第三十八話 うえっ、知らなかったの?
結局、オレの周囲の状況がかなり初期値に近い事になっており、その是正には苦労した。
まるで母さんの案件でザックリと調整介入したかのように。
つまり、そういう事が可能な存在が居て、そいつがオレの処置に便乗して調整をしたものの、ザックリとやったからあちこちに不具合が出ちまったって感じか。
道理で母さんに当時の記憶が無い訳だよ。
そんな相手なら対象への調整も荒いだろうし、その緩和の為にもやはり、温泉でのんびりは正解だったな。
◇
そして異世界ミニツアーも早々に終え、金太と新浜はまたぞろ相思相愛となる。
いやね、消えた設定を戻す意味はあんまり無いんだけど、オレじゃどうして良いか分からないんだよ。
そもそも人類の敵だしさ、そんな芝居の脚本じゃあるまいし、おお、ジュリエットとかやってられるかよ。
大体、オレにはもうそんな欲も無いしよ、アレも出るかどうか分からんぞ。
そりゃノーキッズで構わないなら可能だろうが、温泉旅館なら跡継ぎが出来ないと拙いだろう。
それ以前にオレにはもう、人を愛する事は出来ないんだ。
そんな存在が結婚とか、いくら何でも相手が可哀想だろう。
それならまだそういう欲のある存在に任せるほうがましってもんだ。
ともかく、金太なら性格も悪くないし、近くに居れば惚れもするだろう。
だから任せたぞ。
◇
旅行から戻った両親は、新婚ほやほやみたいな雰囲気になっていた。
どんな調整をされたのかは知らんが、今からじゃ高齢出産になっちまうが、大丈夫なのかよ。
ああそうか、この家を迷宮の領域にしてやれば、薬もスキルも効果ありになるよな。
もし、出来ていたらそうして保護するか。
それにしても、今からだと孫みたいな子供になっちまうが、本当にヤったのかどうか。
まあなぁ、そうでもしてくれないと、オレの子は望めないんだし、ありがたいとは思うよ。
「おわっ」
「いや、これはな」
「あら、起きたのね」
「こんなところに暖房器具が」
「母さん、ちょっと離れて」
「あら、良いじゃない。それより、あんたも相手を見つけなさいよ」
「そうだねぇ」
アツアツは良いが、軽く冷やかしたらとばっちりが来たか。
相手と言われても困るんだが、仮初の相手ぐらいが関の山だぞ。
そう思って部屋に入ると、何だが見慣れない女を発見する。
「どっから入った」
よくよく話を聞けば、ドラゴンの連中に習ったらしいが。
「えっ、コンタってメス? だったのかよ」
「うえっ、知らなかったの? うううっ」
しまったな。
それならコン太ってオスっぽい名前じゃ拙かったな。
オレにそんな気が無いから配下の性別とか疎かにしていたが、となるとルフは大丈夫だろうな。
ともかく、人化がやれるのは分かったから、元に戻させた。
両親はペットだと思っているのに、それが実は魔物であり、人化したとか知られるのは拙い。
確かにキツネには昔話でそういう話もあるが、そんな絵空事が実際に起こったら混乱するに決まっている。
それにしても、それで執着になっていたのか。
いつもべったりなのを、ただの執着と思っていたが、異性に対する想いもあったんだな。
その想いには答えられないが、抱き枕で良いならいくらでもしてやろうな。
そんな訳で普段はキツネのままで、寝る時に人化する事になるのだが、これが意外と……
「ああ、これは良いな」
「あったかいよぅ」
生体カイロ状態でぽかぽかして気持ち良い。
もうそういう寒暖もあまり感じなくなっているが、それでも手触りとかも……こういうのをもふもふとか言うのかな。
確かに想いを感じるが、答えられないのが寂しいという感情なのは理解している。
本当にもう、色々無くなっちまっているんだな。
普段は感じないが、たまにかつて持っていた様々な事柄について思いを馳せる。
もし、治癒するのなら、そうだな。
近年に無く良い目覚めとなり、これは恒例にしようと決めた。
コンタもそれが良いようで、妙に機嫌が良い感じだ。
それにしても、改名してやらんとな。
◇
「コンコ」
「やだ」
「キツコ」
「やだ」
「フォク」
「やだ」
ううむ、ネーミングセンスが欲しい。
「ツキネ」
「う、うん」
根負けしたか、悪いな。
それで勘弁してくれ。
そのうちもっとましなのを考えてやるから、今はそれで勘弁してくれ。
ちなみにルフに聞いてみると現状で構わないそうで、それならそれでしばらくと思っていたところ、チビがちゃんとした名前が欲しいと言い、そこでまた悩む事になった。
どうにもこういうのは苦手である。
「ヘレネ」
よし、1発成功。
しかし、意味を聞かれて困った。
その場のフィーリングじゃ拙いだろうし、何か無いかな。
どっかで聞いたような感じではあるんだが、どこで聞いたんだろう。
サイトでつらつらと調べてみるとキツネの姉に似た名前だった。
そう、砂漠の。
どこでそんなの覚えてたのかな。
かつて、そういうのに興味があったのかも知れないが、もうそういう細かいのは覚えていないんだ。
いくら記憶が復活したと言っても、やはり長き時は実際にあった事なのは間違いなく、大雑把に覚えているに過ぎない。
だからこそ、かつての記憶の中での、ああいう知識はもう断片になってしまっているのだろう。
コンタ改めツキネ、チビ改めヘレネ、んで、ルフはルフと。
あれ、ヘレネも女の子だったり?
◇
「そりゃハーレムだろ」
「そういう意識は無いんだが、皆がそうならそうなるか」
「けどよ、人間はどうなんだ」
「何にしてもそういう気にはなれんな」
「本当に惜しいよな」
そう言われてもな。
このままこちらで生活するには、やはりそういうのも必要か。
もう大して未練も無いが、ただ家族との生活だけかな、未練っぽいのは。
だから迷宮の話もビジネスとしての話であり、委託して向こうに戻っても構わないぐらいだ。
せめて見届けてからだな、向こうに戻るのは。




