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復讐の精霊使いマフユ  作者: ミチバケ
異形事件黒幕編
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第87話:宵闇の襲撃者⑤

「概念存在……『終わり』という概念が、貴様だというのか」


 何かが『終わる』という事象・結果の概念が、この次元領域に固着化し実体を形成している存在。それが漆黒の外套を着込むモノ。

 攻撃も守りも通用しないのは、外套者が『終わり』そのものだからだ。物質も霊子力も『終わり』に接すれば消えるしかない。あらゆる存在は『終わり』に辿り着いた時、そこでもう先がない最終最後を迎えた状態と同一化するのだから。

 触れられた箇所が簡単に切れるのは、局所的に『終わり』が働き、細胞や骨格の結合を解いてしまうため。痛みを感じず血が零れないのは、関連細胞類に余波の影響を受け、正常な機能が停滞しているから。あくまで副次的な効果にすぎない。

 攻撃面及び防御面にあって『終わり』の働きは絶大な効力を発揮する。どんなに高威力の攻撃も、またどんなに堅固な護りも『終わり』の前では等しく無力だ。『終わり』という概念を叩き付けられた時、これに抵抗できるものはない。

 発された言葉と、今までの戦いを通して、フオウは黒幕の全貌を理解した。


「我は、我が性質に従い歩むのみ。全てを滅し、終末へ誘うのだ。黄昏を奏でるその過程こそが、我が求め」


 怨みでも、呪いでも、憎悪でも、野心でもなく、自らの本質を全うする。それが異形の主の行動原理。

 此の世の全てが終わり果てるという、一つっきりの終着点そのものが顕在化した存在は、ただただ諸々を飲み込み喰らい潰し、皆等しく真っ平らな茫漠たる無に導くのみ。


「貴様は、常世に在るべきではない!」


 強硬な否定の声を上げ、フオウは左手を床に押し当てた。

 宿る霊子力が掌から教会の底面へ伝わり、即座に外套者の足元へと走って光の円を描く。

 それは先刻までフオウを護っていた防御陣と同じもの。彼自身の操作によって、効果対象を外套者へと移し替えた。

 この結果フオウは無防備となり、逆に敵は固い防壁を得る。


「まだ足掻くか。人間とは変わらぬもの。諦めが悪い」


 冷淡に言い捨てて、外套者が片腕を伸ばした。

 だが同じタイミングで足元の法円から光の壁が立ち、指先が触れる前に弾かれる。

 伸ばそうとした腕は内側へと押し戻され、防御陣の展開外へ向かうことが出来なかった。


「今の俺に『終わり』を祓うことは不可能だろう。故に情報収集へ目的を変えた。なまじ知性があり、会話が成り立つ相手で助かったぞ。お陰で貴様への対処法に目途めどがついた」

「ほぉ、自らの生命力を絞って陣に組んだか。成る程、小賢しい」

「確かに貴様の特性は脅威に過ぎるが、理外の無法ではない。力の行使には特定の条件が要る、そうだろう。だからその条件を封じさせてもらった」

「戦いと我が言葉、僅かな手札から要項を看破したとはな。あの女の記憶にある通り、厄介な者よ」


 外套者の言葉を聞き終わるよりも先に、フオウはバックステップを踏んで後方へ下がっていく。

 防御陣に閉じ込められて身動きの封じられている敵を置き、一気に距離を稼いで教会の外へ向かった。

 彼が離れていく間も敵は一か所に留められたまま。法円の内側で影が蠢き、新たな異形を呼び出そうとしているのが見えた。

 出入り扉を背中で押して開け放ち、フオウは教会の外に飛び出す。それと共に左拳を強く握り、大地へと渾身の力で叩き付けた。

 意図的に込めた生命の力が拳打を通し、大地駆けて教会の全周を巡っていく。巨大な建築物を取り囲む形に命は流れ、光り輝く道筋を描き上げた。


 フオウの見出した対処法とは、かかる全てが末期の果てへと強制置換される『終わり』に対し、今を継続的に確立していく正の状態たる生命力でぶつかり、相反する作用の働きで中和するというものだ。

 ただし多少の生命力では恒常的に押し寄せる『終わり』へあやまたず塗り替えられ、満足に抗するべくもない。持てる生命を根こそぎ使い、この一瞬で盛大に燃やし尽くさなければ飲み込まれてしまう。

 よってフオウは余力を考慮せず、全生命力をここで振り絞っていた。

 見る間に髪からは色素が抜けて白く変わり、刻々と頬もこけて削げ落ちていく。いわおのようだった屈強な肉体が衰えていくことも意に介さず、神父は命の炎を極限までくべ続けた。


「浄化の光よ、忌むべき厄災を退けたまえ!」


 フオウが聖言を唱え渡すと、光の筋が一斉に柱となる。

 教会を囲んだ輝きの円陣。それが空高く噴きおこり、眩い円柱を生み出した。

 一瞬だけフオウの脳裏にマフユの姿が浮かんでぎる。ここで決着をつけきり、妹分への危険と負担を取り除くのだと。

 煌めく柱は次第に中心へと集約していき、太ましい円形から一条の光芒へと統合されていく。ただ芯点へと凝縮を重ねた光は一帯の闇を照らして破り、凄まじい明量の柱となって天を貫いた。

 同時に真昼めいた明るさが神父の視界を包む。直視できない強灯は音もなく瞬き、なにもかもを鮮烈な白に染めた。

 数秒を経て、膨大な光輝は薄れて消える。

 世界に元の夜闇が戻ると、そこには焼けて崩れた教会の残骸だけが残されていた。フオウの生命力を起爆剤として土地に宿る力も励起れいきさせ、僅かな時間に臨界した破魔の超熱量が、敵ごと一棟を炙り果たした末の有り様。

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