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春に奏でる  作者: よっち
3/6

階段下の怪異 3(終)


 俺の折った鶴が翌朝には糸の元へと辿り着いた。

ルーズリーフで作った鶴よりもちゃんと力を込めた和紙で折った鶴の方がやはり優秀なようだ。

でも俺はルーズリーフで作った鶴も健気で可愛いと思う。


 俺に式遊びを教えてくれたのは例のお兄さんだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おい、お前はいつも1人で遊んでるが友達とやらはいないのか?」

「う〜ん…分かんない!…でも遊んでても皆変な顔をするからもう遊びたくない……。」

「…なら1人で出来る遊びを教えてやる。」



「うわぁ!すごいすごい!びゅ〜んびゅ〜ん!!」

奏多の周りを式がすごい速さで飛び回っている。

「お兄さん、すごいねぇ〜!」

「だろ?俺は凄いんだ。」

偉そうなお兄さんだが奏多が褒めると嬉しそうに笑った。

「お前もやってみろ。」

「うん!…でも僕にできるかなぁ……。」

「俺が教えるんだから出来るに決まってるだろ。」


「そうだ、その紙に息を吹き込め。違う!ただ息を吹いてどうするんだよ!」

ポカンとお兄さんの持っていた扇子で頭を叩かれる。

「いたっ!」

「嘘だ、痛くないだろ?」

「うん、痛くない!えへへっ!」

「……お前は…、全く…。続けるぞ。ただの息を吹きかけるんじゃなくてお前の中の神気を入れるんだ。」

「しんき?」

「あぁ、お前の中にあるだろう?探してみろ。」

「う〜ん…う〜ん…、わかんないよぉ…。」

「っ!!分かったから泣くな!教えてやるから泣くなよ!」

「…うん……。僕才能ないかもしれない…。」

「ほざけ!大丈夫だ。お前には才能があるよ。」

お兄さんが指をおでこに当てると、

「分かるか!これが神気だ。」

体中に何かが巡った。

「う〜ん…、これ?このキラキラしてあったかいやつ?」

「はははっ!お前にはそれが温かく感じるのか。良い事だ。そのキラキラした温かいやつを紙に吹きかけてみろ。」

「わぁ〜!!出来た!僕のもお空とんだ!」

「あぁ…、続けてやってみろ。色んな形でも良いんだぞ。普通の紙でも人形でも。」

「う〜ん…、ならこれにする!」

奏多は前に母から教えられた折り鶴を小さな手で不器用に折った。

「あれ?上手くとべないのかな?」

奏多の折った鶴はよたよたと飛んでは落ち、飛んでは落ちを繰り返している。

「ははは!不器用だなぁ!それを上手く飛ばせるように練習しておけよ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 待ち合わせは高校の最寄りの駅にした。

「おぅ!待たせたか?」

奏多が待ち合わせ場所に着いてから程なくして皆合流した。

「さぁ行くか!」

「皆大丈夫か?無理しなくて良いんだぞ?」

「奏多…、まだ言ってるのか?俺達は行きたくて行くんだぞ!」

「…なら良いけど…。守りは身に付けてあるか?」

「おう!バッチリだ!」

「具合悪くなったらちゃんと言えよ。」

「お守りがあるから大丈夫だろ!」

「怖くなったら逃げろよ?」

「お前はおかんか!」 

「奏多は心配性だなぁ…。」

話しながら折り鶴の元へ行く。



「着いたよ、ここだ。」

心なしかくすんだ色の家に行き着いた。

表札は”久保田“となっている。

「最終確認。皆行くのか?」

「当たり前!」


大貴がインターフォンを鳴らす。

「こんにちわ!俺達響子さんのクラスメイトです。ずっと休んでるから心配で来ました。」

「……待ってて…。」

暗い声で答えてくれたのは母親か…?

ガチャリとドアが開くと暗い顔をした女性が立っていた。

「入って…」

俺達はリビングへと通される。

「君達は響子のクラスメイト?教えて、あの子イジメられてたの?」

「いえ…、僕達が知る限りイジメられてはいなかったです。毎日楽しそうにしてましたよ。」

「っ!!嘘よ!!じゃあなんで!なんであの子がああなってるのよっ!!おかしいじゃない!あんなに笑っていた優しい子がなんであんなになっちゃったのよ!」

突然火がついたように怒り出し、

「あんた達だってグルなんでしょ!あんた達もあの子をイジメてたんでしょ!何が心配してよ!ふざけんな!あの子を返してよ!返せ!!」

鬼のような形相で泣きながら俺達に怒りをぶつけられ、皆いきなりの事にフリーズしてしまう。


「お母さん、落ち着いて。」

俺は立ち上がり母親の前に立ちかしわ手を1回打ち鳴らす。家全体に響き渡るくらい大きく鳴らした。

母親はビクッとフリーズした後、泣きながら俺を見上げる。

「座って下さい。話をしましょう。俺達はイジメていない。助けたくて来ました。話をきかせてください。」


神社でお務めをしていると響子さんの母親のように怒りに支配される人、恐怖に支配される人、パニックになる人等、様々な感情をぶつけられる事が多く奏多はある意味慣れていた。

その為、皆の様に固まる事なく対処出来たのだ。


母親を椅子に座らせて穏やかな声で、

「すみません。少し触りますよ。」

母親の背中に手を当てて、

「落ち着いて下さい。怒りは視野を狭くします。深呼吸しましょう。」

背中に当てた手からほんの少し神気を流し落ち着かせる。



「………ごめんなさい。あなた達に当たってしまった。ごめんなさいね。こんな母親だからあの子を助けてあげられないのね…。」

両手で顔を覆い静かに泣き出してしまう。智輝が箱ティシュを見つけて目の前に置いてくれた。

「いいえ、あなたは良い母親です。響子さんの為にあんなに怒ってくれた。心配してくれている。恥じる事のない立派な母親です。今回の件が落ち着いたら寄り添ってあげて下さい。」

コクコクと頷きながらティシュで目を拭き顔を上げる。

「もう大丈夫のようですね。」

ニコッと笑うと硬い笑顔ながらニコッと返される。


さて母親はもう大丈夫だろう。後は…と後ろを振り返ると、

「あんた達誰?何しに来たの?」

響子さんが立っていた。

「君を助けに。」

「あんたが?あんたがどうやって私を助けるって言うの?!私に助けは必要ない!お呼びじゃないのよ!帰って。」

「いや、俺なら君を助けられる。響子さん、俺なら助けられるから俺を呼べ。」

「あはははっ!何様のつもりだ!お前ごときが助ける?無理に決まってるだろ!こいつは渡さない!」

「お前には聞いていない。響子さん。目を覚ませ。俺を呼べ。」

「無理だよ。こいつは深く眠った。これからは私が響子だ。」

「響子さん、諦めるな。まだ助けられる。」

「しつこい奴だ…。あまりしつこいと…呪うぞ!」

急に風が室内に吹き荒れる。カップがけたたましい音を立てて落ち、カーテンが耳障りな音を立てて揺れる。いきなりの事に智輝達も母親も動けない。

「あはははっ!動けない奴が何を偉そうに!」

「響子さん、目を開けて助けを求めろ。君のお母さんがどれだけ心配してるか分かるか?」

「まだ言うか!黙れ!」

ビュウッと風が一層強く吹き、俺の顔の横をカップが通り後ろで割れる音がする。

「今度は当てるぞ。」

「お前には当てられない。」

「ならこいつ等はどうかな?お前の大事なお友達が怪我しちゃうよ!」

「こいつ等にも当てられない。お前には逃げ場はもう無いんだ。響子さん、聞こえるだろう?こいつに力はない。俺なら君を助けられる。」

響子さんが突然ワナワナと震え出し、

「うるせぇ!!黙れ!力がない?そんな訳あるか?!」

大声を張り上げたと思えば髪を掻き毟りながら苦しそうに、

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」

狂ったように暴れ出す。俺は皆に目配せをする。


智輝と悠が響子を押さる。反対に大貴と翔太が母親へ近づく。

押さえつけられた響子が暴れるがフッと力を抜き、「お母さん、助けて!怖いよ!お母さん!」

弱々しく助けを求めると母親が響子へ近づこうとするのを大貴と翔太が止めてくれる。

「随分演技派だな。お前はまだ響子さんじゃない。響子さん、いい加減出て来ないと本当に駄目になりますよ。良いんですか?こんなにもお母さんが悲しんでるのに。」

「うるせぇ!そんな奴知ら………助けてっ!!!」


俺は目を瞑る。一呼吸の後、目を開けて響子さんを見る。響子さんは恐ろしいものでも見たかのように震え出す。いや、響子さんに入っている何かが…。

一歩一歩響子さんへ近づくと震えが大きくなり逃げようと暴れ出す。それを必死に智輝と悠が押さえてくれる。俺は人形を取り出し響子さんの胸へ押し付ける。暴れる響子さんの額に人差し指と中指をつけて神気を叩きつける勢いで入れる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ…………」

叫び声が徐々に小さくなり暴れていた体も力が抜けたように倒れそうになるが2人が支えてくれた。

人形を離し筆で封の文字を書き、瞬きをする。


「終わったよ。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


暗い…。ここは真っ暗だ。暗くて寂しいけど、この暗闇が私を隠してくれる。このままここから出たくない。

どうしてこうなっちゃったんだろう…。


皆で肝試しに行くと聞いた時は楽しみだった。でも何でだろう…。少しずつイライラしてきた。ちょっと良いなって思っていた慎吾君が瞳ちゃんを気にしてる事。その気もないのに思わせぶりに笑いかける瞳ちゃん。何故か瞳ちゃんを見ているとイライラして仕方がない。


……私瞳ちゃんの事好きだったはずなのに…。


皆びっくりしてた。私の事を変な目で見てた…。化け物を見るように私を見てた…。


私を見られたくなかったからこの暗闇は心地よい。誰も私を化け物のように見ない。このままここにいても良いかもしれない…。




…誰?誰か呼んでる?止めて…、私はまだここに居たいの…。……?お母さん…?……そうだ…、お母さんが泣いてる?…私のせい?……あれ…?どうしたらここから出れるの?出られない?!何で?!誰か…!誰か助けて!!



いきなり眩しい光が私を貫いたかと思ったら体が引き裂かれるほどの痛みを感じた。痛くて痛くて立っていられない程に痛かった。


あの光が怖かった…。冷たくて強くて痛くて…、心地好かったあの暗闇とは正反対…。


目を開けると、怖い光はなくなっていたけど代わりに目の前に怖い人が立っていた。あの光のように強くて怖い……。


……誰……?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



響子さんが震えながら俺を見上げる。その目には恐怖がこびりついていた。あいつと同調していた為に俺を怖がっているのか、ただ単に俺が怖いのか…。

その目を切り離すように瞬きをして智輝を見る。


「もう大丈夫だよ。手を離して座らせてあげて。

お母さん、終わりましたよ。もう大丈夫。」

おばさんは泣きながら響子さんの元へ走り寄り力強く抱きしめた。

「響子?響子なの?」

「…お母さん?私…、何があったの…?」

響子さんが戻った事が分かったのだろう、声を出して泣き、それに引きづられるように響子さんも一緒に泣き出した。


ひとしきり泣いた後、2人がこちらを向いて

「取り乱してごめんなさいね。」

お母さんは心からの笑顔で、響子さんはまだ俺が怖いのか強張った顔で俺達を見た。

「おい響子、俺達の事分かるか?」

「う…うん…。クラスメイトだよね?智輝君に大貴君、悠君に翔太くん……、」

……おぉぅ…、俺は覚えられていないのか……。まぁ…あまり人と交流してないからな……。

「…覚えていないならいい。クラスメイトとだけ覚えておいてくれ。」

「あははは!奏多、お前どんだけ人見知りなんだよ!覚えられてないじゃんか!」

大貴の男前は俺には発揮しないようだ……。

抉られるんですけど……。



今回の事を説明する前に部屋をあいつがめちゃくちゃにしてしまったので先に片付けをする。

「ごめんなさいね、助けてもらったうえに片付けまで手伝ってもらって。」

「いえいえ、良いんですよ!女の人の手だけだと片付け大変ですから!」

相変わらず大貴の男前は女性に発揮されるようだ。

「そうですね。人手があればあっという間に終わりますから。」


皆で片付けをしてから今回の件について話す。

「端的に言うと、響子さんは肝試しの時に取り憑かれてしまったんです。ですので、別人のようだと思っていた響子さんは本当に別人だったんです。あいつが表に出ていて響子さんはずっと深い所で眠っていた状態だったんです。きっと肝試し後の記憶はないんじゃないですか?」

「…う…うん…。何も分からない…。お母さん、私何があったの?」

おばさんは少し迷った挙句、

「響子は人が変わったかのような言動を繰り返していたの…。でも…あれは響子じゃなかったのね…。本当に…、本当に良かった……。」

また泣き出してしまった。




 肝試しに端を発した怪異は無事解決した。クラスメイトは無事解放されたし、智輝の彼女も元気だ。

(良かった良かった、一安心。これで安泰だね。)







「奏多の学校から例のプレハブの地鎮祭を頼まれたよ。折角だから奏多がやろうね。」


………はっ?な…なんで…?


「叔父さんがやればいいじゃないですか!俺みたいな半端な奴がやるよりも学校としては叔父さんがやった方が納得しますよ。」

「私としては奏多の方が適任だと思うんだけだねぇ。君と君の友達が通う高校だ。安心して通いたいだろ?」

「で…でも…、あそこは俺、自信ないです…。」


あそこは俺達のいる世界では問題のない土地だ。しかし別の時間軸を持つ世界でのあそこは危険な土地だ。



この世界は俺達がいる世界の他に、地層が重なるように、ミルフィーユのように時間軸の違う世界が重なりあっている。

今回のように何かをきっかけに世界線が交ざり合い、他の世界の影響を受けてしまう事がある。


今回のきっかけは”血“だったのだろう。


重なっていた土地には意図的に周囲の悪意や怨念等が集められていた。この世界にもそういう土地がある。そういう土地があるからこそ俺達が暮らせる土地があるのだ。意図的に悪意が集まるように呪いが施された土地、浄化作用の為自然に陰の気が集まる土地、様々だがそれを封印してしまうと今度は別の土地に陰の気が集まるようになってしまう。大地は何百年もかけてゆっくり浄化していく。

そういう土地にも意味が有り存在しているのだ。


今回は”血“がきっかけとなり世界線が交じり、向こうの悪意、怨念の一部が響子さんの中に入り込み、人格を持ってしまった。滅多に起こる事のない不幸な事故だ。


俺は力づくで祓う事は出来るが今回の様に重なっている土地に影響を出さないように、この世界だけに力を留めなければならないような繊細な作業は苦手だ。


「自信ないです。叔父さん、お願いします。」

叔父さんはにっこり笑う。

「………。」

笑ってる。

「………。」

…ダメだ…。笑ってる……。お前がやれと目が言っている……。

「…補佐をお願い出来ますか?」

「おっ?!やる?いいねぇ…、これからもじゃんじゃんやっていこうね!」

「…………はい………。」





翌週の土曜日、学校は部活動などを急遽中止にして一切の人の出入りをなくした。地鎮祭をする為だ。


その日は学校長、副校長のみが参加し行われる。

俺は祝詞と奉納舞を担当する。狩衣を纏い、プレハブ校舎へ向かう。校長達は既にいて俺を見るなり、

「随分とお若い方がされるのですね。」


……ほら…、大丈夫かよ、こんな若いやつで…みたいな目で見られた…。だから叔父さんがやった方が良かったのに……。


神職スマイルを保ちながら一礼してまずは場を清める。その後祝詞をあげて、舞を奉納する。

実は舞を奉納するのは割と好きだ。小さい頃に綺麗なお兄さんから教えてもらっていたから体が自然と動いてくれる。舞っていると無心になり時間を忘れてしまい、気が付いたら汗だくだった事もある。


教えられた通り、土地を鎮めるようにゆっくりと脚を踏み降ろす。両腕を広げ天からの力を体を通して地面へ伝えるように、両腕を天と地を繋ぐようにゆっくりゆっくり丁寧に結ぶ。


どうか、この土地とあの地が再び交じる事が無いように、この土地の世界線を強固にする為に丁寧に丁寧に舞う。体にゾワゾワとした何かが通り抜け、また解放される。頭の中がパンッと弾けたように真っ白になり無心で、ただ舞い続ける。

脳裏にお兄さんの笑った綺麗な顔が浮かんだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 奏多が舞を奉納する。普段から物静かな子だが、今目の前で舞っている奏多は常とは違う。無の中に凄まじいエネルギーが内包されていて圧倒される。

普段の男の子らしい顔つきは消え、女性とも違う、中性的な巫として神に憑依されているようだ。


この子はシャーマンとしての力が強いのだろう。


奏多が小さい頃はよく神隠しに遭い皆で探したものだ。どこを探しても見つからないのに、突然ひょっこりと姿を現す。聞くと庭で遊んでいたとか、境内で遊んでいたとか言うが奏多から聞いた景色は此処ではない何処かだ。遊んでくれたお兄さんというのも当社に務めている者に容貌が誰にも当てはまらない。きっと御柱様に呼ばれていたのだろう。

奏多があちらから帰ってくるたびに人としての理から外れていくようで恐ろしかった。人としての輪郭をぼやけさせる程、奏多には才能があったのだ。

今の舞のように…。完全に憑依されており、学校長達が圧倒されている。場の空気がこの世のものではなく、重たくも神聖なものへと変化するに従って奏多の舞は益々洗練され、まさしく神に奉納するに相応しい舞となった。


奏多の奉納舞が終わり一礼しこちらへ向き直る。そこには普段の奏多がいた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



地鎮祭が終わると校長達に物凄い勢いでお礼をされた。叔父さんに何か言われたのかな?

若造の舞でも満足してもらえたようで良かった良かった。





響子さんから追い出したあいつを封じた人形をお焚き上げする事で本当にこの一件はおしまいとなる。

俺はうっかり大貴達にその話をしてしまった為に焚き上げる所を見たいとごねられてしまった。それはもう散々ごねにごねられた。叔父さんに相談したら気持ちの区切りの為にも良いのかも知れないからと了承を貰ってしまった。


その結果、智輝、大貴、悠、翔太に限らず綾さん御一家、瞳さん御一家、響子さん御一家が勢揃いする運びとなってしまった。




いつもの様に神職スマイルを貼り付け、出迎える。


智輝達はいつもの様に、綾さん一家は晴れやかな顔で挨拶してくれた。

瞳さんと響子さんの母親は恐縮しながら、2人の父親からはどこか胡散臭い奴を見るような目で見られた……。


「遠い所お疲れ様です。この度は辛い思いをされた方の気持ちに一区切りつくことを願いお焚き上げにご参加頂きました。ではこちらへ、ご案内致します。」


一般参拝者には開放されていない中庭へ案内する。

ここは個人の依頼等のお焚き上げに使っている場所で、中央にはお炊き上げの為に木を組んでいる。

「では皆さんはどうぞそちらから見守られて下さい。」


例の人形を上に乗せて火をつける。木が燃えるにしたかって人形に火が燃え移る。本来ならば和紙で出来た人形だ。一瞬で燃え尽きるはずが、俺たちの頭上より高く、勢いよく炎が燃え上がる。まるで苦しんでいるように四方に火の粉を舞い散らしながら。


「ここから先へは出ないようにお願いします。」

俺は皆の前に御神酒を垂らし線を引く。

「…お…おい、奏多…、これ…なんだよ…。」

「あんな紙…、一瞬で燃えて終わりじゃないのかよ……。」

「最後のあがきのようなものですよ。大丈夫。こちらへは来ません。」


舞い上がる炎が顔を形作り、誰かを探すように動き回り、こちらに気づく。ニヤリと笑った気がした。

「…っひっ!!」


こちらへ向かってこようとした瞬間、目の前が真っ白になる。続けて顔に熱感じると轟音が響き渡った。体にビリビリと衝撃が伝わる。皆が目を開けるとそこにはお焚き上げの為に組んだ枠もあれだけ燃えずに暴れていた人形も木っ端微塵に粉砕されていた。


「………。」

「………。」

「………。」


……誰も声を発さない。


後ろからパタパタと足音が聞こえた。叔父さんだ。

「奏多、何があったのかい?」

「雷が落ちたみたい。」

「この天気でかい?」

上を見ると雲一つない青空が広がっている。

「うん、ほら。」

木っ端微塵になったお焚き上げ台を見せると、

「あぁ…、御柱様が怒ってしまわれたのかな?」

叔父さんはにっこり笑って、

「ほら、御柱様にとっては自分の家の庭で騒いでいる不届き者を怒ったんじゃないかな?煩いぞってね。」


なるほどね、自分の家で好き勝手騒いでいる奴がいたから、それこそ文字通り雷を落としたのだろう。


うんうんと納得していると、

「そ…奏多…?」

引き攣った顔の面々がそこにいた。

俺はにっこり神官スマイルを貼り付けて、

「当社の神様がお力をお貸し下さったようです。良かったですね。これで全て終わりました。」

にっこり笑顔で皆さんを見回し、

「辛い経験をされた方々も辛い思いをされた方々も、新たな一歩を踏み出せるようにお祈り申し上げます。」


いやぁ、良かったね!うちの神様のお墨付きだよ!神様直々手を下される事なんて滅多にない事だよ!本当、有難い事だよ!


少々テンションが上がってしまった俺は皆さんが顔を引きつらせている事や、先程まで胡散臭そうにこちらを見ていた父親方の顔色が悪く決してこちらを見ない事等全く気が付かずに皆さんを見送った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい!そのバカ面を何とかしろよ!みっともないぞ!」


あれ?俺、御柱様に挨拶しようとしてたんだけど…。ここ何処だっけ?神社は広いからまだ俺が知らない所もあったんだな……。

「おい!」

キョロキョロしている俺にポカリと頭に衝撃が。

後ろを振り向くと、あの綺麗なお兄さんがいた。

「お兄さん!久し振り!やっと会えた!」

「うるせぇ!でかい声出すな!」

とまたポカリと衝撃が…。

「痛っ!」

「痛くねぇだろ…。」

「……そうだね。痛くない…。それより何処にいたんだよ!俺色々探したんだぞ!」

「あぁ…、今日はたまたまだ。それより…、お前大きくなったなぁ…。」

「当たり前だろ!俺もう高校生なんだから。」

「そうか…、もう高校生か…。どうだ?友達出来たか?お前ずっとぼっちだっただろう?」

「……相変わらずデリカシーねぇなぁ……。でも…出来たよ。俺の力を知っても怖がらない奴。多様性だって言ってくれた!」

「良かったな。」

お兄さんは綺麗に笑ってくれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ふと、気が付くと俺は寝ていたようだ。

「しまった…!御礼に行かないと!!」



俺は慌てて社の神様の元へ向かった。

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