ピッツバーグ、ペンスルヴェイニア…7
ふたつの橋を渡り、ふたつの川を越え、タナルの黄色い照明をくぐり、ジャンクションを左にぐぐっと曲がって、ピッツバーグの街を背に、アパラチア山脈を遠く離れて、シェヴレイは南西へと向かった。運転席のビリーはステアリング・ウィールを操りながら、嬉しそうな顔をして話し続けていた。
「――で、お前が買ってくれた下着に履き替えたら、気分もスッキリして流れも変わってよ。そこからは勝つわ勝つわで、終わってみりゃあ二五〇〇ドルの勝ちよ。これだけ勝ったのはクソ久し振りだぜ、チクショウ」
対照的に、助手席のエルは浮かない顔をして黙り続けていた。アームレストに肘を置き、拳に顎を載せ、表情を動かさず、ウインドウの外の暮れゆく景色を眺め続けていた。ビリーはエルを見ずに言った。
「ま、これでしばらくはカネの心配もせずに、お前との『旅』も楽しめるってわけだ。次はどこに行く?」
「さあ」
気のないエルの返事に、おう? となりながら、ビリーは続けた。
「しかしまぁ、アレだな、お前は、お前は――」
なにか気の利いたことを言おうと思って、ビリーはにこにこしながら言葉を探した。
「ラッキー、ラック、幸運の――そう、『幸運のお守り(グッド・ラック・チャーム)』みてぇなヤツなのかもしれねぇな、お前は。いんだろ? なんかカエルみてぇなの。見たことあんだよ、そういうの。金ぴかのヤツな。わかるか? お前はそういう、カエルみてぇなヤツなんじゃねぇのか」
エルが少し眉をひそめるのがウインドウに映ったが、ビリーは気づかず、しみじみと呟いた。
「お前といたらツキが回ってくるかもしれねぇ」
しばらく走って、ビリーはようやくエルの様子がおかしいことに気がついた。
「どうした。腹でも痛ぇのか」
「別に」エルは短く返した。
「うんこがしてぇなら――」
「したくない」
怒気を含む鋭い返事だった。ビリーは少し面食らったようだが、明るい声に戻して続けた。
「そうかい。だが、それにしても――お、そろそろ街があるんじゃねえのか。降りてなんか美味ぇもん喰おうぜ。したけりゃうんこもできるしよ。なんか喰いてぇもん――」
「ない」
棘のある重ね方にむっときて、ビリーはいくらか不機嫌そうに言った。
「まぁ、なきゃねぇで、アレだけどよ」
それから少し悲しそうに目を伏せ、口を尖らせながらぼそぼそと呟いた。
「――そりゃ、おめぇにとっちゃ、二五〇〇ドルなんて、チンケなはした金なんだろうけどよ。俺にとっちゃ――」
「そんなことないわ。一ドルは一ドル。大事なお金よ」
エルは冷静に言った。ビリーは息を吸い、怒鳴るように言い始めた。
「じゃあ、だが、どうしたってんだおめぇ。せっかく俺が、いい気分でいるってのによ。あんまりわけがわかんねぇ態度を取りやがると――」
「――忘れていたんでしょ。あたしのこと」
エルはぽつりと、それでも厳しく、ビリーの言葉を遮った。ビリーは意表を突かれたように目を泳がせ、それから慌ただしく言い返した。
「そういうわけじゃねぇよ。そういうわけじゃねぇさ。わかんだろ? だいたい、おめぇ――そういう言い方はねぇだろ?」
エルはビリーに聴こえるように大きくため息をつき、窓の外に向かって低い声で言った。
「どうだろ」




