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復讐の精霊使いマフユ  作者: ミチバケ
新たな出会い編
56/133

第56話:従属の隷結③

「古い呪法でして『従属じゅうぞく隷結れいけつ』と呼ばれています」


 マフユが口を開くより先に、室内で闇の粒子が生まれて集い、黒装束の糸目男が現れ出た。

 人の姿で実体化したセイギは、サユキに巻かれた首輪を眺め、満足そうに一つ頷く。


「どうやら上手く掛かったようですね」


 意味が分からず目を白黒させている少年へ向かい、精霊は底意地悪く口の端を吊り上げた。

 若者の戸惑いを楽しむように低く笑うと、室内にもかかわらずかぶっていた帽子を片手で押さえ、慇懃に腰を折る。


「全ては更なる力を求める我が主君(マイ・ロード)のため。霊子力の消耗に抗する術を模索した結果、ワタシの知識から使えそうなものを献上させていただきました。それがこの『従属じゅうぞく隷結れいけつ』です。かつては支配者が奴隷を縛り、生命をすすりながら、生殺与奪を握って酷使するために用いられた、呪われた縛鎖ばくさの秘術」

「呪い? 奴隷?」

「ええ、それはそれは強力な呪法ですよ。支配者は施した者から生命力を吸い上げ、自らの糧として、力と若さを保つことができました。しかも支配者が命じるだけで、何処に居ようと施された者は首を絞められ、容易に窒息死させられる。更に支配者が望めば、首と胴を分断させることさえも。これは文字通りに奴隷の首枷。嵌められたが最後、支配者に従い命吸われることを強要され、逆らうことは許されません。抵抗は死を意味しますからね」

「そ、そんな物が、僕に?」

「ああ、御安心ください。アナタに施された術は本来のものを大幅に簡略・弱体化させたアレンジバージョンで、命を奪うほどの強制力はありません。元来は施すのに複雑で面倒な儀式や、呪縛を馴染ませる膨大な時間という代償を以って、とりわけ大きな効力を得ていたのです。その殆どを削ぎ、効果を限定的に絞りましたから」

「効果って、霊子力?」

「その通り。今の『従属じゅうぞく隷結れいけつ』は生命力を奪うことも、首を絞めつけることもできません。拘束力は皆無ですよ。作用はただ一つでして、施された者の霊子力を、支配者に譲渡すること。つまりアナタから我が主君(マイ・ロード)へとね。一方通行で双方性はありません。それのみに特化させたものとなっています。ちなみにヤマトネ少年の霊子力が尽きたら、そこで吸収は一時停止します。生命力で代替させるようなことにはなりませんから」


 セイギの説明を受けたサユキが、改めてマフユへと顔を向けた。

 彼女は目を逸らすことなく、注がれた視線を受け止める。

 苦悩や申し訳なさといった感情は、その面貌へ一切宿っていない。


「助けてくれる、そう言ったでしょ」

「確かに言ったよ。言ったけど、急にこんな……」


 疑いのない眼差しで逆に真っ直ぐ見詰め返され、サユキは言葉を失った。

 なにか言おうとして、しかし言葉がすぐには出てこない。

 了承もなく不意打ちでされたことに驚愕はある。だからといって求めを拒絶する気持ち自体はない。


「サユキちゃん、貴方が選ばれた理由は幾つかあるの」

「一つはテメェが、ヤマト一族の血縁だってこった」


 言い淀んでいる間に、室内へ風が吹き、炎が立ち、新たな精霊達が現れた。

 スーツ姿で化粧の施された金髪美丈夫と、傷痕顔をした赤髪のヤンキー女。


「ヤマト一族は優れた霊子力を備えて生まれる血統よ。だから代々に渡り退魔の最鋭として活躍できたの。その特性たる豊かな霊子力が貴方にも引き継がれている。しかも出力が苦手で外に漏れ難いから、サユキちゃんが思っている以上に芳醇な霊子力がみなぎってるのわ。だ・か・ら、それをマフユちゃんに分けてあげてほしいのよ」

「もう一つな、この術は首輪付きと飼い主が近くにいるほど効果が強いんだとよ。スメラギに掛ける案もあったが、アイツはそうそう自由が利く立場じゃねぇだろ。呼んでもすぐブッ飛んでくるとは思えねぇ。その点テメェなら暇してんだろ。化け物退治に行くときゃ、マフユの傍に控えてろや」

「諸々を考慮した結果、ヤマトネ少年が最も適任の人選であると結論付けました。人の役に立ちたいアナタと、外部の力添えを必要とする我が主君(マイ・ロード)。互いの求めるところが一致していると思いますが?」

「うん、分かった。そういうことなら勿論協力するよ。僕の力が必要だと言ってくれるなら、喜んで。だけど最初に説明してくれればよかったのに。そうしたら素直に受け入れたさ」


 精霊達の話を聞いて、落ち着きと納得を示したサユキ。

 手助けすることに関しては、自身の望みでもあり受け入れた。

 一方で事前説明なしの施術へ異論を飛ばす。

 すると精霊達は互いに目配せを始め。最後にチアキが苦笑交じりにマフユの肩へ手を置いた。


「ごめんなさいねぇ。アタシ達もちゃんと話した方がいいって言ったんだけど。マフユちゃんは行動派だから、一人でサッサと呪法をかけちゃって。自分の目的達成が最優先で、人の気持ちとか考えないなのよ。悪く思わないでね」

「本気かどうか最初に聞いた。それ以上なにが必要?」

「いやいやいや、説明でもなんでもなかったからね!?」


 寧ろお前の方こそ何言ってんだ。そんな声調でマフユは不平を述べてきた。

 そのズレた感性にサユキは脱力し、トホホな溜息を吐かずにはいられない。

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