表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の精霊使いマフユ  作者: ミチバケ
異形事件黒幕編
85/133

第85話:宵闇の襲撃者③

「他者を支配し(けしか)けるだけでは、俺を倒すこと叶わんぞ」


 遮るもののなくなった進路を踏みしだき、フオウは駆ける最中に光剣を水平へ構え直した。

 脚力から体重から全身の全てを突進力へ上乗せし、岩塊をも粉微塵に粉砕する最大威力の吶喊とっかん攻を撃ち放つ。

 逃がしはしない。完全な命中路の邁進まいしんだ。

 轟然とした疾駆が今、漆闇の外套へ一撃を見舞う。同時に掻き散る衝撃。

 破魔の光剣は輝く切っ先を、外套の中心目掛けて確かに打ち込んでいた。

 けれど貫く筈の刃は敵の体へ届く直前で唐突に消え失せ、一切の手傷を負わせてはいない。

 フオウは微塵も力を抜いていないのに、インパクトの瞬間全てが失われていた。激しい突撃は威力を完全に殺され、事実としての空振りで終わっている。


「なんだ?」


 フオウが目を瞠る前で、外套者は一歩を踏み出し肉薄してきた。

 神父の周囲には依然として鉄壁の防御陣が法円を描いているが、宵闇色の外套は易々と素通りしてくる。

 そして彼の右腕へ触れ、波動めいた不可視の力で弾き飛ばした。

 あまりに自然で流れるような所作。認識から思考、反応へ至る僅かな間で挙動は行われ、咄嗟に応じる事が出来ない。

 フオウが異変への危機感に歯噛みした時、彼は眼前の外套から強制的に離され、礼拝堂の床を転がされていた。

 我が身へ掛かる回転運動により幾つもの長椅子を破壊し、度重なる衝撃に襲われながら床を滑っていく。最終的には説教台の直下へ激突したことで、ようやく動きが止まった。

 渾身の突き込みを繰り出した筈が、攻撃は相手に届かず、逆に自分が吹き飛ばされている。その事実に神父は愕然とした。


「攻撃のみならず、防御陣すらすり抜けてくるだと」


 全身に疼く痛みの中で、フオウは低く唸る。

 外からのみならず内側から響く不自然なダメージは、外套者が放った得体の知れない攻撃の余韻だろうか。

 随所ににじむ痛打を気力で振り払い、神父は体を起こし立ち上がった。だがそこで違和感に気付く。

 右腕がない。

 肩から肘までは確かに存在している。しかし、肘から先が失われていた。

 肘の断面はレーザーで焼き切ったかのように綺麗なもの。そこからは血も何も零れ落ちてはいない。更におかしいのは、痛みをまったく感じないのだ。

 自分の目で腕の喪失を確認するまで、気付かなかったのだから。


「あの短瞬、触れ合い様にやったのか」


 フオウは自身の異常に驚くより先、不審から眉を寄せる。

 次いで視線を前方へ転じた時、疑問の正体を見て取った。

 佇む闇黒の外套者が、失われた肘から下を持っている。

 そして奪われた右腕は、彼が見ている前で灰へと形質を変え、崩れて床に落ち散らばった。


「まるで滅びという結果を操るかのように。ますます捨てては置けん」


 把握できる情報から事態を推測しつつ、フオウは敵を睨んだ。

 数多の怪異と渡り合い、命の奪い合いをしてきた手前、この程度で狼狽うろたえるような軟弱さは持ち合わせていない。戦意も未だ健在。

 片腕が無くなったのは確かに問題である。だからといって攻め手を封じられたわけでもなし。

 底知れぬ巨悪に躊躇を踏むより、他者への被害を断つため打倒へ挑むが彼のスタンス。

 懊悩おうのうは今すべきでなく、やるべきは死力を尽くして戦うのみ。


「我が力の一端を身に受け、尚臆さぬとは。大した気概」

「妹分も片腕を失くしながら戦ったのだ。この程度で俺が怯むわけにもいかんさ」

「見上げたものだが所詮は無意味。己が宿命からは何人も逃れられん。終わりという真理からは」


 零下の凍湖さながらに冷え切った感情なき声。女性のものという以外に特徴のない響きが、痛烈に空気を掻く。

 伝播する音の流れへ合わせ、漆黒の外套は悠然と踏み出した。

 その一歩は不自然なまでに軽やか。決定的に人の歩みとは違う。

 長衣の揺れが認められる中、外套者の全身が音も無く床上を滑ってきた。足音はない。両脚の動きもない。

 地を蹴らずして空を駆け、開かれた両者の合間を直ちに埋める。


「それを決めるのは貴様ではない!」


 フオウは左腕を懐に突き込み、それと同時に大きく後ろへ跳んだ。

 右腕が喪失した所為でバランスを欠いたが、それも一瞬。すぐに体勢を立て直し、接近してくる外套との距離を開ける。

 弧を描いて跳び退(すさ)りつ、左手に聖釘(せいてい)を掴んで取り出す。そのまま狙いを付け、全力で投げ放った。

 鍛えられた腕力に押されて猛進する釘は、直線状に標的へと飛び掛かる。これを迎え撃つ外套に避ける素振りはない。

 一気に差し迫った鋭突は、みちたがえず闇黒の胸部へと達した。

 が、その身へと沈み込むことなく、釘自体が灰塊と化し砕け散ってしまう。


「やはり攻撃が通用しない。奴に近付くだけで消滅させられる」


 投擲とうてき物の末路を見届けて、フオウの表情が苦った。

 先の光剣が失われたことと今回の聖釘(せいてい)により、彼は敵の特殊性に思い至る。

 漆黒の外套者が有する力は、異形を生み出し放つだけではない。己へ接するあらゆる物理的・霊子的存在を抹消してしまうのだ。

 向けられた力と同等の力をぶつけて相殺するのではなく、器物や宿っている力そのものを一方的に解体し、指向性からまとめて掻き消してしまう。強固な護りを誇る防御陣が機能しないのも、結界を越えて教会に侵入してきたのも、これがため。

 フオウの右腕を奪ったのも等しい原理で、人体の連続性を接触点で断ち割った。

 どちらに於いても共通しているのは完全な無力化。攻撃も防御も通用しないという事になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ