十一話 ちょっとうちの迷宮の話をしても良い?
ちょっと向こうでの経済を教えただけなのに、すぐに自分のものにして活用しているんだから大したもんだ。
こっちに転移した時に持っていた学生カバンの中の教科書のお陰でレクチャー出来たけど、当時のオレには人に教えられる程の学は無かったんだよな。
政治・経済と数学と物理の教科書のお陰で、かなり知識チートが出来たと思う。
冒険者の頃はやれなかったが、迷宮管理になってから活用出来たのが何か皮肉だよな。
お陰で幹部連中の学識が軒並み上がっちまって、そこいらの人族など比べ物にならなくなっちまって。
しかも揃って長命だから、今でも迷宮内の学校で教鞭を執っているはずだ。
そして教科書は今でも資料室の持ち出し厳禁の本棚にあるはずだ。
迷宮もああなっちまったらもう、別世界にも等しいな。
26の種族が26の国を作り、26の階層でそれぞれ暮らしていて、交流や交易をやりながら外にも色々流しているのが現状だ。
だから迷宮産の産物はどれもこれも珍しい代物だけど、作っているのが実はモンスターなのは人族は誰も知らないと。
1人じゃ到底把握し切れんから皆に任せているんだ。
なんせシステムの限界超えちまって、あいつらの国は半ば独立しているんだよな。
だから迷宮の中に別の迷宮があるような感じになっていて、サブシス達がそれぞれ管理して、それをメインが統括しているって感じになっている。
迷宮システムを作った人も、さすがに1400年も討伐されないとは思わなかったんじゃないのかな。
創ったオレが言うのもなんだけど、あれはもうどうにもならないだろ。
総人口は恐らく、人族達の国々を凌駕しているぞ。
今でも必要に応じてオートで拡大しているはずだ。
だからうちの迷宮はまだまだ大きくなっていくはずだ。
人族のような領土拡張に他が邪魔にならないから、余計に争いにはならないんだろうな。
しかも国と言ってもまとめ役みたいな感じで権力とか皆無で、各国の長が集まって雑談会をやっていたりして、本当に和気藹々なんだよな。
だから偉そうな人族の王みたいに他の奴を傅かせたりはせず、ざっくばらんに過ごしている。
上下の差が殆ど無いから、羨む相手が居ないせいもあり、国が荒れたという話は聞いた事が無い。
特に権力も無いから誰もやりたがらず、自然と種族の長がそのまま国のトップになったんだ。
だから仕事と言っても特に何も無く、寄り合いを楽しみにしているらしいな。
人族の国なら色々な雑務があるだろうけど、そんな権力とか無いから必要な事もあんまりない。
武力も必要無いから兵士とかも居ないし、産物はいくらでも採れるから税金も殆ど必要無いし、
乱暴者は周囲の者達が取り押さえて諭すしで、特にトラブルもなく過ごしているはずだ。
稀にそれでも治らない奴も出るけど、そういうのは幹部連中が対処している。
まあ、幹部連中のご飯になっちまうんだけど。
長命で博識で、それでいて強い幹部達は、はっきり言うと竜族だ。
あいつらは揃って人化しているが、いざとなったら元の姿に戻るから、それが抑止力になっているのかも知れない。
元は討伐されそうになっていた奴らで、うちの迷宮に誘致した連中なんだよな。
冒険者の頃は討伐していたけど、迷宮管理になっちまったらもうそんなのやれなくてさ、自然と庇いたくなっちまったんだ。
やはり種族が変わったせいかもな。
なんせ人類の敵だし。
◇
資料を読み終えてひとこと。
情報が実に虫食いだ、もっと詳細な資料を作りやがれ。
と、そう思ったんだけど、これが人族の限界なのかも知れない。
まあ、オレも流すつもりも無いから充実はしないと思うが、うちの資料室の資料のほうが遥かに充実しているぞ。
ああ、実に無駄な時間を過ごしてしまった。
オレの知らない製薬方法でも出ているのかと思ったが、既知のものばかりで進展が無かったぞ。
実際、それらの材料ならオレの倉庫の中にわんさかとあるんだよな。
しかもうちの迷宮で生産される物が殆どだから、湖の水と洞窟の苔さえ集めれば後は迷宮内で事足りる。
だけど最上級回復薬は公式には外には流してない事になっている。
あれは非公式に人族の各国の王への献上品って扱いで、だから謁見なんかもスムーズにやれたりする。
渡した回復薬はそのまま国宝になっていると聞いているけど、使えよな、薬なんだから。
大戦の時の戦争反対の時も2国に持参して謁見したけど、結局無駄になっちまったよな。
だから暴れたんだ。
それからしばらくしてある国の王との対談で、是非にも売ってくれと頼まれちまってさ、用途を聞いたらオレと同じ使い道だったんだ。
つまり、周囲の国々との折衝に使いたいと言われ、仕方が無いから10本売ってやったんだけど、それからしばらくしてその国は他の国々からの侵略を受けて滅んじまったんだ。
やっぱりそうなると思ったよ。
人は他人を羨むもので、凄い物を持っていると欲しがるものだ。
かつてはオレも人だったから、その心理は良く分かっている。
だから最初は断ったのに是非にと言われて仕方なく売ってやったんだけど、ああなる未来は読めていた。
その証拠にうちの迷宮都市に「最上級回復薬の取り扱い権利を獲得した」とか、勘違い野郎が来てたけど、何の事だと追い返した事がある。
それはともかく、かつてあの国が生産していた物産はオレの倉庫の中に眠っている。
戦争で折角の特産品が消えたのは実に皮肉な話だ。
回復薬欲しさだけじゃ無かったろうに、侵略した国が得た物は果たして欲しかった物なのかな。
侵略者に渡すぐらいならと、亡命を条件に受け継いだ秘術だけど、漁夫の利をしちまったかもな。
その人族達は消え去ったけど、産業の基盤はモンスター達に引き継がれ、それも迷宮の特産のひとつとなっている。
より特化されているから元の特産品とはバレないと思うけどな。
え、どんな物産かって?
有体に言うなら火薬だ。
この世界に存在しないはずの硝石の作り方を何故か知っていて、あの国だけがそれを産していて、そして火薬にして消費していたんだ。
だからもしかしたらオレみたいな転移者が伝えた技術かも知れないと今では思っている。
そんな訳で迷宮産の発破はあちこちの鉱山で活躍していて、かなりの売り上げになっているはずだ。
物理の教科書にニトロの話とか載せるなよと、当時は思ったけど活用したのは自分だしな。
ああ、もちろん迷宮の中の鉱山だよ。
人族なんかに売ったりしたら、それを戦争の道具にするに決まっているだろ。
そりゃわざわざ鉱山にしなくても、鉱石の創造は出来るけどさ、やはり職人は仕事が無いと生き甲斐って生まれないものだしさ。
それなりに働いて稼いで、酒場で皆とワイワイと過ごす。
そういうのが良いと思うから、わざと鉱山とかにしているんだ。
迷宮内の鉱山は掘り尽すなどあり得ない。
だって穴だらけになったらまた再構築するんだし。
それも国の長の要請を受けて、幹部からシステムへの要請が成され、実施されているはずだ。
幹部連中にはかなりの権限を共有にしてやっているんだ。
だって竜族って揃って知性的と言うか、温和な性格をしているから任せて安心だしよ。
だから火薬の管理も任せていて、幹部連中の子飼いがそれの製造管理をやっているはずだ。
他にも重要な産物の製造管理を任せていて、各国との取引を経てそれぞれの余剰利益を吸い取っていくシステムになっている。
だから宝物倉庫には各国からの利益が山になっているけど、あれの使い道って無いんだよな。
まあ、竜って光物が好きらしいし、集めるのが趣味みたいだから放置しているんだけどな。
◇
新発見。
システム上で調合すれば普通の回復薬になりました。
やったね。
そうと決まれば、苔を採りに行くぞ。




