ぜっっっったいに目立ってなるものか!
「ライセンスの提示をお願いします」
ユナ達は無事にギュムナシオンの正門にたどり着いた。
辺りには、中に入ろうと集まった人達が、国営軍の軍服を身に纏った門番にチェックされている。
冒険者達はおもむろに自分のライセンスカードを見せると、許可が出たのか順番に中へと通されていった。
いつの間にかその確認のための列ができ始めている。
ユナは急いで五、六人並んでいる列の最後尾にくっついた。
フランツも食べ物をムシャムシャと平らげながらユナの後ろに並ぶ。
あんだけ大量に持っていた食べ物が、いつの間にかもう無くなりかけている事に気づき、ユナは目を見開いた。
(コイツの胃袋は底無しかよっ!)
ムカつくほど鍛え抜かれ、肉のたるみの一つもないフランツの体を見ながら、殺してやろうかとユナは考える。
が、その視線に何を勘違いしたのか、
「なんだよエッチっ!」
と、顔を赤らめてフランツは自分の肩を抱く。
「うん、ぶん殴ってもいいかな?」
ユナは優しくそう言いながら、ゴミ屑を見る様な視線を勘違い野郎フランツに向ける。と同時に、右の拳に力が入る。
ユナの放った殺気がしっかり伝わったようで、フランツは急いでユナから視線を外し、また黙々と食べ物を消費し始めた。
数分経ち、門番の確認がユナ達の番になった。
その頃になると、周りがざわつき始める。
原因はまごう事なく、ユナの隣にいる存在感たっぷりの残念人間、フランツである。
彼は良くも悪くも目立ち過ぎる。
まず行動がおかしい。
それに剣王の実の弟という肩書の影響も大きい。
あとは無駄に整ったルックスの良さ。
全ての要因が男女問わず周りの人間を嫌でも惹きつける。
(頼む、早くしてくれぇ!)
気づけば目を瞑り外界から意識を遠ざけ、心の中で何度も何度もそう願ってしまう。
このままでは何か起きそうだという、漠然とした不安感がユナを襲ってくるのだ。
必死に願う事十数分後、ユナ達の前に並んでいた冒険者が手続きを無事に終えた様で、列から逸れるとそのままギュムナシオンの中に入っていった。
(やっと私たちの番か)
いつ何を起こされてしまうか気が気ではなかったユナは、門番の姿が目の前に現れ少しホッとした。
これ以上他人の視線を浴び続けるなんて、たまったもんじゃない。
「ライセンスの提示をお願いします」
大量の参加者を確認する為に忙しなく働く門番が、ユナと目を一切合わせる事なく、名簿のような紙を見ながらそう言い放つ。
ユナは首にかけていた紐を引っ張り、胸元から透明に透き通る自分のライセンスカードを出し提示した。
門番は充血しまくった目でそれを見つめると、紙に何やら書いて行く。
ユナは自分の後ろに最後尾が見えないほど並び始めていた行列を見遣ってから、改めて門番を見つめた。
(あなたもお仕事大変ですね。お気持ちお察しします)
明らかに疲れ切った様子は、過剰労働の成り果てに違いない。
同情を覚えずにはいられないその光景に、ユナは心の中で労いの言葉を呟いた。
「……確認しました。どうぞ中へ……。はぁ…………」
疲れ切った声に、大きなため息までついてきた。
門番を気の毒に思いながら、ギュムナシオンの中に足を踏み入れる。
その瞬間、ユナは一気に走り始めた。
(今のうちだっ!)
そう、ユナはこの瞬間を狙っていた。
門番の確認は一人ずつ。
なおかつライセンスを提示しなくてはならない。
フランツはどう考えてもライセンスを大切に持ち歩く性格ではない。
会社でもライセンスを忘れて怒られているのを度々見かけていた。
そもそも、フランツはユナに引っ付いてきただけで、この講習会に前もってエントリーしていない。
ユナが走りながら後方を振り返ると案の定、門の周辺が先程よりもざわめき始めている。
国営軍の軍人達が数名集まっているのを見て、ユナは予想通りの展開に笑いが込み上げて来た。
(あいつのことだから、どうせ顔パスでしょ)
参加が認められなければ、なお良い。
ユナはそう思いながら、もう振り返ることなく、ひたすらにギュムナシオンの中へ逃げるのだった。
ここでのミッションは、いかに目立たずに過ごすかだ。
ユナはそう考えながら、壮大な大きさを誇るギュムナシオンを見上げた。
フランツという最悪な要素をうまく巻くことができた。
きっとあそこで逃げなければ、フランツはずっとユナと共に行動をしていただろう。
そんなのどう考えても地獄だった。
ここまで自主的に見張り役としての仕事も行ってきたが、この場所に踏み入った時点でユナの最も重要な仕事は、滞りなく講習を済ませることである。
マウント先輩もそれは理解してくれるはずだ。
それに、この場所にはフランツの兄という最強の見張り役が存在するのだ。
その為、フランツを野放しにしても大丈夫だろうと判断した。
ユナはどうしても目立つことは避けたかった。
そもそも、好きでここに来たわけじゃない。
先輩に言われ、フランツに逃げ場を無くされ、しかーたなく来たのだ。
しかも『剣技の講習会』なんてたまったもんじゃない。
ユナはすでに剣の技術を持ち合わせている。
むしろ、それをひたすら隠してきたのだ。
なぜなら、あくまでヒーラーが本職というプライドがあるからだ。
そして何よりも、これ以上仕事量を増やされたくないから。
この間は命の危機に瀕してうっかり本能的に剣を振るってしまった。
大失敗だった。
ユナはここに来るまでの道中で考えていた。
どうすれば自分の能力を隠せるか。
どうすれば仕事を増やされずに済むか。
(この講習会でジミーに過ごし目立たなければ、仕事なんて回ってこないのでは?)
思いついた瞬間、それしかないとユナは拳を握り、心の中で叫ぶ。
(ぜっっっったいに目立ってなるものか! 私はヒーラーだ! 前衛アタッカーなんてまっぴらごめんだっつーのっ!)




