第三十三話 あんな娘っ子が戦うのか?
あと数日で休みも終わるが、あいつらはまだ戻ってないようだが、ちゃんと始業式までに戻るんだろうな。
それはともかく、早速にも服を届けてやろうと迷宮に転移した。
総合執務室で話をすると、ちょうどイベントがあるらしく、それの景品に決まった。
一応、フリーサイズだけど着れない場合は困るんじゃないかと言うと、余ったら生活向上班に渡し、服飾の研究材料にすると言われた。
そうして何か変わった事は無いかと聞くと、懸念の盗賊が全滅していたという話を聞き、それなら安心だなと答えておいた。
後は一番大きな国からの使者が、武芸競技会への参加という話を持って来たらしい。
どうやら侵略記念というのが本質で、表向きは新時代の幕開けを記念してとか、そういうお題目になっていた。
つまり、侵略した3国が主催での競技会のようで、様々な種目を各国の自慢の者達が競い合うという、ありきたりな内容だった。
かなり前にそれが届いたらしく、どうしようかと思っているうちに日時が迫り、仕方が無いから統括代行が出る事になってはいたが、竜族の人化は拙いんじゃないかと、それで勇者の子孫に頼もうって話を持って行くと、すっかり武芸とは縁遠くなっており、人選に困っていたんだと言われた。
そうしてその肝心の日時だが、途中に始業式を挟むものの、やりくりすれば何とかなりそうなのでオレが参加する事にする。
本来は様々な競技にそれぞれ人を出すらしいが、全てを1人で行う事で、それとなく力を見せ付ける方針だ。
最近、まともに表舞台に登場してないので、幻のダンジョンマスターとか、変な噂も流れているらしい。
つまりとっくにダンジョンマスターは居なくなっており、コアだけが鎮座しているんじゃないかって話だ。
誰が何の目的で流した噂かは知らないが、歴然と存在しているって事を知らしめておく必要を感じたんだ。
そうしたうえで、おいそれとは倒せないと判断してくれれば、舐めた輩も出ないだろうと思っての事だ。
その手の雑魚など相手にもならないが、数が来ると面倒だからな。
殺さずの迷宮に勘違い野郎が大挙して来られると、その対処が大変になる。
新米冒険者にも迷惑だし、そういうのが無いに越した事はない。
既にこの迷宮は、モンスターによる人族向けのアトラクションと化しており、だから皆はその従業員になっている。
早い話が遊園地な。
その遊園地の従業員が襲われると嫌なんでな、勘違い野郎は来ないで欲しいものだ。
それはともかく、他には無いと言うので、ひとまずは元の世界に戻る。
家に帰るとコンタが飛び付いて来た。
置いて出たのが嫌だったようで、しばらくオレから離れなかった。
本当に依存するようになっちまったな、コンタ。
そこまで依存するとなると、ずっとそのままなんだろうな。
それこそオレの一部のように。
◇
母さんが元に戻り、休日のラストは平穏なままに過ぎようとしていた。
オレは始業式の日までネトゲ三昧をすると部屋に篭り、そのままあちらの世界に行く。
偽のオレはベッドに横たわり、機材を装着させてある。
だからずっとゲームをやっているように思うはずだ。
そうして転移する。
もちろんコンタは襟巻き状態で、チビとルフはお留守番だ。
本当は連れて行ってやりたいが、生憎と行くのは人族の国。
その代わりという訳では無いが、父さんがルフを散歩に連れて行くと言ってくれた。
なのでチビは父さんに襟巻き状態となり、父さんはこりゃ暖かいなと喜んでいた。
やはり平和な世界の住人のせいか、チビも父さんには馴染んでいるようで、あちらでは考えられないぐらいになっている。
ルフも珍しい色々が楽しいようで、素直に父さんと共に散歩しているようだ。
なんせ平和な世界だから外敵も居ないし、他のワンコ連中じゃ相手にもなるまい。
もっとも、相手がトラだろうとライオンだろうと、ルフの相手にはならないんだけどね。
それはともかく、招待されるままに案内され、待合室みたいなところに連れて行かれる。
そこには各国からの兵士やら傭兵やらと、様々な職種の人族がたむろしていた。
「おいおい、えらく細っこいのが来たぜ」
「しかも女とか、舐めてんじゃねぇぞ」
「あんな娘っ子が戦うのか? 何処の国だよ」
「あれだろ、参加を表明した諸国連合とかよ」
「ああ、混ぜてくれって言ったらしいな」
「そりゃ言うだろ。次は我が身と思えば、嫌でもにじり寄るさ」
諸国連合か。
3大国の周囲に位置する小さな国々が合わさった代物だな。
それは良いんだが、あそこの主軸国、転生者か何かが関与しているだろ。
以前、それで興味を持って調べてみたが、よく分からなかったんだよな。
初代が誰かから聞いて、それで決めたらしいが、その誰かが分からない。
本人は聞かされて気に入ったと言っていたらしいが、暗示か何かの可能性が高い。
イズモノオとか、本当に気に入ったのか、言い辛いのに。
だってさ、それって『出雲のお国』だろ。
そんな事をつらつと考えていたら、競技が開催される時刻となる。
各国の貴族選りすぐりの者達が勢揃いする中、僅か1人で佇んでいるオレ。
さすがに注目の的にはなるが、それがどうしたという感じだ。
今の格好はネトゲスタイルなので、もしかすると女性だと思われているかも知れないが、そんなのすらどうでもいい。
なんせこちとら人類の敵なんだし、向かって来るなら殲滅するだけだ。
てかさ、女と勘違いしているのなら、ここはひとつザカーリャスの振りをするとかさ。
あれって人族の創作の女神らしいから、成りすましたとしても真実の神とは何の関係も無いし、神罰も無いだろうし。
◇
「戦争の中では武器達は戦場の徒花です。
敵兵の命を養分に、大輪の花で咲き誇るのです。
それもまた養分として徒花は次々と新しい花をつける事になります。
そんな急激な変化が欲しいのは分からなくもありませんが、養分にされる人達はどうするのです。
それなのに、そんな嘆きすらも養分として、ひたすら生産されていくのです。
そんな事態になれば、国で保護されている知的財産などは全て国の物になってしまうでしょう。
そんな濃密な肥料ならば、徒花はもう手が付けられないぐらいの花園になるでしょうね。
それでも出せと言うのですか? 」
「信用が無いという事か」
「画期的な武器の詳細など、出すべきではないと言っているのです」
「ですが、それに見合う使用料が得られるんです。損な話ではないはずです。何よりこれは発案者を庇護する為の法です。
本来ならば勝手に好きに真似していたのです。だがそれでは発案の意欲も失せる。だからこそ、それを庇護する為の法が制定されたのです。
その過去の偉人達の偉業を、けなすおつもりですか? 」
「とにかくあの弓は出しません。作りたいなら勝手になさればよろしいのです」
「もうどうなっても知りませんよ。折角、発案の保護を申し出ているのに、それを蹴るのですから」
「好きになされよ」
「分かりました。ならばあの弓、近い内に接収されます。逆らえば国賊として捕縛になります。もちろん国を出る許可は出ませんので、他国に逃れる術はありませんよ」
「他国からの客に対してそのような言、そちらこそ後悔はしませんね」
「客などとは真っ赤な嘘。そもそもお前にそんな権利など無いのだ。それをわざわざ招待までしてやったんだ。その見返りは当然の話。更には下手にまで出てやったと言うのに、それを蹴るならばすぐさま処刑にすらなるだろう。覚悟しておくのだな」
ううむ、女神ごっこは意味が無かったな。
ただでさえ地味に迷宮に篭ってばかりだから知名度が怪しいのに、最近はあちらの世界で遊んでいるから、ますます舐められているんだろうな
さて、何かされた場合、その報復でこの国を直接滅ぼしたとして、オレに魔王認定は出せるか? 神様。
出せば人族の世界が終わる事になるが、それを望むならば認定するがいい。
あの地中の巨大な魔力溜まりを爆発させてやれば、主要各国へ繋がった調査穴からそれが噴出するだろう。
伊達に1500年も調査してないんだ。
全世界には調査の為の穴が無数にあるんだ。
ひとつひとつは小さいが、それだけにその勢いは大きいだろう。
まずはそれで地盤を緩める。
ぐずぐずになった大地へなら、オレ程度の魔法でも損害を与えられるだろう。
そうして星の引力を振り切るぐらいの刺激を与えてやれば、こんな星ひとつ、簡単に流星群に出来る。
そうさ、既に惑星破壊の手順は整っているんだ。
つまり今の状況は、それをやるかやらないかに過ぎない。
今までは何もしなかったが、かつて消え去る思案の中には、こういう代物もあったのさ。
まあ、極端な例と、すぐさま廃案になりはしたが、そんな無理心中も可能とだけ覚えておくといい。
もっとも、今ならばあちらの世界に逃げる事も可能だし、魔力溜まりを石油に置き換えれば、あちらの星も同じになるかも知れない。
更に言うなら、あちらの世界には既に、あの星を何百回も消し飛ばす武器が既に存在している。
ならば各国の上層部を精神誘導させるだけで簡単に星が終わるだろう。
つまり、その気になれば何時でも双方の星が消えちまうって事だ。
それでも構わないと言うのなら、好きに魔王認定するといい。
◇
結局、魔王認定には到りませんでした。
どういう事かと言うと、国が動かなかったのです。
つまり彼の恫喝は、上層部の意向には沿わず、逆に彼は投獄される羽目になりました。
それと言うのも、グレイトスの皇帝自ら認めたと言うのに、その下っ端が妙に偉そうなので、これはもしかすると少数派の暴発になるのかと思い、不可侵条約の手前、それはさすがに致命的だろうと皇帝さんに報告に出かけたからだ。
「まさか、そのような」
「でさ、オレとしては全員抹殺しても良いんだけど、そうなると内々での不可侵条約が破られる事になるよな」
「早急に手配致そうが、これに対してどのような賠償になろうかの」
「ふふん、そんなセコイ真似、必要無いさ。周知徹底だけで構わんよ」
「済まぬな。本来なれば一方的に責められる案件じゃが」
「それより、足元を固めるのは何もあの連邦の若造だけではないって事だな」
「ううむ、そうであるな」
「んじゃ、そういう事で」
「ほんに済まなんだの」
「構わんさ」
それで解決になったんだ。
そもそもどうしてあんな事になったかと言うと、あちらの世界の武器で競技をこなしたんた。
鉄をも絶つ、やや反った片刃の剣。
およそ考えられないぐらい小さな癖に、やたら遠方に届く弓とその命中率。
見た事も無い物質で拵えられた透明な盾は、その取り回しから相当の軽さを思わせながらも丈夫な代物。
その中でも弓が注目を浴びたようで、その情報を寄越せと言われたんだ。
登録する為には詳細な情報を渡さなくてはならない。
そんなもの、国の名の下に盗用しないとどうして言える。
こちらの世界のモラルなど、信用に値しないんだ。
忘れているようだが、お前達はモンスターの敵だぞ。
そんな相手に有用な武器の情報など、渡す道理があるまい。
こちらの世界も平和ボケなのか?
いくらソイレント連邦のみで潰したとは言え、あれも戦争は戦争だったと言うのに、すっかり忘れているようだな。
今回は皇帝さんの顔を立てて忘れてやったが、そう何度も通用すると思うなよ。
確かに不可侵条約はこちらから水を向けてやったが、受けたのは皇帝さんだ。
つまりは国の代表な訳だから、その反故は国の滅亡を意味すると思えよ。
因果応報でも魔王認定されるかな?
え、神様よ。
それをするなら単なる、人族へのえこひいきって事になるぞ。
そうなればもう、この世界から人族が消える事になっちまう。
そうならない事を祈るぞ。
えっと、全く競技の内容が語られませんでしたね。
まあ、人族の競技なので、迷宮管理としては児戯のようなもの。
本人も招待されたから来ただけで、そんな遊戯のような代物に興味は無かったみたいです。
(という言い訳でお茶を濁そうとしているのですね)
ちなみに彼は迷宮に戻った後、例の脳筋管理と軽く遊んだそうです。
口直しですかね。




