表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の精霊使いマフユ  作者: ミチバケ
異形事件黒幕編
94/133

第94話:VS竜骨鬼①

「オオオオオォォォッ!」


 腹に響く壮絶な咆声を轟かせ、醜悪な怪物が駆ける。

 大木のように太い脚は土を割って泥を蹴り、草地に深い足跡を残した。一歩一歩が地鳴りを生み、世界の全てを揺らすが如くに躍り跳ねさす。

 骨格の剥き出る巨体は瞬く間に押し迫り、構えを作るマフユへ詰め寄ってくる。

 得物が及ぶ間合いへの最後の一歩が踏まれた時、赤茶の双腕は天を仰いで振りかざされた。

 左右に握られる大鉈が霧を裂き、幾多の水滴を帯びるや。竜骨鬼(りゅうこつき)の怪腕が恐るべき速度で振り下ろされる。


「ハァッ!」


 臆さずに敵者の動きを捉えていたマフユは、これに合わせて両腕を右方へと薙ぎ払った。

 十指に掴まれた複合精霊の剛剣が、腕運の軌道をそのままなぞる。

 風を断つ分厚い閃光は、必殺の意志と共に降り注ぐ兇刃へ挑みかかり、両勢の中間距離で激突の時を迎えた。

 無骨ながら勇壮な強刃と荒ぶる双鉈が、一切引かずに衝突を見せる。垂直に落ちる鉈へ、横合いから飛び込んだ剛剣。互いの持ち主が全力を込める重撃に、交打の瞬間、鮮やかな火花と烈波が生まれる。

 衝撃で霧が吹き散らされ、草地が月光の下へ姿を晒した。同時に、マフユと竜骨鬼(りゅうこつき)の軸脚真下へひびが入る。

 次いで大地が砕け、割れた地盤が迫り上がり、両者の足が幾らか地中へ沈み込んだ。


「フンッ!」


 接触の間は単瞬。強大な烈波を発生させた剣合の後、精霊剛剣は本来の軌道を走って振り抜かれる。

 対する大鉈二刃はマフユの攻勢力に押し負け、上方へと弾き返されていた。

 その一撃で竜骨鬼(りゅうこつき)は一歩後退る。


「ゲハハハハハ、ナリは小娘だが噂の精霊使い、想像以上にやりやがるなァ!」


 感嘆と愉悦が綯い交ぜになった激号の果て、竜骨鬼(りゅうこつき)の眼窩で赤熱する輝きが爆ぜた。

 会心の一声が大気を震わせる折、素早く動いた巨腕が袈裟懸けに太刀を振り下ろす。勢いと進路を合わせた二刀が猛速で駆け、容赦なくマフユを襲う。

 白と緋の巫女装束に身を包む少女は、怪物の正面に立ったまま回避行動を取らない。

 袖の下で腕に、袴の下では脚に力を込め、タクティカルブーツで地を踏み締める。

 血流に乗って注がれる力が筋肉を引き絞り、神経伝達が義手を軋ませ、振り抜いた剛剣に急制動を掛けた。霧を掃いながら走っていた剣は、マフユの体横で停止する。

 半瞬後、今度は来た道を逆走し始める厚刃。長い(たもと)ひるがえしつ再び横薙ぎに走り、握る剛剣を大振りに動かす。巨大さに反して翔ぶような速度で渡る剣が、マフユの正面を越えて真横へ流れていく。


「何度でも、打ち破る」


 次に起こったのは二度目の激突。異なる色の刃同士がぶつかり、どちらも押し切ろうと吶喊とっかん力を削り合う。

 硬質な物体が擦れる高音を響かせて、舞い飛ぶ火花が赤華を散らす。霧が掻き晴れた其処では、剛剣と双鉈が一進一退の攻防を繰り広げていた。

 だがそれとて続いたのは一秒弱。両者が備える威力の大きさ故に、並々ならぬ反発力が得物同士を弾き飛ばす。

 衝突点で風が逆巻き、分厚い剣刃と灰暗の鉈刃が進行路へ押し戻された。力と技量が互角である証か、一方の我は通されない。

 マフユの腕が胸前をぎり、両足は大地表層を抉りながらじりじりと退がる。

 対して竜骨鬼(りゅうこつき)も反動に腕を流され、立ち位置を若干後方へ移した。

 しかしそこまで。少女も怪物も反衝を即座に殺し、それ以上の後退、姿勢の乱れを許さなかった。


「その細腕と痩身そうしんで俺様と互角の力とはな! 面白いぞ、精霊使い!」


 歓喜を含んだ咆哮が霧を揺する。

 二本脚で地を踏み締め、堂々とした有り様で屹立する竜骨鬼(りゅうこつき)の巨躯。

 その体は赤茶けた骨格ででき、骨の内側から筋肉が張り出していた。内肉の中に骨格のある人間とは真逆の構成だ。

 眼窩は巨大に膨れ、鼻頭が前方に長く突出する。口腔は両端に大きく裂け、人間の倍は広い。唇はなく、ナイフのように鋭利な牙が隙間なく並んでいた。

 顔全体も骨格が剥き出しの状態で、生物と呼ぶにも抵抗がある。臀部から生えた太い尾骨も加えると、その姿は直立した竜のようだった。

 マフユと比べて二倍ほども上背のある異形は、頑健な骨格と張り詰めた筋肉からなる両腕に、殺意の凝結にも等しい鉈型の刃物を握る。

 それ以外に着衣や武装の類はない。ただ全身から放たれる猛烈な瘴気が、怪物のおぞましさを禍々しく引き立てていた。


 月下の大地を霞ませる夜霧が震え、再行動へ転じた竜骨鬼(りゅうこつき)の右腕が唸る。

 大きく薙ぎ払われた骨肉の異腕は、握り込む大鉈を水平に走らせた。目標は対面に在るマフユの首だ。桃色の髪と藍瞳を持つ頭部に襲い、根元から斬り飛ばすべく打ち放たれた一撃。

 これを見る少女は瞬時に右膝を折って、速やかに全身を沈み落す。低められた体は敵勢の襲撃路より逃れ、紙一重の差で大鉈が頭上を抜けた。

 正確に首を狙っていた鉈は、標的の的確な反射・回避運動によりかわされてしまう。寸での所で目標のやや上方を抜け、目的を遂げられぬまま空を滑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ