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復讐の精霊使いマフユ  作者: ミチバケ
異形事件黒幕編
92/133

第92話:感謝を

「マフユちゃん、こんな所にいたんだ?」


 セイギとケガン市長の意外な因縁を丁度聞き終えた時、マフユを呼ぶ声が飛んできた。

 少女と精霊達が顔を向ければ、角を曲がったサユキが一同の方へ歩いてきている。


「なかなか戻ってこないから、何処に行ったのかと思ったよ」

「もう話は終わったの?」

「えへへ、うん、そこそこ。でも健診の時間になったから病室を出てきたんだ」


 見ればサユキの目元は赤く、結局大泣きしただろうことが窺えた。

 敬愛するフオウの前で醜態を晒した影響だろう、今も気恥ずかしそうにしている。


「僕達が話せるように、席を外してくれたんでしょ。なんだか、ごめんね」

「別に。私はもう十分話したから。考え事もしたかったし」


 なにはともあれという様子で安堵を含み、サユキはにこやかな笑みを浮かべた。

 対するマフユは素っ気なく、淡々と事実のみを告げる。

 黒幕との戦いでフオウが重体となり病院へ担ぎ込まれた旨を、マフユに伝えてきたのは他ならぬサユキだった。その時の憔悴と狼狽ぶりは凄まじく、少年の中で神父がどれだけ大きな存在だったかを、人心の理解に疎いマフユですら想像できたほどだ。

 彼女も衝撃を受けたし、弾性を欠いた内面にも波立ものはある。それでもサユキほどに取り乱すことはなかった。

 最愛の母に次ぐ肉親の喪失、その危機を前に寧ろ感情は麻痺していたと言うほうが正しい。精神的な自己防衛の一環として、予見される脅威に施した事前対策。先んじて感情一切をシャットダウンさせ、最悪の想定をやり過ごすという、ある種の処世術である。かつての経験から肉体と精神が学び、マフユの意思とは乖離したところで無意識的に働く機能だ。

 これは揺るぐことのない強靭な意思力を少女に与えたが、一方で人間的な情動を殺してもいる。サユキとの反応に於ける差異は、こうした面に根差していた。


「フオウが生きて戻ったお陰で、黒幕の貴重な情報が手に入った」

「事件解決がきっと進むね」

「知らないまま戦っていたら、きっと誰も勝てなかった」

「スメラギ神父が実体験として探ってくれた甲斐があるよ」

「ええ」


 二人が言葉を交わしていると、チアキがマフユの耳元へ口を寄せてくる。

 そのまま彼女にだけ聞こえる声で、そっと囁いた。


「もっと他に言わなきゃいけないことがあるんじゃないかしら」


 与えられた一言に、マフユはジロリと睨み返した。

 これへチアキはウィンクを飛ばす。

 なにも堪えるところのないイイ笑顔に、少女は小さく息を吐いた。


「それと、フオウを助けてくれて、ありがと」


 風の精霊に促さたマフユは、軽く握った左手の甲を、サユキの胸へ柔らかく当てる。

 視線を落として送った、呟きのような感謝。

 受けた少年は二回ほど目を瞬かせた後、嬉しそうなはにかみを見せた。


「僕にとっても、マフユちゃんにとっても、大切な人だものね。無事とはいかなかったけど、それでも助けられて良かった」

「まぁ、確かに」

「スメラギ神父の分も、頑張らなくちゃだ」

「言っておくけど、サユキくんは余計なことしなくていいから。霊子力だけくれてれば」

「あ、ああ、そうだよね。うん。勢い込んでも僕じゃ何も出来ないままやられちゃうか」

「そういうこと」


 短く言って話を切り、マフユは振り返る。

 するとチアキがバシバシと、ウィンクの乱打を飛ばしてきていた。

 そんな味気ない台詞より、もっと可愛らしいことを言いなさい。そう訴える言外の誘導圧が、執拗に少女へ降りかかる。

 ここ最近のチアキは、こうした妙なお節介を繰り返す傾向にあった。とかくサユキと居るときに顕著だ。

 精霊の意図するところは判然としないが、無視していると折につけチクチクネチネチ小言が続く。『あんなのヒドイわ~』だの『もっと考えてあげた方がいいんじゃないかしら~』だのと言い連ね、暗にサユキという霊子力供給源の逃亡危惧を仄めかしてくる。

 毎度毎度ブツブツ続けられるのも面倒なので、多少は意を汲むようになってきた。

 ということで、マフユはささやかな溜息を吐き、もう一度サユキに向き直る。


「あと、恋人なんでしょ。だから」


 上目遣いでもなく、照れているでもなく、素の無表情でそれだけ伝えた。

 聞いたサユキは一瞬キョトンとして、頬を染めながら頷いてくる。

 マフユらしくない発言に言わされている感は透けているが、それはそれとして嬉しくなってしまうのが少年の単純なところ。

 思わずマフユの両手を握り、キラキラと喜びに瞳を輝かせてしまう。

 マフユの方は素知らぬ風で、傍目にも感情の温度差は明らかなほど。

 そんな二人の様子を眺めつつ、チアキは小さな拍手を送り満足気だ。




「ありゃいったい何やってんだ?」

「『マフユちゃんの情緒を育みたい大作戦』だそうです。強引にでも若い男女の仲を取り持って、心に栄養を与え、将来の活力を芽吹かせるとかなんとか」

「ぽめぽめぽーめ」

「近頃ヤマトネのヤローが妙にマフユにベタベタすると思ったら、アイツの入れ知恵かよ」

「そのようです。ま、少年のみが一方的に熱を上げている実情。我が主君(マイ・ロード)は相変わらずなので、成果のほどは期待できそうにありませんが」

「ぽめ~」

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