4/10
ピッツバーグ、ペンスルヴェイニア…4
シートベルトを外し、ぴょこんと車の外に降りたエルが、運転席から動こうとしないビリーに気づき、あれ、となって車内を覗き込み、訊ねた。
「どうしたの?」
「俺はちょっと、他に行くところができてな。まぁ、すぐ近くなんだがよ」
「?」
どういうことだろう、とエルはビリーの視線を追い、その先の建物に気がついた。
「まぁ、お前ひとりで行ってこいよ。なんてったってカーネギーだからな。面白ぇぞ、きっと」
ふむ、という顔でエルは頷き、いくらか不満そうに言った。
「なるほど、カーネギーね」
「ああ、カーネギーだ。それじゃ、あとでまた迎えに来るからよ。お前はたっぷり楽しんでくりゃいいさ」
「うん…どこで待っていればいい?」
「そこらへんでうろうろしてりゃわかるだろ」
エルは少し不安そうな顔をしたが、ビリーはやけにそわそわいそいそとしており、それ以上問うてもマトモな返事は返ってこなそうに思えたので、黙ったままでいた。ビリーは嬉しそうに言った。
「きっと楽しいぜ。なんてったってカーネギーだからな」
「カーネギーね」半ば呆れたように、エルは言った。
「ああ、カーネギーだ」
エルはもう一度、向こうの建物を眺めた。そこには、ビリーの頭と心の中を占めているであろう、『CASINO』の六文字が輝いていた。




