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春に奏でる  作者: よしみず


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23/24

春を奏でる 5

残酷な描写、性的なイメージの言葉があります。



「まずは…、始めまして彼氏さん。」





 夢渡りを終え戻って来た俺達は、何故か消耗している面々の回復を待ってから改めて席に着いた。

何故か彼氏さんがゆきに怯えているが、俺が寝ている間に何があったんだろう…?ゆきも不思議そうな顔をしていた。智輝に聞くも曖昧に濁されて終わり、他の面々には視線を合わせてもらえない……。


…一体何が……?


まぁ、拒絶されてる感じでもないからいいか…、と思い文頭へと戻る。





「それで奏多君、あれは何だったの?」



夢渡りで分かった事は、

〇 りか先輩単独で呪いを行なっている訳ではない

〇 りか先輩の想いに応えるように何者かの力が影響して今回の呪いが発動した事

〇 りか先輩とその何者かは深く結びついてしまった為分離するのが難しい事


夢の中で既に呪詛を返した為、今後彼女には何かしらの影響が出るだろう。




「多分彼女はもう、清子さんには何も出来ないと思いますよ。」


そう告げると圭吾がホッとしてように息を吐き、おばさんには涙目でお礼を言われた。

そして清子さんには複雑そうな顔でりか先輩の今後について聞かれた。



「彼女は今後人を呪った報いを受けていきます。」

「………どうにもならないのですか?」

「彼女ともう一つの存在を分けられればもしかしたら…。しかし既に深く結びついてしまったようなので、どうにも出来ません。」

清子さんは痛ましそうに、

「りか先輩どうなるんですか?」

「…それは清子さんが気にする事ではありません。厳しい事を言いますが、人には外れてはいけない道があります。それを彼女は外れた。その報いはこれから彼女が自分自身で受けます。これは彼女だけの話ではなく、皆さんにも、もちろん俺にも当てはまります。だからこそ誰に見られても恥ずかしくない行動を、自分を律する行動をして下さい。」

この場の皆の顔を見渡して、

「私達神社での教えは神道と呼ばれます。仏教もキリスト教も教えると書きますよね?しかし神道は道と書きます。茶道華道や弓道のように一つの事を突き詰めて行く事で人として成長するのが目的です。自己を律する、何かしてもらったら感謝する等、日々の日常の当たり前のことを丁寧に確実にやっていくのです。驕らない、妬まない、恨まない。


………嘘をつかない。」


一人身を硬くした人が居た。


「……りか先輩………、死んじゃうの…?」

彼氏の律さんがハッとして、

「どういう事だ?お前…、りかに何をした?」

「彼女は…そうですね…。死への入り口に立ったようなものです。

呪いが彼女の意思でなかったのならば何とかなりましたが、他の人の手を借りたとはいえ、あれは彼女の意思だった。呪いを返せば彼女に、返さなければ清子さん、あなたが死んでいました。それが呪詛という物です。そしてそれが成功しても、最初に話しましたよね?人を呪えば穴二つ。本人もその報いを受ける。


今回の事は清子さんに落ち度はありません。彼女が今後どうなるか、あなたが気負う事はありません。厳しようですがあれが彼女の選択だった。その結果は自分で背負うしかありません。あなたにはあなたの荷物が、彼女には彼女の荷物がある。


不用意に他人の荷物を持ってはいけませんよ。」





暗く神妙な顔をした面々を前に、俺達は後日様子を見に来る約束をして圭吾達と別れた。

「やっぱりどうにもならないものなのか?」

「あぁ、呪詛は発動したら受け入れるか、呪詛返しで跳ね除けるしかない。こちらが死ぬか相手が死ぬかだ。だから絶対やるなよ。」

「やらねえよ!」

「怖いな……。」


初めて“死”という物を目の当たりにして皆の顔が暗い。当たり前だ。普通に生きていたら関わる事のない話だ。

こんな事に皆を巻き込んでしまって申し訳なく思い、顔が上げられない。



「それこそさっき奏多が言ってた彼女の呪いを助けてた奴ってのは誰なんだ?」

「それは…、」


言いかけた時、清子さんの彼氏の律さんが後ろから追いかけて来た。

「おいっ!ちょっと待ってくれ!」


律さんが俺達を追いかけてきたのは、りかさんの事だった。

「どうにかなんないのか?あいつが…、りかが死ぬなんて冗談だろ?」

「いいえ、冗談で人の生き死にの話はしません。そしてどうしようもありません。」

「……お前は!なんで平然と……!この人殺し!

お前があんな事しなければ!お前が…、お前がりかを殺したんだ!」

激昂する律さんを危ないと思ったのか大貴達が俺を守るように律さんとの間に入ってくれた。

「私が貴方の言う“あんな事”をしなければ清子さんが死んでましたけど、貴方は今みたいに“あんな事”をしない私に怒りましたか?それとも“あんな事”をしたりかさんに怒りましたか?」

律さんはグッと黙るが、目には俺への怒りが渦巻いている。

「そもそもりかさんが“あんな事”をした原因は貴方じゃないですか…。心当たりあるでしょう?」


律さんがハッとして俺の顔を見る。


「貴方が何をしたか、りかさんが教えてくれましたよ。楽しかったですか?二人の女性を弄んで追い詰めて死に追いやって。私には“あんな事”出来ません。」

「…お…俺は…、違う…。そんな事知らない!俺は関係ない!あいつが勝手にやった事だ!俺は知らない!!」


「奏多…どういう事だ?」

智輝が律さんを警戒しながら聞いてくる。

「言葉の通りだよ。この男がりかさんを焚きつけた。」

律さんに向かい、

「楽しかったですか?自分を好いてくれている人を弄ぶのは。やりたい放題…彼女を追い詰めて甚振って…。彼女が“あんな事”したのは間違いなく貴方のせいですよ?」

「違う!俺は知らない!俺は何もしていない!」

「なら、彼女の所へ行ってみますか?貴方があんなに心配していた彼女の所へ。行って確かめてみますか?本当に貴方のせいじゃないのか?

心配なんでしょう?……なら、行かないと!」


青い顔をして震える男を捕まえて俺は言う。



「自分のした事をきちんと見届けましょうね。」







 そのまま律さんを連れてりかさんのアパートへ向かった。何故分かるのか?呪詛を返した時に彼女の気配を辿ったからだ。

智輝達にはこれ以上は見せられないと帰るように話をしたが頑として帰らなかった。

ならばせめて、アパートには入らず外で待ってもらう事にした。



そうでなければもっと嫌なものを見る事になるだろうから……。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 りかのアパートなんか行きたくなかった。




あいつは俺にとって都合の良い女の一人に過ぎなかった。

高校の時からあいつが俺を好きなのは分かっていた。あいつは俺の役に立つことを喜んでやったし、俺も散々発散させてもらった。高校生なんてそんな物だろう?好きじゃなくてもやれるならやりたい年齢だ。誰でも良かったし、あいつも喜んでいた。

俺が言えば金も体も頭も何もかも差し出した。あいつの独占欲が俺には心地良かった。でも俺はあいつ程度の女に独占されるつもりはない。


決して本命にはなり得ないが俺にとってあいつは完全に都合の良い女だった。



俺が清子と付き合うのも嫉妬するあいつが見たかったらからだ。案の定、俺が清子を大切にすればする程あいつは嫉妬して俺に執着した。清子に対抗するように俺を支えた。金もいくらでも出したし、清子とは出来ないような危ないプレイも喜んで受け入れた。代返もレポートも勝手にやりだした。


毎日が楽しかった。清子との清く正しいままごとのような年相応の付き合いと、りかとの清くもなく正しくもない、俺しか見ていない執着と独占欲丸出しの本能的な欲望。肌が粟立つ程の興奮を覚えた。



「清子がいるからお前とは付き合えない。」

「俺はお前といると本当の俺になれる。」

「清子はこんな事してくれない。」

「お前が俺を一番分かってくれる。」


俺がりかを煽れば煽るほどあいつは清子に対抗心を燃やして俺に都合の良い女になる。それが楽しくて仕方なかった。




 こいつは本当にりかのアパートを知っていた。

なんなんだ、こいつは!年下のくせにやけに達観した雰囲気を持ちやがって!こいつもりかに籠絡させて痛い目見させてやろうか…?そうだ!そうしよう!金も持ってそうな坊っちゃんだし、搾り取ってやろう。俺を馬鹿にした罰だ。ざまぁみろ…。



直前までそんな事考えていたが、りかの部屋の前まで来ると異様な臭いが鼻を突いた。


生臭い?あいつ生ゴミでも溜め込んだのか?


インターホンを鳴らし、喜んでドアを開けたりかを見た瞬間ゾッとした。

落ち窪んだ目、青白い顔、ボサボサの頭になんだか臭い。何かを腐らせたような臭いがする。

部屋に入ると机の上に何かある…?赤黒い物体?

よくよく見てみると鳥の死骸だった。その奥にはビニールに入れられた生き物達だった何か…。



理解した瞬間、俺は胃の中の物を吐き出していた。それを見たあいつは照れたように笑った。



見られちゃったって…。



ゾッとした。なんだこの女?こいつは本当にりかか?

りかは言った。

清子が邪魔なのだと。

死ねば良いと。

俺は自分の物なのだと。



ナ ン ダ コ イ ツ 



狂ったように笑うりかに恐怖を覚えた。



あの年下の男が言った。


俺のせいで随分前から壊れていたと。精神が疲弊してた所に男に騙され死んだ女の霊が取り付き完全に壊れたのだと。女の力を借りて清子に呪詛を仕掛けたのだと。


俺は知らない。知らない。こんな事になるなんて知らなかった。俺は悪くない。コイツが勝手にやった事だ。俺は悪くない。


狂ったように“りぃ君”“りぃ君”“りぃ君”

いつもの様に少し舌っ足らずで上目遣いで媚びるように俺を見る。

その目は完全に濁っていた。


頭がおかしくなりそうだ。




俺は怖くなって逃げ出した。アパートに帰ってきてからも、りかの声が聞こえる気がした。




りぃ君

大好き

りぃ君は私のモノ

りぃ君



…………死んでも離れない…………







お読み頂きありがとうございます。

明日も更新しますのでよろしくお願いします。

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