紛れ込むモノ 2(終)
「ねぇ、聞いた?1年のやってるお化け屋敷がかなり怖いらしいよ。」
「あ〜、聞いた。友達が行ってみたんだけど、かなり怖かったって言ってた。」
「行ってみない?」
「いいよ。ちょっと興味あったんだ。でも不思議だよね。教室って狭いじゃん?なのに皆すごい歩いたって言ってるんだよ。」
「間取りを上手く作ってるのかもね。じゃあ、これ食べたら行ってみようよ!」
2日間の文化祭が始まった。俺達のクラスのお化け屋敷はかなり評判が良いらしい。凶器を探し出せなくて再チャレンジする人もいるので行列が出来ているらしい。
らしい、と言うのは俺がそれを見ていないからだ。女子生徒達の独断と偏見で俺達の配役は全て決まった。俺達、男子生徒は口を挟ませてはもらえなかった…。
俺は心霊スポットとなった原因の最初に殺された宮司役を仰せつかった。今の俺はいつもの宮司スタイルに頭から血を流し、喉を掻っ切られ血みどろだ。
瞳さんと響子さんの提案ではないかと疑っている。
智輝は受付や呼び込み担当、大貴と翔太はおれと同じく幽霊担当。彼奴等は顔を白く染められ目の下を黒くされて、口からは血を流し歩き方指導までされてた。お疲れさん。
ちなみに俺はセリフを覚えさせられた後はお好きに…って放置された。
悠は音響担当。きっと元気がないのを見抜かれてたんだろう。”疲れたら休んで良いからね。“と労られてた。うらやま。
お化け屋敷はまず、暗い教室に入ると細い通路になっている。客は持たされた小さい懐中電灯1つを頼りに、点々と小さな明かりを灯した道標に沿って歩いてもらい、寂れた社へと辿り着く。そこで俺が出迎えて凶器のナイフを探してもらい、見つかったらお帰り頂く事になっているのだが…、ここに来るまでに散々驚かされているもんだから皆俺を見た瞬間逃げていくのだ。だからまともに喋る事もないので緊張はもうない。いやぁ…、楽させてもらってます。
通路ではウキウキと待ち構えている、冷たくした手で掴む係やら、冷たい風を送る係、曲がった角に立ち尽くす幽霊係、追いかける幽霊係、追い詰める幽霊係、色々仕込んでます。悠達音響係もなかなか良い仕事をしている。まるで異空間に迷い込んだかのように虫の声、風の音、猫の声…。ちなみにこの猫はあの子猫の友情出演だ。悠が嬉々として子猫と一緒にやっている。良い具合に猫が追いかけてくる声がするもんだからもうパニック寸前だ。
グッジョブ!子猫!
皆が良い仕事をするもんだから他のお化け屋敷をやっていたクラスの生徒がスパイとして送り込まれたりもされている。でもこのクオリティは絶対真似出来ないと思うよ。なんせ本物が混じってるからね。
生徒達は交代制でやるので、今俺達は休憩中。飯を色々買い込んで化学準備室で子猫と戯れながら食べている最中だ。
いきなり化学準備室のドアが開いて、
「ここにいたっ!探したんだよ!」
息を切らした瞳さんと響子さんが立っていた。
響子さんが申し訳なさそうに、
「休憩中ごめんね。奏多君にちょっと聞きたい事があって…。今良い?」
俺が頷くと2人は部屋に入って来て、
「猫?猫を連れ込んでたの?!」
しまった…。いつもの様に子猫に印を刻んでいたので見られてしまった…。
「まぁ…、それで何か用?」
「そうだった!ねぇ…、うちの教室おかしくない?お客さん皆におかしいおかしい言われるの!やたら教室が広く感じるんだって。試しに私達も客として入ってみたんだけど、明らかに広いの!明らかに教室の範囲を超えてる気がする!奏多君何かした?」
俺の信用がない件について…。遺憾です…。
「俺は何もしてないよ。そんな事勝手にやったら皆に悪いじゃん。」
2人はバツが悪そうに、
「だよねぇ…。ごめんね、疑っているみたいな事言っちゃって…。」
「でもなんであんなに不思議空間になってるんだろう…。教室に入るともう空気が違う気がするんだけどなぁ…?」
「あぁ…、それは俺も思った。教室がやけに静かなんだよな。ドア1枚しか隔ててないのに廊下で待ってる奴らの声がしないんだよな…。」
俺は言おうか迷ったけど友達が疑問に思うなら…、
「教室に紛れ込んだモノがいるからね。」
と教えた。
「…………。」
「…………。」
「………、はぁ…?」
「…………奏多…、それ詳しく…。」
「だからね、紛れ込んだモノがいるんだよ。」
「…!!何それ!早く教えてよ!!」
…怒られた…。
「だって、何も悪さしてないよ?むしろ良い評判になってるじゃん。」
「だからって…!!何それ!ガチなお化け屋敷になってるじゃん!!」
「うん。だから良いかなぁって…。」
皆に呆れた顔で見られた…。
「奏多、説明。詳しく教えろ。」
「えっと…、少し前にね、教室に紛れ込んだモノがいたんだ。でも悪さするモノじゃなくて…、俺達が楽しそうにやってる雰囲気に引き寄せられたって感じ…。多分文化祭が終わったらまたどこかに流されるんじゃないかな?」
「待って…、悪さしてないのに教室が広くなったりしてるの?」
「うん。何かしてやろうとかじゃなくて、そういうものなんだ。」
「分からない…。何がそういうものなんだ?」
「う〜ん…、存在が重いというか、次元が違う存在だから、と言うか……。」
皆に訳分からんって顔をされた。
「例えば…、悪い、これちょっと持ってくれ。」
周りを見渡すと大きめの布があったのでそれの端を持ってもらい布をひろげる。
「これが俺達のいる空間だとするな。そこに…、」
布の上に子猫をそぉっと乗せる。
「猫の重みで布が沈むだろ?こんな感じ。」
「………。」
「………。」
「……もうちょい説明しろ…。」
俺は口の中の物をもぐもぐさせ、飲み込んで、
「えぇ…、ホントこんな感じなんだけどなぁ…。」
「説明ヘタか!もっと詳しく!」
「今おれ達が存在している次元とは違う存在のモノなんだ。だから時空が歪むっていうか、引っ張られるっていうか…。
まぁ…、それで教室がちょっと広く感じるんじゃないかな?あと、紛れ込んだモノのお陰で異空間になってるから外の音が遮断されてるし、肌で違和感を感じるんだろうねぇ…。教室に入った瞬間からなんかヤバイって本能が訴えてるんじゃない?だからお化け屋敷としては大成功だよ。」
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評判のお化け屋敷にやって来た。行列がすごくて結構な時間並んでしまった。不思議なもので並んでいる時も教室から声が漏れたりしない。
でも出て来た子達は皆顔を引き攣らせ、余程の恐怖があったのだと伝わる。私達はそれを見て期待感が増す。
「見て…、出て来た子達…。」
「うん…、余程怖かったんだね…。逃げ込むように廊下に出てきたもんね。」
教室から逃げるように廊下に出た瞬間、泣き出す子もいる程だ。期待半分がやっぱり辞めようと言いたい気持ち半分。私達の番になった。
教室のドアを開けて一歩足を踏み入れた瞬間、何とも言えない恐怖を感じた。後ろでドアが閉められた瞬間あんなに五月蝿かった声が消えた。この世界に2人しかいない感覚。
「…い…行こう…。」
「う…うん…。」
私達は完全に腰が引けていた。なんならちょっと後悔もしている。
2人で1つの小さい懐中電灯を頼りに先に進む。
「きゃぁっ!!」
「なっ何?!」
「あ…足…、今冷たい手で足掴まれた……。」
泣きそうな私を見て、友達が慰めてくれる。
「このクラスの子だよ。す、凄いね!これからまだ仕掛けてくるだろうから、た、楽しみだね……!」
「きゃぁぁ!!」
「な…何?!」
今度は友達が悲鳴をあげる。
「冷たい風が…!髪を引っ張られた!」
「だ…大丈夫!大丈夫!よくある手口だよ!」
「…ねぇ、なんでこんなに静かなの?虫の声しか聞こえない…。嘘でしょ?!ここ教室だよね?!」
「う…うん…。それに…、ねぇ、気付いてる?私達ずっと歩いてるの…。間取りが上手いどころじゃないよ…。変だよ…。」
後ろから猫の声が聞こえる。少しずつこちらへ近づいてくるので私達はプチパニックになる。
「な…なんで猫…?」
「や…やだぁ……!なんだこっち来るの?!」
追いかけられる恐怖に2人で駆け出す。すると何処に居たのか…、ゾンビの様な格好をした者達がワラワラと私達を追いかけてくる!
私達は完全にパニックになっていた。
は…早く、ここから出なきゃ!!悲鳴をあげながら逃げ惑う。ここが教室なんて絶対嘘だ!教室にはこんなに逃げる場所なんてない!絶対に!!
私達は手を強く握った。手を離せばもう会えないような気がしてお互いの手を強く握った。まるでこの手が蜘蛛の糸の様に、命綱の様に感じて決して離せなかった。
暫く追いかけられ、逃げ惑い、気が付くと少し広いスペースに出た。目の前には古いお社がある。後ろには誰もいない…。
「…助かった…?」
「ま…まだだよ…。早くここ出よう?」
手を繋いだまま一歩踏み出すと、さらに空気が変わった。暗く重く息がしづらい…。上から何か押し付けられているような圧を感じる。
そこに、コツコツ…と誰か歩いて来る音がする。
重い頭を上げると、血みどろの宮司がいた。
その宮司は生気がなく、人とは思えない雰囲気を纏う。宮司が一歩近づく度に空気が重くなる。本能的な恐怖で声が出ない。頭が真っ白になり、逃げる事も出来ないでいると、後ろから猫の鳴き声がした。
「にゃ〜…。」
その声で私達は我に返り、2人で逃げる。逃げても逃げても出口がない。
後ろは振り向けない…。もし…、もしも後ろに誰かいたら…?あんなに逃げたのにお社があったら…?あの男がいたら…?恐怖で足をもつれさせやっと辿り着いたドアを開けて逃げ込み、後ろ手でドアを閉める。2度と開かないように力を込めて。
気が付くと廊下に出ていた。人がいる…。耳が痛くなるほどの静寂から一転、喧騒が身を包む。
じわじわと帰って来れた事を実感して友達と顔を合わせると涙が出て来た。友達も泣いていた。廊下にいた人達が興味深そうに私達を見ている。
このクラスの子が心配して声をかけてくれる。
「大丈夫ですか?気分が悪くなったりしてないですか?」
人の声だ…。私達帰って来れた……。
実感と共に体から力が抜け、ヘナヘナと廊下にへたり込む。
「ごめんなさい。怖がらせ過ぎました。こちらでちょっと休んで下さい。」
癒し系の可愛い女の子が私達をバックヤードの休憩スペースに連れて来てくれて温かい飲み物を出してくれた。一口飲むと、
「温かい……。」
体が冷え切っていたようで温かい飲み物が美味しく感じた。ふと、周りを見ると私達の様に介抱されている人達がいた。
……私達だけじゃなかった……。
だよね、あんなに怖い思いしたらこうなるよね…。
落ち着いた所で可愛い女の子にお礼を言って休憩スペースを出た。私達が落ち着くまでの間、休憩スペースに連れて来られた人達が後を絶たない。
…あれ…、成功なの?失敗なの……?
不思議な思いを抱えて、でも2度とお化け屋敷に足を踏み入れないと心に誓った。
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俺達のお化け屋敷が怖すぎて体調を崩す人が続出したと聞いた。学校でも問題になったようで、2日目はやり過ぎない様に担任から注意を受けた。
俺達はやり過ぎてないんだけどなぁ……。
智輝達と瞳さん響子さんの目が痛い…。
俺…、何もやってないのに……。
「やってないのが問題なのよ!」
俺は散々怒られたあげく、紛れ込んだモノにはお帰り頂く事になった。
何も悪い事してないのに…。楽しそうだから見に来ただけなのに……。放っておけばその内いなくなるのに…。
お帰り頂いた文化祭2日目。昨日の評判が回り回って朝から凄い行列だ。2日目は一般客の受け入れもしている為、他校の生徒や生徒の親も来ていた。
智輝の彼女さんの綾さんも来た。
「評判のお化け屋敷見に来たよ!」
……だからか…、昨日智輝が頻りに帰ってもらえ!と言っていた…。理由はこれか……。
お帰り頂いた結果、異空間がなくなり怖さが半減しました。
「思ったより怖くなかったな…。」
「ちょっとガッカリだな。まぁ高校生の文化祭なんてこんなもんだよ。」
等と声が聞こえる。何となく悔しい…。同じ思いをしているクラスメイト達も、ぎりぃとしていた。
担任が顔を出した時も皆の視線が痛いようでそそくさと出て行った。
あんな偶然の奇跡空間もう2度とないんだぞ?!
何となく悔しくてモヤモヤしながら横を見ると、
”あれ?“
おれは思わず、ニヤリとした。
昨日と同じ休憩中、また瞳さんと響子さんが化学準備室に来た。
「あんたまた何かやったでしょう!」
決めつけられた……。遺憾の意…。
「俺は何もしてないよ。」
「じゃあなんでまた怖くなってんのよ!私達女子が大忙しなんだからね!」
「でも、俺は何もしてないよ…。」
「奏多君は何もしてないんだと思う。言葉通り、何もね…。」
…正解…。響子さんは案外鋭い。
俺は呼び込んではいない。ただし紛れ込んだモノを追い出しもしていない。何もしていないのだ。
「だって…、悔しくねぇ…?あきらかに馬鹿にしたように帰る奴とかいたじゃん。大したことなかったな…とか言って。」
「…奏多、詳しく説明。」
お、俺…怒られるのか?ちょっとびくびくしながら
「今日の途中からまた紛れ込んだモノがいたんだよ。やっぱり俺達が楽しそうにしてるから寄ってくるんだよ。」
またあの奇跡空間が生まれたんだぞ!
俺が力説していると、
「まぁ、綾も帰ったしな…。まぁ、いいか…。」
「でも奏多の言い分も分かる…。なんかあきらかにガッカリしてく奴いたもんな…。」
「ああ…、なんか悔しいな。」
「あぁ…、この子も昨日の方が楽しそうにしてたからな…。」
「「「「このままで良いんじゃないか?」」」」
クラスメイトは楽しそう。子猫も楽しそう。俺は知らない奴に話しかけなくて良くなって気が楽。客も 恐怖を味わえて良し。紛れ込んだモノも追い出されない。誰も嫌な思いをしてない。最高だ。
こうして2日間の文化祭が終わった。俺達のお化け屋敷は盛況のまま惜しまれながら幕を閉じた。
暗幕を取り片付けを始めると、紛れ込んだモノはいなくなっていた。
「なぁ悠、今日は子猫は?まだ寝てる時間なのか?」
悠は不思議な顔をして、
「来てないのか?この時間ならいつも起きて俺を探す頃なのに…。」
まさかな…、まさか…。
「…もう少し待ってみるか…。」
「あ…あぁ…。」
2時限目が終わっても、3時限目が終わっても子猫は姿を現さない。
昼休み、まだ姿を現さない。俺達は1つの予感を共有していた。
誰もが落ち着かないまま放課後になった。
「疲れたんだ…。明日にはきっと現れてくれるさ。」
「あぁ…、明日にはきっと……。」
でも、翌日になってもその次の日になっても、子猫は姿を現さなかった…。
皆、言葉にしたくなくてずっと待っている。
1週間、その状態が続いたが遂に悠が、
「きっとあちらに行ったんだよ…。皆に遊んでもらえて満足したんだよ……。」
昨日までは悲壮な顔をしていたのだが、どこか吹っ切れた顔をして言った。
「皆に遊んでもらえて幸せだったと思う。だからあちらへ行ったんだよ、きっと。」
「で…でも…、まだ疲れて休んでるだけって事も全然あるじゃん!もっと待とうよ!」
「奏多…。」
「そうだよ!俺、探してくるよ!絶対いるから!」
「奏多。」
「何処にいるかなぁ…。なぁ悠、いそうな場所とか心当たりあるか?」
「奏多!」
大きな声で呼ばれて悠を見る。
「奏多、お前ももう分かってるだろう?俺はあの子がここにいなくてもどこかで幸せにしていてくれれば良いと思ってる。俺達を見守ってくれてると思ってる。」
…俺は何も言えない…。
「なぁ奏多。お前にあの子の為に祈ってもらいたいんだ。神道でも葬式みたいなのってあるんだろ?あの子の為に簡単で良いんだ。頼む。」
「…でも、…だって……。」
「奏多、頼む。」
悠が俺を見て頭を下げる。
俺は…、俺は…どうしたら…。
暫く誰も何も言わない時間が過ぎていった。
「……分かった…。俺で良いなら…。」
悠はホッとした様に、
「奏多が良いんだ。あの子を知ってて、あの子を可愛がってくれて、あの子を惜しんでくれている奏多だから、お前に頼みたいんだ。」
智輝も大貴も翔太もホッとした顔をした。
放課後、俺達は化学準備室に集まった。ここはあの子とたくさん遊んだ場所だからここが良いと皆で決めた。
深呼吸して目を閉じた。
目の裏にあの子の姿が浮かんだ。
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奏多がいつもの様に目を瞑る。目を開けた時には奏多ではない奏多に変わっていた。
奏多は亡くなった子猫を本当に可愛がっていた。いつもはあまり表情が動かない男なのに、子猫を見る時には目尻が下がり可愛くて仕方がないという顔をしていた。その子猫を送るのを奏多は最後まで抵抗していた。送ると決めた後も奏多は苦しそうな顔をしていた。悠の方が吹っ切れた顔をしていた。
相変わらず奏多が何を言っているのか聞き取れない。でも何故だろう…。
胸が温かい。
あの子猫の姿が目に浮かぶ。
皆の目に涙が浮かぶ。
あの子猫の安寧と幸せを願って奏多は目を閉じた。
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家に帰ってからも落ち着かない。放課後、俺は子猫の為に祝詞をあげた。悠はもう気持ちを固めていた。それに比べて俺は全然駄目だった。
俺は親しい人が亡くなった経験がない。それなのに神社で見習いとして供養を望む参拝者に対し応対していたのだ。
偉そうにお悔やみ申し上げます、とか、お気持ち分かります、とか言っていたが全然分かっていなかった。こんなにも哀しくてこんなにも胸が痛いんだ。
俺はぼたぼたと目から落ちる涙を呆然として眺めていた。涙が止まらない。でも目を閉じるとあの子猫が浮かんでしまう。閉じるのが怖くて落ちる涙をずっと見ていた。
”にゃぁ“
どこからか鳴き声が聞こえた気がした。見渡してもどこにもいない。
”にゃぁ“
再び聞こえた。今度はちょっと呆れたような、ちょっと怒っているような声だ。
ちょっと笑ってしまった。
”にゃぁん“
それで良いんだと言われた気がした。
あぁ…、見守ってくれるとはこういう事か。
俺がよく分かってもいないのに偉そうに言っていた言葉。
”亡くなった御霊はあなたの事をいつでも見守ってくれる存在になったのです“
まだまだ悲しい。
もう一緒に遊べない。
あの子猫の笑ったようなご機嫌な顔を見れない。
もう鳴き声を聞けない。
まだまだ悲しいがそろそろ涙を止めなければ、また怒られるな、とぼんやり考えた。
明日はもう少しマシな顔で悠達に会おう。
お読み下さりありがとうございます。
来週月曜日投稿しますのでよろしくお願いします。




