ピッツバーグ、ペンスルヴェイニア…10
人も車も空腹が満たされ、シェヴレイは下道を西へと走り始めた。助手席のエルはガミー・ベアを齧り、運転席のビリーはレイディオを点けた。適当にダイアルを回していると男性アナウンサーの声が流れてきて、三回表にジャスティン・トゥールとヘスス・アギラールのRBIでクリッパーズが先制し、そのまま三対〇でバッツを下した旨を、心から嬉しそうに語っていた。街灯の光が流れては過ぎ、タイヤは路面の凹凸を捉えて車体を僅かに揺らしていた。
やがて放送はトーク番組に変わり、しばらくしてエルが言った。
「音楽にして」
「おう」
ビリーは再びダイアルを回した。何度かのノイズのあとでチャネルが合い、いくらか内省的なインディー・ロックが流れてきた。控えめなリム・クリック、燻るピック弾きのベース、弦を撫でるようなアクースティック・ギター、澄んだセミ・ホロウ・ボディのメロディ、呟くようなヴォーカル、そんな音楽だ。やがてタムのロールがクレシェンドで大きくなっていき、ハイハットが開かれ、クラッシュと共にトレモロのエレクトリック・ギターが弾き下ろされ、音楽が車内に広がった。しばらく黙って曲を聴いていたエルが、ぽつりと言った。
「ザ・ワイルス」
「なんだ、そりゃ」
「バンド」
そりゃそうだろうな、という顔をしながらビリーは首を傾げ、首を戻し、訊ねた。
「なんでそんなバンド知ってんだ」
「教えない」
エルは窓の外を見ながら答え、それから少し顎を上げて顔を左に向け、見下ろすようにビリーを眺めながら、言った。
「ビリーには教えない」
ふざけるような言い方で、唇には微笑みが浮かんでいた。ビリーも片頬で微笑み、左手で顎鬚を擦りながら、深く柔らかな声で言った。
「そうかい」
そんなことをぽつりぽつりと話し、ガミー・ベアを齧りながら、二人は今度こそしっかりと『マスキンガム・リヴァー・Yブリッジ』を渡り、インターステイツに戻った。Y字のようなマルチウェイ・ブリッジが世界的に見ても決して多くはないことなど、今さらあなたに――その死後は遺体を焼却した上で遺灰を橋桁に塗り込める葬送を夢見てやまないあなたに――説明する必要はあるまい。二人は過たずに『マスキンガム・リヴァー・Yブリッジ』を渡った。その事実だけをお伝えする。
二人が向かい始めたコロンバスもまた川の街、すなわち愛すべき数々の橋梁を有する美しき都市であり、いまや疑いようもなく――少なくとも潜在的には、あるいは象徴的には――橋梁の愛好家となった二人ならば、一点の曇りなき模範的かつ狂熱的な橋梁の愛好家であるあなたと共に、その美を心ゆくまで堪能できるに違いあるまい。




