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第二十四話 どうして使えるの?

  

 向こうとこちらでは時の流れが違うのか、こちらでは秋祭りの真っ最中である。

 少なくとも4ヶ月は向こうで過ごしたはずが、こちらでは2ヶ月ぐらいの騒ぎだったらしい。


 そして秋祭りと言えば縁日である。


「良いでしょ、今夜」

「それは構わんが、あいつも誘っていいか」

「そうね、まあいいかな」

「わ、私も、行く、んです」

「そうか、楽しみにしておくぞ」

「は、は、はいっ」


 あれ、妙にニヤニヤして、何かあるんだ?


「橋崎、何がおかしいんだ」

「いーえ、何にも」


 よく分からんが、まあいい。

 それより、あいつは……ああ、居た居た。


「おーい、ノーキン」

「ぶはっ、だーかーらー、その仇名で呼ぶなつったろ」

「けどよ、納谷のうや金太きんたで略してノーキンだろうが」

「略すな」

「んじゃ、夜勤はどうだ」

「んな、将来が不安になるだろ。夜ばっかりの仕事にされたらどうするんだよ」

「お、こいつは名前に夜勤が入っているな。こいつは生まれながらの夜向けだ」

「やーめーろー」

「それはそれとして、今夜、縁日だからな」

「なぬっ、誰と行くんだ」

「橋崎と新浜」

「オレも、オレも」

「だから誘ったんだろうが」

「いよっしゃぁぁぁ」

「煩いぞ、ノーキン」

「あ? 今、誰が言った、コラ」


 あー、じゃれるのは良いが、身体能力が上がってんのに、以前みたいにやると……あーあ。


「悪い悪い、ちょいと力が入っちまった」

「てめ、やけに強くなってねーか。おー痛」

「そうかな」

「夏休み、何かやってたのか」

「ゲーム三昧だな」

「ゲームで慣れたのか、戦い方とか」

「あー、それはあるかもな」

「オレもやろうかな」


 お前は向こうで脳筋管理と遊んでいたろ。


 確かにあいつはかなり手加減していたが、楽しそうにしていた。

 つまりそれなりに戦いになっていたって事だ。

 あいつは実践的な戦いを好むから、そんなのに影響されたら嫌でも強くなっちまうだろ。

 しかも身体は準迷宮管理に強化されてんだし、今までのつもりでやっていたらとんでもない事になっちまうぞ。


 こりゃ早いとこ自覚させないと、死人が出ちまうかもな。



 ◇


(おかしいな。やけに理解が及ぶと言うか、オレ賢くなってねーか)


 あいつは問題を当てられて速やかに解き、席に戻りながら首をひねっている。


 もしかしてあいつ、システムにデフラグでみたいな事をされたんじゃないのかな。

 だから知識向上と言うよりは、知識の整理みたいな事になっているのかも。

 コンピュータで考えてみれば、雑多な記憶の整理が成されれば、思考する容量が増えるってもんだしな。

 特にあいつはオタクだから、余計な知識が大量にあったとして、それらが整理されたらかなりのスペースの確保にならないか。


 もしかして、そういう色々な知識のせいで、物事を深く考えられなくなっていて、それで自然と脳筋になっていったのだとしたら、今のあいつはオタクになる以前に近い思考能力を持っているって事になりゃしないか。

 それがどれだけの物かは知らないが、もし賢くなったと感じるのなら、相当の量の脳の容量をオタク知識に占有されていたって事になるな。


 授業はつつがなく終わり、それぞれは帰宅の準備にはいる。


 もっとも部活の連中は今からが本番とばかりに、授業中では見られなかった表情を見せている。


「帰ろうぜ、サトシ」

「忘れてないだろうな、縁日」

「たりめぇだろ、それを楽しみにしてたんだぜ」

「そんなに楽しみだったのか? あれだろ、早い話がゲームで見たような露店だろ。確かにああいう店を見て回るのは楽しいが、そこまで楽しみだと言われるとな」

「そうじゃねぇだろ。女と縁日ってのがいーんだろうが」

「どういう風に? 」

「おま、何も思わねーのかよ」

「何を思うんだ。誘われたが、今日の予定は無かったからまあ良いかなと受けただけだぞ」

「はぁぁ、もったいねぇな」

「まあいい、帰ろうぜ」

「やれやれ」


(こいつ、ツラが良いってのに、その手の話に興味がねーのかよ。もったいねぇな。オレなら積極的に色々……あれ、以前ならこんな事を考えていたらムラムラしちまうのに、妙にならねーぞ。おっかしいな。まさか、そんなのもいじくったんじゃねーだろうな。おいおい、オレ、やれるのかよ。なんか心配になってきたぞ)


 ◇


 家に帰ってうっかりと母さんに縁日の事を話してしまった。


 本当にうっかりでした。

 今ではかなり後悔しています。


「うん、これで良し」

「なあ、本当にこれで行かなきゃいけないのかよ」

「さあ、次はお化粧よ」

「なあ、母さん。止めようよ、こういうの」

「ほらほら、そこに座って」

「相手はクラスメイトなんだよ。噂になったら困るだろ」

「はい、動かないの」


 ダメだ、話を聞いてくれない。


 まあ、変装の参考になるからこういう手法を学ぶのは有効だけど、男の子としてはこういうのは嫌がるものだよな。

 いかんな、向こうでの時が長すぎたせいか、そこら辺の機微が分からないぞ。


 そうだよなぁ、あらかた1500年か。

 吾ながら長く生きたもんだよな。


 ふと気付いて前を見ると、鏡には見知らぬ少女が……オレかよ。


 おいおい、化粧の技法でここまでになるのかよ。

 いやはや、女というプロに掛かれば、こんなになっちまうのかよ。


 参ったな。


 今までのオレの変装の研鑽など、足元にも及ばねーぞ。

 ううむ、これは参考になるな。


 じゃなくて。


 そんなこんな考えている内に、すっかり完成になったようで、これまたいつの間にか用意していたらしい靴まで履かされて、母さんに送り出されてしまった。

 こうなったら腹を括るかと、開き直って縁日の待ち合わせ場所に向かう事になる。


 ◇


(中々、来ない、ね)

(おっかしいな。そんな準備とか、女じゃあるまいし)

(うわぁ、綺麗な人)

(ああ、ありゃ勝てないわ。あんなのが近くに居たら目移りされるわ)

(こっちに、来る、よ)

(うわ、止めてよね。比べられるとか最悪よ)

(よっ、あいつはまだか)

(珍しいわね。アンタのほうが先に来るとか)

(そりゃ、まあ、なんだ)


 話が弾んでいるようだが、何の話をしているんだろう。


「ねぇ、何の話? 」

「な、何です、か」

「え、知り合い?  」

「ちょ、オレじゃねぇよ」

「縁日、行くんだよね」

「関係無いでしょ」

「そっちから誘っといて、今更それは無いよね」

「え、そんな、嘘でしょ」

「おいおい、お前の母親の趣味ってな、ここまでなのかよ」

「オレの話を全く受け付けてくれねーんだ。もうああなったら止まらねーぞ」

「それにしても普通はここまでは受けないと思うんだけど、ひょっとしてその気があるんじゃないの? 」

「母さんは女の子も欲しかったと言うんだ。もう産めない身体なのに」

「えっ」

「オレを産んだ後、そういう身体になっちまったらしくてな、だからせめて可能な限り叶えてやろうと思っている。オレが堪えれば良いだけの話なら、特に問題は無いからさ」

「そうだったんだ、ごめんなさい、そんなの知らなくて」

「いいさ。オレも母親のそんな話、言いたくも無かったから知らないのも当たり前だ」

「本当にごめんなさい。女としてそれは辛い……うん、本当に辛い事だわ。それを……」

「可哀想、です」

「ああ、しんみりさせちまったな。まあいい、行こうぜ」

「う、うん、そうね。でも、どうする? サエ」

「わ、私は、いいよ、こういう、のも」

「そう? なら、それで」

「う、うん」

「サエ? 」

「あ、冴子、です」

「いいじゃん、サエで。ダメか」

「い、いい、です」

「そっか、行こうか、サエ」

「は、はいっ」


 ううむ、ルフとかチビとか、オレって2文字が好きなのか?

 そういや、コンタの時もコンにしようとして、余りにも何だとタを付けたんだったな。

 てか、チビももうちょっとまともな名前を付けてやらんとな。

 さすがに子狐の頃ならアリだが、いつまでもチビじゃ拙いだろう。


 ううむ、どんな名前が良いかな。


(最初はどうなるかと思ったけど、いい雰囲気じゃない)

(あいつ、サトシの事が好きなのかよ? )

(まあ、そういうセッティングだったんだけどね、まさかあんな格好で来るとは想定外よ)

(ああしていると、まるで姉妹か何かだな)

(あは、確かにそうね。それにしても、アンタも変わったわね)

(そうか? 自分では気付かないが)

(以前はもっとこう、ギラギラと言うのかしら、いやらしさがあったけど、今はサッパリって言うのかな、そういうの嫌いじゃないわよ)

(まあ、人間、あんな事があれば、嫌でも変わるだろ)

(そうねぇ。人には言えないけど、とんでもない経験よね)


 巷での観察の結果が有効に働いているようで、隣の女の感情は悪くない。

 手の繋ぎ方はこれで合っていると思うんだが、これは迷子の予防の目的があるのか?

 確かに普通に繋ぐより強固だから、おいそれとは離れる事は無いだろう。

 だけど、お互い迷子になる年じゃないと思うんだけど、他に意味があるのかな?


「これなんてどう」

「わ、可愛い」

「うん、似合うよ」

「そ、そう、かな」

「お兄さん、これいくら」

「可愛いね、妹さんかい」

「まあ、ね」

「よし、んじゃ半額にしてやろう」

「ありがとう」


 ううむ、さっきから妙にサービスが良いが、香具師としてそれで良いのか?

 結局、縁日を巡りながらあれやこれやと買い、隣の女を飾っていった。


(アンタ、こんなに買ってもらって)

(凄く、気前が、いいの)

(まあ、向こうであんなの持っているぐらいだし? あるのかも知れないけどさ)

(楽しかった、とっても)

(それは良かったわ。それでどう? 言えたの? )

(そ、それは、まだ)

(まあ、相手も満更でもないみたいだし、このままでも良いとは思うけどね)

(そう、よね)

(でも、はっきりさせとかないと、取られるよ)

(そ、それは、嫌)

(なら、頑張りなさい)

(う、うん)


 ふむ、こういうのも懐かしいと言うか、こんな味だったのかと再確認だ。

 そうだな、こういうのも向こうに反映させると良いかも知れんな。


 《コンタ、縁日、向こうで受けると思うか……面白そう……ふむ、研究させるか》


 それにはまず研修が必要だろうから、担当者を連れてきて縁日の研究でもさせるか。

 ふむ、そうだな……折角、仮だけど迷宮もある事だし、少し連れて来てこちらの研究でもさせるか。

 数冊の教科書が頼りだったんで、色々な事が行き詰っているんだよな。

 確かに書籍を大量導入したからまた研究は進むとは思うが、実際のあれこれをその目で見させたほうが確実なのは確かだろう。


 もっとも、人化が可能な奴が限定になるが、ちょいと検討させてみるか。


「おーおー、あんちゃん、ハーレムかいな、ええ身分やな、羨ましいわ」

「ちげーよ。てか、なんや、アンタは」

「いやな、ちーとばかり頼みがあるんやわ」

「ふん、どうせ、こいつらの事だろうが。お断りだ」

「そないな事言わんと、1人でええんや」

「しつこいぜ、おっちゃん」

「なんや、やるっちゅうのんかいな」

「ああ、覚悟しろよ。オレは今、手加減が出来ないんでな、死んでも恨むなよ」

「よいしょっと……《転送》」

「うお、消えちまったぞ」

「世界の彼方へさようなら」

「とんでもないわね」

「無敵の技だな」


 後で美味しくいただこう。


「え? そういや、どうして使えるの? 」

「そう言えばどうしてだ。オレのは使えなくなっているんだぞ」

「お前のは料理のスキルだろ」

「うわぁぁ、言うなぁぁ」

「え、どうしたの」


 ちょいと誤魔化そうかと思い、あいつが寝ぼけて食い物の事を考えていて、願いを料理関係にした事を話してやると、それが受けたのか笑いが止まらなくなった。

 そしてオレのスキルの事は忘れられたらしい。


 うん、これでいい。


「苦しい、助けて、ははははははっ」

「知るかよ、てか、誰にも言うなよな」

「ゲホッゲホッ、はぁはぁはぁ、ああ、死ぬかと思った」

「食い物の話題も出た事だし、なんか食べないか? 」

「もしかして、奢りとか」

「そんなの当たり前だろ。ほれ、行くぞ」

「やー、太っ腹」

「腹の事は言うな」

「くっくっくっ、こいつ、腹がよ」

「そういや、なんか」

「太った? 」

「これはな、ここに別の生き物が」

「うわ、止めてよね。アタシそういう話、弱いのよ」


 ああ、コンタ、可哀想に。


 すっかりエイリアン扱いされているぞ。

 まあ、モンスターには違いないから、全くの無関係って訳じゃないが。


 それにしても自動防御が腹にあると、ドスで刺されても余裕で防ぐな。

 てか、バズーカも防ぎそうなんだが、こういう世界だとオーバーディフェンス?

 そんな言葉あったかな。


 最寄の甘味屋に決めると、さすがに嫌そうだな。


「いらっしゃい」

「なんにする」

「これとこれとこれ」

「わ、私は、これと、これ」

「お前は?  」

「ウーロン茶」

「辛党だったな。えと、これとこれと甘茶」


 こちらはメニューも写真になっていて、それを見て選ぶようになっているようで、進んだとはいえ、まだまだ向こうは及んでないな。

 世界が中世なのに近代に近くなっている迷宮内だが、ここいらで産業革命といきますか。


 技術者や研究者を班にしてこちらで研修させるか。


 となるとその手の協力者が必要になるが、居なければそこいらの中小企業を買収しても構わんな。

 なるべく思考の柔らかい相手が望ましいが、どうしても無理ならスキルで何とかするしかあるまい。


 現在、迷宮内の技術水準は、魔導工学へと進化している。


 数冊の教科書が元になっているとはいえ、魔法と科学のコラボが進化して融合した結果だ。

 とはいえまだまだ魔法のほうが強いので、ここいらで科学の要素も足しておこうかと思う。

 つらつらと計画書を考えながら、対話を実行している。


 こういう並列思考にもかなり慣れていたが、最近やってなかったからちょうど良い機会だ。

 対話は別の意識に任せて、深い思考に没頭する。


 ◇


 気付いたら家の前でした。


 ううむ、どんな話をしたのかは思い出せるが、どうにも現実感が無いな。

 これが並列思考の弊害か。

 単なる記憶としてはあるんだが、それをオレがやったという実感が無い。


 まあ、実際、この手の技能は戦いに用いるものだしな。


 右手と左手での攻防に際し、並列思考で戦うとまるで違う思考に基いての攻撃になるから、相手がとまどうんだよな。

 あれで脳筋管理に勝てるようになったんだったな。

 それに右足と左足の思考も足そうとしていたんだったが、あれはまた難易度が半端無くてよ、逆に弱くなるから封印していたんだ。


 そんな事より問題は今の状況だ。


 家の中に入ると撮影会が始まってしまった。

 父さんも巻き込んで何やってんだか。

 妙にはしゃぐ父さんと、楽しそうな母さん。

 夫婦円満ならそれもまたよしって事かな。


 またアルバム作る気かよ?


 それでも2人が楽しいのなら、これぐらいの事は何てこともない。

 精々、付き合うから充分に堪能すれば良いさ。

 またもや並列思考状態となり、実現に向けての思考に没頭する。


 計画立案とその実現への実際的な運用の方策と人員の選別。

 アジトの改造とその方策や、それに必要な資材の入手方法と設置の対策。

 周囲の疑惑を生まない対策と、注意事項の制定。

 防衛に関するあれこれと、その人員の選別を任せる相手の選別。

 カモフラージュの為の建屋の活用と、その実際的な運営の手法。


 向こうの冒険者協会を模した組織の創立と、それに配する人員の選別。

 資金調達の言い訳と、その運用に対する税金の対策。

 銃刀法の埒外な武器の制定と、その使用に関する規則の制定。

 技術的な技能の教授の人員と、悪用対策と防犯の対策。

 ギルドメンバーに対する制約と、規約の制定。

 規約遵守の為の方策と、違反者の有効な対処法。

 獲得物の買取と、メンバーの取得資金の納税の確立。

 会社組織の制定と役員の選出と、それに伴う法律の確認。


 ううむ、専門職が必要だな。


 あれ、もう終わったのか撮影会。


 気付くと自分の部屋でした。

 

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