ピッツバーグ、ペンスルヴェイニア…9
エルがラズベリー・キャンディやオレオやガミー・ベアを買ってコンヴィニエンス・ストアから出てくると、ビリーはガス・パンプの前に立ち、シェヴレイにガソリンを注ぎ込んでいるところだった。エルはゆっくりと近づき、ホースを挟んでビリーの向かいに立ち、ビリーの真似をするように、ディスプレイの二種類の数字が増えていくのをなんとなく眺めてみた。斜めに向かい合う二人の顔を、スクリーンの光が照らしていた。
しばらくして、ビリーがぼそぼそと呟くように言った。
「――ったな」
「?」
エルはアイスクリーム・サンドウィッチを齧りながら、え? という顔でビリーを見た。ビリーはエルを見ずに、静かな声でもう一度繰り返した。
「――悪かったな」
エルはビリーに顔を向け、口からアイスクリーム・サンドウィッチを離して、訊ねた。
「なにが?」
ビリーはエルの横顔が映るディスプレイを眺めながら、困ったように顔をしかめた。
「そりゃお前、あれだ、その――」
エルはビリーを見つめたまま、なにも言わずにビリーの言葉を待った。夜のガス・ステーションは静かで、蜂の羽音のような機械音と時おり通り過ぎる車の音の中に、ガソリンがタンクに注ぎ込まれていくごうごうとした音が鳴っていた。
ビリーはディスプレイから視線を下げ、後頭部を掻きながら、たどたどしく言葉を押し出した。
「あれだよ、お前を、待たせちまって、なんつうか、ほったらかしにしちまって――」
ビリーはエルを見た。
「――悪かった。不安、だったろ」
エルはビリーを見つめ続けていた。淡く澄んだ青い瞳だった。しばらく見つめ合ったあと、ビリーはエルから目をそらして、どこでもない宙を見つめた。キャノピーの白い照明が、二人の影をコンクリートに淡く散らしていた。
カチリと音を立てて、ディスペンサーのロックが外れた。ビリーはふうっと息を吹きながらノズルを外し、ガソリンの滴が切れるのを待ち、ガス・パンプにかちゃりとノズルを戻して、シェヴレイに向き直った。エルはビリーの邪魔にならないように少し下がり、ビリーの動きを眺め、ふっと息をつき、自然な声で言った。
「――いいよ。許すよ」
ビリーはガスキャップを閉める手を止めて、エルを見た。エルはアイスクリーム・サンドウィッチの残りを口に押し込み、ガス・パンプの方を向いて少しかがみ、スクリーンを興味深そうに覗き込んで指を差し、口の中のものを飲み込んでから、訊ねた。
「YESでいいの、これ?」
「ああ。押してくれ」
ビリーは穏やかな声で伝え、エルは口をすぼめながら、指先でそっとボタンに触れた。しばらくして、ういーんという音と共に、レシートが吐き出された。エルは、おお、出てきた、という顔をして少しのけぞってから、レシートをぴっと取り、考え深げな顔で数字を眺め、あっさりした声で言った。
「でも、もうしないでね」
エルはレシートをビリーに差し出し、もう一度ビリーを見つめた。ビリーはレシートを受け取りながら言った。
「ああ」
レシートをくしゃくしゃとポケットに押し込み、エルを見つめ返し、もう一言付け加えた。
「もうしねぇよ」
ガス・パンプからぴーという音が鳴り、『THANK YOU』の文字がスクリーンに映し出された。




