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ピッツバーグ、ペンスルヴェイニア…2

 デュケイン・インクラインを降りた二人は、フォート・ピット・ブリッジを渡り、川沿いのパブリック・パーキングに車を駐めた。シートベルトを外しながら、思い出したようにエルは言った。

「そうだ、衣類を買っておいたから、あとで着替えてね」

「どこだ」

「うしろ」

「どれだ」

「袋。ウォルマート」

「あれか」

「そう。ちゃんと着替えてね。男の人のを買うの、ちょっと恥ずかしかったんだから」

「だからお前さっき、ウォルマートに寄りたがったのか、なんだ、あそこでよ」

「ブリーズウッド」

 そんなことを話しながら二人はシェヴレイを降り、『世界の果ての』ポイント・ステイト・パークを歩いた。


 なんか小屋(ハット)みたいなのが浮いてるね、なんだろう、乗れるのかな、バイクをこぐのも気持ちよさそうだね、レンタルはあるのかな、あ、さっき乗ってたフュニキュラーが見えるね、こうやって見るとやっぱり高いね、さっきまであそこにいたんだね、なんだか不思議だね、あっちに見えるのはなにかな、観客席かな、なんのステイディアムだろう、鳥の羽根みたいに広がっているね、あとでミュージアムに寄ってもいい? ここには昔、要塞があったんだって。

 エルはあれこれと指を差し、あれこれと話していたが、ビリーはほとんどなにも見ておらず聞いておらず、暑ぃな、蝉がうるせぇな、ガキも犬コロもうるせぇな、隣のコイツもうるせぇな、暑ぃしダリぃな、ダリぃし暑ぃな、腹減ったし眠ぃな、とりあえず眠ぃな、蝉がうるせぇな、と思いながら、なんだろうな、わかんねぇな、かもな、さぁな、そうだな、スティーラーズだろ、なんでもいいんじゃねぇのか、そりゃすげぇな、大したもんだな、まったく驚きだぜ、そんなことを答え、ほどなくして二人は『世界の果ての』噴水――直径二〇〇フィート近くはある円形の噴水だ――に着き、噴き上がっては落ちる水の音を背に、Y字の▽の頂点に向かって、灼けた石造りのエッジに腰を下ろした。


 合流していく川を眺めながら、エルは引き続きあれこれと楽しそうに話していたが、ビリーはまったく別のことを考え始めていた。


 ――ビアが飲みてぇ。


 夏の陽射しと噴水の音の中で芽生えたその欲求は次第に具体性を増し、気がつけばビアのことしか考えられなくなっていた。水滴のついた十二オンセスの缶の重み、熱い掌に滲み込んでいく快い冷え、プルタブを開ける指先の抵抗、ぷしゅー、と炭酸ガスが抜けて、ぱかっ、と口が開くときの小気味のよい音と手応え、開け口から漂い出る白い冷気、下唇に触れるアルミニウムの硬さと冷たさ、上唇から舌先、舌の底から奥へと移っていく微炭酸のひりひりした刺激と苦みと辛み、喉を通って胃に落ちていく黄金色の滑らかな液体、口内と鼻腔に抜けて広がる豊かな香り、しばらくして訪れる、ぼんやりとしたほのかな酔い、遠く懐かしく、平和な世界――だらだら飲んで、だらだら眠りてえ。

 しかし、隣を眺めれば黄金色の液体の代わりに金色の髪の少女がいて、ビリーにとってはどうでもいいことを、あれこれと喋り続けていた。どうして俺はこんなところにいて、こんなクソ(あち)ぃ中で、こんなガキと過ごしているんだろうな。いったいどこでなにがどう間違っちまったんだろうか。


 そんなことをぼんやりと思いながら、どこを見るでもなく川の向こうに視線を移したビリーは、しばらくして、おや、と思った。視界の中のひとつの要素が、ビリーの心を捉えていた。ビリーはエルの話を遮って、言った。

「おい」

「なに?」

「ちょっと地図をよこせ」

「うん。いいよ」

 ビリーがどこかに行くつもりになったと思ったのか、エルはいくらか嬉しそうに、いくらか急いでバッグからごそごそと地図を取り出し、ビリーに渡した。ビリーはざっと地図を眺め、川向こうの建物と見比べ、なにが自分の心を捉えたのかを悟った。少し考え、地図をエルに返しながら、ビリーは訊ねた。

「お前さ、ミュージアムみたいなもんが好きなんだよな」

「うん」

「カーネギー・サイエンス・センターって、行ってみたくないか」

 エルは少し首を傾げながら答えた。

「そうだね、気になるといえば、気になるかも。サイエンスはあんまり詳しくないけど」

「詳しくねぇもんほど、行ってみたら勉強になるんじゃねぇか」

 相変わらず少し不思議そうな顔をしながら、それはそうかもしれない、という風にエルは何度か軽く頷き、それから目をぐるっと回してなにかを考えた。ビリーはサイエンスとかの方が好きなのかな、もしかしたらそんなことを思ったのかもしれない。

「そうだね。それじゃこのあとはそうしよっか」

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