十六話 貴方、プレイヤーなの?
ううむ、自前の倉庫はこっちでも出せるけど、ゲームのアイテムボックスは反応しないな。
つまりあのシステムはあちらの世界専用であり、こちらには対応してないって事になる。
となると、オレの本来のスキル関連は、こちらでも使えるって事だから、他の異世界人がこちらに来ても使えるはずだ。
もし、将来的にあちらとこちらの移動がやれるようになるとしたら、配下の連中連れて観光旅行なんかもやれそうだな。
スキルが有効なら隠蔽もやりやすいし、何かのトラブルで実力行使になっても、スキルで調整もやれるって事だ。
もっとも、今はあのアジトがあるから隠れ住むには有効だし、きついようなら中のみで過ごしても良いだろう。
何とかテレビとか見られるようにしてやるし、欲しい物は買い出しに出てやるさ。
だけど、どうやってもあちらの迷宮とのアクセスは繋がらなかったな。
何が足りないんだろう。
模造コアなのが拙いのかとも思ったが、サブシスはそれを使って構築してあるんだし、統括コアとの接続がやれないのには他に理由があるはずだ。
つまり、世界と世界の隔たりは、世界と迷宮以上に遠いのか。
だけどそれならゲームでやれているのは凄いよな。
世界の管理さんの手腕は、オレを遥かに凌駕しているって事か。
まあ、全てのシステムを構築した存在だろうから、凄いのは当たり前か。
オレではこういうのは作れないんだし。
◇
翌日からまたゲーム三昧が始まり、いよいよ喫茶店もオープンとなる。
やはりゲームのせいなのか、内装が即日で終わるとか、リアルではあり得ない話だ。
迷宮内じゃあるまいし。
カランコロン──
「いらつしゃい」
「ははっ、やっぱりそうだったな」
「何飲む」
「えーと、えっ、こんなの作れるのか」
「仕入れ品だ」
「そうなのか。で、何処で買ったんだ」
「仕入先は聞かないでくれるかな」
「まあ、それなら仕方が無いな」
「生産者が作るんじゃないのか」
「それがよ、パンは固いし肉はモンスターだし、野菜とかは野草だしで美味くないんだよ」
うっ、固いパンに雑草を挟んで食うのか?
それはいくら何でも酷いだろ。
「町の市場で買えないのか」
「それなんだがよ、あれは住民の為の場所とか言ってよ、到来者には売ってくれないんだ」
「それは友好度が足りないと見た」
「そうかっ、そういう事もあり得るか」
「仲間内のバザーで見知らぬ奴をいきなり混ぜるか? 」
「ああ、そう言われれば納得するな。よし、そいつを話してみるぜ」
「オレは世間話から入って馴染んでから買うからな」
「本当の世界のつもりでやらないと拙いって事だな」
「他人の家に無断で侵入して、箪笥を勝手に物色したら泥棒だろ」
「ああ、昔のMMOか。ありゃリアルだとヤバいよな」
「とにかく、異世界だと思ってやってみな。今までのトラブルが減るからよ」
「ああ、そうしてみるぜ」
まあ、本気では思えないだろうな。
だって本気で思うって事は、リアルでの殺しって事だから。
山で動物を乱獲とか、現代人の奴らがやれる事かよ。
そういう環境に押し込められ、命の危険で否応無しならまた違うだろうが。
オレみたいにさ。
「お前、もしかして、最初からそのつもりか」
「そりゃ初めてのVRゲームだしよ、もうひとつの現実のつもりでやっているさ」
「だから殺せないんだな。けどよ、PK相手はどうなんだ」
「仮想苛めっ子討伐でストレス発散」
「ああ、成程な」
「今までの恨みつらみを晴らしてやったぜ、他人だけど」
「くっくっくっ」
「ああ、仮想で殺しに慣れたら、現実で傭兵とかやれそうだな」
「それはまたヤバい話だぜ」
話しながらもぐもぐと、よく食うな、こいつは。
「さっきから何も言わずに食ってるが、味はどうなんだ」
「いや、それがよ、リアルのと変わらない味でよ、当たり前に食ってたが、この世界じゃ珍しいよな、考えてみれば」
「ある街の特産品だ」
「行けば分かるってか」
「楽しみにしておけよ。本当に多種多様の品が売られているからよ」
「この珈琲もそうなのか」
「ああ、特産品だ」
「そいつは是非にも行ってみないとな」
これはまた、変わった味だな。
まあこういうのもアリだとは思うが。
「ううむ、これは好みが分かれるな」
「桃のジュース? 」
「ホットでライム付きだ」
「それってティル「あーあーあー」」
「くっくっくっ、合ってた」
ううむ、あれを知っているとは、こいつも意外とそうなのかな。
「お前、もしかして隠れ「あーあーあー」」
「仕返しされた」
「ははっ、まあ、それなりさ」
カランコロン──
「いらっしゃい」
「今日オープンなのね」
「はい、そうですよ」
「オープン記念とかないの? 」
「申し訳ありませんが」
「何よ、サービス悪いわね」
「無理に利用されなくてもかまいませんが」
「客にそういう事を言うんだ。だったら噂してやるわ」
「どうぞ、お好きなように」
「覚悟してらっしゃい」
カランコロン──
「良かったのかよ、あれ」
「住民相手だと強気だねぇ」
「ああ、それでかよ。まあ、プレイヤーの店とかってのもあんまりないし、喫茶店とか普通の生産者はやらないもんな」
「それにさ、別に売れなくても問題無いさ。金はPKが恵んでくれるからよ」
「くっくっくっ」
それにしても、あんな偉そうな態度じゃ市場の利用が出来ないのも納得だな。
あれが酷い例としても、大なり小なり上から目線だとしたら、友好度がかなり下がっているって事になる。
今は市場だか、そのうち一般の店でも売り渋りが起こるかも知れない。
だから早い目に自覚して欲しいんだ。
ここはもうひとつの現実だと。
リアルの店であんな態度だと、下手をすると訴えられる羽目になる。
悪質なクレーマーだと。
実際、オープン当初の店の悪評を流すとか、営業妨害だよな。
あれもオレに対する攻撃だとしたら、その反撃は許されるのかな?
でも、さすがに毒殺は洒落にならんか。
「うん、美味かった」
「そうか、それは良かった」
「それはそうと、上級回復薬ってどうやって手に入れたんだ」
「そりゃ材料集めて作ったに決まっているだろ」
「モノアイラビット、何処に居るんだ」
単眼兎か、あれは絶滅危惧種だったモンスターだったな。
見た目は普通のウサギだけど、片目はいつも瞑っていて、だから単眼のウサギって名前になっていた。
オレ達は彼らの協力の下、採血をしての作成になっている。
その代わりに彼らの好物を差し入れる約束になっているんだ。
んで、何故いつも片目なのかと聞いてみると、暗い場所では反対になるんだそうで、なんとなく忍者を思い出した。
生活の知恵と言うか、身を守る知恵と言うか、弱い者は身を守る為に色々と考えているんだなと感心したものだ。
そうか、となるとこの世界ではもう作れなくなったのか。
あれの代用品の研究ってのも面白そうだが、そういうのは検証班にでも任せておくさ。
「ある街の特産品だ」
「それもかよ」
「なんせあらゆる品が売られていると噂されるような、凄い街だからさ」
「そりゃますます楽しみだな」
「その代わり、レアはレアなりに高いからな」
「金を貯めとかないとな」
「そういう君には今日の支払いはサービスにしてやろう」
「おい、いーのかよ。さっきの女には開店サービスは無いって言ってたろ」
「客が偉いんじゃないさ。嫌な客には売ってやらん。なんせまだ誰も到達してない街からの交易品なんだしよ」
「そんなところにどうやって行ったんだ」
「もちろん説得に決まっているだろ」
「それ、意外と無敵だな」
「殺されるのを覚悟で説得してみるか? 」
「ああ、オレだと何度死ぬか分からんか」
「モンスターの血を浴びた奴には無理じゃないか」
「ああ、そうなるか。そうだよな」
「モンスター素材を着ている奴にも無理だろうな」
「そうなるとかなり限られるな」
「モンスター由来のアイテムを加工した人も無理だろうな」
「それは無いだろ。それを言うならお前はどうなんだ」
「オレが使う素材はモンスターを殺した訳じゃない。説得して納得しての調達になる。まあ、好物の差し入れとかで納得してもらったんだが、そういう手も使えると分かったからな。それに、あの都市で買った素材も多い。素材の利用なら殺した訳じゃ無いからな」
「そうか、となると殆ど無理だな」
「戦い嫌いのモフラーな新人が現れるのを待て」
「くっくっくっ、確かにそれならいけそうだな」
カランコロン──
「いらっしゃい」
「この店ね。客に乱暴を働いたというのは」
「言いがかりですね」
「こちらには証人が居るのよ」
「おいおい、こっちにもオレって証人が居るぞ」
「えっ、でも」
「大体よ、新装開店の店にいきなり来てよ、開店サービスが無いからサービスが悪いと偉そうに言いやがった挙句、噂して潰そうと言わんばかりの態度。オレぁ掲示板に晒してやろうかと思ったぜ」
「ちょっと待って、それ、本当なの? 」
「こんな事で嘘は言いませんよ」
「あれっ、貴方、プレイヤーなの? 」
「ええ、そうですよ」
「うわ、大変だわ。プレイヤー相手にそんなクレーマー、騒ぎになるわ」
「あのですね。相手がNPCでもそういう態度は感心しませんよ。市場の利用がしたいなら、同じように接してみてはどうですか」
「え、貴方、買えるの? 」
「そりゃ世間話で馴染めば、誰だって売ってくれますよ」
「ああ、なんて事、そんな事になっているなんて」
「そいつはオレも賛成の意見だ。考えてみりゃ偉そうな客とか、誰が売ってやるかと思うわな」
それから生産者を巻き込んだ情報収集の場となり、自然と売り上げが増していった。
噂攻撃の主の所業もその時に話題となり、彼らの好感度を軒並み下げた事は言うまでもない。
それからというもの、時々人が来てくれるようになり、それなりに繁盛するようになった。
「珈琲3つ」
「あいよ」
「サンドイッチくれ、2つな」
「あいよ」
「こっちはアイスコーヒーとホットドッグだ」
「はーい」
今日もお客がよく来ます。
怪我の功名ですね。
店を閉めたらマイ研究室で色々やり、また店を開く。
もうこれだけで良いような気がするぞ。
それでも赤い奴らは時々相手をしているが、そろそろ特定されそうな予感。
そういや、鍛冶屋渾身の作の特製武器がやっと手に入った。
相当苦労したらしく、かなりの額を払う羽目になったので、仕方が無いからちょっとレアな鉱石で手を打った。
まだ出回ってないとか言っていたけど、良かったのかな、出しても。
今までも色々やっているのに、一向に運営からのクレームが来ないんだ。
だから許容範囲なのかと思っているが、言われたら止めるから心配するな。
それはもう、スッパリとな。
食事の時間帯を過ぎるとまた客が減り、住民相手の商売となる。
近所の店の人達にもそれなりに受けているようで、特に桃のジュースが人気だ。
やはり甘い物が足りない世界だから、そういうのが受けるんだろうな。
うちのは果汁100パーセントだから甘くて美味いぞ。
桃のジュースの作り方。
まずは手を洗います。
そしておもむろに桃を手に取り、皮を向いた後でギュゥゥゥゥゥゥ……完成です。
実にお手軽です。
水分の無くなった果肉は種を省いて瓶詰めにします。
そうしてそれに蜂蜜を入れると、お土産の桃ジャムになります。
それは住民だけに販売していますが、かなり好評のようです。




