第三十二話 そんな趣味になったの?
(ねぇ、あなた、部屋に女の子の服がたくさんあるんだけど、これどうしたの? )
(なっ、お前、覚えてないのか? )
(変ねぇ。うちに女の子なんて居ないのに)
(お前……治ったのか。良かった、もうダメかと)
(何かあったの? )
(いや、何でもない)
(変なお父さん。くすくす)
◇
「おはよう、母さん」
「ちょっとあんた、そんな趣味になったの? 母さんちょっと複雑だわ」
「うえっ、着替えてくる」
「うんうん、そうしなさい」
うはあぁ、やけに効いたな。
やっぱりあっちの世界限定の薬かよ。
となるとこっちの世界で闇医者はやれないって事か。
あーあ、冒険者ギルドで売るつもりの初級回復薬もただの水か。
てことは、オレの術しか無いって事か。
オレのスキルはこちら兼用にしてくれたはずだし、恐らく効くはずだ。
となると、物陰に隠れて初級回復薬を飲ませ、こっそりと回復スキルを使うしかないのか。
面倒だなぁ。
◇
母さんが快復したので新年会にもまともに出席出来る事になったが、出し物はまだ決まってない。
「無難にマジックでもやろうかな」
「お前、そういうのやれるのか? 」
「例えばさ、ローソクに離れた位置から着火するとか」
「ほおお、それはまたタネが見当も付かんな」
「そこは企業秘密って事で。バレたらもう二度と使えないよね。折角覚えたんだし、自然にバレるまでは内緒だよ」
「それなら仕方が無いな」
生活魔法の着火だしな。
ネタはただの魔力ですとか、言えると簡単なんだが。
そういう訳にもいかんよな。
となると、ローソクの他にも何か出すか。
着火して消火ってのも良いか。
つらつらと考えてみるが、ローソクは状況に応じてって事になった。
火を使うので、会場によってはやらせてくれない恐れもある。
確かにその程度なら構わないとは思うけど、ネタを秘密にする以上、危険性が相手に判断出来ない。
なのでライター程度の危険性と言っても、それが通じない可能性がある。
それと、折角の女服を活用する事になった。
それと言うのも、後で古着屋にまとめて売りに行くとか言っていたが、今時そんな店あるのかな。
それぐらいならフリマとか親類とか、知人とかのほうがましだと思うが。
何ならオレが引き取って迷宮の奴らに進呈って手もある。
だけどさ、そうしちまうと確実に母さん、あんな趣味だと思うよな。
折角、母さんが忘れているのに、自分で買ったとか言わないほうがいい。
つまり、ここはオレが被ると。
「あんまりそういうのは、ね」
「けどさ、オレってそれっぽく見えるでしょ。だからさ、宴会芸みたいな感じで慣れておけば、将来役に立つと思うんだ」
「あんたも変わったわね。以前は本当にそういうの大嫌いだったのに」
「芸は身を助けるって言うからさ、どんなものでもやれる以上は突き詰めてみたいんだ」
「本当に好きでやっているんじゃないのね」
「もちろんだよ。あれはあくまでも一芸であって、趣味って訳じゃないさ」
「それなら良いんだけどね」
「てな訳で、あの服は全部引き取るよ」
「物凄くあるの。あれってやっぱり私が買ったのよね」
「意外と父さんの趣味だったりして」
「あははは、それはさすがにあれよ」
「うん、気持ち悪い」
「あはははっ」
危険な話題は誤魔化すに限るってか。
だけどまともになって本当に良かったよ。
となるとあのアルバム、父さんの秘蔵の品でも良いからさ、母さんには見せないようにしないとね。
◇
結局、隠し芸はオレの女装になった。
被るならとことん被ると父さんに言い、それで母さんが楽になるなら構わないと。
つまりオレの芸の為に父さんがあの服を揃えたとか、そういう方面でごまかす事になった。
なので父さんも被る羽目になりはしたが、それでも構わないと言うのでそう決まった。
そうしてもし、アルバムがバレても良いように、母さんが写っている写真だけを別に仕舞い、もし見つかっても父さんとオレの集大成って事にすれば何とかなるだろうと、そう決めた。
そんな訳で、例のネトゲでの格好で何かする事になった。
その何かってのが問題なんだけど。
「えっ、君って男なの? 」
「ええ、これはネトゲでの格好なんです」
「ああ、それでそんな奇抜な事になっているのね」
「どうせなら別人で遊びたいと思いまして」
「分かる分かる、うんうん、そういうのってあるよね」
「でまぁ、向こうで慣れたのでこっちでもやってみたくなりまして。けどやっぱり変ですよね」
「そんな事無いわよ。すっごく格好良いわ」
「本当ですか、嬉しいです」
とまぁ、会社の女連中に囲まれて、なんやかんやと受け答えする事になった。
最初は小芸でもと思ったんだけど、父さんの会社の社長さん、やっぱり感性が変なのか、そのままホストをしてくれとか言ってさ、仕方が無いからそれを以って隠し芸って事になっちまったんだ。
いくら化けても高校生にホストとか、相当変な感性だよな。
そうして受け答えをしながら他の人の隠し芸を楽しむ事になり、お酌をしたりしながら宴会は進行していった。
さすがに皆さん、唐突な話だったとみえて、やっつけ感が半端無い。
それでも酒が入っている為か、違う意味で受けてみたり、本人は真剣なのにそれが笑いを誘ったりと、和やかなうちにお開きとなる。
その後で酔っ払った女の人にお持ち帰りされそうになり、他の人達に引き剥がされたりとトラブルもあったが、何とか無事に帰れた。
「お前、社長がな、少しだが金を渡すと言って、ほれ、アルバイト料だとよ」
「あれは隠し芸だよね」
「いやいや、あれだけ女性陣の相手をしたんだ。それは妥当だと思うぞ」
「もう少しで誘拐されるところだったもんね」
「ああ、あの子か。あの子は最近、どうやら失恋したらしくてな」
「ストーカーにならないよね」
「ううむ、どうかなぁ」
「年上のお姉さんか、そういうのも良いかも」
「確かに綺麗な子だが、性格がな」
「しつこいとか」
「なんと言うのかな、勘違いをよくするんだ。思い込みが少し激しくてな。以前も取引先の男性が自分を好きだと思い込んでな、それで少し騒ぎになったんだが、お前がああなると拙いな」
「多分、問題無いよ」
「それなら良いが」
どんなに思い込みが深くとも、精神誘導には勝てないさ。




