第26話 腹を鳴らす罠
総階層は、まだ分からない。俺たちがいるのは中層水路域。深層入口から二つぶん戻った崩落坑道で、床の水だけが最深部の方角へ細く下っている。
そこへ着くまでに、崩落坑道の上りを二つ越えた。途中、天井が鳴るたび小石が雨みたいに落ちてきたので、無傷だった翼膜一枚を岩の継ぎ目へ魔材クラフトで縫いつけた。膜は水と魔力を帯びて膨らみ、落石を受け止める天幕と、帰る方向を示す青い目印になった。持ち運べる翼膜は、戦闘で裂けた一枚のうち、傷を除いた一枚未満だけになった。
横水脈へ着くと、俺は細い流れへ身を寄せた。
「ミレア。聞こえるか?」
返事の代わりに、水が俺の頬をぺちりと叩いた。流れの底から青い輪郭が浮かび、水溜まりの縁へ上半身だけを結ぶ。
「聞こえる。私は歩いて来たんじゃない。この水が、前の流れとつながっているだけ」
ヴァルカは槌から手を離さず、ミレアと水脈を交互に見た。
「その水、黒牙に吸われたら、あんたも引かれる?」
「切れば離れられる。でも、戻れる保証はない」
俺は腹の奥が冷えるのを感じた。会えたことを喜ぶ前に、条件を確かめなければいけない。
「罠を考える間だけ手を貸してほしい。水はミレアが出す量を決める。退路は先に作る。嫌になったら、その場で離れていい」
「ヴァルカが材料を捨てろと言ったら、従える?」
「泣く。でも従う」
「泣くのは勝手だ」とヴァルカが鼻を鳴らす。「あたしは退路が崩れるなら先へ行かない」
「それなら、罠を見るところまで」
ミレアの輪郭が水溜まりの縁へ落ち着いた。三人で進む約束ではない。次の一手だけを、一緒に確かめる約束だ。
腹が鳴った。
崩落坑道の暗がりへ、きゅるる、と情けない音が伸びていく。
俺は反射的に体を押さえた。押さえたところで、俺はほとんど腹なのだから、音の逃げ場なんてない。
「今のは合図じゃない。事故。俺の中で起きた小規模な事故だから」
「二度鳴ったら?」
ヴァルカが翼膜へ骨針を通しながら聞いた。休めたおかげで、落盤から抜けた直後に引きずっていた脚は歩けるまで戻っている。右手首の傷だけは浅く残り、まだ布が巻かれていた。鉄槌を振るには痛むらしく、針を引くたび眉が寄った。
「二度目も事故。三度目から罠に組み込む」
「腹を手順に入れるな。再現できない」
「できるよ。こいつ、ずっと空腹だから」
水溜まりの縁に座ったミレアが静かに言った。慰める調子ではなかった。観測した事実を置いただけだ。
「ミレア、それ、正しいけど少し傷つく」
「傷つく余裕があるなら数えて。水はここまで」
彼女が指を上げると、水溜まりから細い筋が三本だけ浮いた。一本は囮を濡らす分。一本は遠隔水流罠を起こす分。最後の一本は、三人が逃げるための分だ。
「退路の水には触らないで。あなたの魔力で増やしたように見えても、元は同じ水。グラトンに吸われたら戻らない」
「分かってる。囮、拘束、逃走。順番も混ぜない」
「昨日、壁にぶつかったやつが逃走を最後にするの?」
ヴァルカが口元だけで笑った。
水流滑走を得た直後、止まり方が分からず壁へ正面から突っ込んだ。その音を、落盤の向こうにいた彼女にも聞かれていたらしい。
「格好つけてる場合じゃないな。逃走を最初に練習します」
俺は水溜まりの端を一周だけ滑った。直線では速い。だが曲がる時は体を広げ、岩へ吸いつくように減速しないと曲がり切れない。最後に小石を三つ巻き込み、ヴァルカの足元へ飛ばした。
「減速はできてる。次は石まで連れてくるな」
「褒められた方だけ覚えておく」
「忘れた方が命取りになるんだよ」
俺は飛ばした小石を三つ、曲がり角の手前へ一歩おきに並べ直した。もう一度だけ滑り、一個目で身体を広げ、二個目で床へ吸いつく。三個目の前で止まれた。今度は石を一つも巻き込んでいない。
「やった。壁じゃなく、目印の前で止まれた!」
喜んで身体を起こした拍子に、後ろへ残していた水がヴァルカの靴へ跳ねた。
「止まる方は合格。周りを濡らさない方は落第」
「成長した瞬間くらい、満点をくれてもよくない?」
急停止はまだ無理でも、減速を始める位置は選べる。罠が崩れた時は、一個目の目印で逃走へ切り替える。それを新しい中止手順にした。
彼女は飛んできた小石を拾い、そのまま崩落材の隙間へ押し込んだ。木片と薄い岩板を三角に組み、翼膜の帯でつないだ支えだ。
材料は、ここへ来る途中で拾った分まで数えた。グラトンが岩角へこすりつけた黒毛が二束。ミレアが水溜まりの底から見つけた吸水石が二個。二枚あった翼膜のうち、無傷だった一枚は崩落坑道の退路補強へ使い切った。持ち出せたのは、戦闘で裂けて最初から使える部分が一枚未満だった、もう一枚だけだ。黒毛一束と吸水石一個は罠へ。残る一束と一個は、俺の無限胃袋へ退路用としてしまった。
グラトンが囮へ踏み込めば、黒毛を結んだ一段目が落ちる。水を吸おうと頭を下げれば、吸水石を芯にした二段目が閉じる。最後に俺が遠隔水流罠を起こし、どれを先に壊すかを見る。
倒す罠ではない。測る罠だ。
あいつが食料、赤い魔核、水、俺たちのどれを優先するのか。それが分かれば、次は逃げる順番を決められる。
食料は、激流ワイバーン幼体の肉を朝に一切れだけ食べた。残りは薄い二切れ。片方を囮へ使う案は、俺が出して、俺が取り下げた。今ある食べ物を全部賭けるのは、勇気じゃない。飢えた明日の自分へ刃を向けるのと同じだ。
代わりに、罠へ回す一束の黒毛へ脂を擦りつけた。翼膜は残った一枚未満の端から細帯を二本だけ切り、残りは体内へ戻す。崩落材は退路を塞がない小片だけ。吸水石も罠へ出す一個だけ。赤い魔核は罠へ出さず、体の中心にしまったままにする。
「確認する」
ヴァルカは結び目を引き、俺ではなくミレアを見た。
「水が予定を越えたら?」
「あたしが止める。グルトが続けたいと言っても」
「結び目が一つでも裂けたら、あたしが落とす。二人がまだ測れると言っても」
二人の視線が俺へ来た。
「俺は……グラトンが別の入口から来たら、起動を止める。いや、待って。それだけ?」
自分で言って、胸の奥がざらついた。水はミレアが止める。材料はヴァルカが止める。俺は起動順を決めたのだから、失敗しても最後まで見る役だと思っていた。
「始める者が、終わらせる者とは限らない」
ミレアの声が少し硬くなる。
「でも、俺が止めたら測れない」
「死んだら、もっと測れない」
返す言葉がなく、俺の腹がもう一度鳴った。
ヴァルカが鼻から息を抜く。
「三度目だ。ほら、罠に組み込め」
笑うところなのに、ミレアは笑わなかった。水の筋を見つめたまま、指を下げる。
「来る」
坑道の奥で、濡れた岩肌が白く乾いた。
まだ姿は見えない。先に水だけが逃げ始める。水溜まりの表面が奥と反対側へ傾き、ミレアの髪が引かれたように揺れた。
「北の裂け目。距離は二十歩より近い。足音が水を押してる」
「正面じゃないぞ。上だ!」
ヴァルカが支えを蹴り、横へ転がした。次の瞬間、天井の割れ目から黒い前脚が突き出した。湾曲した爪が、罠の起動紐があった場所を抉る。
グラトンは俺たちが待っていた入口を使わなかった。天井を這い、囮の真上まで来ていたのだ。
「見えてたのか? いや、匂いだ。黒毛の匂いを上から追った!」
「なら位置は測れた。第一段、落とすよ!」
ヴァルカが翼膜の帯を引いた。
崩落材が弾け、黒毛を包んだ岩片が三方向へ転がる。一つは入口、一つは水溜まり、もう一つは俺のいない横穴へ。グラトンの赤黒い鬣が天井から垂れ、その眼が三つの囮を順に追った。
成功した。
俺はそう思った。
一拍だけ、グラトンの鼻先が入口の囮へ向く。次に水溜まりの囮へ向く。最後に横穴へ――向かなかった。
巨体が落ちてくる。
囮を踏まず、食べず、罠の中央へ前脚だけを差し込んだ。爪が吸水石の真上で止まる。
「第二段、今だ!」
俺は合図を出し、ミレアが許した一本目の水を送った。細流が吸水石へ入り、石が膨らむ。左右の岩板が閉じ、グラトンの前脚を挟んだ。
黒い獣の肩が沈んだ。
やった、と叫びかけた俺の耳へ、ずずっ、と嫌な音が届く。
水が逆向きに流れていた。
吸水石へ送ったはずの細流が、石を通り抜け、グラトンの爪へ吸い上げられていく。赤黒い鬣が根元から明るくなり、痩せていた前脚がひと回り太く膨れた。
その時だけ、鬣の奥、額の左右に埋もれていた硬い瘤が持ち上がった。角と呼ぶには短い。けれど、吸われた水と魔力が二つの瘤へ集まるのを、俺は見た。
「止めて! その石、閉じ込めてない。水を渡してる!」
ミレアの声が鋭く割れた。普段なら一言で止める彼女が、立ち上がり、両手で水筋を掴んでいる。
「まだ脚は挟まってる。もう一段で――」
「しないで! 私の水を、あれの餌にしないで!」
怒声に押され、俺の魔力操作が一瞬遅れた。
その一瞬で、グラトンは前脚を振った。膨れた筋肉が岩板を内側から砕く。破片が飛び、ヴァルカの肩を打った。彼女は膝をついたが、起動紐を離さなかった。
「ヴァルカ!」
「こっちを見るな! 支えが軋んだ、次で落ちる!」
「数えるの速くない!?」
「怖い時は速いんだよ!」
彼女が叫び返した。ぶっきらぼうな声の奥で、息が震えていた。
グラトンが二本目の水筋へ牙を向ける。水を飲むのではない。牙の周りの空気ごと乾かし、流れを引き寄せている。このままでは、罠を動かす水だけでなく、退路の一本まで巻き込まれる。
囮を見破られ、拘束まで餌に変えられた。
なら三度目は、水を使わない。
俺は水刃を作らず、体を細く伸ばして崩落材へ潜り込んだ。グラトンの爪先ではなく、その下に噛んだ翼膜の結び目を狙う。
「材料を切る! 全部落として脚場を崩す!」
「待て、それを切ったら吸水石も落ちる!」
「だから落とす! 水ごと下の亀裂へ捨てる!」
ヴァルカの目が見開かれ、すぐに結び目へ戻った。彼女は止めなかった。代わりに鉄槌の柄を差し込み、岩板の向きを変える。
「左じゃない、右を切れ! 左は退路の支えとつながってる!」
「右、分かった!」
俺は表皮を刃の形に固め、翼膜を噛み切った。
支えが崩れる。吸水石と砕けた岩板が亀裂へ落ち、グラトンの前脚も半歩沈む。初めて獣の喉から低い唸りが漏れた。飢えではなく、苛立ちの音だった。
けれど、石が落ち切る前に黒牙が伸びた。
グラトンは吸水石を噛み砕いた。
ぱん、と乾いた破裂音がして、石に残っていた水と俺の魔力が霧になる。その霧さえ、赤い鬣へ吸い込まれた。
「うわ、食べるのはそっちかよ! 囮の肉味は無視して、道具を食べるな!」
返事の代わりに前脚が飛んだ。
俺は水流滑走で横へ逃げる。直線の加速だけなら、前より速い。だが着地点には崩れた岩が積もっていた。急に曲がれない。体を広げて岩へ吸いつくより早く、爪の風圧が背を裂いた。
痛みが核まで走る。
「うわ、体の水を持っていかれた! 怖い怖い、でも核は無事!」
滑った勢いのままヴァルカの足元へ入り、彼女を背へ乗せた。軽いとは言えない。俺の体が潰れ、速度が落ちる。
「降ろせ、自分で走れる!」
「肩を打った人の台詞じゃない!」
「借りを増やすなって言ってる!」
「じゃあ後で返して! 今は生きて持って帰る!」
ミレアが退路の水筋を持ち上げた。細い道が暗闇へ光る。
「こっち。四歩先で右へ曲がって。グルト、その速さのまま入ると壁に当たる」
「それ、今いちばん聞きたくて、いちばん必要な忠告!」
右へ曲がる前に、俺は体を床いっぱいへ広げた。水流滑走の勢いを石へ逃がし、半分転がりながら角を抜ける。ヴァルカが背で悪態をつき、ミレアの水が足元を押した。
三人が横穴へ入った瞬間、背後で轟音がした。
グラトンは追ってこなかった。
代わりに、旧い還流皿へ体当たりしていた。俺たちが捨てた寝床の端に残っていた一枚。欠けた縁へ黒牙を差し込み、石床ごと持ち上げる。
「何をしてる?」
俺が息を切らす横で、ミレアの顔から色が消えた。
「下に落とす気。あの皿の下は、細い水脈につながってる」
「壊したら、こっちの水も?」
「すぐ全部じゃない。でも流れが下へ傾く。戻せなくなる前に離れて!」
二度目の体当たりで、還流皿が割れた。
水の音が変わる。横へ流れていた細いせせらぎが、一斉に床下へ吸い込まれた。ミレアの髪から雫が落ち、落ちた端から亀裂へ消えていく。
グラトンは俺たちを追うより先に、水場そのものを壊した。
罠の位置だけじゃない。俺たちが水を守ることも、逃げればどこへ戻るかも、知られた。
「撤退する。今度こそ全部だ」
俺は言いながら、赤い魔核が体内にあることを確かめた。食料の肉二切れと、残した翼膜もある。罠へ出した黒毛一束と吸水石一個は失った。それでも体内には、退路用の黒毛一束と吸水石一個を残してある。崩落材は使えない。失ったものを数えるほど、悔しさで体が熱くなる。
それでも一番重いのは、ミレアの顔だった。
俺が、もう一段と言わなければ。
「水を止めるって言った時、すぐ聞いてれば――」
「違う」
ミレアが遮った。
「違わない。俺が起動順を決めた。吸水石を使うと言ったのも俺だ。なのに、水が悪いとか、材料が弱いとか、今、言いそうになった」
ヴァルカの肩を支えていた体が震える。敵を前にした時より、二人を見る方が怖かった。失敗を認めれば、借りを返す前にヴァルカが離れるかもしれない。ミレアが水を貸さなくなるかもしれない。
だから責任を分けたくなった。
「ごめん。罠を動かしたのは俺だ。二人の止める声より、成功したい気持ちを先にした」
しばらく、水が落ちる音だけが続いた。
ヴァルカが俺の背から降りる。離れるのかと思い、体が縮んだ。
彼女は残った翼膜を取り出し、裂け目を確かめた。
「謝って終わるなら、次も同じだ」
「……うん」
「それと、材料は本当に弱かった。あたしが持つと言った。そこはあたしの失敗だ。全部を自分の腹に入れるな。消化できない」
ぶっきらぼうな声だったが、最後の一言だけ少し遅れた。
ミレアは二人から離れ、水脈へ指を浸した。細くなった流れを確かめてから振り返る。
「私も、水を止めると言ったのに、グルトの魔力操作へ任せた。次は、許可を取り消したら私が切る」
「待って。次って言った?」
「そこだけ聞くの?」
「聞くよ! だって、もう協力しないって言われると思ってた!」
声が勝手に大きくなった。安堵と悔しさが一緒にこみ上げ、何を先に言えばいいか分からない。
「離れたいなら塞がない。でも、まだ一緒にやってくれるなら、俺だけが開始と終了を持つのはやめたい。水だけでも材料だけでもなくて、危ないと思った人が止められるようにしたい。理由は後でいい。止めた人を、その場で責めない。俺も。絶対に」
ヴァルカが鉄槌の柄で床を一度叩いた。
「あたしは材料と退路を見る。どっちかが三呼吸持たないなら中止。説明は逃げた後」
ミレアが細い水筋を三人の間へ引く。
「私は水と水脈を見る。上限を越えたら中止。誰かが嫌だと言った時も止める」
二人が俺を待つ。
俺は一度、腹を鳴らした。今度は事故ではない。空腹を隠さず、判断へ入れるためだ。
「俺は敵の位置と起動順を見る。見えない動きが一つ増えたら中止。腹が減りすぎて囮と食料の区別が怪しくなっても中止。それから――誰でも『やめる』と言ったら、三人ともやめる」
「多数決は?」
ヴァルカが試すように聞く。
「しない。一人の命を、残り二人で材料にしない」
ミレアの水筋が俺の前で止まり、それから掌へ一滴だけ触れた。
「それなら、次の水を考える」
ヴァルカは翼膜の残りを俺へ押し戻した。
「これはまだ使える。罠へ出した黒毛一束と吸水石一個は失った。残した一束と一個は触るな。崩落材も回収しない。肉は二切れ。赤い魔核は一個、食べてない。道具より先に、今日は一切れ食べろ」
「二切れしかないのに?」
「空腹で判断を誤るって、自分で中止条件にしただろ」
反論しかけた腹が、本人より先に鳴った。
ミレアがほんの少しだけ口元を緩める。
「四度目。今度は食事の合図」
「二人とも、俺の腹へ役を与えすぎじゃない?」
そう言いながら、俺は肉を一切れだけ取り出した。半分に割り、半分を食べる。残り半分と、手をつけていない一切れは包み直す。翼膜は素材。赤い魔核は未捕食。水は量を決めつけず、ミレアが確かめた退路分だけを守る。
食べた分だけ、裂けた背がゆっくり塞がった。全部は戻らない。魔力も、グラトンへ吸われた分は戻らない。
レベルは10のまま。技能の変化もない。傷の深さから、HPは三十三、魔力は七十四ほど削られた感覚がある。罠へ出した吸水石一個と黒毛一束、崩落材を失い、翼膜は一枚分より少ない。退路用の吸水石一個と黒毛一束、食料のワイバーン肉一切れ半、未捕食の赤い魔核一個は守った。
失敗して、減ったものばかりだ。
けれど、増えたものもある。
俺が始めた罠でも、ミレアは水を止められる。ヴァルカは材料を落とせる。俺も、二人が続けたい時にやめると言える。
グラトンは下へ流れる水のそばで、もう一度低く唸った。勝ち誇る声ではない。新しい餌場を見つけた獣の声だ。
流れは今も落ち続けている。次にあいつが狙うのは、肉でも赤い魔核でもなく、水そのものかもしれない。
「食べた。数えた。逃げる準備もする」
俺は二人を見た。
「それで、やめる時は誰が決める?」
ヴァルカが肩を押さえたまま答える。
「誰でも」
ミレアが細くなった水をすくう。
「一人で決めていい」
俺は頷いた。
腹はまだ空いている。罠は壊れた。水場も壊されかけている。
それでも次は、失敗する前に三人の誰かが止められる。




