十七話 あいつも脳筋なのか?
加筆修正:背景を書き忘れていたので、凄く危ない人になってました(汗
辻褄がおかしかったので修正しました。
サマーバケーションラストウィーク。
またぞろあっちの世界に遊びに行く。
単眼兎の集落に遊びに行ったら、いつも採血に協力してくれる彼に外の世界を見てみたいと頼まれたんだ。
集落では外は危険という認識になっているんだけど、彼は興味と好奇心の塊みたいなところがあって、段々と興味が募ってしまったらしい。
その時にこの格好で行ったものだから、女かと言われちまった。
今はまだ元の姿には戻れないと告げて何とかなったものの、元々中性っぽいから違和感が無いとか言われて余計にしょげたのは内緒である。
彼の名はモノグルと言うらしく、そのまま連れて迷宮を出る。
そうして転移で最初の町の近くに飛び、冒険者協会へ従魔登録をしに行く。
ギルドではレア種という事で少し揉めたが、さすがに他人の従魔の横取りはやれないようで、渋々諦めたようだった。
登録が終わって外に出る。
そのまま歩いていると後ろから迫る気配。
伸びる手……後ろを蹴る……吹き飛ぶ存在。
やれやれ、ギルドでの話を盗み聞きしていたのか、いきなり奪おうとするとはな。
「てめぇ、いきなり何しやがる」
「うちの子を盗もうとするからだ」
「まだ何もしてないだろ」
「そんな言い訳が効くと思うのか。この盗人野郎が」
「んだこら、やんのかよ」
「死にたいのなら殺してやろう」
「ああ、上等だ」
不死身のアバターだと強気だねぇ。
だけどリアルの身体だとどうなのかな?
PVPを思わせて連れて行き、おもむろにリアルスキルで軽く精神誘導。
そのままペラペラとリアル情報を吐き出したそいつに対し、リアルでの待ち合わせをする。
モノグルと共にマイ研究室に入り、戻るまでここで待機して欲しいと告げる。
《外は本当に危険なんだな。うん、待ってるよ》
好物をつらつらと出し、眠る時はベッドを使っても良いと告げてログアウト。
そうしてリアルで会ってアジトに共に飛ぶ。
「さあ、やろうか、殺し合い」
「え、ここ、何処? 」
「おいおい、やるんだろ、殺し合い。今更、あれは嘘でしたとか言うつもりかよ」
「でも、ここは現実? だよね」
「おいおい、何言ってんだ。場所が何処だろうと、お前はオレに喧嘩を売った。んでそいつをオレが買ったんだ。ならもう後は殺し合うだけだろうが。ほれ、かかって来いよ」
「あんなのゲームの中だけだろ。何マジになってんだよ」
「あそこは異世界だ。つまりもうひとつの現実でもある。そんなところで挑発したお前は、こちらの現実で始末する事にしたんだ。かかって来ないならこちらから行くぞ」
「頭おかしいんじゃねぇのかよ、てめぇ」
「まだ強気か、クククッ。良いだろう。それなら現実を思い知らせてやろうな」
「くそがっ」
たっぷりと遊んで瀕死にした後、回復してまた遊ぶ。
何度もしているとすっかり心が折れたようで、ただひたすら従順になる。
他言を禁じてそれを精神に刻み、軽く飲んで解放してやる。
さすがにあんまり行方不明者を増やすのは拙いんで解放してやるが、漏らすようならそいつらまとめて処分になる。
さて、何処まで黙秘でいられるかな。
もっとも、オレのスキルを甘く見ているのなら、漏らそうとした瞬間に精神が壊れる事になるだろう。
そうして話した内容は妄言とされるに違いない。
こういうのも久し振りだが、やらないとますます鈍るものだし、いい機会だったよ。
なんでここまでしたかと言うと、あいつって苛めっ子だったんだ。
確かに遥か昔の出来事だけど、あいつにとってはつい先日の出来事だ。
そりゃ初日に悪い空気は払拭させたし、かつての思いも単なる記憶になってはいた。
だけどやられっ放しってのは趣味じゃない。
だからかつても反撃を考えていたのであって、今までにも受けた攻撃は全て反撃してきた。
でまあ、拷問しているうちにかつての想いが蘇っちまったんだ。
配下に対する意趣とかつての記憶、それが理性を抑えちまったんだな。
そんな訳でついついやり過ぎちまったけど、反省はすれども後悔はしていない。
向こうの世界の流儀でやっただけさ。
それはともかく、それからしばらくの間、モノグルと共に世界を巡った。
何処に行っても注目を浴び、騒ぎになる様子にさすがの彼も嫌になったのか、戻りたいと言われて集落に送った。
あれでまた集落での外の評価が変わるだろう。
危険なだけじゃなく、見られたら騒ぎになると。
かつての彼に同調する者達も居たようだが、あれで鳴りを鎮めるに違いない。
百聞は一見にしかず。
良い経験になったかな。
◇
「単眼兎の従魔の話、あれお前だろ」
「よくぞ気付いた」
「また話をして従魔にしたんだな」
「まあそうなるな」
「んで、何処で見つけたんだよ」
「未発見の街だ」
「はぁぁ、またかよ。けど、そんなアナウンス無かったぞ」
「さすがにボスと戦わないってのは裏道だろ。だから討伐しないと本当の開放にならないんだろうな」
「ああ、そうかもなぁ。まあいいや、そんな事より」
あいつが迷宮の話をする。
どこかにある迷宮らしく、次に皆と行くらしいな。
どんな迷宮かと聞いてみると……
「モンスターが出ない迷宮があるらしいな」
「ああ、マウンテンマウスダンジョンだろ」
「知っていたのかよ」
「まあな」
和名を山口迷宮と申します、なんてな。
「通称、山ネズミ迷宮だ」
うぐぅぅ、ネズミじゃないよ、クチだよぅ。
そりゃネズミがチョロチョロしているけど、あいつらは攻撃して来ないだろ。
あれは迷宮の調査をしているんであって、攻撃対象にしないでくれよ。
あいつらが教えてくれるから、罠の再設置も楽にやれるんだからよ。
それに要救助者の発見もしてくれるんだ。
だから冒険者の死亡率がかなり低いんだぞ。
なのに減らしちまったら間に合わないかも知れないだろ。
迷宮内じゃ情報を受けて救急隊が出張るようになっているんだからな。
殺しさえしなければ迷宮の評判は落ちないからな。
落ちなければおいそれとは攻められないのが人族ってもんよ。
そういや、ギルドでも保護指定とかにされているらしいな。
新人達を誘致しているって聞くし。
「ネズミは殺すな」
「けどよ、あれぐらいだぞ、経験値になるのは。なんせ他には殆ど出ないって話だ。あれを狩らないとレベルも上がらないぞ」
「あれを殺すとヤバい事になるって話だ」
「どっからの情報だよ」
「それは言えんが、あいつらが迷宮で死にかけの冒険者を見つけて報告して、それを他の存在が助けているらしい」
「おいおい、それが本当なら減らしたらヤバいじゃねぇかよ」
「だから言っているだろ。ネズミは殺すなと」
「ネタ元の公開は無理なのか? 」
「うちの教授が他言無用で教えてくれた話だ」
「うぉい、それ言ったらヤバいんじゃねぇのかよ」
「ああ、もしかしたらペナルティがあるかもな」
「ああ、悪かったな」
「叱られたらその時はその時だ」
「本当に悪かったな」
「いいさ」
◇
「それは本当なのかよ」
「恐らくだけどな」
「けどよ、学者とかにどうやって聞いたんだ。あいつら、そんな話とかしてくれねぇぞ」
「化合職なんだよ、そいつ」
(さすがにもう上位職に成っているとは言えんよな。
確実に騒ぎになるからあいつが嫌がるに決まっている。
そんな事であいつが嫌気を差して止めちまったりしたら事だしな。
折角、誘って一緒に遊んでんのに、そんな事になっちまったらつまらねぇしよ)
「うげ、あの死に職かよ」
「成程な。学者繋がりで聞いたのか。それなら分からんでも無い」
「とにかく、オレ達はともかく、NPCの冒険者達の死亡率を増やすのは拙いだろ」
「ああ、判った。早急に広めておく」
「まさか調査とはな。道理で攻撃して来ないはずだ」
「ああ、攻撃しても逃げるばかりで、ヘイトの効かない敵だと思っていたからな」
「救急隊員に攻撃を仕掛けていたようなものか」
「やれやれ、どんなテロリストだよ、オレ達」
「全くだな」
◇
どうやらあちこちにある、うちの迷宮への転移装置を使ったらしい。
誘致に便利だからと世界中に作ってあるんだ。
その代わり、転移先のうちの迷宮からでは街には出られないようになっているので、迷宮都市へは表から行くしかない。
もちろんうちの関係者はその限りではないが、外に出るには審査があるんだ。
そいつに合格すればパスが貰え、自由に遊びに行ける事になっている。
普通の迷宮なら都市の中に入り口があったりするものだが、そういう点は変わっていると言うべきだろう。
迷宮の上にあるから迷宮都市と言う訳で、冒険者は都市から最寄の転移場所に行くしかない方式だ。
もっとも、町の外すぐにあるから通いの冒険者も多いんだけど、以前、人族がその入り口付近に町を作ろうとしてウザいから転移場所を何度か変えた事がある。
まあそれも黎明期に危険対策でやった事なんだけど、今更変えるのも何だとそのままになっている。
その代わり、町からの専用通路を拵える羽目になったけどな。
もっとも、人族からの使者はその限りではない。
都市統括の館からの転移装置で、51階層に直通になっている。
それはともかく。
掲示板でオレの迷宮のネズミの話が出ていたので「チューチュー、ぼく、悪いネズミじゃないよ」って書き込んでおいた。
その時に他の奴からも、あれを倒すのは拙いって話が出て、そういう方向の話になっていた。
あれで止まってくれれば良いが。
なんせうちの情報ネズミは他の迷宮でも人気のモンスターで、あちこちから譲ってくれと頼まれてんだ。
だから育成したら渡す事になっているから、いくらネズミ算でもそこまで増えないんだよ。
鳴き声がモールス信号になっていて、慣れている奴なら鳴き声で話が通じるんだからよ。
『人、倒れてる』とか教えてくれるんだからよ。
他にも手紙を運んでくれたり、何かのトラブルも教えてくれる便利な奴らなんだ。
そういや結局、アマチュア無線を受けるようにはならなかったな。
当時、苛められていた中でも、遠くの人との対話が出来ればと、受けてみようと思った試験。
クラスでは孤立していたけど、遠くの人なら関係無いだろうと、それを楽しみにしていたんだったな。
今では受けようとは思わないが、あの頃はそれをよりどころにしていたんだったな。
そのついでとばかりにモールス信号も覚えてさ、電話級ばかりか電信級も受けたいと思っていたんだった。
何が役に立つか判らないものだな。
そういや育成部門はちゃんとやれているのかな。
あそこがサボると迷宮の状況がオレ以外に分からなくなるからな。
確かに幹部はシステムと繋がれるが、救急部門のトップは確かに幹部だが、あいつも何かと忙しいからなぁ。
だから今では配下も信号を覚え、それでかなり軽減されているはずだ。
ただ、あれはうちの機密になっているから、決して人族に漏れないようにしている。・
だって知られたら絶対、戦争の道具にされるだろうから。
まあ、漏れたら漏れたで逆探して処分するだけだけど。
◇
カランコロン──
「ふうっ、アイスくれ」
「よっ、お疲れ。今日も狩りか」
「それがな、迷宮行きが中止になっちまってな」
「例の件か」
「ああ、あのネズミの件でな、あちこちに働きかけて狩らないように説得して回っていたんだ」
「これは極秘だが、あんまりネズミを狩っていると、下から強いのが上がってきて拉致されるらしいぞ」
「そうなのかよ」
「んで、ネズミの育成を手伝わされるとか言っていたけど、本当かどうかは知らん」
「あれはわざわざ育成してんのかよ」
「どうやらあの迷宮の方針のようでな、新米冒険者の保護とかやっているらしい」
「そりゃまた良心的だな」
「だからでかい国とか、あの迷宮は討伐対象外になっているらしくてな、ギルドのほうでも確か保護迷宮になっているはずだ」
「そんな迷宮を荒らしちまったんだな、オレ達」
「あそこは迷路と罠がメインになっていて、中のモンスターは大抵、調査とか救助の為だって聞いたぞ」
「だったら他のモンスターを狩るのもヤバいな」
「教授ったら意外と物知りでさ、面白い話を教えてくれたんだけど、お前、甘党のオーガって想像が付くか」
「ぶはっ、なんだよそれ。イメージが台無しだぞ」
「なんかさ、迷宮都市の甘味屋の裏方で働いているのを見たらしくてな、つまみ食いしていたらしい」
「そうか、そういう迷宮だったのか」
「だから行くのなら、探索と開錠スキルの向上の為に行けばいいさ」
「ああ、そうだな」
「お宝も美味いって聞くし」
「それは良いかも」
それとなく内情を暴露だ。
それで配下が減らないようになるのならな。
もっとも、脳筋のモンスターはその限りじゃないが、そういうのは襲うから反撃しても構わないさ。
その結果、殺したとしても、それは仕方が無いと思うから。
だけど、迷宮で人族を襲いたいなんてのは稀だ。
あいつらはその手の奴らで集まって、模擬戦とかているんだ。
その為にかなりの数の回復薬を支給しており、日々戦っては消費している。
そして勝手に将軍とか据えていて、そいつらは軒並み脳筋なんだ。
だけど普通はそいつらとの戦いを楽しんでいて、人族と関わりたい奴は滅多に居ない。
だからもし、襲撃があったとしても、そいつらは覚悟しての事だから、好きにしても構わないさ。
もっとも、冒険者のほうが弱くても、殺さないように厳命しているから、きっと戦いが終わったら治療しているはずだ。
そうして何かしら置いていくはずだ。
あいつら用の宝物倉庫があるって話だし、それなりの武具とかを渡しているに違いない。
好敵手認定とか言っていたが、そういう冒険者でも見つけたのかな。
◇
変な噂が流れて来た。
確認しに行くと確かに魔術師を募集している。
それで迷宮都市で聞いてみると、3大国からそれぞれ使者が来て、うちは関係無いと言っていたらしく、ゼラート国の独断だとか。
やれやれ、またぞろやるのか、あれを。
ゼラート国というのはこの世界で唯一、勇者召還の術式を持っている国だ。
かつて何度となく勇者が召喚され、あちこちの迷宮管理が滅ぼされてきた。
ちょいとやり過ぎて魔王認定されたんだが、そういうのが出るとすぐさま召喚しようとする。
そうやって他の世界の存在を犠牲にする、その態度が気に入らない国だ。
実を言うとうちの迷宮には、勇者の子孫が暮らしている。
かつてうちの迷宮に攻略に来た勇者に対し、対話をしてみた結果、同郷だと分かったんだ。
そしてオレが誘致したあれこれで接待すると、すっかり気に入ったようで、ここに住みたいと言い出してそのまま居ついたんだ。
どうやらケモナーの気があったらしく、獣人の女と一緒になり、何人かの子持ちになっていた。
そうしてあいつらはオレに子供を頼むと言い残し、今では素体倉庫の中の永久保存版区域に眠っている。
その姿が見えるような仕組みを作ってやったら、子孫達がお参りをしていたな。
◇
いよいよ夏休みも終わりが近い。
オレは相変わらず喫茶店の日々だったが、あいつはかなり先に進んでいるらしい。
どうやらドラゴンと対話した事で《対話》が付いたらしく、戦ったり仲裁したりで順調なのだとか。
種族同士の戦いを解決するクエストがあり、他のプレイヤー達は両方の殲滅をやろうとして失敗している中、対話スキルで説得しているうちに《説得》も付いたらしく、比較的楽にクリア出来たと喜んでいた。
生産者達も今では市場を利用出来るようになり、巷の食生活も向上しているらしい。
そういう噂話なら歓迎なんだけど、ゼラート国の噂だけはどうにもな。
潰すのは簡単なんだけど、あれを消すとさすがに他の国々も団結するだろう。
全世界を相手にしての戦争も、特に負けるつもりはないけど、犠牲になるのは人族ばかりではない。
大勢のモンスター達も犠牲になるだろうから、オレは自らは動かない。
だからこそ他の管理達にも言っているんだ。
魔王になったら討伐に行くと。
さて、また裏から画策して自ら滅ぶように仕向けようかね。
◇
いよいよ夏休み最後の日。
あいつは今日はログインして来ない。
どうやら宿題が残っているらしく、それをひたすらやるらしい。
そういうのはとっとと先にやっておけば良いのに、全く学習しない奴だ。
毎年恒例の宿題祭りとか、いい加減学習しようぜ。
まさか、あいつも脳筋なのか?
それはそうと、オレも早めにログアウトしないと。
明日の準備もあるしな。
そういや、アタッチメントを買いに行かないと、情報伝達が遅くて堪らないぞ。
専用アタッチメントは別売りとか、聞いてないんだけど。
中で本を読もうとしたら、中々入らないんだ。
おかしいと思ったら、そういうのは標準装備外になっているとか。
「明日から学校ね」
「うん、宿題は終わっているし、問題無いよ」
「あら、感心ね。じゃあ、またお母さんの趣味に付き合ってくれるかな」
「うっく、ま、まあ、いいよ」
「可愛いの見つけたのよ」
ああ、またかぁ。




