第十話 うちの子になるか?
6匹の群れは次々と倒され、最後の1匹がこちらに突進してくる。
おや、何か処置されているのか?
解いてやろうな。
《解術……隷属解除》
「クーン、クーン」
「おいおい、何をしたんだ」
「おお、よしよし。ごめんな、痛かったろ」《回復術》
「待てよ、お前、そんなスキル持っていたのかよ」
「持ってないぞ」
「なら、何で懐くんだ」
「普通に現実の犬にやるようにしただけさ」
「それって裏技かよ」
「いきなり武器を向けたら、どんな動物でも馴染まないぞ。その点、オレは手ぶらだ」
「まさかそんな方法があるとはな」
可愛いなぁ。
よしよし、うちの子にしてやろうな。
ただ、ちょっとオレは出張中なんでな、留守番になると思うけど、待っててくれるよな。
まあ、お前らじゃそう簡単には馴染まないと思うぞ。
なんせオレは人類の敵であり、モンスター達の仲間に等しいのだから。
コンタに連絡し、新たな配下を獲得した事を告げる。
《うえっ、ワンコ? ……狼だが嫌か……そうじゃないんだけど……たまたま見つけてな、懐いたからうちの子にしようと思ってな……でも、帰れないんだよね……一緒に待っていてくれ。そう遠い未来じゃないからよ……そうなんだ。うん、待ってるから……頼むな。少ししたら送るからな……はーい》
本当にそうなると良いんだけど。
確かに元はあちらが故郷だけど、こちらに戻りたいと思うしな。
肥大した望郷心は両親に逢えて消えちまったし、あれで未練も消えたようだしな。
いわば里帰りみたいなもので、今ではこちらが故郷になっちまったんだな。
「よし、送るからな」
「クンクン」
「コンタってのが居るから、一緒に待っていてくれ。オレはまだ帰れなくてな」
「クーンクーン」
《飛術……魔物転送》
ああ、リアルな身体で会うのが楽しみだよ。
「あれっ、さっきのモンスターはどうしたんだ」
「逃げた」
「くっくっくっ、何だよそれ」
「やっぱりスキルが無いとダメっぽい」
「惜しかったな」
「けど、何度かやっていたらスキルが生えたりしてな」
「あり得るな」
《うえっ、名前? ワンコで良いじゃない……逆から読んでみな……コンワ……まるでお前の兄弟だな……名前付けて……クンタで良いか? ……そんなの嫌だぁぁ……フォレストウルフだから、ルフで良いか……うん、判り易いから良いと思うよ……なら、任せたぞ……りょーかい》
あいつも人見知りだからなぁ。
まあ、そのうち慣れるだろ。
◇
それからしばらく狩りをしたものの、どのモンスターも隷属されているようで、強制的に戦わされているのを知る。
他所のモンスターと割り切って見ていたものの、どうにも痛々しくて堪らない気分になる。
そのうちに現地解散となり、それぞれはソロでの狩りをするらしく、三々五々に別れていく。
街に戻ろうとしていたらコンタそっくりの子狐を見つけ、ついうっかりと隷属を解いてしまう。
「キュン、キュン」
「ああ、ああ、嬉しいのは判るが、そんなに懐かれても」
「キューン、キューン」
どうにも離れようとしない。
困ったな、そんなつもりじゃ無かったのに。
余りに痛々しいからつい、解いちまったんだよな。
「コンタの舎弟にでもするか」
「キューン」
その後、コンタに相談すると意外な程に受けが良く、弟分にしたいと妙にはしゃいでいた。
それでもしばらくはこのままでも良かろうと、従魔登録とかやれるようで、最寄の小さな村のギルドで登録してもらった。
『お知らせします。初めて従魔登録が成されました。なので従魔システムを解放します』
うげ、またかよ。
「チビ、マフラーの振りしろ」
「キュン」
言葉は判るようで、すぐに首に巻きつくチビ。
ああ、首が暖かいな。
まるでコンタが巻きついているみたいだ。
何となくほのぼのとした気分のまま、最初の街に戻る。
「お前それ、ミニフォックスだろ。何処で手に入れたんだ」
「うえっ? 何が」
「そのマフラーだよ」
「何処の露店か忘れた」
「プレイヤーメイドなのかよ」
「欲しいなら買って来いよ」
「くそ、何処の露店なんだ」
「だから忘れたって」
チビはじっとして、バレないようにしているようだ。
それでも怖いのか、少し震えている。
なので早々に会話を切り上げて、人の居ないほうに歩いていく。
「怖かったんだろ、もう大丈夫だからな」
「キューン、キューン」
折角もらったんだからと、マイ研究室に入ると、チビは人族の気配が消えた為か、リラックスしているみたいだ。
このアバターも人族のはずだが、中身が人類の敵だから雰囲気が違うのかも知れないな。
「お前、喋れんのか」
「スコシ、ダケ、デモ、ヒト、コワイ」
「ああ、知られたら大変な事になるもんな」
「カアサン、シル、ツカマル、イワレタ」
「その母親はどうした」
「ハグレタ、スコシ、マエ」
「隷属の魔法のせいか」
「アレ、ヒドイ、タタカイ、キライ、ナノニ」
「済まんな、オレではそれを止められんのだ」
「イイ、アレ、ムリ、タブン、カミサマ」
「ああ、そうだと思うよ」
「アルジ、ズット、コノママ、イイ? 」
「この身体は仮初のものでな、本体じゃないんだ」
「ソレデモ、イイ」
「うちの子になるならお前の兄貴分を紹介してやるぞ。あいつに話したら妙に気に入ったみたいでな」
「オナジ、ナラ、アイタイ」
「そうか、まあ、今日はここでのんびりしような」
「アルジ、アタタカイ、ヒトゾク、トハ、チガウ」
「そりゃオレは人類の敵だしな」
「ソレデ、カナ」
「見た目は人族だが、中身はダンジョンマスターさ」
「ボク、イイノ? 」
「ああ、うちの子だ」
「アリガト、ウレシイ」
研究室の中には仮眠用と思われるベッドがある。
ここでログイン・アウトが出来る為の処置だろうが、そこにチビと共に寝転がる。
実際、うちの迷宮って、モンスター達の待避所みたいになっているからなぁ。
あちこちで虐待されているのを見つけては、誘致していたから噂でも聞いたかな。
チビは安心したのか、眠っているようだ。
もう手離せないな。
◇
しばらくうとうとしていたものの、ふと目が覚めて研究でもしてみようと思い立つ。
折角の場所なんだし、本来の使い道をしないとな。
そう思って資料をつらつらと読んでいく。
さすがに毒薬ばかりではアレなので、回復薬を作ろうと思う。
どのみちチートアイテムになるだろうから商売には使えなくても、在庫になるかも知れないしな。
それに回復薬なら怪我した奴に直接使えば、商品名はバレないだろうし。
そうやってバレないように使えば恐らくいけるだろう。
うん? シルベスト洞窟?
洞窟の中の苔が最上級の回復薬の原料のひとつと書かれている。
しかし、そこにはエイシェント・ドラゴンが居て、採取は限りなく困難とも書かれている。
確かあの洞窟のエイシェント・ドラゴンって竜の長だったはずだぞ。
あの爺さんなら話が分かるから、言えば採らせてくれるぞ。
後はミストラス湖の水か。
あれはちょっと行くのが大変な場所にあるな。
歩きで行くなら恐らく、登山の心得でも無いと辿り付けんぞ。
まるで山脈みたいなのが周囲を取り囲んでいるけど、あれはカルデラ湖に属するだろ。
星の形が変わる程の巨大隕石でも落ちたかと思うような、ばかでかいカルデラなんだよな。
そのせいか人跡未踏に近く、だからか妖精の溜まり場になっているはずだ。
それで水がちょっと特殊になったんだな。
後はトクハヤシモク?
まさかとは思うが、得林木の事じゃないだろうな。
読みはトクリンボクにしていたはずだが、実はエリンギなんだよな。
どうやらあの茸、誰も知らなかったらしく、洒落で違う名前を付けて流通に流したんだっけ。
漢字を何処で見たんだろう?
しかも読み方間違えているし。
あれを手に入れるのに250万ポイントも取られてさ、悔しいから大量生産して流通に流したんだ。
他にも、マスクメロンとか、イチゴとか、どれもこれも数百万台のポイント取られたけど、うちの迷宮ではそういうのが大量に育っている。
実は迷宮の周囲は町になっていて、迷宮産の産物が売られているんだよ。
販売担当が人化して、あちこちの商店で売っているんだけど、かなりの人気と聞いたな。
その街そっくり迷宮のテリトリーなので、住んでいるだけでポイントになるのもでかい。
オレの直属がその街の長でさ、かなり商売が気に入ったらしく、専門で切り盛りしているんだ。
だから街に入るのにも税金など取らず、だからあちこちから商人が訪れていつも市場は盛況しているんだ。
本当にやり手だよな、あいつ。




