第二十三話 向こうでオレに何かしなかったか?
システムに頼んだら、こちらのスキルに転換してくれて組み込んでくれた。
なので往復も可能らしいが、向こうの様子はどうなっているのかなと見てみた。
そうしたら妙に大騒ぎしているようで、新聞の見出しを見たら"行方不明の生徒発見される"と書いてあった。
つまり、行方不明で死んだ事にされていたのか。
それなら一度戻って始末を付けて来ないと拙いな。
◇
つい先日から始まったあの国の斜陽を眺めていたが、それももうじき終わるようだ。
3カ国で分割統治になるとかで、またひとつ国が消えた事になる。
勇者の召喚直後という時期が悪かったのと、召喚した勇者達が全て消えたという事が命取りになったようだ。
計画通りだな。
さてと、当分はまた向こうに滞在する事になるとは思うが、今度はコンタとチビとルフを連れて行こう。
ルフには悪いが番犬もどきになってもらい、コンタとチビはうちのペットとして。
それで何とかなるだろう。
なんせ、オレにべったりなのはコンタぐらいで、皆は自立して好きに暮らしているんだし。
まあ、チビとルフは仲間になったばかりだし、しばらく同行で構わないさ。
土産も宝物倉庫にてんこ盛りにしておいたし、資料室にも山積みにしておいた。
足の早いのは食料保存庫に詰め込んでおいたし、あれでしばらくは退屈もしないだろう。
どうせ幹部連中は長寿なんだし、100年ぐらいなら久し振りで終わる話だ。
そうと決まれば脳筋のあいつを引き取りに行かないと。
◇
「おらおらおら、もう終わりか」
「なにおぅ、負けるかよ、この野郎」
「はっはっはっ、人族の癖に根性あるじゃねぇか。気に入ったぜ」
「まだまだぁぁぁ、来いやぁぁぁ」
「それそれ、足がもつれてるぜ」
「くそがぁぁぁ、負けて堪るかよ」
ドスッ、ガスッ……
「乱入~あれ、ダブルノックダウン? 」
「お、お前、また、強く、なって、ねぇか」
「……」
「こいつ、連れて行くぞ」
「ああ、楽しかったと、伝えておいてくれ」
「それでな、またしばらく留守にする。だから好きに遊んでいろ」
「ああ、ここなら存分に遊べるな」
「良かったろ、配下になって」
「まさかこんな場所があるとはな。そういう事なら早く言えよな」
「あの頃にはまだ出来てなくてな、最近だよ、多くなったのは」
「そうか」
「ホーマックにも伝えておいてくれ」
「ああ、伝えておこう」
ひょいと担いで連れていく。
さあ、一度帰るぞ。
◇
「番号と名前」
「1番、コンタ」
「2番、チビ」
「ウォンオン、ウォフ」
「……」
「よーし、ではこれより、異世界旅行を開始する。準備は良いかぁ」
「はーい」
「バッチリ」
「ウォンウォン」
「……」
《異界転送術&逆行術式・極》
これで自らを飛ばせるはずだ。
こっちで調べに調べた数百年の結論だ。
当時はどうしても戻りたくて、世界中の文献を調べまくり、2つの術式の混合で可能という結論に達していたんだ。
ただそのスキルは普通では手に入らない代物のようで、それがどうにもならずになっていた。
だがその普通以外の方法にやっと手が届いたと思った時、有無を言わさずなりふり構わず、取得に向けて全力投球したのさ。
そうしてこうなって満足だよ。
《発動》
ふうっ、到着だ。
さて、騒ぎは嫌だからスキル全開で誘導しまくるぞ。
◇
気絶したあいつはそのまま家に放り込み、オレ達は自宅に帰る。
オレとあいつは気付いたら樹海のようなところに倒れていて、途中で知り合った動物達に助けられ、何とか無事に帰って来れた。
そういう筋書きで誘導しまくった結果、他の奴らとは違った結果になった。
クラスメイトの女子2名は余計な事を言わずに何とか無難にやり過ごしたが、中二病の奴らが精神鑑定になった後、不心得者が現行犯逮捕になり、残りは反面教師にして黙して逃れたという感じになっているようだ。
やはり勇者のスキルはあの世界限定のようで、転換してもらっていて正解だったな。
中二病が拗れたのが限度を超えたと思われたようで、あるはずなんだ、使えるはずなんだと煩くて、遂には病院のお世話になったらしい。
かと思えば妙な強気な奴が強盗をやった挙句、何かをやろうとして、あれっ、あれっと言っているところで現行犯逮捕とか。
好きだった女に、魅了、魅了と騒いで余計に嫌われたりと、使えるはずの使えないスキルでかなり混乱があったらしい。
そんな訳でオレ達は、誘拐されたけど何かの理由で別行動となり、何とか無事に帰って来れたって事になり、結果的に夏休みの終わりの小旅行の結果という筋書きに落ち着いた。
つまり富士山を見に行こうとして何かの事件に巻き込まれたが、何とか無事に帰って来れたという認識になっている。
その事はあいつにも徹底して教えてあり、口裏を合わせる事になっている。
そんな訳でうちの両親は、多少過保護になったものの、大した混乱もなく迎え入れられている。
もっとも、周囲の細々とした辻褄は、どういう訳だが調えられていて、現在は以前と変わらない様子になっている。
そうして庭には犬小屋が置かれていて、ルフは中でのんびりと横になっていて、その屋根ではコンタとチビが日向ぼっこをしている。
コンタはオレが家に居る時は大抵そこに居て、どこかに出かける時には腹に張り付いて自動防御を開始する。
冬場なら襟巻きとかファーもあるが、まだまだ暑い盛りでのそれは、オレは良くても周囲が異様に思うから止めさせた。
そうしたら腹に直接張り付くので、下着とワイシャツのサイズのでかいのを買う羽目になりはしたものの、何とかなっている。
ただ、クラスメイトに最近、腹が出て来たんじゃないかと言われて、夏休みは食っちゃ寝だったからなぁと、笑って誤魔化している。
後は母さんの趣味の調整はしなかったんだけど、少し後悔している。
「次はこれよ」
「あ、ああ」
「はーい、こっち向いて」
「あ、ああ」
パシャリ……
「次は、これを着てみて」
「あ、ああ」
しまった、少しは下火にしておくんだった。
◇
最近、あいつはログインしてないらしい。
そういうオレもやってないが、あいつはもう飽きたのかな?
「いやな、なんかこう身体の調子が変なんだわ」
あ、限定解くの忘れてた。
「え、どういう風に」
「それがな、メシをいくら食ってもいくらでも食える感じでさ、なのに便所に行きたくならないんだよ」
やっぱり。
準迷宮管理な身体のままだ。
以前、システムに聞いてみたら、収納空間とは別の空間に廃棄物を捨てているらしく、だからトイレの必要が無いって言っていたな。
仮だから収納空間自体は無くても別空間は付けたのね。
「ま、まあ、便利で良いじゃないか」
「それはそうなんだけどよ、やっぱりそれって病気だよな」
「医者に行ったのか」
「原因不明と言われたよ」
まあなぁ、科学じゃ魔術的な変革が分かるはずも無いわな。
「なんかよ、食い物のカスが消えてるらしいんだわ」
うんうん、別空間廃棄システムだな。
「便利な身体になったって事で、前向きに考えようぜ」
「そういやお前、向こうでオレに何かしなかったか? 」
鋭い! 脳筋の癖に。
「それよりさ、ゲームをどうするんだ。攻略はもうやらないのか? 」
「今、あからさまに話題を変えたな」
うぐ、そういや、知能向上されてんのか。
それで妙に鋭くなっているんだな。
ううむ、明かしても構わんが、どうすっかな。
「ほら、お前、しばらく滞在したいとか言っていたろ。なのに戻ったらおっさんになっていたら嫌だろ」
「もしかしてだけどよ、お前みたいな身体になってんのか」
「仮だよ、仮。こっちじゃそのままだけど、向こうに戻ればすぐに戻せるからよ。なんなら今から行くか? 」
「いや、原因が分かれば良いんだ。それよりメシをどうすればいい。お前も大食いには見えねぇぞ。オレが食っている時も酒飲んでいただけだし。何か専用の食い物とかあるんじゃないのか」
どうしてそこに気付くかな。
参ったなぁ。
だけど人間にはやれない事なんだよ。
「ある事はある。だが、お前の口には合わんよ」
「そんなに不味いのか」
「いや、極上の風味と舌触りは毎日でも欲しい位だ」
「なあ、オレにも分けてくれよ。あんなに食ってたら食費とかバカにならねぇしよ」
仕方が無い。
次善の策でお茶を濁すか。
「お前、卵は好きか」
「まあ、好きっちゃあ好きだけどよ」
「かき混ぜた卵に砂糖を大量に入れてな」
「うっぷ、何だその、胸焼けしそうなのは」
「まだ続きがあるぞ。更にかき混ぜて今度は摩り下ろしたニンニクをたっぷり入れて、そいつにビタミンドリンクを1本入れるんだ。そうしてグリグリとかき混ぜて最後に水あめと蜂蜜を……」
「も、もう止めてくれ。聞かない。聞かないから」
辛党のお前に甘党の話は付いていけまい。
効果はばつぐんだ。
「それならよ、肉の食い放題の店に行けば良いだろ」
「おおうっ、その手があったかっ」
実に単純である。
「今、身体は丈夫になっているから、レアで食うんだぞ」
「そうなのかよ」
「肉はレアが一番美味いんだ」
「ああ、そうしてみるさ」
レアなら幾分、補給の足しになるだろうさ。
「よし、こいつはカンパだ。ガッコの帰りにあったろ、国産和牛食い放題の店」
「あの高い店かよ」
「高くても大食いなら元は取れるだろ」
「まあなぁ。奢りなら行っても良いけどよ、そう毎回って訳にはいかねぇからな」
「その封筒の中を見てから言え」
「おいおい、10万も入っているぞ」
「当座の食費だ」
「お前、金に余裕があったりするのか? 」
「当たり前だろ。オレが何を所有している。ポイントで札束も得られるんだぞ」
「マジかよ」
それは本当だ。
だから稼ぎであれが欲しいって奴が多くてな。
もっとも、住民にはコレクションにしかなってないけどよ。




