第三十話 芸妓になるつもりなの?
つらつらと考えていたら、数人に抱え込まれて着替えが始まっていた。
気付いた時には面倒な服がかなり脱がされていて、ちょっとあられもない姿に……
「うえっ、男衆だったの? 」
「うちの親の趣味です」
「親のせいにするとか最低よ」
「例えば貴方が子供を産めなくなったとして、女の子が欲しいと思っても、息子さんには頼まないんですね」
「ああ……そういう事ね」
「自分が我慢すれば問題無いんです。それなら気の済むようにしてやろうかと思っています」
「けどさ、それは親孝行も度が過ぎているわよ」
「色々事情がありましてね。可能な限り付き合うつもりなんですよ」
「それなら追求はしないわ。それで、どうするの」
「興味があるので試してみたいです」
「そう。なら、続けるわよ」
「お願いします」
(確かに中性的だけど、普通はやれないものだけどねぇ)
普通の感性では理解出来まいな。
まあ、1500年ぐらい故郷から離れて暮らしてみると理解が及ぶかもな。
それも強制的に離れたうえに、人じゃ無くなったりしたらよーく理解が及ぶと思うぞ。
この仮初の生活を何としても続けたいとな。
もう、実質的には違うのに、それでも見た目は以前と同じように見えている。
だからその維持には労苦を惜しまない。
人がどう思おうと、人に何を言われようと。
人間芝居と言われようと、かつてはそうだったんだから、その真似をして何がいけないの。
そりゃ、バレたらとっとと退散するけどさ、今のところはバレてないんだし、やれるところまではやりたいんだよ。
そうだなぁ、気分は鶴の恩返しかな。
◇
千里ぃ走るようなぁ……
ううむ、これってじゃんけんだよな。
年末に覚えて新年に披露とかって、ただの隠し芸のような。
まあ、本格的に習うんじゃなくて、単なる体験だからと、簡単なのに決めたみたいだ。
簡単と言っても素人には難しいとは思うが、これも経験か。
やっていると、他のも教えてくれ、熱心にやっているといくらでも教えてくれるようだ。
なまじ疲れない身体だから、興味のままにいくらでもやれる訳で、お師匠さんが疲れるまでひたすらになっていた。
「あんた、疲れないの? 」
「あれ、もう、夜か」
「呆れたわね」
気付いたら夜になってました。
まあ、戦い遊びも熱中したら数日遊んでいるからなぁ。
ちょっと似ているんだよな。
遊びの中の回避とか、立ち回りとかが。
だからこれも修練の一環とか思い、熱中していたんだけど、時間を忘れていたようだ。
「空いている部屋あるからさ」
どうやら泊めてくれるらしい。
そういう事なら遠慮なく。
でもこれどうしよう。
脱ぐのは良いが、オレの服は何処にあるんだ。
てか、荷物はどこに行った。
あの中に着替えがあるんだけど、何処に運ばれたのか分からんぞ。
かと言って、倉庫の中のを出す訳にもいかん。
このまま寝るのは、この服がしわになるだろうし。
参ったな。
◇
「あれ、早いのね」
「荷物何処」
「え、あれ、あんた、もしかして」
「着替え無い。脱げない。寝れない」
「ああ、それならそれと言いなさいよ。全くもう」
やっと普段の格好に戻れました。
あんな鎧みたいな服、もう着たくないぞ。
しっかし、よくあんな服を母さん見つけてきたもんだな。
布製の鎧ってのもアレだけど、どういう使い道なんだろう。
「あんた、あのゴスロリどうすんの」
「なにそれ」
「あんたが着ていた服よ」
「あれってそういう名前なのか」
「知らなかったのね」
「ああ、荷物の中に入れておくよ」
「しわになるからさ、別の袋に入れたほうが良いよ」
「お任せします」
「はいはい」
どうにも女の服は分からん。
◇
結局、彼女の母親に気に入られたようで……何でだろ?
暇と言ったらしばらく滞在を勧められ、客扱いもなんだとばかりに色々と手伝いなんかもやっているうちに新年になりました。
そうしたら見習いとして芸妓さんに付いてあちこちに行くようになり、滅多に体験出来ない事がやれたようです。
「あんた本格的に芸妓になるつもりなの? 」
「うえっ、あれは女がなるもんだろ」
「化粧したら誰も男だとは思わないわ。声も高いし」
「いや、さすがに女形じゃないんだからよ」
「それになれるって言ってんの」
「それは嫌だな」
「母さん、珍しく乗り気になってんのよ。だからさ、しばらく付き合ってくれるかな」
「そりゃ暇だから良いけど、4日には帰るからな。うちの両親にも新年の挨拶やりたいし」
「ならさ、うちにある古い衣装とかつらとか、母さんがあげるって言っていたから、あの格好で帰りなさいよ」
「そりゃあ、うちの母さんは喜びそうだけどさ」
「やるならこの際、徹底的よ」
「そうだねぇ」
何でこうなったんだろう。
◇
つらつらと考えて見るに、どうにも橋崎に遊ばれていたような。
それでもその母親が乗り気になっていたから、そのままの流れに流されました。
更に言うなら、あんまり突出したところを見せたくないと言うか、意趣が無いのを見せないと、下手に攻撃対象なんかにされたら困るからさ、舐められるぐらいがちょうど良いと思うんだ。
だから流された訳で。
4日の新幹線に新米の芸妓……ええと、舞妓だっけ……が乗車致しました。
さすがに注目を浴びるようで、少し後悔していました。
そうしたら、治安を悪化させる要因が、酒を飲んだのか赤ら顔でやって来まして、酌をしろとか言うんです。
なので通路の連結部の辺りでアジトに転送しておきました。
新春、空間転送の芸、お後がよろしいようで。




