表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春に奏でる  作者: よっち
7/7

海の底で見ている 4(終)


 蔵は怒りに満ちていた。入るのを躊躇うほどの怒りだ。何も感じていない者達はすんなり入って行くが俺と何かを感じたらしい畑山氏は躊躇した。

もちろん、智輝達は俺の後ろに居てもらった。



「先生、これどう思います?」

「いえ…、私には感じる力は全く無いはずなんですが…、拒絶を感じます。」

力はなくとも長年研究して、こういった物に触れてきたからか、感覚が鋭くなっているんだろうな…。


2人で溜息を飲み込む。さて、と気合を入れた途端

「きゃぁぁ!!」

「うわぁぁぁ!!」

悲鳴が聞こえてきたので急いで蔵へ駆けつけると、蔵の中は薄暗く底冷えする程寒く、そして強く潮の匂いがした。前方に飾られていた人形の頭部が浮き上がり怒りの形相をしていた。

一方、次のターゲットと予想されていた生徒は蹲ってゲェゲェと海水を吐いている。その顔は涙と吐瀉物で汚れ青い顔をしている。

彼女は完全に眠りから覚めてしてしまったようだ。


畑山氏がすかさず人形の前へと移動し土下座する。

「この度は私の生徒が大変な事を仕出かしました事、本当に申し訳御座いません!どうか!どうか!お許し下さい!!」

額を床に擦り付け何度も謝っている。それを見ていた生徒達も同じく土下座をして謝る。

「お許し下さい!申し訳ありませんでした!」

海水を吐いている生徒も苦しそうにしながらも土下座して額をつけている。


大丈夫だよね?あれ…。失神してるとかじゃないよね?!

智輝達が吐いている生徒を顔を横にして横たわらせてくれた。


俺はゆっくり瞬きをして3回かしわ手を打った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 パンパンパンッと奏多が手を打つ度に空気が変わる。怒りと悲鳴と恐怖で混乱していた空間から静寂な空間へと変化し、それと共に奏多も以前見た、奏多ではない何者かへと変わっていた。奏多が一歩歩く度に空気が揺れる。土下座している大学生や先生の横を歩いて行くのを、先生達が呆然と見ている。


分かる…。今の奏多はいつもの奏多とは全くの別人だ。表情も纏う空気も。静かで硬質で近寄り難い雰囲気を纏い一挙手一投足、目が惹きつけられる。声は勿論、物音1つ立ててはいけない緊張感の中、奏多が人形の前に座った。


奏多がカシコミカシコミ…ナントカ言っている。

何を言っているか全く聞き取れないが人形から発されていた怒気が薄れていく。

奏多が人形の前に金平糖と甘酒を置き、深く礼をした後、かしわ手を打つ。



そこにはいつもの奏多がいた。


俺達はホッと息を吐いて体に入っていた力を抜いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



吐いて倒れた人物を病院へ運んでもらい、残りはお詫び行脚だ。

「なんで…、ど…どうしてですか?あれで怒りは解けたんじゃないですか?」

「いえ…、一旦収めてもらっただけです。あなた達の行動を見て最終判断が下されます。あの子があなた達を許すか否か。ですから心からの謝罪を。心の中に一片でも反発や曇りがあればあの子は許さないでしょう。」


腰を抜かした家主にお詫びをして、また戻ってくる事を伝える。




 2軒目、嫌な顔をされながら畑山氏が謝る。

3軒目、帰れと怒鳴られながら畑山氏が頭を下げ、何度も何度も謝る。

4軒目、謝罪をはねつけられるも畑山氏が繰り返し頭を下げ謝る。

5軒目、6軒目、7軒目、8軒目……、最後、17軒目、畑山氏が頭を下げる。


ここまで来て初めて、自分達のした事で恩師がこれだけ頭を下げ続け、途方もない迷惑をかけたのだと認識して皆泣いていた。畑山氏もフラフラになりながらも教え子の為に頭を下げ続けた。


良い先生だ。ホント何故こんな先生からあんな生徒が……?


謝罪に行った先には呉神社も入っていて俺に気が付いた橘氏が何かを察して気の毒そうな顔をした。


えぇ…、巻き込まれました…。




ここまでは畑山氏が頑張ってくれた。ここから先は俺の領域だ。




日も傾き、暗くなってきた頃、俺達は再び人形のある蔵へ戻って来た。

 

家主が怯えながらも、俺達を迎え入れてくれた。

「これからあの人形はどうするのですか?」

「人形を修復します。」

「人形の修復師をご存じなのですか?」

「いいえ、まだ他の方の手に預けられる状態ではないので私が修復します。」

未だ怯えている家主が俺に、

「あ…あの…、あの人形はこれからどうなるのでしょうか……。わ…私は一体どうしたら……。」

「この家に福をもたらす人形ですので、怒りを鎮めた後こちらにお返しするつもりです。しかしこの通り、怒りを買えば家を滅ぼす程の災いを受けますのでご注意下さい。」

家主が青ざめ躊躇う素振りを見せる。

「修復後、こちらの家で祀られますか?それとも然るべき神社で供養されても良いと思います。」

家主は暫く考えてから、

「供養をお願い致します。」

と頭を下げた。

「良いのですか?上手く奉れば家は繁栄しますよ?今回の事は余程の事例と考えても良いのですよ?感謝と敬意を忘れずに敬うだけです。」

「……それでも…、妻があの人形を怖がる理由が分かりました。私ももう…、あの人形が怖くて仕方ありません。私が敬っても、私の孫や曾孫は?今回はあの青年たちだった。でもこれが私の孫や曾孫だったら…?私は自分を許せそうにありません。

どうか、供養をお願い致します。」

「分かりました。では騒がせたお詫びに蔵の穢れを祓っておきましょう。家主様の心が少しでも軽くなりますように…。」

家主が深々と頭を下げる。



 蔵へと入り、人形の前に座る。その後ろに畑山氏と生徒達。人形に変化はない。怒りも感じない。

「どうやら、怒りを収めてくれたようですね。」

ニコリと笑い、後ろを振り返る。

「皆さん、先生に感謝を。先生がいなければもっと大変な事態になっていた事でしょう。


人はどのような縁を結ぶかで人生が変わります。悪縁や良縁という言葉を聞いたことがあるでしょう?正直、あなた達の間にある縁は悪縁としか思えませんでした。誰一人として良い影響を受けていない。

でも畑山先生とあなた達の縁が結ばれていた事で最悪を回避出来ました。良かったですね。」

大学生達が泣きながら畑山氏を見る。畑山氏は疲労困憊の様相で笑う。

「さて先生、もう少しです。もう少しお付き合い下さい。」

「はい。よろしくお願い致します。」

深く頭を下げると、生徒達も頭を下げる。

この数時間でだいぶ変わったな…。教育者とはこういう人の事を言うのかも知れないな。

ホント何故…以下略。


蔵から皆出てもらい蔵の穢れを祓う。

人形は畑山氏に預ける。怖がるかと思ったが、恭しく、緊張と敬意を持って受け取ってくれた。


さすが民俗学の先生。扱い方を心得ている。


「このような格好で簡略した形で申し訳ありませんが…。」

家主に頭を下げ、ゆっくりと目を閉じて呼吸を整える。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 この少年は一体何者なのだろう。深呼吸の後、一瞬で纏う空気が変わった。恐れか、研究者としての興奮か、頭の先から足の爪先まで肌が粟立つ。生徒達も一切口を開かず少年から目を離せないでいる。少年は同じ次元に存在しているとは到底思えない程異質な存在感を放ち、蔵の中を満遍なく歩きながら、隅から隅まで祓い清めていく。何をしているのかを分からなくとも少年が通った後の空気が変わったのが分かる。


長年民俗学を研究している者として、多くの不可思議な経験をしてきた。またそういう人物にもお会いした事もある。しかしこの少年はその誰とも違う。

一瞬にして神かがり的な変化を見せる。いや…、きっと神が降りてきているのかもしれない。


今私は、手の中にある人形と同じ位の恐れと敬意を目の前の少年に向けていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺達は再度呉神社へと戻って来た。これで最後。

「やぁ、奏多君お帰り。その人形かい?」

「はい。お願い出来ますか?」

「さて、どうかな?まだ熾火のようにくすぶる想いがあるようだ。宥められるかい?」

「どうでしょう…。出来れば海で辛い思いをした子です。呉神社の御祭神様に受け入れて貰いたかったのですが…。」

「ではやってみよう。奏多君も手伝ってくれるね?」

「私に出来る事があるのであれば…。」

静かに頭を下げ下げると、俺の後ろで智輝達も畑山氏も大学生達も頭を下げた。




 御霊を鎮める為の神事の準備が行われる。

荒ぶった魂を鎮め呉神社の御柱様に受け入れて頂く為だ。


俺は別室で人形の修復をしていた。取れてしまった首を丁寧にヤスリをかけならし、嵌める。破れた着物を縫い合わせ、汚れてしまったお顔を絞ったタオルで鎮魂の祈りを込めて丁寧に綺麗に拭き上げる内に、穏やかなお顔へと変化してきた。

暫くそうしていると、橘氏が部屋に訪れる。

「奏多君には舞を奉納してもらおうかな。」

「え……、それは流石に…。私が出しゃばっては他の方のご迷惑になるのでは…?」

「大丈夫大丈夫!いやぁ、君の叔父さんに散々自慢されてね。奏多君の舞は素晴らしいって!

是非ともこの機会に見せてもらいたいんだよ!」


……叔父さんんんんん…!何言ってんだよ!

「…俺…、まだ見習いですよ?こちらの神官の方々を差し置いてそんな事出来ません。」

「大丈夫!皆にはもう話しておいたから!それに時間も時間だ。非公式の神事だから問題ないよ。皆興味津々だったしね!」


えぇぇ……。舞うのは好きだけど、わざわざ目立つ事はしたくないんだよなぁ…。


橘氏は言う事を言うと俺が断る前にさっさと部屋を出て行ってしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「よう、何難しい顔してんだよ!」

「うわぁっ!お兄さん?!びっくりした!なんで?なんでここにいるの?!」

顔を上げると昔と変わらない綺麗な顔が見えた。

「たまたまだ。なんかお前が舞うって話を聞いて来たんだ。」

「う…うん…。でも他社でわざわざ俺が舞うのってこちらの神官達に失礼じゃないかなぁ…。」

しかも見習いの俺が出しゃばるのはどうかなぁ…。

「余計な事を考えるな。ここの神官の為に舞う訳じゃないだろ。お前が舞うのはあの可哀想な女の子と呉神社の神と俺の為だ。そこを間違えるな。お前は堂々と舞え。」

なるほど…。目からうろこ…だ。

「……そうだった…。そうだね。俺はあの子の為に舞うよ。こちらの御柱様とお兄さんの為にもね。」

「おう!楽しみにしてるぞ。あの時からどれ位上達したか見てやるから気合い入れて舞えよ!」

「うん!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あぁ…!奏多君!良かった!見つかった!」


うん?俺はずっとこの部屋にいたけど…?

「何かありましたか?」

「いや、奏多君が居なくなったって聞いて…。」

「…?俺ずっとこの部屋にいましたよ?それより、こちらに俺が小さい頃にお世話になったお兄さんがいたんですね!」

「お兄さん?」

「はい!小さい頃によく遊んでくれたお兄さんなんです。俺に舞や式遊びとか、色々な事を教えてくれたお兄さんがいたんですが、ある時移動したのか、会えなくなったんです。そのお兄さんがこの呉神社にいたんです!話もしました!」

「……ちなみにどんなお兄さんだい?」

「凄い綺麗なお兄さんです。名前は聞いてないので分からないんですけど…。女の人と間違えて持ってる扇子で頭をよく叩かれてたんですよ。」

俺が思い出して笑うと、

「…そうか…。」

「はい!さっきそのお兄さんが来て今日の舞楽しみにしてるって言われました!だから今日は俺、気合い入れて舞います!」

「…待って……、楽しみにしてるって?」

「はい。今日の舞はあの子と呉神社の御柱様とお兄さんの為に舞うって約束しました。あっ…、これは失礼でしたね。すいません。あの子と御柱様の為に舞います。」

「待って待って!いいよ!奏多君が好きに舞えば良いよ。あの子と御柱様と君のお兄さんだね。分かった。」


橘氏はやけに真剣な顔をして急いで部屋を出て行った。


よし!俺も頑張るぞ!!




身を清め、装束を身に纏う。やけに本格的な神事場だ。俺以外に神楽も準備万端、三管三鼓に和琴まで用意され、数多くの神官達が控えていた。


非公式にしては随分と本格的だな…。


周りを見ると、後ろの方に智輝達や畑山氏、大学生達もいた。こんな遅くまで付き合わせて悪い事したな…。


三管三鼓の響きが聞こえる。俺は意識を切り替えて舞へと集中する。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ちょっと、あの子でしょ?貴方のお気に入りの子。どんな舞を踊るのかしらね。楽しみだわ。」

「うるせぇ、黙って見てろ。」

「まぁ、怖い事!あの子の為にわざわざ私と縁を結ばせた位お気に入りなのに!」

「だからうるせぇって…。おい、菓子ばかり食べてねぇでお前も見ろよ。あいつはお前の為に踊るんだからな。」

「私の為?」

「あぁ…、お前を少しでも慰められるように踊るってさ。だからちゃんと見てやれよ。まぁ、俺の為にも踊るけどな。お前はついでだ!」

「まぁ、酷い!」


クスクス笑いながら酒を呑む女神、口悪く罵りながら奏多の舞を見ている男神、金平糖を食べながら甘酒を口に含んでクフクフ笑う女童霊。



「あら…、本当に凄いわね。昔のシャーマンみたいね。完全にトランス状態ね。ここまで自分を無くして身を委ねられるなんて凄い才能ね。」

「あぁ…、俺が教えてやったんだ。すげぇのは当たり前だ。」

「本当だ。男の人なのに綺麗だね。」

「ああ…、見て…。うちの神官達が呆然としてる。まぁ、確かにあんな舞見せられたらそうなるわね。やだ、暫くあの子達落ち込むんじゃない?」

「落ち込めば良いさ。奏多がお前の神官達に遠慮ししてたからお前は神官の為に舞うんじゃねぇって。俺達の為に舞えって言ったら気合い入れてたからな。あいつの舞を見て精進しな!」

「まぁ、意地悪ね…。でも、本当に素晴らしいわね。久し振りよ、こんなに美味しくお酒が呑めるのは。舞いも素晴らしいけど私達への敬意が凄い伝わってくるわ。あんた、良い仕事したじゃない!」

「まあな!」

「ご褒美をあげましょう!」

「あっ!おい、お前、俺より先に!俺だってあいつが良く出来てるなら褒美をやるつもりだったのに」

「何拗ねてんのよ!やりたいならやれば良いじゃない!ほら!」

「この酔っ払いが!やり過ぎなんだよ!見ろ!神官達が呆然としちまったじゃねえか!」


「おい、見てるか?奏多がお前の為に舞ってんだぞ?」

女童霊がポロポロと泣いている。

「……見てる。私…。」

言葉が続かないのか沈黙が落ちる。海で溺れて亡くなった子だ。苦しかっただろう。悲しかっただろう。辛かっただろう。人形が慰めだったのだろう。

暫くの間奏多の舞を見ていたが、

「もういい…。許してあげる。」

「そうね、あなたはあの場にずっと囚われていたわ。許せたのならば自分の事も解放してあげなさい。海は恐ろしく残酷な時もあるけど、全てを受け入れて洗い流してくれる懐の大きさもあるのよ。」

こくんと頷きながら金平糖を口に入れる。

「美味しい……。」

へにゃりと笑った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



こ、これは…、聞きしに勝る…。凄い等という言葉では言い表せない…。



最初、奏多君に奉納舞をしてもらう事を話すと、うちの神官達は反発した。


何故他社の見習いが…と…。


しかし私はどうしても見たかったのだ。あいつが、古くからの友が、偏屈で頑固で神事に関する事は殊更厳しくて人を褒めたりなんて滅多にしないあいつが、自慢気に褒めちぎる奏多君の舞を。


奏多君の話を聞いて、急遽本格的な神事を行う為に神楽の準備を頼んだ時も非公式の神事に何故そこまで…と怪訝にされた。しかし、私にはある勘が働いたのだ。


これは気合を入れないといけないのでないか…と。




案の定、装束を身に纏い、現れた奏多君は既にどこか浮世離れした雰囲気を漂わせていた。笛と太鼓の音を聞いて、一歩踏み出した途端雰囲気を一変させ、場の空気が変わった。うちの神官達もそれを感じてピンッと空気が張りつめた。


舞が進むにつれ、奏多君は人間としての存在が薄くなっていった。代わりに異質な存在感を持つ誰かへとなり代わり舞い続ける。

完全にトランス状態に入っている。


あぁ…、この子は巫か…。


空気がいつもの華やかで賑やかな呉神社のそれとは違い、重く堅く何人も犯し難い、ピンッと張りつめた弓のような緊張感が辺りを支配する。


神官達が緊張で顔色を悪くし、神楽を演奏している者達も冷や汗をかいているが演奏を止めるわけにはいかない。


奏多君の舞が益々神がかっていった所で、突如として異変が訪れた。何かひらひらと舞っているのだ。次に梅の芳しい香りがしてあれは梅の花びらなのだと理解が及んだ。この呉神社のシンボルの梅の花。


理解した途端に全身に鳥肌が立った。神官達が、後ろに奏多君が連れてきた者達が前のめりになり、息を潜める。だが立ち上がったり声を上げたり等という不作法をする者は誰もいない。

皆、理解しているのだ。


”今、神は見ておられる。“


場の緊張感がより一層増し、梅の花びらが舞い散る中での奏多君の舞は荘厳に華やかにこの世のものとは思えない幻想の中続いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



はぁ〜…、疲れたけど満足した。

お兄さん見ていてくれたかなぁ…?途中覚えてないけどなかなかの出来だったと思う。

その後お兄さんに会いたかったけど、呉神社の神官達が疲れていそうだったし、遠巻きにされたから迷惑にならない様に帰ってきたんだ。


やっぱり迷惑だったんどろうな…。時間も遅かったし、他社の見習いが出しゃばったんだもんな…。今度行った時はしっかりお礼をしよう。そうしよう。




 皆で民宿に帰って来て疲れてそのまま眠った。

明日は最終日だ。思いっきり遊ばなきゃ……。




朝食に大学生達はいなかった。

「なんか…、静かな朝食っていいね。」

「あぁ。平和に飯が食べれるっていいもんだな。」

「分かる!それだけで美味しい飯が更に美味しく感じるもん。」

そこへ実さんが来て、

「悪かったな。色々騒がしくして…。」

「そんな…!実さんが謝る事じゃないですよ。」

「でも、折角来てくれたのに嫌な思い出になっちまったんじゃないか?」

「いや!すっげぇ良い思い出になったよ!」

「そうっすよ!海は楽しい。飯は美味い。反面教師がいた。良い思い出です!」

実さんはホッとした様に笑って、

「なら良かったよ。今日も天気良いみたいだぞ。最終日、楽しんで来いよ。」

「「「「はい!」」」」



海で遊んで、昼は海の家で食べて、また遊んで。

そろそろ帰るか…、と宿に戻ると、畑山氏と大学生達が待っていた。

大学生達は今までは何だったのか…、と思わせる程殊勝に謝ってきた。


…若干1名、神妙に見せているだけの奴もいるけど…。


畑山氏とは連絡先を交換した。俺達が大学の進路で迷った時は相談に乗ってくれるそうだ。畑山氏が何かあった時には俺が相談に乗るつもりだ。

「あぁ…、奏多君は三嶋神社の子だったのか。僕も三嶋神社にはお世話になった事が数回あるよ。僕達みたいな民俗学、考古学を研究している者は、何かあったら三嶋神社へって言われてるからね。」



大学生達にお礼を言われ、宿を後にした。呉神社にも立ち寄り、昨夜の礼をした後、俺達は帰路についたのだった。


「楽しかったな!」

「あぁ、また行きたいな。」

「すげぇ奴にも会ったし、すげぇものも見たし、すげぇ体験したな!」

「あぁ…、でもこれといった出会いはなかったな…。呉神社で引いたおみくじには忘れられない出会いが…って書いてあったんだけどな…。」

「ある意味忘れられない出会いだったじゃねぇか!あんな出会い…ぜってぇ忘れないぞ!」

「言えてる!!」

「奏多は大丈夫か?疲れてないか?」

「あぁ…、大丈夫だ。すっげぇ楽しかった!」







 あいつのせいで散々だ。先生には怒られるし、仲間は近寄ってこなくなった。あの一件で俺の評価は下がっただろう…。

ちくしょう!あいつのせいで!


冷えたビールを一口呑んで吐き出した。


何でだ?!何で塩辛いんだ?もう俺は許されたんじゃないのか?

すぐさま別のビールを開けて飲んでみる。


塩辛い……。


つまみも飯も何を口に入れても同じ味がする…。

……なんで……。


その時、電気が消えて海の匂いが強くなった。耳元で子供の声がする。

”………………“




絶望の中、意識が途絶えた。

お読み下さりありがとうございます。

来週月曜日投稿しますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ