うーん、ユナの王子様出現だね
月が強く輝き出すと同時に店内の明かりが灯る、町の酒場。
仕事終わりに集まった冒険者達が、今日も酒を飲みながら数々の冒険談に花を咲かせている。
賑わう店内のカウンター席。
その一番端で、ユナは来るかもわからない親友マリアをなんとなく待っている。
ちなみに、今日は一日仕事が休みであった。
昨日の『深層ケロベロス事件』で立ち直れそうもなかったユナは、今日が休日であったことに救われた。
昼のうちは家に篭り、そして日が堕ちるとともに家を出た。
特に行き先も何も考えず家を出たが、自然と足が向かっていたのはやはり行きつけの飲み屋だった。
何かあるとすぐにお酒で気を紛らわせようとするのは、ユナの悪い癖である。
お酒に強い体質でもないくせに、強めのお酒を飲み、酔い潰れる。
エールの入ったジョッキに片手をかけながら、ユナはテーブルに突っ伏していた。
「ユナ」
後ろから天使のような優しい声で名前を呼ばれ、重くなった頭をどうにか上げて振り向く。
「まーた何かあったの?」
そこにはお人形さんの様に可愛らしい顔で、苦笑いを浮かべているマリアがいた。
来るかもわからなかった待ち人が目の前に現れ、ユナは感動と安心感でつい涙を流す。
「マ〜リ〜ア〜。話し聞いてぇ〜」
はんべそをかきながら、マリアに助けを求める。
「マスター、この子と同じものを」
「はいよ」
マリアはユナの隣の席に腰掛けながら、慣れたように向かい側でグラスを拭いているこの店のマスターに注文をした。
「で、何があったの?」
子供を落ち着かせるような優しい声色で、マリアが問いかけてくる。
ユナは昨日の出来事で覚えている事を、お酒のせいでうまく回らなくなった頭をなんとか使い、順を追って説明し始めた。
「うーん、ユナの王子様出現だね」
一通り話し終えたユナに対して、マリアが放った感想はその一言だった。
全く予想をしていなかった感想に、思わず目を大きく見開く。
びっくりした感情が落ち着き、お酒の酔いもだいぶおさまってきたユナはマリアに聞き返す。
「マリア、ちゃんと話し聞いてた?」
「だって、ユナのピンチに姿を現して、サクッと魔獣やっつけちゃったんでしょ? しかもその人はイケメン剣士、ユナの憧れる七聖人の一人、剣王アーサー。もう王子様の登場話にしか聞こえないよ」
「マリアの頭は、すべての出来事が恋の物語に変換されるのかな? 頭の中、お花畑なのかな?」
こめかみに筋を立て、気味が悪いほどの作り笑いで言葉を発したユナに、マリアも茶化す事をやめて真剣に話を続ける。
「ごめんごめん、ユナの反応が面白くてつい。で、なんでそんなに悩んでるの? 別に悩む要素ないでしょ?」
「副業バレた」
「アーサーさんは他の人にバラすようなことしないと思うけどなー」
「どうやって恩を返せば良い?」
「アーサーさんは別に恩とか気にしないと思うけど」
「私のプライド、ズタボロ」
「それは頑張れ」
「…………」
親友の完璧な返答に、なす術無くユナは黙り込んだ。
「結局さ、ユナは一番何に悩んでいるの?」
最後に質問された言葉が、ユナの核心をつく。
(私は、一体何に悩んでいるのだろうか……)
ユナは考える。
マリアの言うとおり、アーサーは人の弱みを簡単にバラすような人ではないだろう。
きっと、恩を売ったとも思っていない。
いっそのこと、今回の件を口実に、「パーティーを組め」と脅してくれたほうがよっぽど気が楽だ。
が、そんなことを言ってくるような人じゃないと、ユナが一番分かっている。
アーサーに対して、今、深刻に悩む要素など存在しない。
では何故、こんなにも気分が曇り、苦しいのだろうか。
ふと、一番思い出したくない出来事が頭の中に流れ始めた。




