最強のヒーラーになるって決めたの
そして、ユナの意識は賑やかな酒場に戻る。
「私は最強のヒーラーになるって決めたの」
ふと、そう口にしていた。
あの出来事から何年も過ぎた。
でも、待てど暮らせどフィンは帰ってこなかった。
事件が起きて数年は、フィンの仲間達もユナと同じような希望を持ち、頻繁に村へと足を運んでいた。
しかし、それも数年前からぱったりと途絶えている。
いつの日か、ユナの希望も同じように薄れ、思い出すことすら嫌になり、記憶に鍵をかけるようになっていった。
しかし、あれから何年も経った今もなお、フィンの死はユナの頭の片隅で燻っている。
『もう大切な人を絶対に失いたく無い』
冒険者として生きていく事を選んだユナだったが、もうあんな思いをするのは懲り懲りだった。
いつからか、大切な人を作らない様に、他人との間に壁を作っていた。
だからこそ、ユナはパーティーに所属することを拒む。
仕事上人と関わる事はあっても、名前は憶えない。
何よりも、ユナはフィンの帰りをまだ心のどこかで諦め切れていない。
七聖人に選ばれれば、ユナの名前はこの国全体に知れ渡ることになる。
自分が有名になれば、いつか、ユナを探してフィンがひょっこり現れてくれるのではないか。
そして、フィンが帰ってきた時は、最強のヒーラーとして一緒にパーティーを組めるように。
自分の目の前では絶対に大切な人を、フィンを守りぬけるように。
だからいつの日かユナは決意した。
『大切な人達の命を守る、最強のヒーラーになる』と。
だが、結局自分はまだ非力なのだと、昨日思い知った。
ソロでも活動できるようになり、自分は確実に強く成長していると思い込んでいた。
七聖人に選ばれる日も、最強のヒーラーになれる日も、もしかしたらそれほど遠くはないのかも知れない。
そんな事を思っていた自分が、バカだった。
ユナは頭を抱え、俯きながら言葉を溢す。
「最強のヒーラーになって、大切な人達の命を守るって。でも……私は結局ヒーラーとして誰も守れなかった」
「守れたじゃない」
マリアは優しくそう励ましてくれるが、ユナは素直にその言葉を受け入れられない。
それを受け入れてしまったら、自分がヒーラーとして妥協してしまうようで怖かった。
『結局さ、ユナは一番何に悩んでいるの?』
先ほどのマリアの問いかけが、ユナの中で再生される。
目の前の怪我人を治しきれず、魔力切れを起こす自分の力不足を痛感した。
フィンがいなくなったあの時から、まるで時が止まったかのように前に進めていない自分の弱さを思い知らされた。
「昨日のことは、アーサーのおかげであって私の力じゃない……。私はあの頃から変わらない自分の弱さを痛感して……それで……悩んでる。そう、一番悩んでるの……」
自分が何に対して悩んでいたのかをユナは再確認する。
「ユナは充分強くなったよ」
そんなユナに、マリアは力強くそう言葉にした。
その顔はなんだか嬉しそうに笑っている。
「なんでそう言い切れるの?」
「大切な人を作りたくないって、特定のパーティーに所属するの嫌って、人の名前も覚えようとしなかったユナが、アーサーさんと出会って名前を覚えた。そして、やっとフィンさんの死と向き合い始め、苦しんでいる。それは何よりも強くなった証拠だよ」
親友のその言葉に、ユナは自分が知らぬ間に変化していたことに気付かされる。
確かにマリアの言う通りだ。
あの『ゴーレム事件』で、死を間近に感じ剣を握った日から、ユナは過去と徐々に向き合い始めている。
そして、そこに現れたアーサーという男。
時が止まった世界がいつの間にか動き始めていることに、ユナは今さら気がつく。
「そう考えると、ユナにとってアーサーさんは王子様ってより、ヒーローなのかな」
「まだそれ言います?」
マリアがそう口にし、ユナは間を開けず言葉を返した。
そのテンポの良さに思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
先ほどまで悩んでいた事が嘘のように、なぜかスッキリした気持ちで、ユナはジョッキに残っていたエールをグイッと飲み干すのだった。




