第三十五話 何か不都合でも?
アジトの上では突入か封鎖かで揉めているのに、西では冒険者を募集する。
もっとも、その対象が実は同一なんだが、早く決めて欲しいものだ。
封鎖なら1層を切り離して西からの転移先を2階層にして始動するし、突入する気なら1階層のフロアを全面、南極大陸への転送にする。
もうね、こちら側の侵入口は国が取っちまったんだ。
だからもう、その場所からは迷宮自体には関わらせるつもりはない。
次には他の場所からの侵入にするから、好きにそこで遊んでろよ。
そうして山間部の地価の安いのをあちこち購入し、それぞれに転移拠点として構築する。
巷には治安を悪化させる団体が多いので、それらに管理させる事にした。
それが本当の有効利用ってもんだろうが、嫌ならオレのご飯になるだけだ。
◇
「ではアトラクションだと言うのかね」
「ええ、単に地下にあるだけですが、巨大迷路などは特に法律違反でも無いですよね」
「しかしな、その冒険者協会と言うのはどうなのだ」
「迷宮なので探索ですし、探索と言えば冒険者です。つまり会員の名称が冒険者なので、それらを纏めているから協会と」
「ううむ、まさかそのような遊びのものだったとは」
「何か不都合でも? 」
「いやな、今、東ではその迷宮らしき代物で揉めておってな、それと同様な代物を所有と言うのが問題になると言われてな」
「あれは国が個人のアトラクションを、営業前に横取りしたんですよね」
「いや、あそこは危険だからだ」
「そりゃそうでしょう。営業前のアトラクションが安全なら、誰も立ち入り禁止などにはしませんよ。
例えばビルの工事現場に勝手に立ち入って勝手に怪我したとして、それが危険だからと国が接収したというのがあれの真実です」
「まさかそのような事は無いだろう。あそこでは死人も出ておるのだぞ」
「工事現場で子供が好き勝手に遊んでも、危険は全くありませんか? 置いてある機械を勝手に動かしても、全く危険はありませんか? 人は死にませんか? 」
「しかしな、あそこには立ち入り禁止などは無かったと聞いておる」
「いやいや、他人の敷地に勝手に入る事自体が問題でしょ。それとも、バリケードが無ければどんな場所でも入った者が勝ちなのですか? それなら今夜辺り、皇居に遊びに行こうかな」
「それは認められておらん」
「なら、誰も入れないように封鎖するんですね。もし入れたらそれは管理側の不手際です。そういう理屈でしょ、国があそこを接収したのは」
「上がそれを認めるとは思えんが、そうだなぁ」
『精神誘導……心刻』
さてさて、心に刻んだからもう、そいつがお前さんの信念だ。
後はその信念のままに活動するといい。
それが国益に反しようとも、信念には逆らえない。
自らの全ての伝手を活用し、問題提起を続けるがいい。
国の横暴な処置を訴え続けるがいい。
そいつを有効活用させてもらうがな。
◇
関西迷宮組合という名で会社を立ち上げ、その営業部門が冒険者協会という名となる。
サブシスに新たな命令を伝え、50階層ずつ6つの小迷宮の形にさせ、それぞれの50階層からメインの迷宮への誘致という形にした。
すなわち、小迷宮をメインの周囲に配した形となり、そこへは全国の転移拠点から転移して到達する事になる。
関西に1つ、九州に1つ、四国に1つ、中部に1つ、関東に1つ、そして東北に1つとなる。
北の大地に無いのは広い土地なので、迷路が欲しかったら地上に好きなだけ作れよと、そういう意味で放置してある。
まあそれは冗談だけど、サブシスコアに該当する予備コアの在庫が6つしか無かったんだ。
なのでそいつらを更なるサブにしての、サブコア統括方式にしてある。
全国に転移拠点を作るのは大変だったけど、この世界でも転移が使えるので交通費その他は必要なかった。
後は現地で精神誘導で何とでもなるので、治安を悪化させる団体を誘致して据えるだけの簡単なお仕事になっていた。
親分さんの屋敷の片隅に、洞窟のような代物があり、そこから迷宮に転移が出来る。
そうして会員はそこに立ち入りが可能になっていて、転移すると2階層の売店のあるフロアに到着する。
そこでは回復薬や解毒薬、保存食に様々なアイテムに魔導具のような代物と、色々な準備がそこで整い、更には仮眠も可能になっている。
中でもライセンスカードに付属しているスキル使用権を使えば、探査魔法や開錠魔法が使えるようになる。
それは有料で使用期限があるものの、浅階層には罠が無いのを利用して小金を稼いで手に入れれば良いだけ。
迷宮内では仮初だが、レベルシステムを採用していて、外とは違った身体能力になる。
サブシスと言ってもメインのコピーだから性能的に劣っているわけじゃない。
ただ、機能を限定的に絞ってあるのと、あちらの世界の情報が不要なので、その分の情報が無いだけだ。
「これなーんだ」
「クレカかよ。いや、違うか。うえっ、冒険者ぁぁぁ」
「ふふん、Gクラスだけど会員ナンバー2だぞ」
「1は誰なんだ」
「オレに決まっているだろ」
「ならこのカードは」
「お前のだよ。ほれ」
「いーのかよ」
「入会金1万円」
「マジかよ」
「中の宝箱の中のアイテムは売れるからな、それで稼いで支払えばいいが、浅い階層の宝箱には現ナマが入っているからな。すぐさま払えるだろうよ」
「何処にあるんだ」
うちの裏庭にも入り口があるんだよな。カードでのチェックなら他人は入れないし。
プラスチックのカードって意外と安かったので、1000枚とりあえず発注して、会員番号をJE-0000001から順に印字させたんだ。
ちなみにJEってのは、ジャパンとイーストで東日本のつもりだけど。
「うちの家の裏庭の片隅から入れるぞ」
「おっし、今日帰ったら早速」
「2階層に直通になっていてな、あそこでは回復薬も売っているが、外に持ち出したらただの水と変わらんから注意しろよ」
「スキルはどうなんだ」
「裏に項目があるだろ。そいつにチェックが入ったら使えるようになるが、そいつも有料だ」
「いくらだよ」
「探索スキルが50万で、開錠スキルが100万だ」
「おいおい、高くないかよ」
「ふーん、札束が出るかも知れんと言うのに」
「うっく」
もっとも、札束なんてのは滅多には無いが、全く無い訳でもないから嘘じゃない。
「まあ、フリーパスにしてやるが、あんまり荒らすなよ」
「それは無いがよ、その入り口ってな、お前の家にしか無いのかよ」
「全国6ヶ所に作ってあるぞ」
「じゃあよ、うちの裏庭は無理か? 」
「お前がそれを管理するならな」
「管理って何をするんだ」
「そりゃ他人がみだりに入らないように、24時間体勢で見張るんだよ」
「うっ、それは無理だが、人を雇えばいけるか。てか、誘う奴らに言えばそれぐらいは何とかなるかも」
どのみち、うちの裏庭に使ったのが、最近拵えた分だ。
また貯めないと無理だが、そもそも権限を渡すのもなんだよな。
確かにうちの幹部連中も持っている権限だが、こいつに管理がやれるとも思えんし。
もっとも、将来的に冒険者協会をやるのなら、権限ぐらいは無いと不便だろうから、また作っておくさ。
「お前が魔力を100万程くれるならすぐさま作ってやるぞ」
「んなにあるかよ。てか、そんなにあるのかよ、お前」
「貯めたに決まっているだろ。今までにそいつはざっと100ぐらいは作っているな。世界各国の転移拠点の分と、迷宮内の分と予備とでな」
「その予備かはもう無いのか」
「最近、また増えたんだが、そいつはオレの家の分だ。予備は日本全国6ヶ所の転移拠点で使っちまった」
「それってよ、関西にもあったりするのか」
ああ、女の実家近くにあったら移動が楽だろうとか、そういうのを先に考えちまうのか。
それならますます管理権限を渡す訳にはいかんな。
こいつは女を優先して仕事を疎かにするタイプだとしたら、他の奴らの迷惑になっちまう。
しかも後々、温泉旅館に関わるようになっちまったら、入り口をそこに作れとか言い出しかねないな。
確かに色々融通を利かせているが、それを当たり前と思われては困るな。
「実はな、関西迷宮協会ってのがあってな」
「それじゃあよ、お前の家の裏庭からその関西に行けるんだな」
「可能だが、まずは会員にならんとな」
「それはオレが作るんだよな」
「冒険者協会は既に設立された」
「おいおい、オレに作れと言ってなかったか」
「作らんから先に作った」
「もっと先の話かと思ってよ」
「既に会員募集の新聞広告も出すようになっているし、社員も既に揃って受付も可能になっている。そいつは全国一斉スタートでな、九州、四国、関西、中部、関東、東北の6ヶ所の支部でも受付がやれる。んで、会員になったら社内の転移拠点から迷宮内の2階層に行けるようになっていて、そこには宿屋とか道具屋なんかがあってな、準備して潜れるようになっている」
「オレ、卒業してから準備してと思っていたんだ」
「ふふん、人間など100年もすれば死ぬと言うのに、そんなのんびりで構わんのか」
「オレもそうなのかよ」
「そのうち解くからそうなるな」
「解かないのは拙いのか」
やはり既得権益と思ったか。
こいつも人間なんだよな。
いくら仮でも今は人外なんだが、
そういう意識にはなってないようだ。
てか、なっているなら婚約とかするはずがない。
いかに強要されたにしても、確固たる信念があれば、今のお前なら人間なんかには負けないはずだ。
大体、仮でも長生きなんだから確実に女のほうが先に死ぬのに、それでも結婚したいものなのかな。
てかさ、こいつ、女にも同様にしてくれとか、言いそうだよな、人間だし。
その時に全てをご破算にしちまうか。
仮の解除と共に、記憶すらも。
(またですか、これはいけませんね。対処は簡単ですが、あの俯瞰では留守が心配です。また彼を呼びますかね)




