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ある転生王の一代記  作者: アレグリア
第2章 王太子から国王へ

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第24話

ローデンベルクの一件から、およそ1年が過ぎた。


俺は18歳になった。


この1年で、王太子として出る会議も、目を通す文書も増えた。軍や財政の報告を受けることも、外国の使節と顔を合わせることも、もう珍しくはない。


身体の方も、15歳の頃とはかなり違う。


あの頃に始めた筋力トレーニングは、そのまま自分の身体を大きくするだけでは終わらなかった。


最初に確かめたかったのは、身体そのものを鍛えれば、身体強化も使いやすくなるのかということだった。


これは、思っていた以上にはっきり差が出た。


15歳の頃は、身体強化を強くかけると速くは動けたが、踏み込みで膝がぶれたり、剣を受けた時に腰が流れたりした。魔力が残っていても、身体の方が先についてこなくなる。


今は違う。


普段の騎乗姿勢を保つ程度なら、身体強化を使う必要はほとんどなくなった。逆に白兵では、以前より強く身体強化をかけても、脚と体幹でその力を受け止められる。


強く踏み込む。相手の剣を受ける。押し返す。そこから次の動作へつなぐ。


身体強化で出せる力そのものが増えたというより、強化した力を身体が使い切れるようになった感覚に近い。


魔法の方も、疲れた状態で使う訓練を重ねた。


15歳の頃は、30kmほど馬で移動した後だと、射撃が10射中3射まで落ちることもあった。騎乗、身体強化、射撃を疲れた状態で続ける訓練を始めたばかりだったからだ。


今は同じように疲れていても、8射前後は当てられる。


軍の兵にも、同じように一つずつではなく、続けて動く訓練をさせた。


30km前後を騎乗する。降りたら装備を持ったまま走る。そのまま魔法射撃、防御、剣での模擬戦まで続ける。翌朝には、もう一度騎乗して同じように動く。


個別にできるだけでは足りない。


疲れた後でも、次の動作へつなげられることを重視した。


最初の頃は、馬を降りた直後に射撃が大きく乱れたり、防御を張ったまま前へ出られなくなったりする兵が珍しくなかった。


今では、試験隊の大半が長距離移動の後でも隊形を崩さず、射撃、防御、白兵まで続けられる。


最初は、俺とコンラート、それに護衛や訓練相手が数人いる程度だった。


16歳になる頃には20人、30人と人数を増やした。そこで分かったのは、人間だけ鍛えても部隊は速くならないという、考えてみれば当然のことだった。


馬が疲れる。荷物が遅れる。途中で休ませる場所が要る。替えの馬を置くなら、その馬を世話する人間も必要になる。


そこで、人と馬の訓練だけでなく、移動そのものを仕組みにした。


街道を区切って交換馬を先に置く。水と飼料も同じ場所へ運ぶ。戦闘に直接使わない荷物は別に送る。10人から20人ほどの組ごとに指揮する者を決め、隊列が伸びた時も全体を止めずに組単位で直せるようにする。


速く移動して、着いた後も戦えるようにするための訓練と、120人をまとめて動かす仕組みを、3年かけて作ってきた。


ローデンベルクでは、さらに別の問題を実際に見た。


知らせは早く届く。


だが、兵はそれと同じ速さでは動けない。


あの一件の後、俺たちがそれまで続けていた試験には、はっきりした目的が加わった。


遠くで問題が起きた時、通常の部隊より早く到着し、そのまま戦える兵を送れないか。


今日、その試験を120人でやる。


夜明け前のゾンネンフェルト王室牧場には、兵と馬がすでに集まっていた。


厩舎前では馬具の確認が進み、牧場の者が交換用の馬を送り出した記録を軍の書記へ渡している。少し離れた場所では、隊ごとに飼料と水の量を確認していた。


俺の前には、トラウムライゼがいた。


ゴルデネ・ライゼの産駒で、今の俺がもっともよく乗っている馬だ。


父親のゴルデネより少し小柄だが、長い距離を走らせても脚を傷めにくく、翌朝には疲労がかなり抜けていることが多い。連日乗る試験では、牧場の他の同年代馬より明らかに良い記録を残していた。


速さだけなら、もっと速い馬はいる。


だが、軍で欲しいのは1日だけ速い馬ではない。


そのことが分かるようになったのは、牧場の記録が数年分たまったからでもある。


昔は、馬ごとの記録をつなげて見られるようにしただけだった。今では長距離を走らせた翌日の脚の状態、食欲、回復にかかった日数まで比べられる。今回の交換馬を選ぶ時にも、その記録が使われた。


自分が13歳の頃に始めた小さな試みが、こんなところまでつながるとは思っていなかった。


トラウムは、その感慨にはまったく興味がないらしい。


馬丁が腹帯を締めると、わざと腹を膨らませた。


少し待って締め直す。


また膨らませる。


「お前、本当に嫌なことは嫌って抵抗するよな」


耳だけがこちらへ向いた。


気性が悪いというより、自分が嫌だと思ったことにはかなりはっきり抵抗する馬だった。急に進路を変えようとすると首を振るし、知らない人間が乱暴に手綱を取れば露骨に嫌がる。


俺にも遠慮はない。


そこが少し面白くて、俺は気に入っている。


それでも最近はある程度は命令を聞いてくれるようにはなった。


「殿下」


後ろからコンラートに呼ばれた。


振り返ると、ハイリゲス・シュヴェルトに跨がっている。


昔、ゾンネンフェルトでヴァルトヴィントと呼ばれていた馬だ。エーレンフェルト家へ渡ることが決まった時、コンラートが自分で今の名前を付けた。


あの時は俺もその名前にワクワクしたが、今は前ほど内なる厨二病は主張しなくなった。それでも、「聖剣」という名前の格好良さは今でも感じる。


「そろそろ並びますよ。殿下だけ遅れると、出発前から記録に残りますよ」


「まだ遅れてない」


「そう言っているうちに遅れるんです」


言うだけ言って、コンラートは先へ行った。


ハイリゲス・シュヴェルトも迷わずついていく。


馬まで妙に得意げに見えるのは、たぶん俺の気のせいだ。


今回の試験隊を率いるのは、王国軍の騎兵隊で長く勤務している現役の隊長だった。


俺が考え始めた試験ではあるが、俺の私兵を作っているわけではない。


120人を実際に動かすなら、軍の指揮系統の中で動かなければ意味がない。


隊長が全員へ今日の条件を確認する。


今日の目的地までは約82km。


同じ人数の騎兵隊が通常の行軍をするなら、1日40km前後を見て、到着は翌日になる距離だ。今回は途中2か所に交換馬を置き、11時間以内での到着を目標にする。


到着後は休まず模擬戦闘へ入り、その夜は現地で休息。翌朝、もう一度騎乗と魔法戦闘の判定を行う。


到着時刻だけが評価ではない。


着いた時に戦えること。


翌日も動けること。


そこまで含めて今回の試験だった。


出発の合図が出た。


最初の区間では、意外なほど速度を上げない。


以前なら、ここで俺ももっと急ごうとしたと思う。


今はしない。


序盤で馬を走らせすぎれば、後半で帳尻を合わせることになる。その程度のことは、3年やれば身体で分かる。


トラウムライゼは走りたがったが、手綱を抑えた。


しばらく首を振っていたものの、諦めると一定の速度へ落ち着いた。


街道を進み、最初の交換地点に着いたのは昼前だった。


出発から約27km。


ここでは事前に用意した交換馬へ半数近くが乗り替える。次の交換地点はさらに約28km先。その先の最後の区間を合わせて、全行程は約82kmになる。


馬を降りた兵へ待機していた係が次の馬を渡し、外した馬具を別の者が確認する。水を飲む者、飼料を口へ入れる者、装備を直す者。


この地点で使える時間は15分。


最初の頃は、馬を替えるだけで30分以上かかった。今は担当と順番を固定し、各組が自分の交換馬を把握しているので、120人規模でも流れが止まらない。


俺はトラウムライゼを替えなかった。


今回はこの馬自身の長距離後の状態も確認するためだ。


水を飲んでいると、コンラートが横へ来た。


「まだその馬で行くんですか」


「そのための試験でもあるからな。ハイリゲス・シュヴェルトは?」


「次で替えます。こいつは今日の前半を担当させます」


コンラートが首筋を叩くと、馬は一度だけ頭を振った。


昔よりずいぶん大きく見える。


馬が成長したのもあるが、乗っているコンラート自身がもう子どもではないからだろう。


俺も同じように見えているのかもしれない。


再出発した後、街道は森沿いへ入り、前夜の雨が残る場所が増えた。


速度が少し落ちる。


そこで前の隊が間隔を詰めすぎた。


コンラートが自分の組を横へずらし、後ろから来る兵を先に通す。止めずに列を組み直し、そのまま元へ戻した。


判断が速い。


昔から軍事訓練では俺より得意なところがあったが、今はそれがもっとはっきりしている。


剣や魔法で一対一なら、俺もかなりやれる。


けれど、戦いながら周りの10人、20人へ同時に目を配るなら、まだコンラートの方が上だ。


悔しくはある。


ただ、王太子の俺が全部一番である必要もない。


……そう思えるようになったのは、たぶん少し大人になったからだ。


いや。


負けると腹は立つので、あまり格好をつけるのはやめておこう。


午後になると、さすがに身体へ疲れが出てきた。


腰と腿が重い。


目的地の訓練場へ入った時、出発から10時間48分が経っていた。


約82km。


通常の騎兵隊なら2日に分ける距離を、その日のうちに走り切った。しかも120人の隊列は大きく乱れていない。


目標の11時間も切った。


ここまでは成功だった。


だが、今日確かめたいのはここからだ。


訓練場に入った直後、模擬戦開始の旗が上がった。


「下馬!」


命令が飛ぶ。


トラウムライゼから地面へ降りる。


腿が一瞬重くなる。


身体強化をかける。


足が動く。


前方では、防御側の兵がすでに射撃位置についていた。


左前から魔力が立ち上がる。


反射的に防御へ回した。


飛んできた訓練用の攻撃魔法が手前で散る。


すぐ右。


今度は土盛りへ身体を入れる。


遮蔽物があるのに、全部を魔法で受ける必要はない。


そこから一発撃ち返す。


相手が防御へ回った瞬間、こちらの兵が前へ出る。


もう考え方は分かっている。


移動で疲れている。


魔力も満タンではない。


だから、元気な時の訓練と同じ戦い方をしない。


身体強化を脚へかける。


一気に間合いが縮んだ。


目の前の兵が剣を合わせてくる。


そのまま受けた。


衝撃が腕から肩へ抜ける。けれど、腰は流れない。


さらに一歩踏み込み、身体強化を脚と体幹へ重ねる。


押し返すと、相手の剣先が外へ開いた。


そこへ一発だけ魔法を撃つ。


防御を上げさせ、その下へ入る。


昔なら、ここまで強く踏み込んだ後は次の動作へ移るまで一瞬遅れた。


今は、そのまま剣を振れる。


目の前へ訓練用の剣を持った兵が出てきた。


一発だけ魔法を撃つ。


相手が防御を上げる。


その下へ踏み込む。


剣を合わせ、腕を押し返す。


横から別の魔力。


攻撃を止めて防御へ切り替える。


間に合った。


その間に右側が動いた。


コンラートの組だった。


正面へ兵を残しながら、一部を土塁の陰へ回している。


俺も自分の側へ指示を出した。


「右へ合わせる。正面はそのまま押せ!」


今度は迷わない。


こちらが前へ出る。


防御側が一度下がったところへ射撃が重なり、中央の旗を味方が取った。


終了の角笛が鳴る。


止まった途端、呼吸が一気に重くなった。


腕も脚も疲れている。


それでも、立っていられる。


周りを見る。


同じように息を整えている兵がいる。水を求める者もいる。馬を歩かせ始めている者もいる。


120人が長い距離を移動した後、部隊として戦闘を行えた。


それが何より重要だった。


模擬戦が終わると、兵へ水が回され、馬の確認が始まった。


しばらくして、各組の指揮者が隊長の前へ集められる。


地図が地面へ広げられた。


「第1組。泥の区間で詰まりすぎだ。前が落ちた時に後ろまで一緒に止まっている。次は組の中で間を作れ」


隊長が指で街道の一部を叩く。


「第2組。交換地点で馬具の確認が重なった。馬を替える者と装具を見る者を分けろ」


返事が続く。


次にコンラートの組へ移った。


「第3組。右へ回った判断はよかった。正面を残したから、防御側は両方を見なければならなくなった」


コンラートは黙って聞いている。


「ただし、後ろの2騎が離れた。あれが実戦なら伝令が切れる。次はそこを直せ」


「はい」


さっきまで少し得意そうだった顔が戻った。


ざまあみろ、とまでは思わない。


少しだけ気分はいい。


俺の組にも指摘は来た。


「殿下の組は、右へ合わせるまで半拍遅い。前を見すぎです。自分で撃つ前に、隣の組が何をしているか見てください」


「……はい」


コンラートがこっちを見た。


見るな。


ゲオルク先生は講評の輪の外で、記録係と射撃結果を見ていた。


俺が近づくと、紙から目を上げる。


「8射です」


「思ったより残りました」


「最後の2射は肩が上がっています。疲れると上へ逃げる癖はまだありますな」


先生は俺の右肩を指で軽く叩いた。


「明日の朝、そこを見ます」


それだけ言って、次の兵の記録へ目を移した。


特別扱いはない。


俺も、今日の試験に参加した120人の一人として記録されているだけだった。


その夜は訓練場の脇で休んだ。


各組から細かな報告が上がり、軍の書記が昼の講評と合わせてまとめていく。


以前なら、俺も全部の記録を横から見たくなった。


今日は自分の組の報告と、全体の集計だけを確認した。


120人分を俺一人で把握しようとする方が間違っている。


隊長がまとめる。


組を預かる者が報告する。


馬の状態は牧場側が記録する。


俺がいなくても回る形にしなければ、軍の仕組みにはならない。


翌朝、身体は当然重かった。


ただし、起き上がれないほどではない。


馬の方へ行くと、トラウムライゼはすでに飼葉を食べていた。


担当の者が昨日の記録と見比べながら脚を触っている。


「どうです?」


「熱はほとんどありません。食欲も落ちていません。歩かせた後も問題なさそうです」


聞きたいことがはっきり分かる返事だった。


これなら今日も使える。


数年分の記録でも、トラウムライゼはこういう回復の早さが目立っていた。


偶然1回元気だったのではなく、何度走らせても同じ傾向が出る。


だから今、俺はこの馬を長距離でよく使う。


朝の判定では、一定時間の騎乗移動を行い、その後に魔法射撃、防御、下馬後の移動を続けた。


身体は昨日より重い。


それでも動ける。


最初の射撃だけわずかに散ったが、すぐに感覚は戻った。


防御も問題ない。


コンラートの組も同じように動いている。


ハイリゲス・シュヴェルトは昨日の途中で交換していたため今朝は別の馬だったが、コンラート自身の指示は昨日と変わらず速い。


判定が終わると、全員が集められた。


隊長が記録を確認する。


「昨日は82kmを10時間48分。今朝、再行動できなかった者は少数。射撃も防御も、隊としては基準内です」


そこで一度、紙をめくった。


「交換馬も予定数で足りた。大きな故障もない」


周囲が少しざわめく。


隊長は顔を上げた。


「成功です。この編成は残します」


胸の奥が軽くなった。


3年かかった。


最初は、自分の身体を鍛えていただけだった。


そこから、走った後にも戦えるかを試した。


馬で遠くまで行った。


人数を増やした。


馬を替えた。


荷物を減らした。


牧場の記録も使った。


ローデンベルクで、何のためにそれをやるのかもはっきりした。


今、その全部が一つにつながった。


「今後は軍側で継続します」


隊長が続けた。


「殿下が参加されない訓練も増やします。別の指揮官、別の組合せでも同じ結果を出せるところまで持っていきます」


俺は頷いた。


「お願いします。必要な試験には私も参加します。ただ、私が毎回いないと成立しないものにはしたくありません」


「承知しています」


短いやり取りだった。


それで十分だった。


3年前は、俺とコンラートたち数人で始めた試験だった。


今は、俺がいなくても軍が続けると言っている。


その日の午後、ゾンネンフェルトへ戻ると、牧場ではもう馬の記録整理が始まっていた。


今回の試験で使った馬について、走行区間、交換した時刻、翌朝の脚の状態、食欲が台帳へ追記されている。


以前の記録と並べれば、どの馬が長距離に向いているかが少しずつ見える。


ゴルデネ・ライゼの産駒も、みんな同じではなかった。


速い馬。


身体の大きい馬。


扱いやすい馬。


長く走ると疲れが残りやすい馬。


その中で、トラウムライゼは持久力と回復の早さが目立つ。


血統名だけでは分からない。


何度も走らせて、記録を残したから分かる。


これは、13歳の俺には見えていなかった成果だった。


放牧地へ回ると、ゴルデネ・ライゼが柵の近くにいた。


もう15歳前後になる。


以前のように俺を乗せて遠くへ走ることは減り、今は繁殖馬として過ごす時間の方が長い。


それでも、近づけば昔と同じ顔をしている。


額を撫でる。


「お前の子、かなりいいぞ」


ゴルデネは草を噛み続けていた。


まあ、そうだろう。


褒められているのが自分なのか子どもなのかも、たぶん気にしていない。


その横で、トラウムライゼが俺の袖を噛もうとした。


「お前は今褒めたばかりだろ」


引っ込めると、今度は知らない顔で草の方を向いた。


親子という感じは、あまりしない。


王都へ戻ってから数日後、コンラートとマティアスが夕食へ来た。


フェリクスは来なかった。


西方の家領へ戻っていて、倉庫と村の収穫関係の仕事が片づかないらしい。


代わりに手紙だけが届いていた。


最後に、


『次はそっちが西へ来い。俺ばかり王都へ行くのは不公平だ。』


と書いてある。


「勝手だな」


俺が読み上げると、コンラートがパンをちぎりながら言った。


「でも、殿下が西へ行く方が日程を取るのは大変でしょうね。護衛も予定も増えるし」


「だから不公平だと言ってるんだろ。自分は来ないで、俺に来いって言うんだから」


「来てほしいんじゃないですか」


マティアスが料理へ手を伸ばしながら言った。


「前は毎週みたいに顔を合わせていたのに、今は3人揃うだけでも予定を合わせるのが大変ですから」


その言い方には、特に感傷はなかった。


事実として、その通りだった。


コンラートは軍。


フェリクスは西方の家領。


マティアスも家と宮廷の用事が増えている。


俺は王太子として予定が埋まる。


全員が同じ場所で同じ授業を受けていた頃の方が、むしろ特殊だったのだろう。


「そういえば、試験隊は軍で続けることになったんですよね」


マティアスが聞いた。


「ああ。俺がいない訓練も増える」


「よかったじゃないですか。殿下が毎回走り回っていたら、政務の方が止まります」


「そこまで走り回ってない」


コンラートが笑った。


「この3年、かなり走ってましたよ。僕は軍だからいいですけど、殿下は途中で会議へ戻ったりしてたでしょう」


「お前が楽しそうに試験を増やすからだ」


「殿下が始めたんですよ」


そうだった。


反論できない。


話はそのまま、軍の訓練からフェリクスの家領の収穫へ移り、マティアスの家で起きた面倒な親族の話へ流れた。


昔より、知らない話が増えた。


それでも、会えば普通に話せる。


そのくらいでいい。


その週の終わりには、家族で夕食を取った。


父上は昼の政務が少し長引いて遅れてきたが、席へ着くなり俺へ高速機動試験の結果を聞いた。


国王としての詳しい報告はすでに軍から受けている。


ここで聞いているのは、たぶん俺自身の感想だ。


「成功でした。軍が継続して訓練することになります」


「そうか」


父上は満足そうに一度頷いた。


「3年続けた甲斐があったな」


「最初はここまでやるつもりじゃなかったんですけどね」


「そういうものだ。始める前から全部分かっている仕事の方が少ない」


父上らしい答えだった。


隣でマティルデがこちらを見た。


14歳になり、人前へ出る時の服装や振る舞いはかなり大人びた。


ただ、馬の話になると昔とあまり変わらない。


「兄上。今度、トラウムライゼに乗せてください」


「駄目」


考える前に答えた。


マティルデが眉を寄せる。


「まだ何も条件を言っていません」


「条件を聞いても駄目だ。あいつは人を選ぶし、嫌がった時に遠慮しない」


「兄上は乗っているでしょう」


「俺は何度も振り回された上で乗ってる」


横からハインリヒが口を挟んだ。


「姉上なら、ゴルデネの別の産駒の方が合うと思います。トラウムライゼは鞍を付ける時から面倒でしょう」


「どうしてあなたが知っているの」


「馬具を見れば分かります。腹帯の締め直しが多いですから」


12歳になった弟は、相変わらず妙なところをよく見ている。


俺より先に、トラウムライゼが腹を膨らませる癖まで気づいていたらしい。


「そこまで見てるなら、今度一緒に牧場へ来るか?」


俺が言うと、ハインリヒは少し考えてから頷いた。


「行きたいです。交換馬の荷の付け方も見たいです」


マティルデが呆れた顔をした。


「馬を見に行くのに、どうして荷物の話になるの」


「姉上は乗ることしか考えていないからです」


「ちゃんと馬も見ています」


言い返したところで、母上が二人を止めた。


「続きは食べ終わってからになさい。せっかく温かい料理なのだから」


そこで話は切れた。


俺も冷めかけた茶へ指を添え、少しだけ温め直す。


昔なら、魔法を使うたびに意識していた。


今はもう、そこまで意識しなくても、無意識に使えるものも増えてきた。


18歳になった。


身体も変わった。


魔法の使い方も変わった。


馬も、人間関係も、自分が始めたことの大きさも変わった。


それでも、全部が今日急に変わったわけではない。


何年も続けてきたものが、気づけば今の形になっていた。


そして今回、その一つが軍の手段として残ることになった。


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