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食いしん坊スライムはダンジョン最深部を目指す  作者: バナナ


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第40話 骨冠の中の星

三騎は壊れても、死んでいなかった。

第六階層相当、死骸市場層の中央通路。砕けた冠、折れた脚、陥没した胸鎧が床へ重なり、その全部が細かく震えている。周囲の死骸を引き寄せ、もう一度立とうとしていた。

俺のHPは二百二十七。魔力三百六。食料ゼロ。使える材料は濁り骨一本と、ヴァルカが外した工房印骨一本だけ。

「追い込んだのは、どっちだろうな」

「両方だ」とヴァルカが答えた。「だから先に立った方が勝つ」

骨冠騎士の胸奥で、三つの紫炎が脈打つ。倒すには、再生材料を断ち、核を同時に止める必要がある。一体ずつ狙えば、残りが死骸を奪って強くなる。

俺は工房印骨を鑑定した。外側は鎧材。内側には、細い回収線が三本刻まれている。もともと解体した骨を一か所へ集めるための部品だ。

「これ、三体を同じ場所へ引ける」

「一度だけだ。割れ目へ魔力を通せば、骨ごと砕ける」

「一度で十分。たぶん」

「最後の一言を消せ」

左の騎士が先に立った。片脚しかないのに、剣を杖にして体を起こす。右の騎士は腕で床を掻き、中央の騎士は砕けた仲間の冠を吸収した。

三つの雄叫びが重なる。

空気が殴られ、俺の体が後ろへ滑った。紫の圧で、遠くの骨まで一斉に跳ねる。

左の騎士は、さっきの衝突で胸鎧が割れている。紫の核が半分むき出しだ。三体をまとめるより、まず一体を減らした方が早い。そう思った。

「一個ずつ潰せば、残りは二個! 算数なら俺にもできる!」

水刃を細く絞り、露出した核へ撃ち込む。青い刃が紫炎を裂き、核殻に亀裂が走った。

「よし、効いた!」

喜んだ次の瞬間、砕けかけた胸骨が左騎士から剥がれた。骨片は床へ落ちず、白い濁流になって中央騎士の胸へ吸い込まれる。中央の冠が一回り太り、消えかけた紫炎まで二つぶんの明るさで燃え上がった。

「減ってない! 一体を壊すほど、隣が太るのかよ!」

個別撃破では駄目だ。三体が互いを再生材料として共有している。核を順番に割れば、最後の一体へ骨と魔力が集まる。

「怖い! 正直、すごく逃げたい!」

俺は叫びながら、工房印骨を中央へ置いた。

「でも、逃げたらこいつらが水路まで来る。俺の寝床と、次のご飯がなくなる。それはもっと嫌だ!」

魔力刻印を二つ走らせる。対象は工房印骨。方向は中央。停止は、核が重なった瞬間。

一騎目が反応し、骨剣を引きずって来る。二騎目も這う。三騎目だけは動かなかった。

失敗だ。

中央の騎士は工房印を餌ではなく命令部品と見抜き、剣を投げた。

「壊される!」

俺は水流滑走で飛び込み、部品を胃袋へ収納する。骨剣が背後を抉り、石片が外膜へ刺さる。

引き寄せる物を隠せば、騎士たちは再び俺を狙う。

「違う。部品を餌にするんじゃない」

契約杭を互いの回収対象にした時は、命令の行き先をずらした。さっきの衝突では、俺自身が動く標的になった。今回も同じだ。三騎が欲しいものは命令部品ではなく、再生できる上質な骨だ。

俺は工房印骨を胃袋の中で砕き、魔材クラフトで三枚の薄い刻印板へ作り替えた。材料が足りない。そこで最後の濁り骨を芯にする。

上等な魔力筋を偽装し、三枚へ同じ回収印を刻む。

「残り材料、ゼロ。これで失敗したら、俺が罠材になる!」

三枚を別々の方向へ吐き出す。一枚目は左騎士の胸、二枚目は右騎士の冠、三枚目は中央騎士の足元。

三騎が同時に動いた。

互いの刻印板を、再生材料と認識したのだ。

左が右へ剣を振る。右が中央へ飛びつく。中央が左の胸を掴む。骨と鎧が絡み、三つの核が一か所へ寄った。

「今だ、ヴァルカ!」

鉄槌が床を打つ。解体溝の蓋が外れ、三騎の足元が沈んだ。俺は残る許可水から〇・五リットルを一気に解放する。

「水圧制御――遠隔水流罠!」

狭い溝で水圧が爆ぜ、絡んだ三騎を横倒しにする。魔力刻印の停止命令を、三つの核が重なる一点へ通した。

一瞬、止まる。

だが中央騎士の眼火が再点火した。停止を破り、俺へ腕を伸ばす。

「まだか!」

俺は逃げず、腕の内側へ潜った。深層感知で核から骨へ延びる三本の命令線を見る。三つ全部を切る魔力はない。

なら、一本だけ。

互いを再生材料と認識させている回収線を切れば、吸収は逆流する。

「流路切断!」

青い線が走った。

中央騎士へ集まっていた骨が、左右へ引き裂かれる。腕、肩、冠が三方向へ崩れ、核を守る鎧が開いた。

ヴァルカが一歩踏み込み、鉄槌を横から叩き込む。

「工房の骨を、勝手に墓へするな!」

一つ目の核が砕ける。

俺は水刃を二本、左右の露出した核へ撃った。一発目は紫炎に弾かれ、二発目が亀裂へ入る。それでも足りない。

残る魔力を水へ絞り、三本目を細く、硬くする。

「水刃!」

刃が二つ目を貫き、その破片が三つ目へ突き刺さった。

紫の炎が爆発する。衝撃で俺は床を転がり、ヴァルカも鉄槌ごと壁へ飛ばされた。

耳の代わりに全身が痺れる。何も見えない。けれど、骨の歩調は戻らなかった。

静寂のあと、俺は恐る恐る体を起こす。

「……勝った?」

返事はない。

「勝ったよな? 起きないよな?」

ヴァルカが咳き込みながら、砕けた冠を蹴った。

「三回聞いたら起きそうだから黙れ」

「勝ったああああっ!」

すぐに三つの核へ順番に鑑定を当てた。一つ目、魔力反応なし。二つ目、反応なし。三つ目だけ、砕けた殻の奥に紫の火花が残っている。

「まだだ!」

水刃を構える俺を、ヴァルカが止めた。

「再生線は切れてる。火花は殻に残った余熱だ。核としては死んでる」

それでも、食べて確かめる気にはなれない。赤魔核の正体すら分からないのに、怪しい火花を二つ目の危険物にしてどうする。

俺は火花へ直接触れず、ヴァルカの鉄槌で核殻を開いてもらった。紫の余熱は水槽から引いた細流へ溶け、再点火せず消える。残った殻は食用にできる魔力髄と、罠材にできる死骨へ分けた。

「怪しいところは食べない。安全なところだけ、ご飯と材料にする」

「少しは学んだな」

「少しどころか、すごく学んだ。褒めてもいいぞ」

「調子へ乗るところは学んでない」

緊張が切れ、二人とも短く笑った。

嬉しさが爆発し、俺はその場で何度も跳ねた。四回目で足元の骨に滑り、転んだが、もう痛みまで嬉しい。

三騎の中から、死骨八本と、青黒い板が現れた。板の表には星の配置。裏には南下層へ続く水路と、さらに奥の空間が刻まれている。

星図板だ。

勇者印と魔王軍印は、同じ南を指していた。今度の板は、そこへ至る別の道を示している。

戦いの経験が体内で熱へ変わった。レベル十四から十五。最大HPは二百六十八から二百八十四へ十六、最大魔力は四百七十二から五百へ二十八。攻撃九十三、防御四十四、速度百七十四。傷も魔力も新しい上限まで満ちた。

試しに、昨日は持ち上げられなかった骨冠の胸板へ体を差し込む。今度は一息で浮いた。水刃を軽く当てれば、厚い継ぎ目へ深い線が入る。

「すごい! 昨日の俺なら二発必要だった骨が、一発で切れる!」

砕けた過剰接合核から、細い魔力の糸が俺の核へ残った。死骨二片を並べて意識を向けると、糸が骨の割れ目を縫い、二片を一枚へつないだ。

「おおっ、骨がくっついた! じゃあ鎧も直せる?」

骨冠の胸板へ糸を伸ばす。だが、厚い鎧の内部で魔力が散り、接合部はすぐ外れた。生きた骨には糸そのものが弾かれる。

------技能確認-----------

技能:鑑定Lv2/生存器官Lv1(無限胃袋・胃袋検索・飢餓感知)/水刃術Lv3(水刃・水刃曲射)/水域感知Lv2(深層感知)/水流制御Lv4/防護膜Lv3(防水膜・耐毒膜)/魔材構築Lv3/気配遮断Lv2

効果:死んだ骨片二つまでを、短時間つなぎ合わせる

制約:生体骨と完全な鎧には使用できない

意識を切ると、縫い合わせた死骨は元の二片へ戻った。恒久補修ではない。けれど、罠が作動する数呼吸だけ保てば十分だ。

「小骨専用か。でも罠の骨組みなら増やせる。地味に見えて、絶対あとで助かるやつだ!」

「喜ぶのはいいが、次は何を守る」

ヴァルカが星図板を指す。

市場入口ではヴァルドが待っていた。補給官は倒れた三騎より先に、俺たちの傷を見た。以前なら数字から数えただろう。今は、まず生存者を数えた。

「二名。帰還を確認しました」

「俺は備品じゃないから、一匹か一人で数えて」

「では、交渉主体二名」

「それならよし」

三騎の核が止まると、契約板の表示も変わった。水源、還流物、生存個体は、所有対象ではない。七日限りの仮記録だが、俺たちが勝ち取った線だ。

ヴァルドは板へ、骨冠騎士三体停止、死骸市場の再生資源分離と記した。俺たちの所有とは書かない。俺も、地上の配給物を全部奪ったとは言わない。食用二食と、罠材にできる死骨八本を受け取る。残った工房印付きの鎧片はヴァルカへ。ほかは還流と調査用に分ける。

誰が何を得て、何を失ったか。勝った後に数えるところまでが戦いなのだ。

ヴァルドが最後に「個体非所有」と読み上げた時、俺は契約板を三度見直した。鑑定で読める単語、ヴァルカが確認する数字、ヴァルドが声にした条件。どれか一つだけを信じず、三つを重ねる。

「俺は在庫じゃない」

今度の言葉は怒鳴り声ではなく、記録された事実として市場へ残った。

「私は工房印の骨だけ持つ」とヴァルカが言う。「星図板はあんたが持て。ただし、あたしはついていかない」

「うん。条件どおりだ」

寂しくないと言えば嘘になる。でも、勝手に仲間に数えないと決めた。

俺は残った黒牙片一つ、翼膜端一枚、還流皿片一枚もヴァルカへ預けた。地下天文庫へ持ち込んで壊すより、工房で次の罠材に直してもらう方がいい。許可水〇・二五リットルはミレアの水脈へ返した。借りた物を返すまでが、俺なりの契約だ。

死骸から食べられる部分も二食分だけ確保した。赤魔核は隔離したまま。携帯水はゼロ。旧材料をヴァルカへ預けた代わりに、死骨八本と星図板がある。

俺は星図板を無限胃袋の安全区画へ収め、南の暗闇を見た。

次の場所は、地下天文庫。

骨の冠の中にあった星が、最深部へ続く新しい道を照らしていた。


挿絵(By みてみん)


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