どうせ目立つのなら、コイツを叩きのめす!
会場にユナ、フランツ、そしてアーサーの三人が残り、他の冒険者は全員周りの観客席へと移動した。
「では、勝負はどちらかが降参、もしくは監督である私がストップをかけたら終了。武器、魔法特に制限はなにもない。最大限の力を発揮してくれ。二人とも健闘を祈る」
ユナは頭の中で、いかに有効的にフランツのトドメを刺し、なおかつ早くこの勝負を終わらせる為にはどうしたら良いだろうかとシナリオを考える。
(あのバカはパワー系の剣士。一髪攻撃が入れば確実にこっちがアウト。まずは適度に攻撃をし掛けながら様子を見るしかない)
頭の中でそう考え、ユナは呼吸を整えた。
そして対戦相手であるフランツに殺気立った視線を向ける。
フランツは自身の戦い慣れた武器である、刃が太く作られた特注のロングソードを軽々と片手で持っていた。
一方ユナはそもそも剣士ではないので、自分の剣を持ち合わせていない。
心許ないが、今日使わせてもらっていたロングソードを、重りを取って使わせてもらうことになっていた。
(なるべく早く叩きのめす!)
ユナは向こうの出方を待っている時間も惜しいと、自分から攻撃を仕掛けることにした。
ロングソードを自分の前方に両手で構え、両足を小刻みに動かし体を左右に揺らす。
そしてテンポよく地面を蹴って飛び出した。
スピード重視で風の抵抗を少なくする為、両手を後ろに伸ばす。
自然と剣先が後方へ向き、ユナの体はそのまま加速していった。
ユナが動いた事により、フランツも地面を蹴り迫ってくる。
(現状あいつに私が優っているのはスピードと魔法。そして怒りの力しかないっ!)
「水流纏い!」
魔法を発動し、剣に水を纏わせ武器を強化する。
この前のゴーレム事件で習得したユナの技は、ぶっつけ本番の時よりも更に精度が増していた。
ユナは勢いのまま大きくジャンプし、空中でくるっと前転する事で回転力をつけ、下に待ち構えているフランツに向かって剣の刃を思いっきり振り下ろす。
「一回死ねこの馬鹿野郎がぁーっ!」
待ち構えていたフランツがユナの攻撃を自分の剣で受け止めた。
「キィーーーーンッ!」
二人の剣が会場のど真ん中で衝突し、凄まじい音と風を巻き起こし、土埃が舞い上がる。
が、ユナが繰り出した最初の一撃は、体だけは丈夫に出来ている脳筋野郎には通じなかった。
「やっぱユナはすげーわ」
(こんな状況で笑いながら話しかけてくるとか、私も舐められたもんだわ……)
「マジぶっ殺す……」
余裕の表情を見せるフランツに、ユナの頭はさらに怒りで一杯になる。
(こいつのせいで……。こいつのせいで私の計画が……絶対許さん)
もはや『絶対に目立たない』と自分に言い聞かせたミッションは、目の前の馬鹿によって失敗に終わっている。
この勝負に負けて終わるなど、今日のユナの努力に対して、あまりにも割りに合わない結果だ。
(どうせ目立つなら、絶対こいつを叩きのめす……)
ユナは唇を噛みしめ、剣にありったけの力と魔法をかける。
が、ゴーレムとは違い、鍛え抜かれたフランツの剣はびくともしなかった。
ユナの重量と回転力、それに魔法もセットで威力は相当あるはずだ。
が、フランツはいとも簡単にその攻撃を防いでいる。
圧倒的なポテンシャルの差に、力技で真っ向から勝負することは意味をなさないと瞬時に判断した。
(クッソッ!)
ユナはフランツの剣の勢いを利用し、一旦後方に飛び退け、クルクルクルと後転を三回決めながら間合いを作った。
するとフランツが体に合わぬスピード感で、一気にユナの作った間合いを詰めてくる。
(こいつ、思ったより動きが早いっ)
ユナはフランツの力任せの連続攻撃を完全に見切り、まるで舞を踊るかのように美しく軽やかに避けていく。
体の柔軟性と俊敏性、そして跳躍力がその動きを可能としていた。
そして、フランツの性格丸出しの単純な攻撃パターンを掴み、今度はユナが反撃を開始する。
今まで避けていたフランツの斬撃を、今度は剣で受けとめた。
フランツも躱すことに徹していたユナの動きが変わったことに動揺を隠せない。
その一瞬、感情の揺らぎをユナは見逃さなかった。
あろうことか、自分の剣を横に投げ捨てる事でフランツの攻撃の勢いを逃した。
剣を捨てるというユナの行動にこれまた困惑しながら、フランツの重心が前方に傾く。
僅かにできた隙。
軽やかなステップでユナは傾いていくフランツの横をすり抜け、ガラ空きの背中に狙いを定める。
「うぉりゃゃ!」
そして思いっきり回し蹴りをフランツの首に喰らわした。
「えっ?」
気の抜けた声を発したフランツの無駄に整った顔面が、地面にめり込んだ。
「「えええええーーーーっ! 蹴ったぁぁぁぁーーーーっ!」」
ギャラリーから驚きの声が上がる。
ユナはいまだに倒れたままのフランツを、まるでゴミを見るような目で見下ろす。
アーサーは試合前に制限は何もないと言っていた。
つまり、単細胞馬鹿のフランンツを出し抜いたユナの作戦は正攻法である。
(これで少しはブサイク顔面になればいい……)
もう試合は終わった。
ユナはその場を後にしようと出口に向かう。
「……まっ……まて」
後方から声が聞こえ、ユナは慌てて振り返った。
鼻血をダラダラと流したフランツが、よろよろと立ち上がる姿がそこにあった。
(チッ。鼻血だけかよ。メンタルも体もしぶと過ぎでしょっ)
そしてはたと気づく。
先ほどの攻撃でユナは武器である剣を捨ててしまった。
そしてその剣は、今また起き上がったフランツの足元に転がっている。
(ひじょーにまずい展開では?)
そんなこと考えている隙に、自分の剣を持ち直したフランツが一気に間合いを詰めてくる。
ユナは考える。
武器がない。
フランツの攻撃を交わしながら、体術だけであのタフな体をやるとなると、十中八九、ユナの方が先にスタミナ切れでダウンしてしまう。
(武器を手に入れるしかない。しかしどうやって……)
ふと、昔の記憶蘇る。
『ユナ。君にはロングソードは向かないよ』
『なんでよ!』
『体格と剣技、いや君の場合剣舞と言った方がいいかな。ロングソードには不向きだ』
『じゃーどんなのがいいの?』
『うーん。ダガーがいいんじゃないかな』
『ダガー? 何それ。私知らないもん』
『なー……、ユナに土魔法でダガー作って見せてあげてくれないか?』
『……、お前この前…………って言ってただろ?』
『そうだけど、もし万が一があったら、自分の身は自分で守れるくらいにはしてあげたいんだ』
『とか言って本当は嬉しいんだろ?』
『うるさいなー。早く作れよ』
『へいへい』
ユナの中で巡った暖かく悲しい思い出の一部が、この危機を乗り越える答えを導き出す。
自分の両手を広げ、魔力を込める。
両手に導かれた魔力が魔法陣を描く。
「氷の短剣!」
次の瞬間、ユナ周辺の空気が急激に冷却される。
凍てついた空気の中、魔法陣周辺に集まった氷の塊が形を成していく。
そして、ユナの手には氷で出来た短剣『ダガー』が二本、姿を表した。
ユナはその柄を握りしめ、顔の目の前で手をクロスさせ、臨戦態勢に入る。
初めての試みを、ユナは土壇場でやり遂げた。
「器用貧乏も捨てたもんじゃないわね」
日頃、なんでもそこそこやりこなしてしまう自分の能力に、この時ばかりは感謝しかないとユナは心の中で思った。
しかし、この短刀は土壇場で作り上げた諸刃の剣。
ずっと持ち堪えることはできないだろう。
(勝機は一瞬しかないっ)
先ほどの攻撃でユナの剣捨て身作戦は、いくら相手が馬鹿で単細胞でウザいフランツ相手だとしても、もう通じないだろう。
実際、向かってくるフランツは脇を締めることで隙を無くしている。
先ほどよりも腰を低くし、体格差を利用した下からの攻撃にも備えている様だった。
相変わらず攻撃自体は単純なので、ユナはその力任せの攻撃を綺麗にかわしていく。
しかし、隙をなくされた状態では、どうにも反撃に移ることができない。
だんだんとユナにも疲れが出始めた。
「キーン!」
ついに、攻撃を避け切ることができず、ダガーで攻撃を受け止めた。
特注の大型ロングソードに比べ、脆い氷の短剣は確実にダメージを負っている。
体力的にも、武器的にも、もう時間がなかった。
(こうなったら!)
ユナは一旦押し返される反動を使って、後方に飛び退けた。
そして、間髪入れることなくまた地面を蹴り、少しだけ上方にジャンプしながら、突っ込んでいく。
フランツが下からの攻撃はないと思ったようで、剣先をユナのいる頭上に向けた。
そしてフランツが最後の一歩を踏み出しそうになったのを見計らった瞬間、ユナはニヤリと笑った。
(バカはバカらしくしてろーーーーっ)
「氷の世界!」
フランツの足元に魔法陣が現れ、その周辺が氷の地面と化す。
そして氷に足を取られたフランツの体が、ぐらっと揺れた。
しかし、本能のままに生きているフランツが転倒を食い止めようと、もう片足で踏み止まろうとする。
ユナはその隙にフランツの近くに素早く着地し、お尻で氷を滑った勢いのまま、思いっきりフランツの足を蹴り、掬いあげた。
「へっ?」
本日二度目の気の抜けた声を上げながら、フランツの体が受け身も取れないまま、地面に横たわる。
その瞬間、ユナはフランツの体に馬乗りになり、脚でフランツの両手を地面に押さえつける。
「死ねーっ!」
そして、持っていた二つのダガーを一気にフランツの顔に向けて振り下ろした。
「キィーン!」
会場中に音が響き渡る。
フランツは咄嗟に目を瞑り、顔を背けていた。
ゆっくり瞼を開ければ、すぐ目の前に氷の地面に突き刺さったボロボロの短刀がある。フランツの顔が一気に青ざめていく。
急いで反対を向いても、もう一方のダガーが視界に現れた。顔が挟まれている事を悟ったフランツは、身動きが取れず、さらに怯えた顔をし始める。
ユナはフランツの体に乗ったまま、蛆虫を見るような目でその様子を見つめていた。
カクカクとした動きでフランツが首を正面に戻す。
ユナとフランツの視線がぶつかった。
「ヒッ」
「降参と言え」
「こっこここっ……」
「早く言え。じゃないと……」
ユナは魔法陣を新たに作り、もう一つタガーを作り上げる。
「その首掻っ切る」
ユナがダガーを振りかぶった、その瞬間。
「その辺にして欲しい」
少し緊張感の孕んだ声が会場に響き渡った。




