表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の精霊使いマフユ  作者: ミチバケ
異形事件黒幕編
96/133

第96話:VS竜骨鬼③

「ハッハァッ、そぉイ!」


 続け様、竜骨鬼(りゅうこつき)の野太い左脚が地を離れ、勢い良くマフユの腹部を蹴り上げる。

 骨格の下に犇く筋肉が膨張を遂げ、攻める為に凶暴化を果たした結果、先の尾撃以上の破壊力を獲得していた。この蹴撃が正確に白衣(しらぎぬ)の中心を捉え、圧倒的な力と底無しの悪意、おぞましい殺意と融け合い打ち据える。

 想像を絶する重圧と脚力が装束を凹ませ、内側に収められた人体さえも手酷い衝撃で侵す。蹴り込まれた少女は脚動に逆らうことが出来ず浮き上がり、地と足とが距離を取った。

 人一人分の重量を無視し、霧中へ白と緋色を舞わせる。


「げほッ――」

「まさか、これで終わりだなどと言ってくれるなよ!」


 激号の一喝が迸り、強風が霧を縦に裂く。大鉈を握った怪物の腕だ。

 マフユを蹴り飛ばしながら、その傍らで最大の高みまで振り上げられた腕が、鈍く光る刃を一直線に叩き落す。その軌道上に存在するのは、巫女装束の少女。

 尋常ならざる脚力によって空中に投げ出されたマフユを、必殺の呼気と共に怒涛の打ち下ろしが襲う。

 蹴撃のダメージが多分に残る彼女は、自身へ迫る凶刃を察しても回避行動には移れない。出来た事といえば、精々が身を捩る程度だ。


「抗え抗え、命を絞って足掻いてみせろォ! ゲハハハハハ」


 マフユのささやかな抵抗を嘲笑うように竜骨鬼(りゅうこつき)の顎が開かれ、黒々とした深奥からけたたましい叫声が解き放たれる。

 大気を盛大に揺さぶる豪笑へ、硬質な物体同士の激突音が重なった。

 全速を以って繰り出された分厚い大鉈が、マフユの左肩へ命中する。編み込まれた霊子力が結びついて衣の断裂を防ぎ、人体への直接的な裂傷は阻んだ。しかしなめた鉈がそのまま下部防域を重々しく叩いて、打ち据えた後に走り抜ける。

 半端ではありえない斬撃を受け、マフユの体は再び大地へと引き落とされた。背面から草原へと叩き付けられ、大きく一度だけバウンドする。そして重低音を伴い仰向けに倒れ伏した。

 竜骨鬼(りゅうこつき)の斬撃を浴びせ掛けられて尚、巫女装束は原型を保っている。並々ならぬ防御力で着用者を護り、その役割を果たしてみせたが、圧し掛かる衝撃の全てを絶えさせることはできなかった。超過分の威力は少女へと達してしまう。


「あちこちで異形を屠ってきた猛者ならば、もう少し愉しませてくれると思ったがなぁ。ちと期待しすぎたか」


 伏して動かないマフユを見下ろし、竜骨鬼(りゅうこつき)は牙を磨り合わせる。

 暗色の眼窩を静止する少女へ定め、嘆かわしげに吐き捨てた。口腔から漏れ出る嘆息の中には、相対者へ対する落胆の色が強く浮かぶ。

 そんな怪物は、今も剛剣を握ったまま放さないでいるマフユの左手、固く閉ざされた細指を見て一転。愉快げに口の端を吊り上げた。


「ゲハハハハ、これだけされて得物を手放さんとは! その闘志、戦意は見事見事。前言は一部撤回するとしよう」


 武骨不作法な笑い声を吐き連ねつつ、竜骨鬼(りゅうこつき)の右腕が伸ばされる。

 怪物は大鉈を握ってまだ余裕のある手を繰って、倒れたマフユの頭を掴んだ。そのまま簡単に腕を持ち上げ、少女の身を引き摺り立たす。

 異形の手によって強引に引き起こされても、マフユは何の反応も見せなかった。左手は固まったように剛剣を握っていたが、左右共にだらしなく垂らされている。連続した猛撃に晒され意識を失っているのか、微かにさえ動かない。その姿は生気のない人形のよう。


「昏倒しても体は戦いを諦めんか、その意気やよし。惜しむらくは俺様が強過ぎ、オマエが今一歩及ばなかったことよ」


 物足りなさげにマフユの全身へ視線を這わせた後、竜骨鬼(りゅうこつき)が左腕を引く。

 左の大鉈を水平に構え、薄汚れた切っ先を顔の正面へ向けた。

 突きを繰り出す姿勢で左腕を止めると、つまらさそうに溜息を吐く。もっとも、その吐息には熱狂的な興奮の残滓が、淡く含まれていたが。


「今夜一晩限りの命なのでな、再戦を期待してオマエを逃がすという選択肢もない。これで終わりだ」


 尚も無反応な敵者へ鼻白みつつ、怪物はいよいよ左腕を押し出した。

 骨指に握られた大鉈が真っ直ぐに標的へ走り、最後の一撃を加える。

 その瞬前、一陣の突風が吹いた。意図された局所の風は猛烈な勢いで荒れ、これと同時にマフユの影から10本の触手が生え出す。

 触手群はうねくりながら竜骨鬼(りゅうこつき)の左腕に巻き付いて、それ以上の腕動を押し止めた。

 真空の牙と思える程に鋭く雄々しく、それでいて流麗な舞い風。不可視の風刃が竜骨鬼(りゅうこつき)の全身をさいなみ、たちどころに複数の裂傷を刻ませていく。

 更に風が火の粉を運び、生まれた炎が燃える螺旋となって怪物を取り囲んだ。紅蓮の大火が風に巻かれて激しく噴き立ち、人外の魔を包んで焼く。容赦のない熱量に炙られ、たまらず怪物の首が振られた。


「うおおお、精霊どもの邪魔だてか!」


 触手に攻め手を阻まれ、風と炎の乱撃が繰り返される中、新たな衝撃が竜骨鬼(りゅうこつき)とマフユの合間を走り抜けた。

 すると少女の体が自重に引かれて落ち、ブーツの足裏が大地を踏んで、自らの脚で支え立つ。そのまま白の(たもと)を振って右手が動き、顔に掴まる赤茶けた手首を払い落とした。

 鉈を握った怪物の手が、得物の重量に従って青草の上へと落下する。手首より先は竜骨鬼(りゅうこつき)の腕へ繋がっていない。恐ろしく綺麗な断面から、黒い体液が滲み出るばかり。


「むおッ!? 俺様の右手が」


 触手と炎風を振りほどきながら、異形の巨体は一歩後退る。竜骨鬼(りゅうこつき)が自身に起きた異変へ気付いた時、既に右腕は先端を失っていた。

 骨の内で張り詰めた筋肉が震え、切断箇所から流液がしとどに零れ落ちる。

 握ったままついぞ放さなかったマフユの剛剣が、精霊の助力で生まれた間隙を衝いてはしった結果だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ