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食いしん坊スライムはダンジョン最深部を目指す  作者: バナナ


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空っぽの卵

二時間の湿潤休息で魔力を満たし、俺は四つの空殻を前にした。


外では切れた警報糸を瘴牙が踏み荒らしている。残った一本が伝えるのは、近いか遠いかだけだ。急ぐ必要はある。だが、急いで壊れる物を作れば、避難の途中で十二個を失う。


最初の空殻を合わせ、割れ目へ骨縫いを入れた。硬い骨片を針のように通し、魔材クラフトで固定する。見た目は卵に戻った。


床へ転がす。


一回目の衝撃で、縫い目から真っ二つに割れた。


「一つ失った」


ネフィラの声には責める響きがあった。


「硬く留めすぎた。力の逃げ場がない」


俺は言い訳をせず、割れ方を見た。殻そのものは耐えた。硬い縫合部だけが動かず、その端へ衝撃が集まっている。


残り三つ。次は細い骨を輪にし、殻の内側へ沿わせた。輪は完全には固定しない。押されれば少したわみ、元へ戻る。割れ目は粘りのある魔力膜でつなぐ。


転がす。壁へ当てる。水圧を弱く当てる。


今度は壊れない。


「形だけなら使える」


ネフィラが殻へ触れた。


「だが、空だ」


瘴牙が視覚だけで獲物を選ぶとは限らない。毒を食べ、熱を吸う生き物なら、魔力や振動へ反応する可能性が高い。


俺は殻の内側へ魔力刻印を一つ置いた。卵に残る弱い脈を真似し、一定間隔で明滅させる。


旧巣へ近い割れ目へ一個だけ置き、俺たちは岩陰から待った。


瘴牙の幼体が現れた。赤い節を光らせ、毒霧を吐きながら近づく。頭を上げ、空殻の方を向く。


だが二歩手前で進路を変えた。


刻印が弱すぎる。敵は殻ではなく、奥にいる本物の十二個から漏れる魔力へ向かった。


俺は遠隔水流罠を引き、敵の前へ石を落とした。瘴牙が跳び退いた隙に空殻を回収する。


「もっと強く刻めばいい」


「強いだけでは、生き物の揺れにならない」


魔力を増やせば目立つ。しかし一定の光は灯りと同じだ。卵は呼吸し、内側の幼体が動く。微かな不規則さが要る。


使えそうな素材を胃袋検索で探した。骨材、赤い魔核、星図板、ミミック本体。そして最後の星材が一つ。


星材は魔力を細く分け、揺れとして返す性質がある。今後の探索にも必要な希少品だ。ここで使えばゼロになる。


俺は三つの空殻と十二個の本物を見比べた。


「使う」


星材を薄く削り、三枚の殻へ塗る。厚さが偏れば一つだけ強く光るため、水圧制御で粉を同量ずつ流した。魔力刻印を通すと、殻の内側で細かな振動が生まれる。


一定ではない。弱くなり、止まりかけ、また二度震える。本物の卵の動きを完全には再現できなくても、霧の中で一瞬迷わせるには十分だった。


再試験をする。


先ほどの幼体が戻ってきた。触角が三つの空殻へ向き、本物の側から外れる。一番近い囮を牙で押し、熱を吸おうとして殻へ体を巻き付けた。


成功だ。


俺は戦わない。観察を終えた瞬間、水流で囮をこちらへ転がした。幼体は追う。空殻が振動するたび、毒霧を吐いて距離を詰めた。


旧巣の外縁まで引き離してから、壁の隙間へ囮を通す。幼体の胴は太く、同じ隙間を抜けられない。甲殻が石へ擦れる音を背に、俺は別の穴から戻った。


囮は三つとも使える。ただし一つを敵へ渡せば、回収できる保証はない。三つで二陣を通すには、置く場所と時機が重要になる。


ネフィラは第一陣の六個へ、自分の匂いを付けていた。運び手も彼女が決めている。俺へ任されたのは、三個分の逃げ道を保持することだけだった。


「三個しか任せないのか」


「三個も、だ。お前の道が切れれば全体が止まる。卵を抱えて戦おうとするな」


合理的だった。信頼の量を多く見せるために、危険まで増やす必要はない。


俺は三つの囮へそれぞれ異なる振動を刻み、退路の曲がり角へ配置した。一つ目は旧巣奥へ敵を戻す。二つ目は低い水路へ導く。三つ目は最後の壁として残す。


作業で魔力を九十六使った。星材は完全になくなった。食料は四分の一、水はない。


失敗した一つ目の殻を見た。硬く作れば強いと思った。だが、逃げ道のない強さは一度の衝撃で割れる。残った三つは、しなるから耐える。


本物の卵の揺れを真似る前に、ネフィラは三個だけを離れた砂床へ置いた。どの卵を観察へ使うかは彼女が選ぶ。俺は水中感知を殻へ触れさせず、周囲の砂へ広げた。一個目は四呼吸ごと、二個目は七呼吸と三呼吸を交互、三個目は長く止まった後に二度続けて震える。


「同じ刻印を三つへ入れたら見破られる」


俺は星材を削る前に、水滴だけで三種類の間隔を試した。規則を複雑にしても、繰り返せば機械の揺れになる。ネフィラが卵へ触れると間隔が変わった。温度、外の振動、内側の向きで反応する。完全な再現は無理だと認め、瘴牙を一度振り向かせる長さだけを目標にした。


最初の囮試験で進路を変えた幼体は、偽物を見抜いた後、本物へ向かう速度を上げた。失敗は無害ではない。敵へ比較材料を与えた可能性がある。俺は同じ個体へ二度目を当てず、外縁の別方向から来る足音を待った。


ネフィラは待つ時間を嫌ったが、卵の列から離れなかった。彼女の糸が外壁を三方向に拾い、俺の残った警報糸が一方向だけを深く見る。広さは彼女、距離は俺。網を統合しないまま、振動の時刻だけを水線へ並べた。


二体目は軽かった。毒霧を吐く量も少なく、熱流へ戻る間隔が短い。星材を塗った囮を一つだけ見せると、二体目は迷わず追った。個体差がある。囮が効く相手と効かない相手を外見だけで見分けられない以上、避難路の全てを囮へ頼れない。


俺は曲がり角に物理的な落石罠を追加した。遠隔水流罠で留め具を外せば、瘴牙の足元だけへ小石が落ちる。倒す重さではなく、触角を下げさせる一呼吸を作る量だ。卵が下を通る時には作動線を外す。罠の所有者は俺だが、停止札はネフィラが持つ。


一つ目の空殻が割れた原因も再確認した。硬い縫い目だけでなく、殻の内側へ水が残っていた。転がった時、水の重さが一方へ寄って衝撃を増やしている。残る三つは乾かし、骨輪の隙間へ空気を残した。軽さは強度の不足ではなく、力を逃がす余白になった。


星材を三等分した粉は、指で測れば偏る。俺は同じ長さの水路を三本作り、粉を流した後の濁りが等しく消えるまで調整した。一枚目へ多く付いた分を削り直すと、魔力が六余計に失われた。希少素材を使う判断だけでなく、加工の失敗も資源台帳へ残す。


囮を回収する時、幼体の牙が殻へ傷を一本付けた。もう一度噛まれれば開く深さだ。三個を三回使えるとは数えず、一個につき確実なのは一回だけとした。第一陣で一個、第二陣で一個、最後の一個は退路が破られた時の予備。成功回数を予定資源へ先取りしない。


ネフィラが任せた卵三個について、俺は運搬方法を勝手に決めなかった。水籠の深さ、揺れ、温度を彼女へ見せ、彼女が一個ずつ入れて反応を確かめる。二個目が強く震えたため水温を下げ、三個目は膜へ触れないよう骨輪で浮かせた。


「三個も、だ」という言葉の意味が形になった。俺の担当が小さいから軽いのではない。その三個を安全に通す間、残る九個の列と囮の時機が動く。余計な戦闘を始めれば、全部の予定がずれる。


第一陣を動かす直前、俺は魔力をもう一度数えた。六百。囮三個の刻印維持、曲がり角の落石一回、水籠三個分、毒霧を沈める水滴。水刃曲射へ回す余裕はあるが、使えば予備が消える。攻撃用の九十六を退路用として封じた。


水籠の試験では、卵そのものを長く入れなかった。十呼吸ごとにネフィラが持ち上げ、殻の冷えと振動を確かめる。二回目で底の水が一方向へ偏り、卵が骨輪へ触れた。俺は籠の外側へ細い尾を作り、余分な水だけを走行中に逃がす。容量を増やすより、揺れを減らす方が安全だった。


落石罠の小石は卵の通路へ散る。敵を一呼吸止めても、後続の運び手が転べば意味がない。作動後に水流で石を壁際へ掃く第二線を加えた。罠を二段にした分、必要魔力は増える。俺は囮の振動時間を三呼吸短くし、その差を掃除用へ回した。


ネフィラは予備の囮を最初から使う案を拒んだ。敵が多ければ早く遠ざけたい。だが最後の一個を外縁へ置けば、壁を破られた時に卵列から引き離す手段がない。彼女が守る対象と、俺が守る退路の両方に必要な予備だ。所有は俺でも、使用時機は二人の一致が条件になった。


空殻の傷へ薄い水膜を流すと、星材の振動が途中で乱れた。幼体が噛んだ一個は、外から見えない亀裂まで伸びている。俺は無傷二個と損傷一個を同じ資源へ数えず、損傷品を第一陣の近距離用に回した。長く追わせる第二陣には無傷品、最後の予備にも無傷品を残す。


ネフィラが触角を立てた。


警報ではない。彼女自身の糸が、重い振動を拾っている。


幼体の一体が巣へ入り込んだ。


しかも今度は囮のある外縁ではなく、十二個の卵へ最も近い壁を破っていた。


計画を試す時間は終わった。


俺は三個分の退路へ水を走らせた。


挿絵(By みてみん)

【主人公鑑定】

対象:グルト

種族:クラフトスライム・第一進化種

個体ランク:A

レベル:Lv.22

HP:396/396(ランク:B)

魔力:600/696(ランク:A)

攻撃:128(ランク:C)

防御:58(ランク:D)

速度:223(ランク:C)

技能:鑑定F/Lv2/無限胃袋D/Lv1(胃袋検索G/Lv1を包含)/水刃G/Lv3(水刃曲射G/Lv1、流路切断G/Lv1を包含)/水中感知F/Lv2(流れ読みG/Lv3、深層感知F/Lv2、飢餓感知F/Lv1を包含)/防水膜G/Lv3/水圧制御G/Lv3(囮水流G/Lv1、偽装流G/Lv1、遠隔水流罠G/Lv2、水流滑走G/Lv1を包含)/魔材クラフトG/Lv3(魔力構造G/Lv1、魔力刻印G/Lv2、骨縫いG/Lv1を包含)/気配遮断G/Lv2

状態:進化ポイント21。食料0.25、携帯水0、星材0。空殻1個を試作で破損し、柔軟な骨輪と最後の星材で振動囮3個を完成。ネフィラから卵3個分の退路保持のみを任され、瘴牙幼体の旧孵化棚侵入を検知

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