第15話:激闘
何度となく衝撃が爆ぜ、激しく夜気を震わせた。
マフユの武装とセイギの触手が真っ向からぶつかり合い、互いの接面に火花を散らす。
相手の体を害そうとする攻撃、相手の猛打を防ごうとする守り、双方が一対となってしのぎを削る。拮抗する両勢の力は敵者の突破を許さない。
精霊武器と触手を挟んで、マフユとセイギは一瞬だけ睨み合う。次いで少女の細腕が金の大鎌を薙ぎ、密着している触手を強かに弾いた。
「いやはや、これは予想外ですね。一撃の重さも鋭さも先までの比ではない。ここまで重複顕現を使いこなせるとは、お嬢さんを侮りすぎていたようです」
複数の触手をうねらせながら、セイギは帽子を押さえて感嘆の息を吐く。
言葉自体は素直な賞賛だった。しかし声の調子には肯定ではなく嘲りの成分が未だ濃い。
「よく鍛えていることは認めましょう。その若さで大したものですよ。でも精霊を複数実体化させて直接運用するとなれば、供給用の霊子力を底の抜けたバケツのように消費してしまう。余力が尽きる前に短期決戦で勝利が掴みたいのでしょう? はたして、そう上手く行くでしょうか」
酷薄な笑みを口元へ浮かべ、セイギが軽やかに指を鳴らす。
これに応じて最前の触手二束が大きく伸び上がり、振りかぶられた。そこから即座に押し落とされ、マフユを叩いて潰そうと一気に迫る。
「長々と付き合っていられるほど暇じゃない」
触手の二束が降り襲う直前。マフユは冷たく言い捨て、背中の白翼をはためかせると、急加速で前方へ舞い進んだ。
触手連が落ちるより速く、その正面へと潜り込む。そうして得ている勢いのまま、肉薄したうねり目掛けて紅槍を突き出し打つ。
「くらえ!」
気合の一呵と共に放たれた槍撃は、触手の一つへあやまたず命中した。
膨らむ筋膜を圧力で粉砕し、速度の乗った鋭突が深々と抉り刺す。燃える穂先が触手を穿ち、暗色の毒々しい汚液が飛び散る。それらはマフユに掛かるより先、槍の噴き出す猛火に焼かれて蒸発した。
そのまま炎は突き刺す触手を内側から熱し上げ、一束を紅蓮の揺らぎに飲み込み包む。苦しげにのたうつ触手から漏れた火は隣へ飛んで、最寄りの触手をも巻き込んだ。
燃え盛る柱となった触手が蠢き暴れ、闇夜に巨大な燈火を描く。これを尻目にマフユは間髪入れず追撃へ。
「畳みかける!」
突き出した槍を引き戻すのと入れ替わり、素早く大鎌を斬り上げた。
黄金色の月刃が烈しく奔り、一閃は燃え立つ触手を根元から切断する。
二束が空中へ飛んでいき、煌々たる炎と共に粉微塵となって消滅した。
その末路を見届ける暇も挟まず、マフユは大鎌を手中で反転。鋭く反った刃を下へ向け、逆袈裟に斬り落とす。
迅速果断な二閃目が後続の触手群を苛烈に襲い、反応を許さず疾風怒濤の勢いで斜断せしめた。先に灯った炎の圧に押されていた触手が直撃を受け、抵抗する間もなく切斬される。
宙へ放られた触手へ今度は風の刃が四方から結集し、瞬く間に細切れに変え滅却した。
「火力のみならず反応速度も増しますか。こちらの対応より速く動くとは」
胡散臭いニヤケ顔を維持したまま、セイギが僅かに腰を引く。
合わせて触手達が外側へ膨らむように動き、前面八方向からマフユへと躍りかかった。
少女の背で翼が静かに一扇ぎを見せ、制動が華奢な身体を停止させる。
するとその場で、肩の高さに両腕が上げられ、金の鎌と赤い槍が直線状に水平を作った。そして回る。
翼の新たな羽ばたきでマフユの全身が独楽のように回転し、握り持つ精霊武器がリーチの分だけ斬壊域を展開する。
押し寄せる触手群が煌めく二色の大廻へ衝突していき、風と炎の交撃が迎え撃って引き千切った。回る速度と攻勢化された精霊の加護が絡み合い、暴力的な波濤を築いて接する全てを削り飛ばしていく。
攻防一体の猛烈な転乱刃がうねくる触手を容赦なく吹き散らし、マフユ自身への到達を断固として認めない。吹き荒ぶ炎風は分厚いカーテンの如く内外を隔て、ぶつかってくる触手の束を刻々と破壊した。
「オラオラオラオラ! 邪魔な奴等はぶっちめてやるぜ!」
「オーホッホッホ、早く逃げないとみじん切りによー」
シュウカとチアキが武器姿のまま高らかに笑う。
双方揃って凶暴性を発露して、現在進行形で進む触手の解体に興奮を隠さない。野蛮な闘争心は荒々しい猛りを示し、欠片たりとも手心がない滅びの螺旋で巻き起こる。
破竹の勢いで繰り出される乱撃があらかたの触手を粉砕すると、マフユの体動が止まった。そこから両腕を引いて腰溜めに構えると、短く息を吸う。
「決める!」
力を内に練り、呼気と共に両腕を繰り出した。最短距離を一息で駆け、マフユの握り持つ大鎌と槍がセイギの腹部を打つ。
蓄えたエネルギーを集約させて左右からの一点攻撃。金と赤の尾を引いて武器が駆け、触手の守りが絶えたセイギに達す。
無防備となった体へと真っ直ぐに飛び込み、重く鋭い突撃が対象へ命中。闇の精霊が浮かべた驚きの表情を無視して、マフユは左右の武装を抉り込んだ。
掴み取った好機を最大限活かすべく、渾身の力で吶喊を図る。




