第14話
10歳になってからしばらくして、父上の仕事を見学するようになった。後継者教育が本格的に始まってきたのだ。
最初は知識と現実との狭間で理解が難しいことあったが、そこから2年たち、12歳になるころには少しずつ王としての仕事の触りくらいはわかるようになってきた。
授業も訓練も続き、父上の許しが出た日には、こうして政務の席へ呼ばれることもあった。最初の頃は知らない言葉が1つ出るたびに、その後の話を半分くらい聞き逃していたが、今は何について揉めているのかくらいなら追えることが多い。
今日の案件も、最初はそれほど難しいものには見えなかった。
東部から西部へ荷を運ぶのに、時間がかかっている。
父上の前には、綴じた報告書が2つと、何度か折り直されたらしい紙が広げられていた。向かいには軍人かと見間違うような巨体をもつ筆頭実務官のカスパルがいる。俺は父上から少し離れた横の席で、2人の話を聞いていた。
「予定より4日遅れか」
父上が報告書を押さえた。
「今回の隊は4日です。その前は3日、その前は5日。混雑だけが原因ではありません」
カスパルは別の紙を寄せた。
「東部を出る際に荷と書類を確認。次の領内で荷主、行先、荷の種類、台数を改めて確認し、通行料を納める。その先の都市でも同様の内容を帳簿へ記載。さらに次の領域では、封印があっても一部の荷を開けています」
「前の検査を認めていないのか」
「無効としているわけではありません。自領を通る荷は自分たちでも確認する、という扱いです」
父上が息を吐いた。
「それで、また封をする」
「はい」
やっている側にも理由はあるんだろう。何も見ずに通して問題が起きれば、その土地の役人が責任を問われる。通行料が荷の種類や量に関係するなら、確認する意味もある。
それでも、机の上の写しを見比べると馬鹿らしくなってくる。
今回の隊は、東部を出る時点で荷を数え、紙に記し、封をされた。ところが最初の領域では、門に入る前に荷車を並べ直し、書類を1枚ずつ照らし合わせている。その日のうちに終わらず、翌朝まで待った。次の都市では荷を全部開けたわけではないが、書類を自分たちの帳簿へ写すためにまた止まった。その先で一部の封を切られ、確認後に新しい封をされる。最後のほうでは、その新しい封と前の紙が合っているかをまた見られた。
1回ごとの作業だけなら、何日もかかるほどではない。けれど、順番を待つ時間、役人が書き直す時間、封を開けて戻す時間が少しずつ積み重なっている。
しかも、写しに並んでいるのは、荷主、行先、荷車の数、荷の種類、大まかな数量。
紙ごとに並び順や書き方は違うのに、かなりの部分が同じだ。ある紙では荷主が一番上、別の紙では出発地の下。荷車の数を数字だけで書くものもあれば、1台ごとの印を並べるものもある。内容を読む前に、どこを見ればいいのか探すところから始まっている。
前世でも、似たようなことはあった。ほぼ同じような内容にもかかわらず用途の違う紙へ何度も書く。提出先が違うから仕方がないと言われれば、その通りではある。
でも、同じ情報を何度も書けば、その分だけ手間も間違いも増える。
違うところをなくせないなら、同じところだけでも揃えればいい。
「父上」
「何だ」
「同じことを書いているところだけ、同じ形にできませんか」
カスパルもこちらを見る。
俺は机の1枚を指した。
「荷主と行先、荷車の数、荷の種類と量。それから、どこで確認したか。そこまでは、だいたいどこでも見ていますよね」
「そうですね」
「なら、最初から同じ順番で書く欄を作って、その紙を荷と一緒に回すんです。それぞれの土地で必要なものは、別の欄に足せばいい」
俺は紙を1枚手前へ寄せた。
「この部分は、どこへ行っても変わらないですよね。だったら、ここだけは毎回書き直さない。相手が自分の帳簿へ写したいなら写してもいいけど、元になる紙は同じものを見る」
「途中で荷が変わった場合は?」
カスパルが言った。
「変わったところだけ足す。荷車が1台増えたとか、途中で一部を降ろしたとか。最初の紙を捨てて全部書き直すんじゃなくて、変更したことが分かるようにする」
言いながら、これなら前世の書類でも普通にやっていたなと思う。最初の記録を残して、変わったところを後から足す。それだけで、どこで何が変わったかも追いやすくなる。
「それと、最初に荷を見たところで確認した印を付ける。封もしてあるなら、次のところでは、封が壊れていないかと紙が合っているかを先に見る。問題がなければ、全部を最初から調べ直さなくてもいいんじゃないですか」
俺は、報告書の端に描かれた封印の写しを見た。紙も印章も封も、もうある。新しい道具が要る話じゃない。使い方を揃えるだけなら、少なくとも何もないところから始めるよりは早いはずだ。
父上はすぐには答えなかった。
カスパルが紙を引き寄せ、項目を順に目で追う。
「殿下の案ですと、前の役所が行った確認を後の役所が利用することになります」
「はい」
「どこまでを利用しますか」
質問というより、そこで決めなければ先へ進めないという言い方だった。
「荷主と行先は、そのままでいいと思います。荷車の数も、途中で変わっていなければ。荷の中身は……封が壊れていなくて、前の確認を信用できるなら、毎回全部を開けなくてもいい。でも、通行料を決めるのに必要なら確認は残る」
そこを減らしたいのに、必要なら残る。
少し面倒になってきた。
カスパルは手元へ何か書いた。
「王家が直接扱う荷であれば、出発時の記録を揃えることは難しくありません。王家が直接管理する場所の役人に、共通の欄を使わせることもできます」
お。
「では、それをやれば」
「そこまではできます。ただし、その紙を見た別の諸侯の役人に、検査を省けとは命じられません」
東の本領と西の旧領の間には、父上の土地ではない場所がいくつもある。地図の上では1本の道でも、その途中には別の領主や都市がいる。
父上が王だからといって、そこの役人まで父上の部下になるわけではない。
東部では父上は王だ。西部にもアルテンフェルス家の土地と権利がある。だから俺の感覚では、東から西まで自分たちの荷が動くなら、途中もまとめてしまいたくなる。
けれど地図の1本線は、権利まで1本にしてくれない。
街道を通らせる側には、道を維持する負担もあれば、昔から認められた徴収の権利もある。こちらが数日遅れて困っていても、向こうからすれば、昔からやっている確認を急に省けと言われる筋合いはない。
同じ荷を見ているから同じ手続にできる、というのは、こちら側から見た話にすぎない。
「紙の形を同じにするだけでも駄目ですか」
「こちらが作った紙を使うことはできます。相手が見やすいと思えば参考にもするでしょう。しかし、相手の役所の規則までこちらで変えることはできません」
「じゃあ、同じ形を使ってもらうよう頼む」
今度は父上が口を開いた。
「頼むことはできる」
「それなら」
「頼んで、相手が何を求めるかだ」
父上は報告書へ目を落とした。
「検査する権利そのものを、昔から認められている場所がある。通行料ならなおさらだ。こちらには余計でも、相手にとっては権利であり、収入でもある」
「あ」
思わず声が出た。
そうか。
面倒だからやめよう、では終わらない。
前世なら、同じ組織の中で部署ごとに別の申請書を使っていても、上から統一しろと言えば一応は話が進む。こっちは違う。途中の相手は別の領主で、こちらの命令を聞く義務がない。
しかも、通行料を取る権利まで絡んでいる。
こちらが便利だからまとめようと言って、向こうの収入が減るなら、簡単に同意するはずがない。
……そりゃそうだ。
でも、それが面倒だからまとめたいんだけどな。
「通行料をなくさずに、確認だけ減らすことはできませんか」
俺が言うと、カスパルの手が止まった。
「可能性はあります」
「通行料は払う。相手が必要な記録も残す。でも、前の場所で確認したことを、もう1度全部やらない」
「相手が前の確認を信用するなら」
「信用できるように、誰が確認したか分かる印を付ける」
「誰でも同じ印を押せるようでは困ります」
「なら、印を使える場所を決める。紙にも確認した場所を書く。封が壊れていたら、その荷は調べ直す」
話しているうちに形が見えてきた。
最初の確認を絶対に正しいものとして扱う必要はない。確認済みであることを使えるところまで使って、怪しいところだけ戻せばいい。
「荷車が途中で増えたら、その分だけ見る。封が切れていたら、その荷を見る。書いてある数と違ったら止める。でも、何も変わっていないのに毎回最初からやる必要はないでしょう」
カスパルは父上を見た。
「王家の管理下では、その方法でかなり減らせます」
「どこからだ」
「まず東部で王家が直接扱う荷と、その確認を担当する場所です。共通項目を決め、確認した場所と役人が分かる形にする。封印が保たれている場合は、次の王家管理地での再確認を簡略化できます」
カスパルは白い紙を1枚取り、上に短く何かを書いた。
「西部側でも、王家の役人が直接扱う場所は同じ様式へ寄せられます。途中の諸侯領と都市は交渉です」
「何を交換にする」
父上の問いに、カスパルは少し考えた。
「最初から通行料の削減まで求めれば、話は重くなります。まず共通項目の承認と、封印が保たれている荷の検査簡略化でしょう。料金の徴収と相手側の記録は残す。その代わり、こちらも相手が発行した確認をどこまで受け入れるか示す必要があります」
「相互に、ですか」
「はい。こちらの確認だけ信用しろ、では続きません。ただし、相手の確認を何でも受け入れるわけでもない。誰が確認できるか、どの印を使うか、封が破損した場合はどうするか。その条件を決めます」
「相手が間違えたら、こっちが損をすることもありますよね」
「あります。だから、何を相互に認めるかは限定したほうがいいでしょう」
カスパルは、俺が最初に挙げた項目のうち、荷主、行先、荷車の数へ印を付けた。
「たとえば、このあたりは比較的扱いやすい。荷の中身や価格まで相互承認するとなれば、通行料の算定や各地の区分にも触れます。相手ごとに規則が違えば、1枚の共通紙だけでは足りません」
「じゃあ、最初は全部を共通にしない?」
「はい。共通にして問題が少ないものからです」
俺は少し不満だった。
せっかくまとめるなら全部まとめたい。途中で別紙を増やしたら、また紙だらけになる。
けれど、全部を1度に触って通行料の話まで止まるなら、荷は今まで通り何日も待つことになる。
それよりは、半分でも減ったほうがいい。
「封印の確認だけでも、先にできますか」
「王家の管理下なら可能でしょう。ただ、封が壊れていないだけで中身が正しいとは限りません」
「最初の検査がちゃんとしていることが前提ですね」
「その通りです。ですから、最初に確認する側の記録も残します。後で違いが出た時、どこで確認した荷なのか追えなければ意味がありません」
なるほど。
確認済みという印は、便利な札ではなくて、誰かが責任を持って見たという印でもあるわけだ。
さっきまで、かなり簡単な話に見えていた。
同じことを何度も書いている。だったら1回にすればいい。
その部分は間違っていないらしい。実際、カスパルも使えると言った。
でも、1回にした後で誰が責任を持つのか、誰の印を信用するのか、金はどうするのかとなると、1枚の紙から急に人の顔が増えていく。
紙を揃えるだけなら簡単だ。
揃えた紙を、別々の権利を持つ人間たちに同じように扱わせるのが難しい。
「殿下」
「はい」
「最初の共通書式ですが、荷の種類はどこまで分けますか」
「え?」
今度は答えが止まった。
布は布でいい気がする。でも、高い布と安い布で料金が違うなら足りないかもしれない。金物だって、全部を同じ1行にしていいのか分からない。
そこは俺には決められない。
「……今使っている区分に合わせるのがいいと思います」
「どこの区分に」
う。
東部と西部で同じとは限らないのか。
俺が黙ると、カスパルはただ紙へ1行書き足した。
「ここは担当に調べさせます。現在使っている区分を並べ、共通にできる部分を出させましょう。共通にできないところは追加欄に残す」
「それでいい」
父上が言った。
「確認済みの項目も同じです。何を1度の確認で済ませ、何を各地で見直すか。王家の管理下なら揃えられる範囲は大きいでしょう」
「費用は」
「新しい道具を大量に作る必要はありません。まず既存の紙へ共通欄を設け、今ある印章と封印を使う形なら抑えられます。帳簿側まで1度に変えると、周知と書き直しが増えます」
「なら帳簿は後だ」
「はい」
「役人への指示は」
「原案を作る者と、現場で使えるかを見る者を分けます。紙の上で整っていても、門前で荷車を止めたまま欄を埋めるのに時間がかかれば意味がありません」
父上が頷いた。
「最初から完成させようとするな。今ある書式へ共通欄を足すところからでいい」
「承知しました」
「西部側へも同じものを送れ。途中の相手と交渉する前に、こちらの東西で書き方が違っていては話にならん」
「その確認も入れます」
父上はそこで1度、俺を見た。
「お前の言った『同じところを揃える』というのは、そのまま使える」
急に本人から言われると、ちょっと照れる。
「はい」
なるべく普通に返した。
早い。
父上が判断すると、カスパルはもう次に必要なことへ移っている。
俺が思いついた時には1つの塊だった案が、カスパルの紙の上では、こちらだけでできること、相手の同意が要ること、今は触らないことに分かれていた。
しかも、それぞれについて誰かが調べ、誰かが書式を作り、誰かが相手へ話を持っていかなければならない。
カスパルが父上のそばで国の仕事を扱う人だということは前から知っていた。会議で報告をまとめ、財政や王領の話にも意見を出す。
でも今日初めて、その「まとめる」が少し具体的に見えた。
俺の案を褒めるでも、潰すでもない。どこまでなら動かせるかへ切り分け、父上が決められる大きさにしている。
「レオン」
考えている間に父上から呼ばれた。
「はい」
「お前の案のうち、王家の中で使える部分は使う」
胸の奥が少し熱くなった。
「本当に?」
「ああ」
父上はカスパルへ視線を戻した。
「共通項目の案を作らせろ。東部の管理下で先に揃える。西部側で同じ扱いができる場所も確認しろ。封印が保たれている荷について、どの確認を省けるかも出してくれ」
「承知しました」
「途中の相手には?」
「通行の多いところからだ。書式の見本を見せ、こちらが相手の確認を受け入れる条件も添える。最初から料金には触るな」
「検査の簡略化までに留めますか」
「まずはな。収入を減らす話を同時に持ち込めば、紙の話まで止まる」
「分かりました」
父上は机の報告書を指で叩いた。
「実際に何日減るかも見たい。どこで、何のために、どれだけ止まったかを揃えて出させろ」
「それも記録させます」
「遅れが減らなければ、紙を揃えただけで終わる」
「はい。門で待った時間、書類確認にかかった時間、荷を開けた場合の時間を分けて取らせます」
俺はカスパルを見た。
さっきまで4日遅れという1つの数字だったものが、また細かく分けられていく。どこが本当に詰まっているのか分からなければ、変えたところが効いたかも分からない。
前世なら当たり前に見た考え方なのに、紙と馬車と関所の話になった途端、俺は「共通にすれば早くなる」としか考えていなかった。
もっとも、最初から全部知っていた顔をする気もない。今気づいたなら、それでいい。
俺は思わず口を挟んだ。
「それなら、前と後で比べられますね」
「そうだ」
短い返事だったが、満足した。
全部ではない。
俺が最初に考えた通り、紙1枚で東から西まで素通りできるようになるわけでもない。途中の領主や都市がどう答えるかも分からない。
それでも、王家の中では変わる。
同じことを何度も書く回数が減る。封を見れば済む場所ができる。うまくいけば、止まる日数も減る。
俺の案が、本当に使われる。
それは普通に嬉しかった。
その一方で、途中の土地について考えると、やっぱり面倒だ。
検査には理由がある。通行料を取る側には権利がある。信用するなら条件が要る。こっちが受け入れてほしいなら、こっちも受け入れる必要がある。
理屈は分かる。
分かるけど、面倒なものは面倒だ。
「殿下、その紙を」
カスパルが手を出した。
「あ、はい」
いつの間にか、共通項目を書いた紙を俺が持ったままになっていた。
返そうとして、目に入った欄を見る。
荷主。行先。出発地。荷車の数。荷の区分。数量。最初の確認場所。確認した印。封印の有無。
「誰が運んでいるかも要りませんか。途中で人が代わったら?」
「必要でしょう。運ぶ者と、その変更が分かる欄を足します」
カスパルが2行書き足した。
「通行料を払ったことも入れるんですか」
「それは相手ごとに扱いが違います。最初から一緒にしないほうがよいでしょう」
「なるほど」
共通にできるものと、共通にしようとすると話が重くなるものがある。だから分ける。
分けると、今度は紙が増えそうだ。
「これ、増やしすぎると結局また面倒になりませんか」
「なります」
カスパルは即答した。
「ですから、担当には増やす理由も書かせます」
この人、多分こういう面倒と毎日戦っている。
「カスパル」
「はい、殿下」
「こういうの、いつもやってるんですか」
「こういうの、とは」
「みんなの話を分けて、今できることと、できないことにするの」
カスパルは少し考えてから父上を見た。
「陛下に決めていただける形にはします」
父上が鼻で息を吐いた。
「できないことまで私の前へ積まれると、日が暮れるからな」
「できることだけでも日が暮れます」
カスパルは真顔のまま答えた。
冗談なのかどうか、よく分からない。
ただ、机の端にはまだ紙の束が残っている。
本当に日が暮れそうではある。
カスパルは今の紙を脇へ置き、別の小さな紙へ担当へ回す内容を書き始めた。
「共通項目の原案。既存書式との差。封印確認で省略できる手続。西部側の適用可能箇所。外部へ提示する条件案」
父上が1つ付け足す。
「相手側の利を考えろ。こちらの荷が早くなるだけでは弱い」
「はい」
「向こうから来る荷にも同じ扱いをするなら、それは書ける」
「その形にします」
俺が言ったことは、ちゃんと残っている。
とはいえ俺としては、良い案なんだからもっと一気にやればいいのに、とも思う。
相手の権利も収入も分かる。交渉が要るのも分かる。
分かるけど、もっと早くまとまってくれ。
東から西まで行くだけで、何日も紙を見せて待つのはやっぱり馬鹿らしい。
カスパルは担当へ渡す紙をもう1度読み返した。さっきの項目に、遅延時間の記録まで加わっている。
父上はその紙を受け取って1度目を通し、1か所だけ指で示した。
「ここは、相手へ求める条件ではなく、こちらが受け入れる条件と並べろ」
「はい」
カスパルがすぐ書き直す。
父上はそれ以上細かく口を出さなかった。カスパルも、父上が決めた範囲を勝手に広げなかった。
2人の間では、誰がどこまで決めるのかも仕事の一部らしい。
カスパルが今の書類をまとめ、綴じ紐をかけた。
それで、この案件について3人で話すことはひとまず終わったらしい。
実際にはこれから担当の役人が書式を作り、今あるものを調べ、外へ持っていく条件を詰める。父上やカスパルのところへ、また戻ってくることもあるだろう。
扉の近くに控えていた者が、待っていた別の束を持ってくる。
カスパルは受け取ると、さっきまでの紙を机の端へ寄せた。
父上は水を少し飲んだ。
俺も杯へ手を伸ばす。
「次を」
父上が言った。
カスパルが新しい綴じ紐をほどいた。
俺は杯を置き、その紙へ目を向けた。




