第十九話 魔王の魔石って何だ?
そうしてかつてこの国が辿ってきた歴史、そのままの語りが始まった。
「魔王は3体じゃ。出来れば全て倒して欲しいが、1体だけでもありがたい」
3体?
誰と誰と誰なんだ。
あれ程に言っておいたと言うのに、困った奴らだ。
脳筋連中には違いなかろうが、どうしてやり過ぎるかな。
「本当に倒したら帰れるのかよ」
「うむ、魔王の魔石を使えば帰れようの」
魔王の魔石って何だ?
もしかして、魔力制御の魔晶塊の事か。
あれはこの世界の生物全てが持っているだろ。
それに、あんなもん使っても何にもならんぞ。
あんなもの、精々が魔導具に使うぐらいしか無いぞ。
そもそも魔力は身体全体にあるもので、あれはただの制御を司っているだけだろうに。
ただ、制御しているから魔力もある程度は溜まっていて、それを使えば魔導具の燃料ぐらいならいけるってだけだ。
知らないと思って嘘を教えてんじゃねぇぞ。
「判った。その代わり、帰る時には宝とかくれよな」
「うむ、判っておる。帰りし後でも悠々自適に暮らせるだけの宝物をくれてやるのでな、安心するが良かろう」
欲に目が眩んだか、愚かだな。
もし、倒せたとしても、帰る事は出来ないうえに、お前らの未来も暗いというのに、全く気付かないのか。
狡兎死して走狗烹らる。
ウサギが消えて猟犬が食われる。
活躍の機会が無くなれば降格人事が待っている。
つまりは、戦争が終わって軍縮が始まるって事だ。
言い換えれば、魔王討伐して勇者殺されるって意味でもある。
だから関わりたくないんだよ。
今までの歴史がそれを証明している。
なのにそんなの黙って、終わったら帰してやるとか、嘘言うなよな。
魔王が消えた後の勇者など、使い終わった武器に等しい。
それに意思がある以上、隷属ぐらいしないと安心出来まい。
そしてそれを不服とした勇者達は、新たな討伐対象として、隷属勇者達に滅ぼされる運命だ。
そうして隷属勇者達も、最後の最後には殺される運命にある。
確かに魔物の討伐には使えるが、あれらも人間、必ず老いる。
そうなれば廃棄物として処分されちまう。
そうしてまた召喚されてくる。
新たな犠牲者として。
本当に腐った国だよ。
だから人外になった事も別に悲観してないんだ。
モンスター達のほうが余程、好ましく思えるから。
あいつらには妬みだの疑心暗鬼だの、そんな複雑な心は持ってないんだ。
殆どが純真な者達ばかりだから、守ってやろうと思えるんだ。
おや、あの校長の洗脳もどきのせいか、妙に素直に受諾している。
つまり既に隷属しようって事なら、とっとと抜けないと拙いぞ。
オレは恐らく対抗出来ようが、万が一があるからな。
「おい、お前はまともだよな」
お、こいつ、まともなのか。
ならなおさら、とっとと抜けないと。
「頭を殴った甲斐があったな」
「あれで解けたんだな、ありがとよ」
「オレにあんなのは効かないからな」
「そうなのかよ」
「話を聞こうとするとヤバいんであって、聞かなければ問題は無いさ。だからスマホでミュージックをだな」
「てめ、人にはあんな事を言って、自分は音楽聴いてたのかよ」
「だって、退屈だろ」
「まあ、それで助かったんだから文句も言えねぇか」
「とりあえず殊勝に頷いとこうぜ。仲間外れは粛清ってのもありそうな話だし」
「ああ、あり得るな。こうなったらもう洗脳だしよ」
ううむ、拙いな。
せめてクラスメイトだけでもと思ったが、やたら広いうえに妙に選抜されているから何処にいるのか分からんぞ。
こいつはたまたま近くに居たが、他の奴らは何処にいるんだよ。
こりゃ無理かな。
まあ、隷属解除は後でもやれるだろうから、とりあえずは計画を話してとっとと抜けちまおう。
「おい、城を抜けるぞ」
「いきなりかよ」
「まさか召喚の説明の最中に抜けるとは誰も思わん。事情や世界の事を知らずして、普通は出ようと思わないからだ」
「いや、それは真実だろ」
「別に王様としか対話が出来ない訳でも無いだろ」
「そうか、話が通じれば誰でも同じか」
「このままでは勇者に祭り上げられて、殺し合いが待っているだけだぞ」
「そうか、殺し合いだよな」
「それに、このまま居たら、ぎっちりと洗脳されちまうぞ」
「ああ、そうなりそうだな。よし」
そんな訳で2人して、そろりそろりと会場から遠ざかり、人の気配の無い場所を選んで導き、まんまと逃げおおせる。
もっとも、精神誘導は駆使したから、そこいらの兵士達は自然と離れていったんだけどな。
門を抜けたのでひとまずは路地に導き、不安そうなこいつを元気にしてやる。
「これからどうするかな」
「まあ、待て。面白い事を教えてやる」
「なんだ」
「その前に3つの願い、何にした」
「ええとな、あん時は半分寝ぼけていてな、戦えないスキルを選んじまってな」
「あんな事があったってのに、まだ寝ていたのかよ」
「いや、転移の衝撃で目が覚めたんだ」
「ああ、変な体勢で立ってたんだな」
「おうよ、あれで頭を打ってな」
全く……大胆なのか間抜けなのか分からんぞ。
「どんなスキルだ」
「まずは料理スキルだろ、それから採取スキルに、料理の知識だ」
「なんだ、料理屋でもやるつもりだったのか」
「いやな、異世界ってメシが不味いって小説とかではよくある話でな、どうせなら美味いもんが食いたいと思ってよ」
「朝メシ食わせてやったってのに、まだ食い物の事を考えていたのか」
「面目ない」
やれやれ。
まあ、戦えないと思っているなら不安そうなんだろうから、そいつを改善させてやるか。
「お前、自分の情報を確認してみろ」
「おうっ、ステータスオープン」
「違う違う。ボディサーチのほうだ」
「それはゲームだろうが」
「良いからやってみろ」
「ああ……『ボディ・サーチ』……なっ、モガモガ」
「でかい声を出すな」
コクコク……
「ここはあのゲームの世界なのかよ」
「いいや、ゲームと思わせて異世界なんだ」
「それでかよ。あんなにNPCが臨機応変でよ、あり得ないぐらいだと思っていたんだ」
「だからやれるだろ。装備もアイテムボックスにあるだろうし」
「うお、全部あるぜ。くっくっくっ」
「戦えるだろ」
「ああ、一気に気が楽になったぜ」
「他のクラスメイト、見つけたか」
「探してはみたんだが、お前しか判らなかったんだ」
「それなら仕方が無いな」
「けどよ、見かけたら何とかしてやりてぇが、洗脳されてたらあいつら本気で戦うだろうから、説得もきついかも知れんな」
「さすがに洗脳中じゃゲームの知識の活用もやれまいから、攻略最前線のお前に勝てる奴は居ないさ」
「そうか、それならいけるか」
「とりあえずこの国から逃げようぜ」
「で、これからどうするんだ」
「始まりの街でも行ってみるか」
「あそこに行けるのかよ」
「お試しだ」
そうしてそれぞれはゲーム衣装に着替える。
しかしこいつ、黒髪と黒目だと目立つぞ。
何とか変装させないとな。
「お前、それ、持って来ていたのかよ」
「いやな、これ、意外と変装に使えるんでな、他人の振りして色々やるのに便利なんだ」
「何をやってんだか」
「お、ここだここだ。すみませーん」
最寄の駅馬車で話を聞くが、どうにも行けない様子。
「おかしいな、行けないはずはないんだが」
「やっぱり何かあるんだろ」
「まあなぁ、ここが異世界とか、ネタバレになるからな。もしかしたら運営が止めているのかも」
「そもそもよ、運営ってどうなっているんだよ」
「そりゃ、あの神様の関連だろ」
「そうか、そうだよな」
「よし、ならよ、未踏の街に行こうぜ」
「どうやって行くんだよ」
「ええとな、この国の場所は、どこにあったかな。まあいい、付いて来い」
「あ、ああ」
(こいつ、妙に詳しいよな。それに急に雰囲気が変わったし。もしかしたら、こいつこそ勇者召還の経験者じゃないのかよ。だから苛めとか簡単に排除してよ。だから詳しいんだとしたら……ははっ、頼もしいって事さ)
それにしても、あいつらも間抜けだよな。
よりにもよってダンジョンマスターを召喚して勇者に据えるとか、気付いたら気が狂うかもな、クククッ。
まあ、オレはありがたいがな。
◇
そうして最寄の転移装置に辿り付き、内部モードで発動させる。
「ええと、確か……トウキョウトッキョキョカキョク、と」
「それが合言葉なのかよ」
「シークレットコードだ。よし、着いたぞ」
『オヤカタ、キタ』
『オヤブン、キタ』
どうして任侠のトップみたいに呼ぶんだ。
「元気にしてたか」
『ゲンキ、ゲンキ』
「そうか、ただいま」
『オカエリ、オヤブン』
(やっぱりそうかって、ここ、迷宮だよな。つまり、勇者として召喚されたんじゃなくて、ダンジョンマスターとしてかよ)
「あるじぃぃぃ、待ってたよぅぅぅ」
「うおっ、びっくりした」
すぐさま身体をよじ登り、首にクルクルと巻き付くコンタ。
そうして自動防衛をスタートさせる。
「あ、驚くよな」
「ここのダンジョンマスターなんだな」
「ああ、そうだよ」
「あの世界から召喚されたのか」
「通学途中で気付いたらこの世界に居てな、冒険者をやっててミスして迷宮管理になったんだ」
「唐突転移系かよ。そりゃ苦労したろうな」
「ああ、最初はもう、どうしようかと思ったけど、苛めが無い世界だから逆にやる気が出てな、何とか冒険者にもなれたんだ。後は流れるままに熟練して、ついうっかりでこうなったと」
「その割りに見てくれが変わってないよな」
「ああ、迷宮管理になると若返るんだ。だもんでこっちに来た当初の年齢まで戻ったんだ」
「中身はおっさんかよ」
「爺さんだ」
「あっさり認めやがんな」
「まあいい。オレのプライベイトルームに行くぞ」
「おうっ」
うおっ、また来た。
身体をよじ登り、今度は右肩に乗っかった。
「元気にしてたか、チビ」
「やっと来た、待ってた」
『ウォン、ウォン』
うお、ルフまで来たか。
「そいつって、逃げたと言っていた狼だよな」
「悪いな」
「別に怒っている訳じゃねぇ」
「こいつらはオレの配下であり、家族でもある。だからオレの迷宮には、モンスターが殆ど出ないんだ」
ああ、やっと帰って来たな。
しかも、ちょいと神様の目をたばかってスキルも獲得したしな。
今度は何かあっても戻って来られるはずだ。
親友を連れてコンタとルフとチビを連れて、プライベイトエリアに入っていく。
「あ、戻ったんですね。おかえりなさい」
「おうっ、やっと帰れたよ」
「それは良かったです」
「後で土産を出すからな、資料室の蔵書が一気に増えるぞ」
「それは楽しみです」
「なので、資料室担当と生産担当と、後は技術開発班を呼んでくれ」
「判りました」
「ああ、こいつにメシを。ナンバーセブンで」
「はい、すぐに」
うん、変わってないな。
ああ、ここに来ると帰って来たって実感が沸くな。
「まあ、座れよ」
「やけに豪華だな」
「迎賓の部屋だからな。オレの部屋はもっと質素さ」
「それでこれからオレはどうなるんだ」
「そうだな。まずはこの世界の言葉でも覚えてみるか」
「そうか、そういや話せているけど読めなかったな」
「世界共通語をまず覚えて、可能なら各国の言葉も覚えてみるといい」
「ああ、そうするさ」
「それとな、外のモンスターを狩るのは良いが、中の奴らは狩らないでくれよ」
「そりゃ狩らないさ」
まあ、言葉でも覚えたらどっかの国で過ごすも良いが、ここの食生活に慣れたら外じゃ暮らせないだろうな。
だから精々が上の都市住まいになるぐらいだろうが、そうなったら住まいを用意してやるさ。
もっとも、模擬戦の相手には事欠かないから、意外と居付くかも知れんが。
「お待たせしました」
「うおお、これ、いーのかよ」
「ああ、食え食え」
「お前は食わないのか」
「オレはこいつさ」
「酒かよ」
「爺さんだしな、クククッ」
「はいはい」
一応、特別ゲストとして調整しとくか。
『システム……マスターと確認、何ですか……こいつを特別承認にしてくれ……身体構造の幾分の変更が必要になりますが……なるべく人間のままにして欲しい……機能変更、生理─仮停止、本能─減少、知能─向上、身体─向上……それで構わないが、こいつが寝た時にやってくれ……了解しました』
仮停止か。
つまり、元に戻るんだな。
まあ、オレは永久停止だが、別に構わんさ。
こいつが戻りたいと言ったら、元に戻して送り出してやるさ。
ただし、向こうじゃ何年過ぎているか分からんが、戻りたいのならそれで良いさ。
そういや、向こうはどうなっているんだ。
《異界千里眼》
あれ、妙に騒ぎになってないな。
まさかとは思うが、関係者の記憶に干渉したのか。
ああ、選抜の残りは帰されたのか。
あれ、机の上にに花が飾ってあるぞ。
おいおい、クラスでも数人だが、空席になっていて花が……
つまり、うちのクラスは、ひーふーみーよー、こいつとオレで後2人居るのか。
やけに少ないな。
あの人数は他のクラスと学年になるのか。
道理で会えないはずだよ。
しかし、参ったな。
千里眼は良いが、音が聞こえないから事情が分からんぞ。
こうなったら後で転移を試してみるか。
「はぁぁ、美味かった」
「それは良かった。なんせ向こうの世界からの物品が元になっているからな」
「やっぱりダンジョンポイントとかで取り寄せがやれたのか」
「妙に詳しいな。お前やっぱりオタクだろ」
「ま、まあ、少しだけな」
「庶民の食事なら10ポイントだ」
「ならよ、珈琲はどれぐらいだ」
「420万ポイントだった」
「うげ、とんでもねぇな」
「それでもかなりの種類を誘致したぞ。だからもう、この中じゃ日本食には困らないんだ」
「どんだけやってんだよ」
「さあな」
(急にしんみりしたな。つまり、相当に長くやっているって事か)
「眠そうだな。隣にベッドがあるからゆっくりと寝て良いぞ」
「ああ、そうさせてくれ。腹いっぱいになったら堪らなくなった」
「こいつ、寝室1番へ」
「畏まりました」
国賓クラスのベッドでゆっくりと寝ろ。
(うおお、天蓋付きのベッドとか、初めて寝るぜ)
「仕事は溜まっているか」
「多少ですかね」
「よし、執務室に行くが、さっきの奴らもそこに誘致してくれ」
「畏まりました」
「もっとざっくばらんで良いのに」
「いえ、けじめですので」
「真面目だよな」
「そんな事は」
「まあいい。向こうの世界のお菓子なんかも買ってあるから、皆と分けて食べるといい」
「はいっ、ありがとうございます」
獣人の中でもあいつは特に真面目と言うか、固いと言うか。
誰の教導を受けたんだろう。
職務的には確かにそうだが、そこまで気にする事は無いのにな。
ふむ、書状への返答か。
任せても良いだろう。
チェックして終わりと。
後は……ああ、やっぱりそうなったか。
エンジンに目処が付いたと聞いた時はまさかと思ったが、やっぱり行き詰っているのか。
よしよし、それなら技術書を渡しておくか。
コンコン……「開いてるぞ」
「失礼します」
「おう、来たか」
「はい、お呼びと伺いまして」
「そこに置いてあるのがあちらの世界の技術書だ」
「拝見します……こ、これは」
「他の本も色々な機械の説明なんかが載っている」
「これをお借り出来ますので? 」
「使い終わったら資料室にな」
「ありがとうございます。では、早速」
「ああ、頑張れよ」
「ははっ」
ご機嫌で本を抱えて足取りも軽く部屋を出て行った。
相当、行き詰っていたようだな。
「私達は何か」
「ああ、資料室のレイアウトを変えてくれ。蔵書がかなり増えるから」
「畏まりましたが、どの程度でしょう」
「何千冊あるか分からん」
「そ、そんなにもですか」
「ああ、たっぷり楽しめるぞ」
「早急に段取りをします」
「ああ、頼むぞ」
「ははっ、ではこれにて」
ウキウキと、これまた足取りも軽く部屋を出て行く。
資料室担当は揃って本好きだから、新しい本と聞けばああなるのも必然か。
「もしかして、新しい作物ですか」
「それなんだがな、野菜と果物の種を仕入れてな、何とか育ててみてくれるか」
「それは楽しみです」
「後、土産がかなりある。なので幹部だけじゃなくてなるべく大勢に配りたい」
「はっ、段取りを整えます」
「頼むな」
「ははっ」
「てかさ、みんな固いのはどうしてだ。もっとざっくばらんにやろうぜ」
「いえ、そういう訳には」
「そうか、まあそれも良いだろう」
「では準備して参ります」
本当に真面目と言うか固いと言うか、まあいいけど。
さてと、後は……ああ、改善要求か。
まずは、これが……ふむ、ふむ……
◇
(マスターのお土産どんなだった? )
(凄い量だった)
(僕達のような下っぱでも回ってくるかな)
(多分、大丈夫だと思うぞ)
(それは楽しみだな)




