強くなりたい理由があります
「私に剣を教えて!」
ユナは目の前の男、フィンに必死な形相で訴えていた。
「剣? なんでそんなものやりたがる」
眉を寄せ、訝しげな顔をしながらフィンはユナに聞き返した。
「私強くなりたいの! フィンはあんな怖い魔獣一人で倒した。私もその力が欲しいの」
「ダメだ」
「なんで!」
「なんでもだ」
「フィンのバカ!」
ユナはそう言い放ち、走っていく。
「バッバカっておい! 俺はお前を助けた恩人だぞ! おい!」
後ろからそんな声が聞こえたが、ユナは無視して走り去った。
あのケルベロス襲撃事件から三日が経ち、ユナの住んでいた村もだいぶ平和を取り戻してきた。
ユナ達を助けたフィンのパーティーは、まだこの村に滞在している。
ダンジョンでのクエストが終わるまで、距離が近いこの孤児院を拠点にする事になったのだ。
冒険者達にとってダンジョン近くに拠点を作ることはよくある事である。
難易度が高く長期戦になるクエストほど、近くに拠点を作ることはメリットが多い。
わざわざ食料を遠くまで買い出しに行かなくても済む。休める場所が近くにあるということは、それだけ体力を温存できるし、無駄な時間も減らすことが出来る。
特に、フィン達が今請け負っていたクエストは、このダンジョンの『ボス討伐』だった。
フィン達はこの孤児院を一ヶ月ほど拠点にする代わりに、建物修繕の手伝いと、時々出てくるザコ魔獣達の掃除を申し出た。
シスター達もここで暮らす子供達も、それはそれは喜んだ。
そして、誰よりも喜んだのは外でもないユナである。
(絶対剣を教えてもらうんだ! 強くなるんだ!)
期待を胸に、いざフィンに頼み込んだ。
が、ユナの頼みは全く聞き入れてもらえず、今に至る。
「フィンのバカっ! 教えてくれたっていいじゃん!」
「恩人をそんな風に言っちゃダメでしょ? それに、フィンさん達も忙しいのよ」
いじけて膝を抱え座り込んでいたユナに、シスターが優しく諭すように言った。
ユナだってフィン達が忙しいことは分かっている。
それでも、強くならなくてはいけない理由があるのだ。
「私が子供だからってバカにしてるんだ。きっとそうだ……」
「それは考えすぎよ。ユナ、どうして教えて欲しいのかちゃんとお話したの?」
「うん。強くなりたいからって言ったもん」
「じゃーユナはどうして強くなりたいのかな?」
「それは……」
ユナは顔を上げて、目の前を見つめた。
広い土地の所々に植物が生えている。ここはみんなで育てている野菜畑のはずだった。
しかし、植っている植物はどれも萎びていて、とてもじゃないが美味しい野菜ができる様には見えない。
その原因は時々湧いて出てくるザコ魔獣、スライムのせいだった。
せっかく育った苗の上をスライムが通ることで、その粘液が植物をダメにしてしまうのだ。
本来、たくさんの野菜を育てることが出来る広大な土地がこの村にはある。
にもかかわらず、そんな環境のせいでユナ達は苦しい生活を強いられていた。
そういった被害は、スライムに限った事ではない。
ダンジョンがある森に近いこの村は、度々魔獣の被害を受けている。
ユナが後ろを振り返ると、屋根が一部焼け落ちた孤児院の建物があった。
(私は……。私はみんなの生活を守りたい。その為にどうしても力が欲しいっ……)
ユナは拳を握りしめて強くそう思った。
「シスター、私……私ね、みんなを守れるくらい強くなりたいの!」
「それをちゃんと話せば、フィンさんも分かってくれるはずよ」
「シスターありがとう! 私、フィンにもう一回頼んでみる!」
そう言ってスッと立ち上がったユナは、一目散に走り出した。
(何回ダメって言われても、私は諦めない!)
「フィン!」
ユナはフィンの姿を見つけるなり、大声で名前を呼んだ。
「バカなフィンさんに、今度はなんの用だ?」
椅子に腰掛け肩肘をついていたフィンは、いじけたようにそっぽを向いてそう答えた。
どうやら先ほどのユナの言葉を未だに気にしているらしい。
「さっきはごめんなさい……」
とりあえず、ユナは頭を下げて謝ることにした。
「まーそうだな……。俺も大人げなかった」
ユナの謝罪から少し間を開け、フィンが苦笑いを浮かべながらそう言った。
これで本題に入れる。
琥珀色の目を真っ直ぐ見つめながら、ユナはもう一度口を開いた。
「でも私、どうしても剣を教えて欲しいの!」
「だからそれは」
「お願いします!」
ユナはフィンが返事を言う前に、頭を下げて必死に頼み込む。
まだ十歳である少女には、似つかわしくないお願いかもしれない。
それでも、これはお遊び程度のお願いではなく、本気の頼み事なのだ。
フィンにもようやくそれが伝わったらしい。
「どうしてそこまで……」
困惑したような声色でそう聞き返して来た。
「私、みんなの生活を守りたい! ここは魔獣が出る。畑はめちゃくちゃにされるし、襲われる事だってある。この前みたいな強い魔獣が現れたら、みんな死んじゃう! だから、私が強くなって、みんなを守りたいのっ!」
涙を堪え必死に訴える。
泣きそうなのを知られたくなくて、頭を下げたままユナはフィンの言葉を待った。
「それが剣を教えて欲しい理由か……」
しばらく沈黙が続き、ユナは諦めることなく頭を下げ続ける。
その強い意志がフィンにも伝わった。
「分かった」
ユナはその言葉にハッと顔を上げる。
「だが、俺はここに一ヶ月ぐらいしかいられない。仕事だってある。基礎は教えてやるが、戦える程の力が手に入るかはユナ、お前次第だ」
「うん、分かってる。私は絶対強くなってみせる!」
「それは楽しみだな」
二人はお互いを見合いニッと笑い合った。




