第二十八話 大阪城迷宮化計画?
複数人の会話だと誰が誰か分からないという指摘を以前受けましたが、芝居の台本っぽくなるのであえてやってません。
雰囲気と口調で察してくれれば幸いですが、無理ならスルーしてください。
そうして冬休み到来となり、オレはもうじき待ち合わせの場所へ向かう。
早朝の時間帯は朝に弱い奴を考慮して、昼前の新幹線で現地に向かう事になっている。
母親はやはり心配しているが、だからと言って女装の道具を荷物に詰め込もうとするな。
「でもね、何かあったら別人になったほうが安心でしょ」
それはただの言い訳だろ。
てかさ、趣味の話はこちらだけにしておいてくれよな。
「じゃあ、向こうで着替えたら良いのよ。そうだわ、それなら綺麗におめかし出来るもの。そうと決まれば、さあ、こっちに来て」
いかん、また始まっちまった。
洒落にならねぇだろ。
さすがに関西にまで親の趣味の範囲を広げられたら困るぞ。
誰か、何とかしてくれぇぇ。
◇
結局、無駄でした。
父さんもこの件に関しては頼りにならず、さすがに旅行にまでは嫌だと言ったんだけど、今回限りだから我慢してやれと、逆に父さんに説得される始末。
冬服の可愛いのが見つかったと、それはそれは喜んでいたから止められないと言われてはな。
けどさ、これはさすがに無いだろ。
「あらあら、やっぱりそうなったのね」
やはりこいつも付いて来るんだな。
何かの組織に所属しているようだが、オレは藪を突く趣味は無い。
しかもあんなスキルとか、常人には対処出来ない代物だ。
となると、陰陽系か魔術系か、その類の関係者だろう。
そんな相手の藪とか、突いて良い事は何もあるまい。
ならば、素知らぬ振りしてそれなりに付き合うしかない。
「これはさすがに酷いと思うだろ」
「いーえ、似合うと思うわよ」
「はぁぁ、オレの味方は誰も居ないのか」
「あはは、家では味方が居ないのね」
「父さんに説得されるぐらいだ」
「それじゃ諦めるしかないわね」
「うおお、またかぁぁ」
やっと到着だが、その格好は何だ。
「スーツかよ」
「まあ、これぐらいはしないとな」
「格好、良いです」
「そ、そうか」
「あー、熱い熱い」
「お前、この寒さが熱く感じるとか、凍死寸前かよ」
「本当に朴念仁よね」
「何だ、坊さんの名前か」
「意外とそうかもね」
「大陸の古い時代とかに居たんじゃないのか? 朴さんちの念仁君とかで」
「ああ、そうかもね」
「ほお、新たな見解か」
「てかさ、今は違うでしょ」
「時間、そろそろ、だよ」
「あああ、忘れてたぁ」
「急ぐぞ」
「は、はい」
◇
そうして一同は改札口へと走り、何とか乗車に成功する。
さすがに体力の無い女子は疲れた様相を見せているが、オレと金太は平気の平左。
「それにしてもタフよね」
「まあ、これぐらいはな」
「むふふです」
「はああ、もう、そういうのは2人だけの時にしてよね」
そう思うのなら同行しなきゃ良いんだが、何か理由でもあるのかな。
「なんで、お前も同行になったんだ」
「あー、幼馴染なのよ。だからさ、一緒の高校に行くって話になって、居候になってんのよ」
「新浜は温泉ホテルの娘で、お前はそこの従業員の娘とかか」
「違うわよ。うちはちょっとまあ」
「あのね、舞妓さんのね」
「あああ、内緒だと言ったでしょ」
「そうだっけ」
「はぁぁ、もう良いわよ。あのね、うちの親がさ、芸妓の師匠やってんの」
「舞妓とは違うのか」
「それは半人前の呼称よ。一人前になったら芸妓と呼ぶの」
「それは知らなかったな」
「関東だと芸者かな」
「ああ、そういう事か。けど、さすがに詳しいな」
「まあ、これぐらいは知識の内にも入らないわよ」
ふむ、すると、温泉旅館の娘とそれに呼ばれる芸者の師匠の娘、という関係か。
幼馴染でそういう関係だと、そのまま行くと宿の女将と芸妓の師匠という関係になるのかな。
それでわざわざ関東の高校って事は、そういうのが嫌で逃げたのか?
踊りの師匠の娘だと、普通なら親の跡を継ぐ事になるだろうけど、それが嫌だったから渡りに船で
幼馴染に同行したって事か。
となると温泉旅館の跡を継ぐのは金太って事になるのかな。
世間では金太のような立ち位置は男の夢とか、そういうのを聞いた事があるぞ。
まあ、オレはもう手離した立ち位置だからどうでも良いが、本来ならそういう流れになっていたのかも知れんな。
そういう事なら例の計画、金太をメインでやらせるか。
温泉旅館の女将の旦那なら、時間はいくらでもあるだろうし。
◇
新幹線は一路、関西へと走る。
疲労困憊の面々を置いて、金太を誘ってトイレという名目で人の居ない通路の外れで計画を話す。
「大阪城迷宮化計画? 」
「さすがに皇居は恐れ多いからな、次善の策だ」
「お前が恐れ多いとか、珍しいな。別の種だから関係無いとか言わないのか」
「神も違う種族だが、あからさまに反逆しようとは思わないだろ」
「それは能力の差だろ。今の天皇にどんな力があるよ」
「そうか、お前は分からないんだな。確かに表向きの力は見えないが、隠された力と言うか、その長きにわたる血筋の力と言うか、そういう積み重ねられたものにはおいそれとは抗えないんだよ。オレも1500年が近いが、あっちはもっと上だしな」
「そんなものがあるとはな」
「その点で言えば、神はもっと上だ。遥かな時の積み重ねを感じる相手など、抗うだけ無駄だ。自殺志願ならば話は別だが」
「それならそれで良いとして、その迷宮化計画ってな、どうやるんだ」
「そりゃあもう、あちらのような殺さずの迷宮にするさ。そうして、やろうぜ、冒険者ギルド」
「くっくっくっ、ダンジョンマスターがギルドマスターって何の冗談だよ」
「ギルドマスターはお前だ。オレは名目上は敵になるんだからよ。だからとっさと組織を作ってよ、来る日に備えておけよ」
「まるでインサイダーだな。けど、そういうのも面白そうだ」
「実は迷宮の中では、スキルが使えたり」
「マジかよ」
「さすがにゲーム程の完成度は無いが、簡単なスキルは使えるようにするさ。例えば探索のスキルとか、開錠のスキルとかな」
「それだけでもかなり違うぞ」
「そうだな。ギルドカードを持ってないと使えないようにするか」
「くっくっくっ、そいつぁありがたいぜ」
「だから名目を考えとけよ。例えば、システム解析に成功して、あたかもゲームのスキルみたいな事がやれるようになったとかな」
「それ、そのまま使わせてもらうぞ。なんせオレにはそんなの、考えられねぇからよ」
「まあ、良いだろう」
そうして金太は本当にトイレに行きかけ、立ち止まってまた戻って来る。
「どうしたんだ」
「消えちまった」
「そいつはちょいと性能が悪いな」
「お前は違うのか」
「尿意も起こらん」
「てことはあっちもか」
「ああ、全くだ」
「そうか。オレは便所に走って座ろうとしたら消えちまってよ、毎回、あれが嫌でよ」
「ああ、それはな、諦念が大事だ。あのな、オレもかつては似たような悩みを持っていたんだが、諦めるんだよ。そうしてな、赤子になったつもりで漏らす覚悟をするんだ。そうすれば自然と気にならなくなる。要は慣れだ」
「そこまでしてんのかよ」
「なまじ我慢しようとするから、尿意なんて感じるんだ。漏らしてやると思えば、そんなものは感じなくなる。身体に対抗するより、挑戦するんだよ。性能を破ってやると思ってな、漏らしてやるぞと思っていれば、身体のほうもそれに対抗して性能が良くなる。つまりな、それの積み重ねで今では何も感じなくなるぐらいになっている。
まああれだ、今は慣らし運転って感じかな。そうやって細かい調整のうちに、具合が良くなるんだ。だからお前も身体に挑戦してみろ。そうしたら具合が良くなるからよ」
「絶対漏れる事は無いんだろうな」
「無い無い。この1500年のうち、漏れた事など一度も無い」
「そうか、なら、やってみる」
まあ、仮だからなぁ、もしかしたら漏れるかも知れんが、そこまでは責任持てんぞ。
嫌なら向こうで処置すれば元に戻るんだし、それを言わないって事は気に入っているんだろうし、だったら多少は我慢しないとな。
それとも、元に戻してやろうか?
そうしたら暑さ寒さにもっと敏感になり、今までのような事はやれなくなる。
例えば脳筋管理と遊ぶとか、普通の人間だと大汗掻いて武器がすっぽ抜けたりするだろう。
そういうのも抑制されているからこそ、まともに戦いになるんだ。
様々な場所から出る液体固体は廃棄システムで制御されている。
だから汗臭くもならないし、トイレに困る事も無い。
大体、服に匂いが無い時点で気付けよな。
ろ過した物質も廃棄されるから、血液中の不純物が無い状態になっているんだ。
老廃物皆無な身体だからこそ、老化促進物質の無い体細胞にもなっている。
つまり、細胞を劣化させる物質すらも排除されているからこそ、年を取らないんだよ。
元に戻したらお前、すぐにおっさんになっちまうぞ。
◇
仮の処置でも知能向上の効果なのか、あいつも妙に秀才になっちまって。
以前なら考えられもしなかった、知的な作業もやれるようになっている。
だから任せようと思えたんだし、あいつの人脈にも期待ってところだ。
元々、脳筋でも気分の良い奴だったから、その交友関係はかなり広い。
しかも今では傍らの存在のせいもあり、妙な焦りも消えちまっている。
更に言うならオタクの気もあるから、その手の組織には憧れもある。
それがリアルな世界に出来て、なおかつそれを組織するのが自分とか、オタク冥利に尽きる話だろう。
そうなれば同好の士を募って組織化するのも容易いだろうし、その意欲は尽きる事もあるまい。
そうして実際にギルドカードでスキルが使えたら、磐石の存在になるだろう。
なんせ他の組織のカードでは、そんな奇跡は起きないんだから。
もっとも、そんな美味い話、国がちょっかい掛けないはずもない。
そこで何処まで突っ張れるかがあいつの器量になる。
くれぐれも全て盗られた単なる出先機関なんかにするなよな。
そんな組織に協力など、したいとも思わないんだからよ。
ある種の挑戦
12月26日 某県某市某駅構内
サトシが「スーツかよ」と、問うと金太は「まあ、これぐらいはしないとな」と答えた。
そうすると金太の彼女である、新浜が「格好、良いです」と、フォローを入れる。
それを聞いた橋崎は「あー、熱い熱い」と、冷やかすような口調で話しかけた。
そこでサトシは「お前、この寒さが熱く感じるとか、凍死寸前かよ」と、見当違いな話をする。
それを聞いた橋崎は、溜息をついて「本当に朴念仁よね」と答えた。
その意味に気付かないサトシは「何だ、坊さんの名前か」と、真面目な顔で問う。
そうすると、それを聞いた金太は「大陸の古い時代とかに居たんじゃないのか? 朴さんちの念仁君とかで」と、更に見当違いな話に持って行ってしまう。
そうなるともう橋崎は付き合いきれないと、投げやりに「ああ、そうかもね」と答えるしか無かったようだ。
それなのにサトシは更に「ほお、新たな見解か」と話し、話は全く違う方向に走り出そうとする。
それを食い止めようと橋崎は「てかさ、今は違うでしょ」と、話を戻そうと努力していたが、親友の新浜がそこで「時間、そろそろ、だよ」と、我関せずとばかりに事実を通達する。
そこで皆は一様にハッとして、まずは橋崎が「あああ、忘れてたぁ」と叫んだ後、金太が「急ぐぞ」と傍らの彼女に告げる。
それを受けてて新浜は「は、はい」と答えた。
そして一同は改札口へと走っていく。
つ、疲れた。
やはり無謀でした。
という訳で(どういう訳だろう)次の更新は13日です。




