海の底で見ている 3
「なぁ、奏多。あれってやっぱりそういう事なのか?」
「あぁ、俺も気になってた。」
「昨日の晩飯の時、奏多手を叩いたじゃん?あれって瞳や響子の時にもやってたからあれ?って思ってたんだ。」
「う〜ん…、バレてたか…。怖がらせたくなくて黙ってた。」
「やっぱりそうなんだ。あいつら色々やらかしてたみたいだしな。聞こえてくる話もあり得ねぇもんな。」
「あぁ…、人の物壊してざまぁとか言ってんのヤバすぎだわ。ホントあり得ねぇ…。」
「どうなるんだ?あいつら…。」
「分からない。相手の気が済めば許される。そうでなければ…。だからまずは謝る事しかないんだ。」
「あの時みたいに祓う事は出来ないのか?」
「何も悪い事してないのにいきなり来て大切な物を壊されて馬鹿にされて、あの子は被害者だぞ?
あいつらには反省する時間が、あの子には怒りや悲しみを昇華する時間が必要だ。あいつらは自分の生きている世界、見えてる世界だけが全てではないと知らないといけない。」
「……そっか……。間に合えば良いけどな…。」
「なんか、楽しく遊ぶには罪悪感があるな…。」
「あの子は一旦眠らせたよ。その間にあいつらが何かしらの行動をすれば良い。」
「そっか…。」
「……、じゃあ…、海行くか!」
「おぅ!昼メシは海の家で食おうぜ!」
海へ行く準備をしていると部屋のドアがノックされる。嫌な予感がする…。開けるな…。
智輝がドアを開けるとそこには先程の大学生達がいた。もちろんリーダー抜きだ。
「ちょっと話良いですか?助けて欲しいんです。」
ほら…、面倒臭そうな事になった…。
智輝が彼らを食堂へと連れ出し、そこで話をする事になった。
「助けて下さい。俺達どうすれば良いですか?」
恐怖で顔を強張らせ、後ろでは泣いている女性もいる。
「俺に言えるのは先程も言った通り、反省して誠心誠意謝るしかありません。」
「謝るって誰に?何処に?!」
「人から指示を受けて動いていれば楽ですよね。でもそれは”反省して誠心誠意謝る“に当てはまりますか?」
目の前の大学生はぐっと黙るが、後ろの女性が、
「なんで教えてくれないのよ!知ってるなら教えてくれたって良いじゃない!私達死ぬかも知らないのよ!私達が死んだって良いと思ってるからそんな冷たい事が言えるのよ!酷い!!」
泣き出してしまう。
するとここで大貴の男前が発揮された。
「お姉さん、落ち着いて。そんなに泣いたら冷静に考えられないよ。あいつが言ってるのは簡単な事だよ。こんなに人数がいるんだから皆で話し合ってどうするか考えれば良いじゃない。ダメだったらその時また考えようよ。」
「ダメだったらどうするのよ!あんなふうに水吐いて死ぬの?!」
「でもそれが自分達のした事の結果でしょう?」
…違った…。男前は発揮されなかった。
女性は呆然と大貴を見上げる。
「自分達のした事を棚にあげて関係のないあいつを責めるのは違くない?」
大貴は俺に対しての態度に怒ってくれてたんだ…。
思わず感動してしまった。今まで親族以外に俺に対する理不尽を怒ってくれた人はいなかった。
「……」
ヤバい…。泣きそう……。
俺が感動に浸っている間にヒートアップしていく。
気が付くと食堂全体がパニック寸前になっていた。
息を吐いて神官モードへ切り替える。
手を2回打ち鳴らすと怒鳴り声が響いていた食堂が静かになる。
「まずは落ち着きましょう。私は反省してと言いました。反省とは自分の行動言動を振り返り良くなかった点や誤りを見つけて今後の改善に繋げる事。
あなた達は今それを出来てますか?私にはあなた達に何があったのか分かりません。どういう関係かも分かりませんが歪な関係だと見てました。1人の人間が上にいてその下に人がいて、更にその下にあなた達が居るように見えます。何故おかしいと思った事を言わないのですか?何故嫌だと思ったら集団から離れないのですか?」
「そんな事したら1人になっちゃうじゃない!」
「これだけの人数がいるのに?1人になるのと死ぬかも知れないのとどちらがマシですか?今回の事は特殊な例かも知れません。ですが惰性で、人の意見に乗っかって流されるまま生きていくのは楽だけどこのような事になる恐れがあるんですよ。
私は言いましたよね。反省して、と。言った先から反省してないじゃないですか。人が道を示してくれるのを待つだけ。その人の指示通りにすれば良い。今までと何も変わらない、流されるまま生きていくおつもりですか?それならばきっと許される事はないでしょうね。」
大学生達がしん…と口を噤んで俺を見る。
「あなた達は大学で民俗学を学んでいるのですよね?ならば多少の知識はあるでしょう?人とは違って表面的な反省では見抜かれるって。人は騙せてもああいった者は騙せない。心底反省して、誠心誠意謝って、初めてこちらの話に耳を傾けてもらえるのですよ。今回あなた方が怒らせた相手はそういう者だ。泣いてる時間があったら考えなさい。人を責める前に話し合いなさい。時間は有限ですよ。」
昼過ぎ、俺達は民宿へと帰って来ていた。
「やべぇな…。ずっと海で遊べると思ってたけど俺、すげぇ疲れたわ……。」
「分かる…。ちょっと休憩したらまた遊ぼうぜ。」
俺達が宿へ帰ると例の大学生達が待ち構えていた。
「来た来た!!皆!帰ってきたよ!!」
俺達は囲まれて食堂へと誘導される。
えぇ~…、休みたいのに……。
「行ってきた。圭くんが壊した人形のお宅へ謝りに行ってきたよ!」
「あぁ…、最初は顔を見るなり怒られたんだけど何度も謝って許してもらえた。」
「……そうですか…。良かったですね。」
「うん。これで大丈夫なんだよね?」
「??どういう事ですか?」
「え?謝って許してもらえたからもう大丈夫だよねって事!」
「?…何故?彼らを祟っていたのは別の存在ですよ…?人間にあんな事出来るわけないじゃないですか。」
何を言っているか分からずに大学生達を見渡すと愕然とした顔、やっぱり…と憔悴した顔。
「な…なんで…?反省して謝れば良いんじゃないの?あんたそう言ったじゃない!」
「えぇ、でもあなた、大学で何を学んでいたんですか?民俗学?え…?民俗学って民間の信仰や風習について学ぶんじゃないですか?今回のフィールドワークだってこの町に根付く信仰や風習を調査に来たんじゃないですか?あんなに強引な真似をして何を調査、勉強してきたんですか?」
俺は本当に分からずに疑問を口にする。
「あなた達は信仰や風習、宗教を勉強してこなかったのですか?民俗学を専攻していて?ただの形骸化した風習だと思っていたんですか?八百万の神も仏も祟りも呪いもないと…?」
俺はその事に考えが至り呆然とする。民俗学を専攻するに至ってそんな事ある……?
「だ…だって…今までこんな事無かったんだもの!神も仏も祟りも呪いも知らない!」
「……ならば宿題です。あなた達が教えを請うている先生に連絡して助けを求めなさい。1時間以内に。言いましたよね?時間は有限です。死にたくなかったらすぐにでも。諦めるのならご自由に。」
「!!そんな!嫌よ!そんな事したら怒られる!」
「他人事だと思って!俺たちが死んだらお前を呪ってやるからな!」
本当にわかっていない……。
「ご自由に。あなた達が死んだら俺を呪える程自由になれるとでも?あんなに怒らせておいて?あなた達が死んだら囚われるんですよ。死んでも未来永劫ずっと、海の底で。」
食堂が静まり返り、誰一人声を発せない。
「あなた達が手を出し怒りを買った相手はそういう相手です。言いましたよね。表面的な反省では人間は騙せてもああいった者は騙せないと。
もう一度言います。心からの反省と誠心誠意の謝罪を。」
俺は彼らに背を向けて部屋へと戻った。
「なぁ、奏多。ホントに未来永劫囚われるのか?」
「だとしたらヤバくねぇ…。」
「助けなくて良いのか?」
「まだ助けられない。彼らには足りない。あれでは許して貰えない。」
「何が足りないんだ?」
「覚悟。反省。贖罪。全てだ。あのままだと怒りのまま更に呪われるぞ。」
「確かにあれだけ言われたのにまだ人を頼りにしてるもんな。俺もちょっと呆れたもん。」
「あぁ…。実は眠らせたって言っただろう?彼らに反省の時間を作る為だが、諸刃の剣でな…、強制的に眠らせたことで目覚めたら怒りが倍増っていうか俺まで怒りの対象に入ると思うんだ。だから半端な事したら俺までヤバい。」
「!お前!何やってんだよ!」
「ホントだぞ!お前!」
「いや、だって…、煩かったし…。
……取りあえず寝よう。起きてあいつらが変わってなければ俺が何とかする。もうあいつらには関わらない。だから すまん。午後俺単独で動くかも知れない。」
「バカ野郎!単独でじゃねぇだろ!皆で動くんだ!何1人でやろうとしてんだよ!」
「相変わらずだな。俺達も付いてくぞ。」
「でも危ないよ…。」
「大丈夫だ。前に奏多が作ってくれたお守り持ってきてたから。」
俺も…と、皆もってきてたようだ。
「…ありがとう…。お守りは絶対離さないでくれよ。」
眠って体力気力を回復させる。後は腹を満たしてから動くか。俺達は体勢を整えた。智輝達はお守りを持つ。俺は念の為にと持ってきていた神社の水で刷った墨汁を入れた筆ペン、更に和紙。ホントあれこれ持って来てて良かった。
準備を整えて気合を入れる。
部屋を出ると男子大学生が立っていて目が合うと会釈をして俺達を食堂へと連れて行く。
そこには初めて見る4〜50代の男性がいた。男性は俺達を見て立ち上がり足早に目の前へ来ると、いきなり頭を下げた。
「うちの教え子達が迷惑をかけて申し訳ない。」
後ろにいる大学生達ご呆気にとられたように男性を見る。男性は深く頭を下げたまま、
「私の教え方が悪く皆さんに迷惑をお掛けして、更に君達にも本当に迷惑をお掛けした。本当に申し訳ない。」
「どこまで話を聞きましたか?」
「恐らく全て…。」
大学生達を見ると目を逸らす…。
全部じゃねぇな…、これ…。
「頭を上げて下さい。俺も詳しく経緯を知りたい。今から摺り合わせをしましょう。俺が知ってる事、彼らが知ってる事、先生が知ってる事。」
「あぁ…、ありがとう。」
男性は再び頭を深く下げた。
なんか良い先生っぽいんだよな…?なんでこんな先生からあんな生徒が生まれるんだ?
席に着くとリーダーと呼ばれていた男も仏頂面で座っていた。
「まずは自己紹介を。私は○○大学で民俗学の准教授をやっている畑山と申します。この子達は私の研究室の生徒達です。この町にフィールドワークに行く話を聞いていたので私も近くの町で調べ物をしていたんです。」
だから駆けつけるのが早かったのか…。
「私は奏多と申します。詳しい所属などは控えさせて下さい。今までの彼らの言動を鑑みて、逆恨みで晒されたくないので。」
続いて、智輝、大貴、悠、翔太も名前だけ名乗る。
その事に畑山氏は色々察したのかガックリと肩を落とし小さくなった。
まだまだこれからだよ。これからどんどん小さくなるだろうな…。
案の定、フィールドワークで民家や神社、お寺を訪問した手段や経緯を聞くたびに小さくなり、額に血管が浮いていく。
大丈夫?血管切れちゃわない?
奥歯欠けちゃわない?
俺は内心ヒヤヒヤそわそわしながら畑山氏の様子を見ていた。
俺たちも知らなかった今回の経緯はこうだ。
・この町を選んだのは、夏休みに旅行気分と研究を兼ねられるから。
・研究で良い成果を上げたくて強引になった事。
・神社やお寺で秘仏や御神体を見せてもらえなくて焦っていた事。
・古くからの民家には秘蔵の物が眠っていると思い強引に押しかけた事。
・ある民家の蔵に押しかけ強引に扉を開けさせ中に入った事。
・その時1つの人形が飾ってあり話を聞くと、何代か前の当主の子供が海で溺れて亡くなった。当主とその妻が深く悲しみ子供を慰める意味で人形を作った。人形を大事にしてからは家に福が舞い込むようになった。しかし今の当主の奥さんがこの人形を怖がる為、せめて蔵の綺麗な所に飾っていた。その人形を見つけたリーダー以下3人は人形を貸すように迫り、断られると怒り、強引に奪おうとした結果首が取れて壊れてしまったと。その間他の大学生達は止めることもせずに傍観していた。
・壊れた人形をその家の者に押し付けて帰ってきた事。
・その日の夕飯、停電と共に異変が始まった。
テーブルの上が海水で水浸しになり、コップが真っ二つに割れていた事。圭と呼ばれる人形をつかんだ生徒の首に長い髪が絡みついていた事。
・翌日の早朝海水の匂いで目が覚めると、圭と呼ばれた生徒の首に長い髪が巻き付き、真っ白い顔で息をしていなかった事。病院へ搬送された結果、胃の中が海水でいっぱいだった事。
・朝食以降何を食べても塩辛く、常に海水の匂いがしている事。
・朝食時に海水を吐いて病院に運ばれたのは人形が壊れた時笑った男だった事。病院での診断結果は最初の男と同じ、胃の中が海水で満たされていた事。
・俺に言われてその民家へ謝りに行った事。
・今は食事が塩辛くないので怒りが解けたのではないかと思っている事。
「では私サイドからの情報を…。怒りは全く解けていませんよ。あなた達の反省の為の時間稼ぎの為に一時的に眠ってもらっただけです。その内目が覚めればまた全てを塩辛く感じるでしょうね。そして恐らく次のターゲットは貴方です。あなたは彼を唆しましたね。彼女はそれを見ていました。そしてその次はリーダー、あなたです。あなたは人形が壊れた事を嘲笑い全く反省していない。彼女の怒りが最も強いのはあなたです。そして…、止めもせず傍観していた人達、彼女の怒りが収まらなければ同じ道を辿るでしょう。」
「そんな…、嘲笑ってなんか……。」
「先生、これ聞く?」
悠が携帯を取り出し操作する。するとあの夜の彼らは会話が録音されていた。
「あまりにも胸糞悪い会話してるし、態度悪いし、俺達やこの民宿に何かしそうだったから撮っておいた。」
”ざまぁ…“と言い逃れ出来ない会話が響く。
愕然とした先生と青い顔をした生徒達を見渡し、
「さて先生、どうしたら良いでしょうか?」
「ちょ…ちょっと待ってくれ…。聞いていた話より更に悪い……。頭を整理させてくれ。」
先生は黙り込み、ノートに何かを書き込み始める。時計の秒針とすすり泣く声が食堂内に響き、刻一刻と時間が過ぎていく。
「奏多さん、申し訳ないがもう少しお時間を共にして頂いても良いだろうか?」
俺は畑山氏をじっと見つめる。そこには俺を利用しようとする影は見えない。
「…分かりました。」
「では、もう一度その迷惑をかけたご自宅へと謝罪に行きます。」
畑山氏は生徒達に指示を出す。和菓子屋と酒屋の場所を調べる係の人と、失礼をした神社、寺、民家、全ての場所を地図に書き込む係の人、何をしたのか、いつ行ったのか、その時相手はどのような対応をして、どのような感情を持ったのか、事細かに記入する係の人、移動をするので車の運転が出来る精神状態の人、それぞれに的確に指示を出す。
ホント…、なんでこんなにキチンとした先生からこんなどうしようもない生徒が出来たんだろう…?
的確な指示のお陰でさほど時間を無駄にすることなく次の行動へ移る。俺達は畑山氏の車に同乗させてもらい、まずはお詫びの品を買い込む。
和菓子店でふと金平糖が目に入る。
「畑山先生、これもお願いします。」
酒屋では、
「畑山先生、これとこれを、お願いします。あとこの甘酒も。」
畑山氏は何も言わず、俺の頼んだ物を購入した。
次に腹ごしらえだ。大学生達の味覚に変化が出てきたようで泣きながら食べていた。
俺は潔斎の意味を兼ねて、水と白米のみ。その分たくさん食べた。食欲旺盛な高校生なもんで…。
畑山氏や智輝達は俺のやっている意味を理解してくれて申し訳なさそうな顔をするが、大学生達はたくさん白米を食べる俺を憎々しげに見ている。
まずは1番迷惑をかけた人形の持ち主の家へ。
行くと迷惑そうに対応された。
あれ?許してもらえたんじゃないの?
家主曰く、家に富を運んでくれる家宝とも言える物を壊しておいて笑った子供達にこれ以上関わりたく無かっただけ…との事。畑山氏の誠心誠意の謝罪と後ろにいた子供達の顔を見て話を聞いてもらえる位まで態度が軟化した。
その後、畑山氏の購入したお詫びの品を受け取ってもらい、後は問題の蔵で人形とのご対面だ。
お読み下さりありがとうございます。
明日も投稿しますのでよろしくお願いします。




