の部屋にいた。俺も政務をできるだけ隣室へ持ってこさせた。


書類を読む。


署名する。


侍従が入ってきたら顔を上げる。


何も言わなければ、また書類へ目を落とす。


それを何度繰り返したのか分からない。


カスパルが持ってきた書類の中に、地方の倉庫修繕の報告があった。読んでいる途中で、同じ行を3回読んでいたことに気づいた。


「これは、明日でもいいですか」


自分から言うと、カスパルはすぐに書類を引いた。


「もちろんです」


「急ぐものだけ残してください」


「承知しました」


カスパルは机の上から半分以上を持っていった。


「何かあれば、こちらから呼びます」


「はい」


部屋を出る前に、カスパルは1度だけ父上のいる扉を見た。


俺はその視線に何も言わなかった。


夕方近くになって、医師から家族を呼ぶように言われた。


その言葉を聞いた瞬間、意味は分かった。


分かりたくなかった。


「今日が、ということですか」


「断言はできません」


医師はそう答えた。


「ですが、皆様がそばにおられた方がよろしいと思います」


母上はもうそこにいる。


マティルデとハインリヒが呼ばれた。


先に来たのはマティルデだった。扉を入ったところで立ち止まり、寝台を見た。俺の横まで来る間に何度か何か言おうとしたようだったが、結局、声は出なかった。


ハインリヒはマティルデのあとから来た。


「父上、寝てるの?」


小さな声で聞く。


「うん」


「起こさない方がいい?」


俺が答える前に、父上がわずかに目を開けた。


「起きてるぞ」


声はほとんど息だった。


ハインリヒがすぐ寝台へ寄った。


「父上」


「聞こえてる」


ハインリヒは唇を噛んだ。


「僕、ここにいるよ」


父上の目がハインリヒへ向いた。


「そうか」


「うん」


それ以上、父上は続けなかった。


ハインリヒは何か言いたそうにしていたが、母上がその肩へ手を置くと、黙って寝台の横に立った。


マティルデは反対側へ回り、父上の手に触れた。


「冷たい」


「さっきからそうなんだ」


俺が言うと、マティルデは両手で父上の手を包んだ。


父上の指が動いた。


「マティルデ」


「はい。ここにいます」


マティルデは父上の手を包んだまま、顔を伏せた。


母上が寝台のそばへ座り直した。父上の額へ手を当て、額にかかった髪を払う。


医師たちは寝台から離れたところに控えていた。できることがなくなったわけではない。呼吸が苦しくなるたびに近づき、姿勢を変え、痛みを和らげる魔法を使う。水を飲めそうなら口元へ運ぶ。


それでも、呼吸の間は次第に長くなった。


父上がふと目を開けた。


母上を見る。


それからマティルデ、ハインリヒ、最後に俺を見た。


「みんないるな」


「ええ。みんないます」


母上が答えた。


父上は家族を見てから、目を閉じた。


それが父上の最後の言葉になった。


そこからは長かったのか、短かったのか分からない。


窓の外は夕暮れに変わっていった。


誰もほとんど話さなかった。


ハインリヒが途中で泣き始めた。声を押さえようとして、余計に変な息になる。マティルデがその肩を抱いたが、頬にはもう涙が流れていた。


母上は父上の手を握ったまま、ずっと顔を見ていた。


俺もそばにいた。


何かしていないと落ち着かず、父上の反対の手を握った。昼より冷たく感じたので、また手を温めるだけの魔力を流した。


父上の呼吸が止まったのは、その後だった。最初は分からなかった。間が長いことは何度もあったから、次の息を待った。


来ない。待った。それでも来ない。


医師が近づいた。


俺は父上の手を握ったまま、医師の動きを見ていた。首元へ触れ、胸へ耳を寄せる。別の医師も確認する。


何をしているのかは分かっている。


分かっているのに、次の呼吸を待っていた。


「……陛下」


医師が低い声で呼んだが、返事はない。やがて身体を起こし、母上へ向き直った。その顔を見た瞬間、言われる前に分かった。


「アウグスト陛下は、崩御されました」


誰もすぐには動かなかった。俺は父上の手を握っていた。まだ温かい。さっき自分で温めたからだ。


もう一度、手を温めるだけの魔力を流した。指先が温まる。でも父上は動かない。


「父上」


呼んだ。返事がない。


「父上」


もう一度呼んだ。自分の声が変だった。


父上は返事をしない。当たり前だ。さっき医師が言った。死んだ。それでも手を離せなかった。


母上が父上の胸元へ顔を伏せた。


それまで一度も泣き声を出していなかった母上の肩が大きく揺れた。


マティルデが「父上」と言った。続きは声にならなかった。


ハインリヒは俺の横へ来た。


「兄上」


顔がぐしゃぐしゃになっていた。


「父上、起きないの」


答えられなかった。


ハインリヒが父上の腕へ触れる。


「さっき話したのに」


その言葉を聞いたところで、何かが切れた。


喉の奥が痛くなった。


目の前が歪んだ。


息を吸ったら、声が出た。


泣いた。


子どもの頃みたいに、声を抑えることもできずに泣いた。


父上の手を握ったまま、何度も父上を呼んだ。何を言いたいのか自分でも分からない。「父上」としか出てこない。


冬から悪くなっていた。乗馬へ行かなくなり、仕事も減らした。熱が出てからは医師もずっとついていた。魔法も使った。薬も飲ませた。休ませた。できることはしていた。


そんなことは何の慰めにもならなかった。もう一度話せると思っていた。熱が下がる日が来ると思っていた。盤上遊びの続きをする日も、母上に予定を削られて文句を言う日も、俺の書類を見て「多い」と嫌な顔をする日も、まだあると思っていた。


ない。もうない。


父上は死んだ。


そこまで考えたところで、また涙が出た。


母上も、マティルデも泣いていた。ハインリヒは途中から俺の服を掴んで離さなかった。


どのくらいそうしていたのか覚えていない。


医師たちはいつの間にか寝台から離れ、侍従も必要な者以外は部屋から出ていた。


やがて母上が顔を上げた。


目が赤かった。


「レオン」


呼ばれて、ようやく父上の手から自分の手を離した。


温めるのをやめてから時間が経っていた。


さっきより冷たかった。


そのことが、また嫌だった。


母上が立ち上がった。


立ち上がった途端に母上の身体が揺れ、俺とマティルデが同時に手を伸ばした。


母上は大丈夫だと言ったが、声がほとんど出ていなかった。


「ハインリヒを休ませましょう」


ハインリヒは首を振った。


「ここにいる」


「また来られます」


「今いる」


母上はしばらくハインリヒを見た。


「分かりました。では、ここにいましょう」


俺たちはそのまま残った。


父上の部屋なのに、父上がいないみたいだった。身体はそこにあるのに、さっきまでとは違う。何度見ても、その違いに慣れなかった。


外から控えめに扉を叩く音がした。


侍従が入り、カスパルが外で待っていると母上へ告げた。


その名前を聞いて、頭の端に仕事が戻ってきた。


父上が死んだ。国王が死んだ。


そこから先を考えようとすると、身体のどこかが拒んだ。それでも、カスパルが何の用で待っているのかは分かる。


母上が俺を見た。


「行ってきなさい。ここは私がいます」


俺は顔を拭った。


袖でやりかけて、途中でやめた。近くにいた侍従が布を差し出してくれたので、それを使う。


「行ってくる」


誰に言ったのか分からない。


マティルデがうなずいた。


ハインリヒは父上のそばに残った。


扉を出る。


廊下にはカスパルがいた。


ほかにも何人かいたが、顔を見る余裕がなかった。


カスパルの目も赤かった。


長いこと父上に仕えてきた人だ。


俺を見ると、カスパルは深く頭を下げた。


いつもより深かった。


「陛下」


足が止まった。


父上を呼んだのだと思った。


本当に、一瞬だけそう思った。


でも、カスパルは俺を見ている。


後ろの者たちも、全員こちらへ頭を下げている。


「……やめてくれ」


口から出た。


カスパルは頭を上げたが、呼び方を直さなかった。


「お辛いところ、申し訳ございません」


言葉が続く。


「すぐに必要なのは、崩御の事実を王都の主要官庁と軍へ知らせることです。地方と国外へ送る正式文は、こちらで文案を整えます。王宮内の対応についても、既定の手順に入る必要があります」


全部分かる言葉だった。一つも難しくない。それなのに、頭へ入るまで間があった。


「……軍と官庁には、事実だけ先に知らせてください」


声が掠れた。


咳払いをして続ける。


「地方と国外向けは文案を作って、持ってきてください。今夜の警備や配置は、理由なく変えない。必要な変更があるなら先に説明を」


「承知しました」


「ほかに、今すぐ決めなければ止まるものは?」


カスパルは一拍置いた。


「現時点では、その3点で足ります」


「なら、それだけで」


「はい」


カスパルがもう一度頭を下げる。


「陛下」


今度は何も言えなかった。


呼び方をやめさせても、父上が戻るわけではない。それでも、「陛下」と呼ばれるたびに胸の奥が痛んだ。


「文案は、急がなくていいです。必要なものから」


「承知しました」


カスパルたちが動き始める。


廊下の向こうで、侍従が別の者へ何かを伝えた。足音が遠ざかる。父上が死んだばかりなのに、王宮はもう次の仕事を始めている。


俺はしばらくそこに立っていた。


それから振り返り、父上の部屋へ戻った。


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