ピッツバーグ、ペンスルヴェイニア…6
うきうきしながら換金を終え、ビリーがカシーノを出たときには、太陽は充分に傾いていた。午後八時二十三分の日没まで残り一時間、そんなところだろう。ああ、そうだ、アイツを迎えに行かねぇとな、そんなことを思いながらビリーは車に乗り込み、窓を開け、いい気分でアクセラレイターを踏み込んだ。昼の暑さは和らぎ、涼やかな夕の風が吹き始めていた。
カーネギー・サイエンス・センターの前にエルの姿はなく、ハインズ・フィールドをぐるっと回ってもそれらしき少女は見当たらず、どこに行きやがったんだアイツは、と思いながら適当な駐車場に車を駐めて、首を伸ばしてきょろきょろとしながら、辺りを探した。
桟橋に停泊する船舶を横目に、擦れる木々の葉と流れる水のざわめきを鼓膜に感じながら、川沿いの遊歩道を歩いてカシーノの方に戻っていくと、やがてサマードレスをまとった少女のぽつんとしたシルエットが、セピア色の逆光の中に見えてきた。少女は川に向かい、影を長く伸ばし、レイリングに腰をもたせ、少し俯き、唇を尖らせ、手をうしろに組んで、スカートの裾を微かに揺らしながら、所在なく脚をぷらぷらとさせていた。
近づいてきた人の気配に気がついて、エルは脚を止め、顔を半分だけビリーに向けた。笑顔はなく、疲れた表情で、睨むような眼差しにいくらかの行き場のない哀しみが含まれていたが、ビリーは気づかず、明るく声をかけた。
「なんだお前、こんなところにいたのか。カーネギーにいりゃよかったのによ」
「とっくに終わっちゃったよ」
エルはビリーから顔を背け、唇を尖らせ、硬い声で言った。閉館時間は五時だった。
「ああ、そういうもんか? まぁいいだろ。とりあえずなんか喰おうぜ。ぶっ通しでやってたからよ、腹が減って仕方がねぇのさ。お前も腹減ったろ?」
エルはなにも答えず、顔を上げて川の向こうを睨んだ。対岸には夕の灯が点り始め、水面に反射する逆光が、きつく結んだ少女の唇を照らしていた。




