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復讐の精霊使いマフユ  作者: ミチバケ
異形事件開幕編
79/133

第79話:月下戦火⑤

「大丈夫、まだ十分やれる」

「痩せ我慢は身を滅ぼしますよ。さぁさぁ後輩君、アナタの治癒を使ってくさださい」

「ぽめめめ!」


 豊穣な大地に根差す癒しと活性の力が、緑の燐光となってマフユを包んだ。

 精霊の助力が働き内側から回復が始まり、ナノマシンにより強化されている賦活ふかつ能力を更に増進していく。

 状態の安定と連動して呼吸が整えられると、マフユは思考を切り替えた。戦う為の意識を再び研ぎ澄ます。

 悲鳴を上げていた四肢は震えが治まり、気力を絞ることで改めて全身に力を這わせた。首(もた)げる倦怠感を意志で抑え、両足から強く路面に踏みしめる。剛剣を握り直して、腕を上げ、正面へと視線を送った。

 先刻と比べて遠く離れた場所に、あの異形が立っている。今の距離からでは、一足飛びに間合いを詰めることは難しい。

 それだけの距離感があって尚、確認出来るものが他にもある。光だ。前に見たのと同じ赤い光が、怪物の頭部に輝いていた。

 新たな火球を生み出し始めている。しかもより激しく、より大きい。爆発力を飛躍的に高めた致命の一撃とするべく。


「今度の火炎弾は、さっきの何倍も危なそうね。その分、チャージする時間は長そうよ。シュウカちゃんなら防げるかしら?」

「アイツの使う炎はなんか歪んでんだよ。オレの言うこと聞きゃしねぇ」

「やれやれ、肝心な時に使えない先輩ですねぇ。ワタシはガッカリですよ」

「ぽめん」

「うるせぇ! だったらテメェがどうにかしてみやがれ!」

「ワタシが得意なのは死者の魂を扱うこと。対して彼は死んでいるわけでなく、生きたまま変えられている哀れな魂です。つまりワタシの管轄外ですね。なので残念なことこの上もありませんが、お力にはなれそうもありません」

「テメェにも無理なんじゃねぇか、クソッタレ!」

「んもぉ~、こんな時に喧嘩はやめなさい。真面目に働いてるポメちゃんを見習いなさいな」

「ぽめめ~めめ」


 話し合いなのかけなし合いなのか、いつもの調子で騒ぐ精霊達の声を聞いていると、マフユの気負いが(ほぐ)れていく。

 不慣れな精霊の複合技で戦っていることもあり、我知らず肩に余計な力がこもっていた。四精霊の掛け合いはそんなマフユに息を抜かせ、必要な分だけの緊張に留まるよう気付かせてくれる。

 彼等が分かってやっているのか、はたまた各々の性格が時も場所も選ばないだけなのか。詳しいところは判然としないが。


「束ねた力の使い方が少しずつ分かってきた。今度は全開で押し出す」


 浅く一度息を吐き、マフユは適度な余裕を保って宣告した。

 やるべきことを伝えられると、喧々囂々(けんけんごうごう)言い合っていた精霊達が速やかに舌戦をやめる。

 主の意向と目的意識を共有し、同じ方向へと力を向けた。


「皆、力を借りるわよ」

「ええ、任せてちょうだい」

「イッチョやったるぜ!」

「この辺りでワタシも役立っておかないと立つ瀬がありません」

「ぽめー!」


 黒い異形を視界に収め、マフユは肩幅に脚を開く。続いて両腕を頭上へと振り上げ、剛剣を高々と掲げた。

 次に行うのは深呼吸。大きく息を吸い、吐き出して、その作業を数回繰り返す。少しずつその間隔が短くなると、精神の集中が始まった。

 イメージする。自分の体に満ちる精霊の力を。それが光の川として流れる情景を、胸の内に描き上げる。血流の音へ耳を傾け、鼓動に意識を重ね合わせる。心を落ち着け、より強く思い馳せるのは輝きの深さ。明光の大きさ。意思の大海に没入し、どこまでも落ちていく。自分の内へ、深く深く。

 その先に見えた。膨大な光の大河が。

 想像が実感を伴って認識された時、彼女の意識は急速に覚醒を果たす。肌が軽く痺れた。心臓が一際強く跳ねる。

 全身に高揚感が伝わり、見えない力が頭の先から足の先まで走り抜けた。


「これが私と精霊の力、今全てを一つに」


 マフユは凛とした声音で紡ぎ出し、誰に向けるともなく高らかに謳い上げる。

 それへ合わせて、巨大な刃が眩い光に包まれた。

 直視に耐えない絢爛たる聖光が刀身全体へ宿り、爆発的なエネルギーを溢れさせる。

 夜闇が彼女の周囲でだけ払われ、遠方で燃え盛る炎をも超える光量が、擬似的な太陽さながらに顕現した。


()けッ!」


 細い喉を激しく震わせ、マフユは華奢な体から出せる限界近い声で発す。

 同時に巨大な光纏いし剣を、大上段より力一杯振り下ろした。

 正面空間へ振るわれた剛剣から光が爆ぜ、凄まじい勢いで解き放たれる。枷を外された光の奔流は、鮮烈な閃光となって一直線に駆け出した。離れた異形目掛けて、迷いなく突き進む。

 圧倒的な光芒は壮絶な激流を作り、敷かれた道路の表層を押し分けた。極大の光柱を横倒したような輝きが、夜闇の全てを鳴動させる。

 一条の轟幕は目が追い付かない程の速度を出し、進路上にある全てを圧す。路面が抉れ引き裂け、無数の砂粒となった破片は、光の流れに合わせて彼方へと舞い去ってしまう。

 巨大な爪痕を刻みながら光芒は走り、瞬く間に標的を捕えた。口の中で火炎の弾丸を構築していた異形は、突如として差し迫ってきた光の波に、成す術も無く飲み込まれる。

 逃走の機会など与えられない。耐えることも意味を為さない。巨大に過ぎる破浄の光流が、異形を一瞬の内に抱え取る。上下前後左右全方位を明光が埋め、異形の周囲はこれ全て金色となった。

 一切の不浄を許さない潔癖的な力が、怪物の体を蚕食さんしょくしていく。一瞬毎に異形の身は崩れ落ち削れていった。暴力的に押さえ付ける光が、漆黒の全容を貪り、消し散らすまでに然程も時間は掛からない。

 損傷部から噴いた黒い体液は、その端から蒸発する。砂で出来た楼閣が波にさらわれ崩れるように、異形の体は溶け砕けて実像を失っていった。

 爪も、四肢も、胴も、首も、複眼も、一切合切例外なく、絶大な光に襲い潰され弾け散る。後には異形の存在を感じさせる物は何一つ残らない。欠片もまとめて消滅させ、臭気も気配も霧消させた。

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