第十五話 まさかお前なのか?
いくら少し高めでも男の声なのにあんな誘い。
思った通りそちらの趣味だったようで、某所に連れ込まれるままにして、中で抱き付いたら喜んだのでそのままお食事にすると、眠るようにお亡くなりになりました。
それから身包み剥いで素体倉庫に転送した後、店の店員を調整しておきました。
それからまた買い物の続きをしたんだけど、本屋巡りも良いが、大荷物でうろうろしていると、何かしら注目を浴びてしまうのには参った。
だから物陰で収納しようにも人目が途切れないからやり辛く、何処に置いて来たのかを聞く者が出たりした。
さすがにそう何人も食事にする訳にもいかず、さりとて素体倉庫に入れるのも事件になるからと思って何とか突っぱねたけど、あれでもう繁華街の買い物方式はダメだと分かったんだ。
なので郊外の本屋巡りに切り替え、大量購入を仄めかしての、精神スキルを利用した大量購入方式で購入した。
後は問屋も巡って同様にしたが、あれはあんまりやると拙いかも知れない。
それに、経理とか会計とかへの調整も必要なので、今後は別の方法を使ったほうが良さそうだ。
とにかく種類と量はかなりになったので、ひとまずそれは終わりにした。
それにしても気温が高いな。
魔術で冷却しないと汗が出ちまうぞ、なんてな。
白衣の中は涼しい風が循環してまして、実に心地良い状態になっているのでした。
襟元からは涼しい風が顔を撫でるので、直射日光の中でもそれなりに快適で、日焼けがどうこう言っていたからと、対光対策の魔術シールドを展開させていた。
もっとも、暑いからといって体調を崩す訳でもなく、本当に汗が出る訳でも無いんだけどな。
そういう人間の生理機能が懐かしくて、つい人に戻ったつもりで行動したくなるのさ。
もう戻れないのに未練かねぇ。
色々終わらせて地元に戻ると、バッタリ出会う腐れ縁。
「やあ」
「うぷ、くっくっくっ」
「どうだ、似ているか」
「ああ、ゲームでのお前にそっくりだ」
「こういうのをコスプレって言うんだろ」
「まあ、厳密に言えばそうだろうけど、自分の格好の真似だからな、どうなんだろう」
「気分は献金術師」
「そういやお前、上位職はどんな感じだ」
「実はもうなっていたり」
「おいおい、先に行けたのかよ。βで試した奴が言うにはよ、ひたすら地味な基礎研究三昧で先が見えないとか言っていたんだぞ」
「あれはもしかしたら、裏技だったのかもな」
「教えてくれよ」
かねてより作っておいた言い訳を話す事にした。
どうせ何時かはバレるんだし、今日が良い機会だろう。
本当の話は口伝で禁じられているが、偽の話なら構わないだろう。
どのみち、オレの本性など話す訳にはいかないんだし。
それに、喫茶店の名前がそうなんだし、不特定多数の前で話すより今のほうが良い。
「どっかでアイスでも飲まないか? 奢るぞ」
「うお、良いのかよ」
「任せろ。苛めっ子から返してもらったから裕福だぞ」
「お、遂にやったのか」
「法律を調べた甲斐があったよ。弁護士と相談して起訴状作成してな、相手の親と直接談判さ。そうしたら示談って事になって、色付けて返してくれたんだ」
「やるなぁ、お前」
どうにも《詐術》を取得してからというもの、こういう嘘話が流れるように出るんだよな。
困ったもんだけど、あちらじゃかなり有用なスキルなんだ。
なんせバレたら全ての人が敵に回る種族なのだから。
話しながら店に入ると涼しい風が顔を撫でる。
「はぁぁ、生き返るな」
「最近、どうにも暑いよな」
「ああ、堪らねぇな」
「お前、何にする? 」
「アイスコーヒー」
「だよな」
それにしても、そういうおしぼりの使い方は、サラリーマンとかにたまに居るよな。
「お前、親父臭いぞ」
「良いだろ、汗掻いたんだから」
「まあ、脇の下を拭かないだけましか」
「さすがにそこまでやれるかよ」
ふうっ、魔術の連続使用に疲れるような年じゃなくなったが、それでも殆ど意味の無い行使は精神的に疲れるな。
だけどやっぱり人間だった頃のあれこれをやりたくなるんだ。
寒ければコタツに潜ってみたくなるし、暑ければ冷たい物を食べてみたくなる。
それでどうこうなる訳でもないのに、かつての行動をなぞりたくなる。
もう、とっくに吹っ切ったはずなのに、どうしてなんだろう。
未練じゃないとしたら、懐古なのかな? 爺さんだし。
「その格好のまま家に戻るのか? 親に何か言われるぞ」
「それがな、ちょっとした訳で歓迎されこそすれ、叱られる事は無い」
「どんな訳だよ」
「聞くな、後生だから」
「何となく分かるところが恐ろしいな。あれだろ、親の趣味とかだろ」
「お前は超能力者か」
「くっくっくっ、やっぱりな。それでよ、上位職の件なんだが」
「某錬金術師のマンガの中のある台詞を言ったら、いきなり上位職の資格をくれた」
「それって理解、分解ってやつか」
「口伝だから他言無用なんだ。それぐらいで勘弁してくれ」
「そっか、なら、聞けねぇな」
「多分、同じ手は使えないと思うぞ」
「ああ、そうかもなぁ……って待てよ。ならよ、初日のアナウンス、まさかお前なのか? 」
「ついでに言うと従魔登録もだ」
「おいおい、マジかよ」
「あの狼は逃げたけど、何かフラグでも立ったのか、他のモンスターが懐いてな、ギルドで登録したらあのアナウンスだ」
「で、何くれたんだ。初なら何かくれたろ」
「従魔の家だとよ。アイテムボックスの1枠を使って、従魔の家を構築って出てた」
「持ち運び自由かよ、そりゃ良いのをもらったな」
「ああ、人見知りが激しいから助かっている。人前に出せないからな」
「んで、錬金術師の特典は何なんだ」
「マイ研究室だとよ。いつでもどこでも研究が出来る、貴方だけの別空間」
「それってよ、課金で買えるマイルームとかじゃねぇのか」
「中にはベッドとか研究機材もあってな、中々便利に使っているぞ」
「そりゃお得だな。課金なら色々買わないと設備か充実しないらしいからな」
「そのマイルームっていくらなんだ」
「それがよ、5万円もするんだよ」
「たか」
「そう思うだろ。その代わり、あれば野営が楽にやれるってんで、攻略組の奴らとか共同で買って持っているって話だ」
そんな事になっていたとはな。
つまりあれは宣伝を兼ねている訳か。
普通なら取得した日に皆に自慢して、それがそのまま宣伝になるのを見込んでいたのかも知れんが、当てが外れたかな。
オレが何にも情報を漏らさなかったから。
もちろん、従魔の家は空だ。
チビは今頃、迷宮の中でコンタと共に過ごしているはずだから。
だから人見知りが激しいと言ってある。
実際、人族が怖いようだから、あながち嘘でもないしな。
「夏休みももうすぐ終わりだな」
「今年は特に早かったぜ」
「けど、アレ、良いな」
「ああ、あんなに熱中するとはな」
「やっぱり楽しいか? 狩りは」
「そういうお前はどうなんだ」
さすがにあれを故郷と言う訳にもいかないし、仮初とは言え、戻れて嬉しかったとも言えないな。
「実は称号をもらった」
「ほお、どんなのだ」
「狩らない者」
「お前、まさかとは思うが、モンスター狩ってないのか」
「経験値はPKさんにもらいました」
「おいおい、てことはまともに戦えるんだな」
「ああ、今ではな」
「それにしても狩らない者か、道理で説得とか試すはずだ」
「可哀想で狩れないんだ」
「まあ、何となく分かるけどよ、普通は狩らないとレベルが上がらないからよ」
しかし、あれが現実と知ったらどうなんだろうな。
やっぱりそれでも殺せるのかな。
オレは相手が人なら殺せるが、モンスターはどうにも無理だ。
特に隷属魔法中のモンスターは、可哀想で見てられん。
サービス終了になったら解放されるのだとしたら、それを願うしかないのかな。
だけどそうなったらもう、異世界へのアクセス方法が無くなってしまう。
ジレンマだな。
あいつはお使いの途中だったのを思い出し、慌てて買い物に走った。
今日はすき焼きとか言っていたが、真夏にそれはまたご苦労な事だ。
オレは補給したから特に問題は無いが、今日のご飯は何だろうな。
何でも食うが、それでどうにかなるものでも無い。
確かに栄養になりはするが、その程度じゃもう無理になっちまったのさ。
でも、このままじゃ拙いよな。
確かに学生ならまだ良いが、卒業した後が問題だ。
結婚とか言われても、そんな人の本能とかもう無くなっているからなぁ。
夜の行為をしろと言われたら困るぞ。
芝居ならやれても本物は無理だ。
その時はスキルを駆使して誤魔化すしかあるまい。
まあ、やろうと思えば子供の構築も可能そうでもあるし、いざとなれば養子という手もあるだろうし。
なんにしてもバレる訳にはいかないんだ。
人類の敵としてはな。
◇
今日の夕食は冷麺らしく、どうせなので手伝う事にした。
「あらあら、最近、妙に優しいわね」
「料理も覚えようと思ってさ。今時、料理が女だけのものって訳じゃ無いしさ」
「うんうん、良い心がけだわ」
「それ、刻むんだよね」
「やれるの? 」
「多分ね」
人なら散々切り刻んだが、野菜はあんまり刻んだ事は無い。
だけどまあ、何とかやれるようで何よりだ。
キューリの千切りをひたすらやっていると、次の材料の指定がされる。
そうして言われるままに手伝いをする。
こういうのもかつて夢想していたが、いざとなると妙に照れ臭いものだな。
だけどそれを厭うよりは素直に手伝おうと思えてしまう。
こういうのを童心に帰ると言うのかな。
確かに見た目は以前のままだけど、中身は遥かなる年月を経験している。
だけどこういう風な昔のような言動は、かつてのような気力の回復には有効のようだ。
今では消えたいとは思わなくなった。
かつてはもう、そうなっても構わないとまで思っていたものだが。
「それにしてもあのウィッグは良いわね」
「実はあの格好、ゲームの中の格好なんだ」
「あら、それで選んだのね」
「あれならまだ慣れているから」
「面白そうね。母さんもやってみようかしら」
「いや、同じのは多分無理だよ。だって母さん、動物とか殺せないよね」
「ああ、それをしないといけないのね。だったら無理ね」
「オレは何とか動物を殺さない方法を考えたけど、それもきっと難しいよ」
「サト君は優しいから、そういうのがきついのね」
「クラスの奴に誘われて始めたけど、どうしても殺せなくてさ、試行錯誤で何とかなっているんだ」
「その調子で頑張りなさい。嫌なら無理に戦わなくても良いわ」
「うん、そうするよ」
モンスターとはな。




