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復讐の精霊使いマフユ  作者: ミチバケ
異形事件黒幕編
95/133

第95話:VS竜骨鬼②

「ここ!」


 頭上を走り去る鉈の軌道へ応じ、マフユは剛剣を真正面へと突き出す。

 腕を払う事で生まれた敵の隙に乗じ、がら空きになった右側方部を狙い撃つ。

 したたかに地面を踏み締め、自重を支えながら、両腕は一気に押し出された。十指に握られた柄が勢い良く飛び、長く連なる剣身は怪物の身を串刺すべく駆ける。


「ゲハハハハ、ぬるいぬるい」


 だが接敵の直前、体前へ回された竜骨鬼(りゅうこつき)の左腕が、霊刃の進撃を阻んだ。

 太く強練な腕が握り込む鉈を以って、一閃の攻勢を防ぎ逸らす。

 切っ先を下方へ向け、縦状に構えられた鉈が、剣身中間部の腹体に叩き付け。そのまま剛剣を腕力にて横方へ追い遣りつつ、狙われた軌道を外側へ脱させた。

 鉈の腹を擦り行く刃は、硬材の接触点から猛烈な火花を散らして走り続ける。


「小手先の攻撃が、俺様に通用するかよォ!」


 耳をつんざく轟咆が上がり、マフユの剛剣はぶつかる鉈の刀身部までがくを進めた。

 寸断用途の片刃へ、四対の爪状に展開された意匠が激突し、ようやく進行を止める。

 剣を握ったままマフユが肉迫すると、竜骨鬼(りゅうこつき)の眼窩が間近から藍色の瞳を覗き込んだ。

 かと思えば、怪物の左腕が振り払われ、剛剣を外方へと押し流す。


「くッ」


 敵に主導権を握られた強制的な剣動は、マフユの手を引いて前のめりに体勢を崩させた。

 踏ん張りの利かなくなった足元が、本人の意思とは無関係に揺らいでしまった時。竜骨鬼(りゅうこつき)の巨大な尾骨が地面すれすれをはしり、死角から少女へ襲い掛かる。

 空気の揺れと風を切る鋭い異音にマフユが気付き、桃髪を振り乱しながら頭部が攻手へと傾く。だが一拍早く、赤茶けた尾撃が白衣(しらぎぬ)を叩き打った。

 進行速度に応じた猛烈な破壊力を得て、腹帯をしたたかに襲撃する頑健な尾骨。単純故に強力な殴打は巫女装束を軋ませ、マフユの身を“く”の字に折って吹き飛ばす。

 事前に体勢を乱された事も起因して、満足な防御行動の取れなかった勇者は、痛烈な直撃、その威力を逃がすこと叶わず、平原を転がっていく。

 生え満ちる青草を千切り、土を掘っては放り、自意識とは無関係に地面を回転しながら進まされた。

 10m余を不本意に転がり行く途上、少女は右腕を縦に振り動かす。

 握ったまま手放していない剛剣がこれによって大地へと突き立ち、留め具となって彼女の移動を中断させる。


「ぐっ……この程度で」


 横転を停めたマフユが、剣を支えにして片膝を上げる。その時、鳩尾みぞおち付近に痛みと痺れが走った。

 対魔性に優れる堅牢な霊衣れいいを着込んでいて尚、人体にダメージを与える一撃。敵が持つ規格外の攻撃力を我が身で知り、少女の双眸が熱を帯びる。

 瞳からは戦意が消えない。諦めも浮かんでいない。依然として勝利を求めて業火に比する熱を燃やし続けた。


「どうした精霊使い! お楽しみはこれからだぞォ!」


 激しい愉悦に猛る旺然とした巨声を響かせながら、竜骨鬼(りゅうこつき)が駆けて来る。

 しかと大地を踏み叩き、並々ならぬ震動を生み出して、敵対者へ休む間さえ与えない追撃を敢行。人間以上の歩幅で簡単に距離を詰めると、振り上げた左腕を鉈ごと叩き下ろす。

 瞬く間に眼前へ迫り来た怪物を前、マフユは剛剣を地面から抜き取ると、素早く右方へ身を投げた。今度は自らの意思で体を回し、横跳びに斬撃の軌道より逃れる。

 目標が逸早く回避を遂げた為に、怪物の必太刀は空振りのまま垂直進し続けた。今まで少女の立っていた位置を真上から裂き、地表へ到達。乗った勢いは緩まず、激突面を叩き割る。大鉈が地面を砕き、刃を深々と沈ませて、地盤を隆起さす。


「私は、負けない」


 これを横目にマフユは体勢を立て直し、立ち上がり様、剛剣を両腕で大振りに薙いだ。

 竜骨鬼(りゅうこつき)の側方に位置取って繰り出された大撃は、鮮烈な剣風を伴って猛進する。宙を強速で走り、脇側より迫り来る大刃。そこに宿る力は、今までの借りを返すに充分な威力を持つ。

 しかし怪物が右手にする大鉈を打ち下ろす事で、分厚い剣身は押さえ込まれた。マフユの狙いを事前に読んでいたのか、正確な防衛行動が剛剣を叩き、それ以上の進行は許さない。

 何度目かになる両刃の激突が火花を生み、竜骨の頭部と睨む少女の顔を揃って照らす。


「ゲハハハハ、もっと速く動かない限り、俺様には届かんぞ」


 前に長い口腔が開き、牙の並ぶ奥部から嘲弄の笑いが起こる。

 マフユの反応を揶揄する陰湿な豪声に応じ、竜骨鬼(りゅうこつき)の右腕は骨格下で筋肉を盛り上げた。更なる力が湧き巡り、鉈へ伝って昂ぶり躍る。

 突然の増力は精霊剣を徐々に押し、少女の身を着実に退がらせていく。


「ぐ、くっ……このッ」

「シャァァァッ!」


 獰猛な咆哮が大気を満たしたのは、その直後だ。

 未だ剣に全精力を注ぎ対抗しているマフユの顔面目掛け、竜骨鬼(りゅうこつき)の拳が飛んで来る。

 地表から抜き放たれた鉈を掴んだまま、握り固められた赤茶の鉄拳。怪物の左腕が目にも止まらぬ迅速さで宙を突き、少女の頭部を力任せに殴り付けた。

 その刹那に反射で首ごと上体を捻り、マフユは拳の軌道から外れる。頬を掠めて殴撃が走り抜けることで致命打は回避するが、突発の動きは力のバランスを乱し、足回りの踏ん張りを削いだ。

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