第二十二話 やっぱり帰りたいよね?
3大国は話に乗ったらしい。
そうしてもうじき勇者達は到着する。
どうやら馬車での移動のようだったが、大陸の端にある我が迷宮への道は遠いようで、2ヶ月は余裕で待つ羽目になった。
あいつはパラダイスでの日々を送り、オレは溜まっていた業務を片付け、技術開発班へのテコ入れなどをしていた。
どうして各地の転移装置の事を教えなかったのかは知らないが、何かの示威行動だったのかも知れない。
だけどそんな動きなど、大国には宣伝しているのと同じようで、かなり乗り気になっていた。
そうして3大国の準備も整った頃、ようやく勇者達が到着する。
各国の諜報員がそれを見届けた時、あの国の斜陽が始まるのだ。
そうして彼らは到着し、各国へ諜報員は走る。
統括から到着したとの連絡を受け、各自は速やかに配置に就く。
迎賓フロアの攻撃禁止対策には、隷属魔法の解除術式も組み込まれているから、通路を通っているうちに解ける事になる。
さあ、洗脳の解けた日本人達は果たして、殺し合いを望むのでしょうか。
「よく来たね」
「アンタがここの代表なのか」
「うん、そうみたい」
「実はさ、オレ達、勇者って召喚されて、ついさっきまでそのつもりだったんだけど、よくよく考えたらそんな義理とか無いと思ってさ、どうしようかと思っているんだ」
「殺し合いとか嫌だったはずなのに、どうしてかこんな事になっちゃってて」
「ああ、それはね、洗脳の魔法を食らったんだよ」
「何だって」
「酷い、そんな事を勝手に」
「本当なのか? 言ってはなんだけど、アンタ、一応は敵なんだろ」
「ところがそうじゃない」
「ああ、そうだね。サトシ君」
「あれ、居たのね」
「うん、さっき気が付いた。洗脳って本当みたい」
「わ、私も、サトシ君の事は、本当、だと思います」
「まあ、オレも召喚されたんだし」
「おいおい、待ってくれよ。召喚されてどうしてここの代表をやっているんだよ」
「それがさ、転生になるのかな。こちらに召喚されて記憶が戻って、そのまま元のさやに収まったと言うか」
「そうだったんだ」
「ちなみにここ、でかい3つの国とは不可侵条約結んでいて、冒険者ギルドの保護迷宮に認定されているんだよ。だからここを攻める国は必然的に大国の敵って事になり、ギルドの意向を無視する国とも言えるんだ。だから今頃、あの国はヤバい事になっているかもな」
「うわぁ、抜かり無いわね」
「言わばあれか。米国とロシアとヨーロッパと条約を結んでいて、国連の保護にある中で、攻撃を受けたって感じか」
「うわぁぁ、あの国、終わったね」
「いい気味だ。人を勝手に召喚とかしやがって。滅べ滅べ」
「そういう訳で、帰りたいよね? 」
「おい、まさかとは思うが」
「あの真っ白な空間で記憶が蘇ってさ、願ったんだ。世界を渡れる魔法をさ」
「うおおお、帰れるのかよ」
「うん、帰すけど、疲れたろ。久々に日本食を食べてお風呂にも入ってゆっくりとしなよ」
「ああ、お風呂」
「日本食、懐かしい」
「彼らを6番から9番に誘致して」
「畏まりました」
「食事はナンバーフォーで」
「判りました」
「何時でも帰せるから、しばらくのんびりしていても良いんだよ」
「なるべく早く帰りたいです」
「もうこんな世界嫌よ」
「じゃあ、明日に」
「ありがとう、本当にありがとう」
対処完了。
後は送るだけなんだけど、テスト要員が向こうから来てくれてラッキーだったよ。
少人数から大人数まで、やれるテストは全部やっておこうかな。
どうせ人族だし、失敗しても問題無いさ。
同じ日本人?
まあ、そうだけど、今はもうこちらの存在なのさ。
だから別に失敗しても、この場から消えれば成功と思うだろう。
行き先の指定の失敗で、南極とか海上になったらごめんな。
それでも地球上には送れるはずだし、一応成功と思ってくれよ。
あいつにも勇者達が来た事を伝えたが、もう少しこちらに居ると言われた。
どうやらノーキンパラダイスを教えた事で、あそこの奴らと意気投合し、入り浸りになっているらしい。
やっぱり同類だったか。
◇
(うわぁ、広いお風呂)
(凄いねぇ)
(あれ、シャンプーがあるよ)
(これって日本のよね)
(持って来たんじゃないの? )
(あれよ、転移とかやれるって言うから、買い物に行ったんじゃないかしら)
(ああ、そっかぁ)
(まさか異世界で刺身が食えるとはよ)
(この焼肉、やたら美味いぜ)
(ステーキ最高)
(このカラアゲ凄く美味しいよ)
(いいなここ、僕、居残ろうかな)
(帰りたくないのかよ)
(帰ったらまた苛められるかも知れないし)
(けどよ、スキルがあったら勝てないか? )
(判らないよ。戻ったら消えるかも知れないし)
(ああ、あり得るな)
◇
ふむ、残留者が出そうなのか。
それならそれで構わんが、どんな事が得意なのかな。
本気で残留したいなら、得意分野で働けるように対処してやるぞ。
獣人で良いなら嫁さんも紹介してやるし、住むところも紹介してやろう。
なんなら嫁さんの故郷の国でも構わんし、そういう勇者の子孫もかなり居るんだし。
血は争えないのか、子孫の連中も獣人好きなんだよな。
もっとも、獣人の血が混ざっているからかも知れないけど。
それはともかく、システムに授かったスキルの検証をさせようと、色々指示しておく。
この世界限定なら向こうに行って消えたら戻れないって事だし、こちらのスキルに転換出来るならと思ったのさ。
現にゲームのスキルはこの世界限定なんだし、勇者のスキルも同様の可能性がある訳だ。
それに、向こうでも使えたら戻った勇者が良からぬ事を考えたら大騒ぎになるし、その可能性はかなりあると思っている。
そんな訳で、システムと相談しての解析と再構築を頼んでおいた。
なにげにコアって優秀なんだよな。
まるでこの世界を作った存在みたいに。
まあそんな事はシステムには言わないさ。
だけど簡単に解析して再構築出来るのは、この世界のあれこれを拵えた存在ぐらいだと思うんだ。
だからもし、コアがすぐにやってくれるなら、そうなんだろうなと思っておくさ。
オレはあいつに感謝しているんだし。
◇
翌日、皆は朝食を堪能し、いよいよ戻る事になる。
既にシステムは解析状態になっていて、行使を待っている。
「着替えは気に入ってくれたみたいだね」
「至れり尽くせりだな。皮鎧なんかで帰ったら拙いと思っていたら、着替えがトレーナーとジーパンでびっくりしたぜ」
「このスカート、もらって良いの? 高そうなんだけど」
「ああ、女物はブティックで揃えてもらったからかな」
「うわ、やっぱし」
「おいおい、男物と差がありすぎねぇか」
「凄いなお前、デパートの女物売り場で大量に買い物をする勇気があるんだな」
「うっ、それはきついな」
「その点、ブティックなら裏方取引になるからな、あれこれ指定して完成で取りに行けば良いだけさ」
「そういう訳か、納得だせ」
「よし、まずは3年から送ろうか。その円内に収まってくれ」
「いよいよか、高校間に合うと良いが」
「サトシ君はどうするの? 」
「オレは元々こちらの存在だったし、もうしばらく滞在するさ」
「そうなんだ」
「しばらくだけだ」
「なら、待って、いるね」
「ああ、待っていてくれ。よし、目を瞑っていてくれ。なるべく人の居ない場所を選んで送るから」
「頼むな」
《異界千里眼》
さてと、どこが良いかな。
ええと、体育館は未使用か。
向こうはまだ夜明け前のようだし、あそこなら構わんだろう。
もっとも、死んだ事になっているようだけど、どうなるかは知らんぞ。
《異界転送術》
「うわぁ、成功だ」
「次を早くお願い」
「別の場所を探しているが、狭いからお前、単独で先に送るぞ」
「どこになるんだ」
「さっき学校の体育館に送ったが、ちょうどバラけてな、うっかり重なると核融合だ」
「うげぇぇ、やべぇぇ」
「そういう訳でトイレの中に送るからな」
「はぁぁ、仕方ねぇか」
《異界転送術》
成功だ。
連続成功だな。
「次は? 」
「賑やかなのを先に送ったから、ゆっくりと探すさ」
「あはは、それで先に送ったのね」
「しかもトイレにな」
「あははははっ」
「よし、校舎の屋上でカギの掛かってないところを発見した。そこに送るからな」
「はい、ありがとうございます」
「残り全員、入れるか」
「なんとか、ギリギリで」
「動くなよ。円から出たら腕が無くなるぞ」
「うへぇぇ、早くしてくれぇぇ」
《異界転送術》
「残ったのは君だけだけど、本当に残りたいのか? 」
「どうせ帰っても苛められるだけだし」
「それで、得意な事は何かあるか? 」
「えと、あっ、もらったスキル」
「どんなのだ」
聞いた途端、衝動的に送り返した。
それも地域特定をしなかったので、地球上のどこかになったかも知れない。
勇者スキルがこの世界限定なのを見込んで送り返したけど、なんであんなスキルをもらったかな。
さすがにこの迷宮内で行使させる訳にはいかないぞ。
万が一、オレに効いたら洒落にならんからな。
『洗脳』『隷属』『スキル奪取』なんてさ。
本来ならクラスメイトの女子2名とか、真っ先に話しかけても良さそうなものだったが、それが無かったのはもしかしてあいつが……
だから洗脳のほうが先に解け、そうしてあいつのスキル効果が解けたのだとしたら……
そんな性根の奴を受け入れる訳にはいかんよ。
いくら苛められっ子だとしてもな。
なにはともあれ終わったな。
一名を除いて向こうには着いているみたいだな。
あいつは何処に飛んだか分からないが、まあ生きていたら何とか日本に自力で戻ってくださいな。
後は死んだ事になっているのがどうなるかだか、何とかなるならご機嫌伺いに行きたいが、その為にはスキル解析の結果を待たないといけない訳だ。
『システム……マスターと確認……どうだった……基本的には可能です……何が問題だ……それは……頼むよ……そうですね……そんなに信用ならないか……それはどういう意味でしょう……オレが世界を滅ぼすと疑ってないのかって事だ……まさか、貴方は……ありがとうな。それが例え世界の決まり事でも、色々と便宜を図ってくれているのは知っている。好きにしているようでもその裏方では色々苦労させているのも知っている。こんな思考が拙いなら、後で消去しても構わない。だから往復が可能にして欲しい……さすがは彼の。良いでしょう、その願い、叶えましょう……ありがとうございます。創造主になるのかな? ……中々の洞察ですよ』
よくよく考えれば判る事だ。
存在の再構築など、世界の中の存在の限度を超えている。
そんな事がやれるのはこの世界を造った存在ぐらいだ。
つまり、コアはその存在の出先機関みたいなもので、必要に応じて手を貸しているって感じか。
そうしてあの白い空間の存在。
妙に技能が拙いと思ったら、創造主の配下になるんだろう。
だからオレなんかに誘導されて、あっさりとこういう事になる。
つまり校長に何かやらかした存在も配下になるんだろうな。
◇
(本当に優秀ですね。彼の欠片は皆、そうなのだとしたら、彼こそは更なる上位の存在って事になります。あの話にも信憑性が増すというものです。初代とはすなわち、次元の御子だと)




