第二十七話 関西弁の練習か?
こちらの世界はすっかり元通りとなり、勇者召還など最初から存在しなかったかのような佇まいを見せている。
一時はその手の趣味持ちが騒動を起こしたが、あれらは既に隔離の中にある。
それが病院か牢屋かの違いはあるが、世間からは切り離されているので、彼らの影響は無い。
そうして秋の行事も滞りなく終わり、オレ達はその力の片鱗も出さない事に終始した。
特にあいつはうっかりとその力を出しそうになり、その制御で妙に挙動不審になっていた。
それでも何とか無事に終わり、テストでも手を抜いて何時ものような点でお茶を濁していた。
秋も深まる中、2人の仲も深まり、あいつも落ち着いた様相を呈している。
知能向上の恩恵なのか、それとも本能が満足したのか、それが妙な自信に繋がり、まるで別人のような佇まいを見せている。
つまりだね、元々脳筋だったのに知能がプラスされた結果、あたかも文武両道のような感じになっているんだ。
いくら手を抜いたテストでも、普段の授業の態度で何かが変わったと思われるのか、皆から寄せられる信頼が深くなっている。
傍目にはリア充だが、傍らの存在が引っ込み思案な少女なので、元々、そいつを悪く言う奴は居なかった。
だからそこまでやっかまれる事も無いし、その少女の恩恵であんなに変わったんだと思われて、まるで内助の功みたいな感じに思われている。
だからなし崩しのように2人の事は認知され、今では当たり前の存在として皆の態度は変わらない。
これがなまじ強気な態度だとやっかみの標的になるんだろうけど、かたや元脳筋、かたや気弱となると、こんな結果になるんだな。
それはともかく、冬の到来の足音の響く中、冬休みの話題もちらほらと出るようになった頃、あいつらの挙動がまた少し怪しくなる。
これは何かの計画があるな。
◇
「勇者召還なんて最初から無かったんや」
いきなり何を言っているんだ、こいつは。
「関西弁の練習か? 」
「せやで」
「熱は無いな」
「あ、あの、うちは、そういうの、気にしない、ですよ」
「せ、せやけど、関西の、実家、やったら、やっぱ、こういうの、やらんと、あかんやろ」
「自宅訪問か」
「冬の、休みに、一緒に」
「ああ、お嬢さんを僕にくださいってのをやるんだな」
「うわぁぁぁ」
「いえ、そんな、その」
どうやら冬休みに彼女の実家に行くらしく、それが関西だからと方言の練習をしていたらしい。
山の中の温泉場から、こちらの親類を頼っての学生生活らしく、休みにはいつも帰省していたらしい。
そして今回、彼氏が出来た事から同行になったんだろうが、ちょっとスキルが強すぎたかな。
まだ高2だから学生結婚は出来ないぞ。
しかし、何で男と女で結婚可能年齢が違うんだよ。
そういうのって権力者の茶々としか感じないぞ。
つまり、若いおなごはんを手篭めにするに、可能年齢を下げてやればあんじょう巧く行く……いかん。
あいつのを聞いていたせいか、オレにまで移ったぞ。
と、とにかく、そういう権力が関与しての違いだとしたら、余計なお世話ってもんだろう。
ただでさえ男のほうが平均寿命が短いのに、その気になったらすぐに結婚出来るようにしなくてどうするよ。
それでよく少子化が拙いだの、男女平等などほざけるもんだ。
まあ、そんな事はともかく、冬休みか。
うっかり家に居るとまたぞろファッションショーに強制参加になっちまうし、ここはひとつ、あいつに付いて行くという名目で逃げるか。
なんせ今ではもう、当たり前のように家に帰ると普段着が女物になっちまっているんだ。
そうやって普段からガス抜きをしないと、休みの日には朝から晩までの、強制ファッションショーになっちまう。
なまじ身体的欠陥を抱えているから、無下に断れないからとなし崩しになるが、さすがにあれはオレも嫌だぞ。
父さんも事これに限り、何も言えないどころか一緒になって騒ぎやがって。
普通の男子だととっくに切れてるぞ。
◇
「お前も来る? 何かあるのか」
ちょっと思い付いた事があり、それで便乗という形にすると伝える。
実はあのアジトなんだけど、本格的に調査とかになっちまって、強制収用はさすがにやれないからと、国での買い取りになっちまったんだ。
その時に、相手が妙に強気だったから、こちらも強気で対処したら、どうやら空威張りだったみたいで、今度は逆に弱腰になったんだ。
そして散々、宮仕えの愚痴みたいなのを聞かされて、ウザいからつい投げやりになり、契約に到ったんだけど、それなりの金額での受け渡しになった。
もちろん、それは土地の表面と家屋だけの取引だから、地中の事は関係無い。
だけどもこれからは、表に出せない存在になるだろう。
そういう場所へ検証の人員を配するのはちょっと無理があるし、あん時はキレていたからつい、容赦の無い迷宮にしちまっている。
そうなれば一般人なんかは入れない場所になるだろうし、事に因るとそのまま封鎖になるかも知れない。
確かに欲を刺激するような造りにはなっているが、生憎とこちらのモラルは向こうより高い。
だから欲より正義感の強い人が押し切れば、そのまま永久封鎖になる可能性すらある。
確かに人員を送り込んで誰も帰らなければ、送り出した人の責任問題になるだろう。
そうやって欲の強いのが淘汰されれば、嫌でもまともなのが台頭する事になる。
そうして封鎖の話になればもう、迷宮の機能は意味を無くする訳だ。
だからと言ってそこに立ち入るもの大変だ。
なんせ、そういう欲を刺激する場所と言うのは既にバレているんだし、その対処は徹底的になるだろう。
それこそ、24時間体勢での警備とかになるか、コンクリートで完全封鎖とかになるだろう。
そんなどっかの国のメルトダウンした原子炉を封印したような場所に、おいそれと侵入などやれる訳が無い。
まさにあの場所はそういう指定を受けてしかるべきになるだろうし、そうなったらもう単なるアジトとして使うしかない。
となれば、迷宮は他の場所に作るしかない訳で、その場所の策定の為の調査が必要になる訳だ。
だから同行するんだよ。
「まあ、行った先で別行動になるなら構わんが」
「それは間違い無い。ただな、以前の言い訳のせいで、単独での移動は心配するし、行き先が決まってないと反対される恐れがある」
「ならよ、向こうはどうなっているんだ」
「あれはな、お前の家に泊まりに行った事になっている」
「うおおぃ、そういう事は前もって言っておいてくれよな。オレはお前の家に泊まり込みだと言っているんだぞ」
「なんだ、お互い様か」
「両方の親が面談しない事を祈るしかないな」
「実は某所でこっそりと」
「そういうのはその手の奴らが聞くと誤解するぞ」
「共に汗を掻き、呼吸も荒くなり、興奮して、熱中する」
「普通に聞いたらアッチの趣味だな」
「相手を殺す事しか考えなくなり、その実現の為に真剣に努力する」
「まあ、そういう感じにはしているが、お前はマジに殺すからな」
「いーや、配下を殺すはずが無いだろ。あくまでもつもりだ」
「そこら辺の許容が違うんだろうな。やっぱり実際に経験があれば、その寸前が分かるんだろうが、オレには経験が無いからさ、何処までやれば死ぬかが分からん。だからそのかなり手前でブレーキを掛けちまうんだ。そいつを何時も言われるんだが、こればっかりはな」
「お、それならな、向こうで盗賊退治でもするか? あいつらなら殺し放題だぞ」
「うっ、いや、そのな、罪には問われないとは思うが、いきなり言われるとさすがにな」
「ふーん、なら、盗賊のアジトに強制転移させちまうか。それなら嫌でも殺さないと殺されるか奴隷にされちまうからよ」
「待て、待ってくれ。そういうのは心の準備がだな」
「心配するな。すぐに引っ張ってやるからよ」
「だから待てって、おい」
《異界転送術》
おーおー、いきなり戦いになってますな。
まあそうか、酒盛りの真っ最中に、その料理の上に転送したから、折角の食い物が台無しになったんだ。
そりゃ誰でも怒るよな。
しかもその料理、ボスの手料理なうえに、手下も散々試食に付き合わされた結果、ようやく食べられるような代物となり、その集大成を今からって時に、それが食えなくされちまったんだ。
そりゃあもう、半狂乱になるに決まっている。
しかも、そんな女ボスだから、手下も信奉しているみたいで、余計に引っ込みが付かなくなっているんだ。
実はこの盗賊連中だけど、うちの迷宮の転移拠点近くにアジトを構えており、そのせいでその転移拠点を訪れる新米冒険者を狙って困っていたんだ。
だからと言って待機要員に任せてうっかり冒険者に見られたら、討伐依頼になってしまうかも知れない。
だから手出し無用と言っておいたんだけど、料理まで覚えて長期滞在とか、いい加減排除しようかと思っていた矢先、あいつが殺しの経験がどうのこうのと言うから、渡りに船とばかりに送っちまったんだ。
お、そろそろ終わったか。
◇
「この野郎、殺してやる」
おーおー、すっかり出来上がっていますな。
しばらく一緒に遊んだ後、残骸を全て回収して共に戻る。
「はぁぁぁ、やっぱり勝てねぇな」
「どうだ、ブレーキを踏む場所は分かったか」
「ああ、大体な。けどよ、もうあんなのはこれっきりにしてくれよな」
「さて、オレは帰るが、お前、その血だらけの身体を何とかしろよな」
「うおおおお、ヤベぇぇぇ」
「お巡りさん、こちらです」
「やめろー、洒落になってねー」




